以前、
オリックスの若手ショートへの期待が寄せられた記事の中に
「オリックスになってから高卒ショートのレギュラーがいない」
との記述があった。
これを書いたライターがどう考えているのかは
読んだだけではわからないが、
「ようやくオリックスも高校生を育成しようとしだした」と
ここ数年のオリックスの「変化」を称賛する人は大勢いる。
また2021年の開幕ショートに抜擢された紅林弘太郎には
抜擢1年目からかなりの期待を寄せている人が多い。
今回はそんなオリックスのショートの歴史を追ってみよう。
受け継がれる伝統
まずは合併前の2004年までを見てみよう。
オリックスのショートは、
80年代の阪急を担ってきた弓岡の衰えから始まる。
オリックス1年目の89年に
その弓岡に代わってレギュラーになったのが1年目の小川。
小川は一時期松永浩美のトレードで不在になったサードへ回り、
ショートには巨人からトレードされてきた勝呂が入ったこともあったが、
概ね90年代のショートは彼だった。
なお勝呂は社会人出身の1年目に
ショートのレギュラーをつかみかけたが、
翌89年は不調もあって
1歳年下で高卒7年目の川相昌弘との競争に敗れている。
2000年頃からはそれまで二番手として使われてきた塩崎が
ショート一番手として起用され、
代わりの二番手には
二軍で育成されてきた斉藤や
横浜から移籍してきた進藤が起用されるようになった。
ブルーウェーブ最後の3年間は
三遊間とセカンドで何人もの選手が併用される形になっている。
このうち高卒生え抜きは斉藤だけ。
生え抜き・移籍組とも一軍は社会人出身がやけに多く、
斉藤以外の高卒は進藤のみ、
大卒も田口と平野しかいない。
オリックスに高卒ショートがいないのは
阪急時代からの伝統でもある。
60年代後半の全盛期では
山口富士雄から阪本敏三、
阪本のトレード後は
完全な守備型の大橋穣が70年代の黄金期を支えた。
全て大学か社会人出身の選手。
つまり50年以上*1はこの状態が続いているわけで、
パリーグを連覇する黄金期や
優勝争いの常連だった強豪の時期のほうがはるかに長い。
「育てなかった」と「育たなかった」は違う
今度は合併後の
2005年以降について見ていこう。
一軍は2007年に大卒1年目の大引が起用されて定着。
大引がトレードされた2013年からは
社会人2年目の安達が一番手として使われ、
守備力の高さを武器にレギュラーを勝ち取っていった。
アマチュア時代の2人は
どちらも中距離打者としての能力の高さを買われていたのだが、
どういうわけか守備型ショートとして大成する
奇妙な特徴がある。
また常に「高齢」のイメージがつきまとう
大卒と社会人のスタメン定着は全て20代前半から中盤。
他のチームの高卒選手とほとんど差はない。
この一軍だけを見ると
ただでさえ「高卒を全く獲らない」と叩かれるオリックスなので
「高卒ショートを育てようとしなかった」と批判されるのだが、
二軍を見るとこれらの批判が全くの的外れなのがわかる。
二軍レギュラーの大半が生え抜きの高卒選手なのだ。
前後の期間で高校生ショートの指名がなかった
2000年代前半はさすがにいないが
90年代後半は
斉藤、萩原、福留が二軍で起用され続け、
2000年代後半からは
別な若手がいるか怪我で離脱するかした場合を除き
基本的に高卒1年目から使われている。
しかし残念なことに、
この選手たちのバッティングがなかなか成長しない。
ドラフト前から怪我を抱えていた宗と
2019年の太田以外はほぼボロボロの状態だった。
高卒ショートを育てたい意思と現実
オリックスからは、
「高卒ショートを育てようとしない」どころか
「何とかして高卒ショートを育てたい」意思が強く感じられる。
特に目立つのがドラフト指名時の年齢。
当時のレギュラーが26、7歳と
全盛期を迎える直前での指名が多い。
そのレギュラーがスタメンを勝ち取ったのは22~26歳、
高卒選手の場合なら4~8年目の間。
そしてレギュラーが衰えの目立ち始める年齢になった時が
ちょうど高卒選手の4~8年目にあたる。
大卒・社会人出身選手がレギュラーになったのと同じ時期に
高卒選手がスタメンを自力で奪い取りやすくするよう
調整されているのだ。
またドラフトの指名順位が高い選手も多い。
太田が1位、
三ツ俣、宗、紅林が2位、
岡崎が3位で柴田が高校3巡。
さらに言えば
高校生ショートの1位指名も多く、
2010年には外れ外れ1位で山田哲人を、
2011年には高橋周平、
2018年に小園海斗を入札している。
2008~20年の間に
高校生ショートを計4回も1位入札したのはオリックスだけだ*2。
このように戦略自体は理にかなったものだったし、
「指名順位が選手を作る」という
ドラフト評論家がしばしば口にする精神論も用いて
高卒ショートの育成に努めていたのだが、
実際の育成はうまくいかなかった。
考えられる理由は二つ。
まずバッティングを伸ばせなかったこと。
スカウティングの問題なのか
打撃の育成が上手くないからなのかはわからないが、
とにかく高卒ショートの打撃がなかなか成長しなかった。
他のポジションや他のチームで
レギュラーをつかんだ選手がいないので
まあ両方だろう。
とはいえ、
合併後のオリックスが
高校生ショートを実際に何人も獲得して
育成しようとしたことは
紛れもない事実なのである。
「育ってない選手も聖域にすれば育つ!」
もう一つは
この高卒選手の育成長期化を見越して獲った
大卒・社会人選手の目利きと育成が変にうまい、
特に守備の育成がそこそこうまいことだ。
バッティングは高卒選手同様に伸び悩むのだが、
もともと打撃が悪くない選手を獲っているためなのか
一軍でも大きな穴にならない程度の成績はしっかり残す。
たしかにこの新たなレギュラーを獲って育てていなければ
伸び悩み実力で劣るとしても
高卒選手がチームトップとなって出番が回ってくるわけだが、
どちらがチームのためにより有効なのか。
近年の太田、宜保、そして紅林への反応を見る限りだと
オリックスファンに限らず
「20歳前後の未熟な高卒選手を聖域にするほうがいい」と
考える人が圧倒的に多いようだ。
ただし
ここで書いたように
オリックスはショート以外のポジションでも
まだ二軍でも結果を出していない
22歳以下の若手を起用することが多く、
その若手がことごとく伸び悩んでいる。
またこちらやここなどでも書いたように
21、2歳までに高卒選手を一軍ショートにスタメン固定すると、
20代前半ではバッティングが伸び悩んだり
大きな故障を抱えてしまうケースが圧倒的に多い。
この両方の条件を満たしてしまう若手を抜擢し続けることは
リターンに対してリスクが大きすぎるのだ。
これは好き嫌いなど感情の問題ではない。
数十年に一度起こるかもしれない奇跡を夢見て
入れ代り立ち代り若手に賭け続けるのか、
より高い成功率を目指して今は起用を我慢するのか、
という確率と期待値の問題なのである。