スポーツのあなぐら

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「高卒野手が育たないから優勝できない」は本当か

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阪神は高卒野手が育たないから優勝できない」?

阪神は高卒野手が育たないから優勝できない」
これはタイガースが優勝できない理由として
さかんに用いられてきた文言で、
高卒至上主義のドラフト評論家だけではなく
スポーツライター
タイガース担当の新聞記者
はてはタイガースOBからも
盛んに批判される要素となっていた。

そんなタイガースは
2023年にリーグ優勝どころか日本一も達成。

2023T

生え抜きの高卒野手は
試合数最多が原口の54、打席数最多が前川の107という
高卒野手の依存度が極端に低い優勝である。
おそらくプロ野球史上でも最少ではないかとは思うが、
この現実に対して
これまでタイガースを批判し続けてきた人たちは
どう言い訳をするつもりなのだろう。
阪神の優勝は見なかったことにして自説を繰り返すのか、
「高卒野手のいない阪神を優勝とは認めない!」と叫ぶのか、
他の主力選手はすべて無視して
「若い前川が野手のMVP!」とでも主張するのか。
来年以降のタイガースは
ショートを木浪と争っている小幡竜平や
ベンチ要員として一軍にいる植田海に加えて
前川、井上広大といった外野陣、
キャッチャーの中川勇斗などもいるから
生え抜き高卒野手の依存度が上がる可能性が高いとはいえ、
気になるところである。

 

黄金期は本当に高卒生え抜き中心か

2023年のタイガースが証明したように、
優勝するチームを作るためにに
高卒野手の主力は絶対に必要なものではない

強いて言えば
「高卒選手もいないと一軍戦力がそろわないことが多い」
というぐらいである。
しかし日本では
「チームの主砲は高卒生え抜き。大卒・社会人はおまけの脇役」
「大卒・社会人はただの即戦力。高卒以外を育成とは認めない」
「生え抜き高卒野手ばかりじゃないチームを強いとは認めない」
などという高卒偏重の風潮が非常に強い。
V9巨人のONの一方の雄である長嶋茂雄が大卒である時点で
既に前例も破綻しているのだが、
ともかくそう言われることが非常に多い。
そして一度「育成上手」と認定されれば
FA選手や外国人選手などの「強奪」をしても
あまり批判されなくなるが、
逆に「育成上手」とみなされていない場合は
1人でもFAで獲得した選手がいると
正当な優勝とは認められないことも強い。
先述の記事に登場する各OBや
元ドラゴンズスカウト部長の
中田宗男氏の嗜好などを見ると、
プロOBやスカウトにも
そういった意識が非常に強い人は多いのだろう。

でも現実はどうなっているのか。
優勝するチーム、
特に黄金期を作り上げたチームは
常に高卒生え抜きがチームの中心にいて
大卒や外国人、外様などは
ただの「脇役」にすぎないのだろうか。

 

「高卒だらけの育成上手」の現実は

まず最初に見ないといけないのは
近年特に「育成上手、特に高卒野手の育成がうまい」と
絶賛されることが多いバファローズだ。

2021-23Bs

3年間の打席数では紅林と宗が多いものの、
打撃成績の上位には
吉田正、杉本、中川圭、頓宮、森と
大卒、社会人、「外様」が並んでいる。
毎年4~5人いる生え抜き高卒野手の数自体も
タイガースに比べれば多いとはいえ
この後見せるチームと比較すれば
たいして多くないとわかるだろう。
現時点でのバファローズ
宗、若月など守備力の高い選手を育成するのは
得意としているが、
いわゆる打線の核になるタイプの高卒野手は
T-岡田以外まだ育てられてはおらず
若い紅林をはじめまだまだこれからの選手がほとんどだ。

ちなみに
生え抜きの高卒野手が5人使われるようになったのは
中嶋監督になってからではない。

2014,17,19Bs

終戦まで優勝を争った2014年にも3人いたし、
合併で加入後に開花した坂口も
「外様」という表現は無理のある選手である。
そして2017年ごろになると
20代前半の高卒野手の起用が増えていったばかりか
バッティングで結果を残せなくとも
打席数をかなり与えられ続けている。
「どれだけ不調でも若手を我慢して使い続けろ」と
常日頃主張している人たちが求めていた起用が
まさにそのまま行われていたわけで、
この人たちは
当時の福良監督や西村監督のことを
もっと褒めたたえるべきではないのだろうか。

 

「育成上手」の「主役」は大卒と「外様」と外国人

しばらくの間
「育成上手」の代名詞のように言われてきたが
ここ数年は
リチャード、渡邉陸、野村大樹などの高卒野手が
巷の主張通りに起用され続けないために
逆に「育成下手」のレッテルを貼られることすら増えてきた
ホークス。

2014-17H

2018-20H

しかしこのチームの特徴は、
野手全体では生え抜きの高卒が多い時期でも
主軸が大卒、外国人、外様で占められていることだ。
生え抜きかつ高卒に限定すると
2014年以降でOPSがチーム内3位以内に来たのは
中村晃ぐらい。
バファローズと同じく
高卒野手に関しては
高い守備力とそこそこの打力を持った選手を
育てることに長けているチームと言える。
この点は
チームが上位に来るようになってから
ずっと続いている傾向で、

1999,2003,10-11H

福岡移転後に指名した高卒では
打撃成績最上位は城島ぐらいしか見当たらない。
全く補強をせず高卒の育成だけで強くなったことにされていた
最近のホークス像は
ただの妄想の産物にすぎないのである。

 

ほぼ高卒だけで日本一になったチームのその後

ホークスは
2014~18年の5年間に高校生野手を
支配下で11人、育成で12人獲得した一方、
大学生、社会人、独立リーグからは
育成指名の2人しか獲得してこなかった。
高卒野手がほとんどいない今年のタイガースがあるなら
逆にほぼ高卒野手しかいない
優勝チームもあっておかしくはないはずだが、
そんなホークスが思い描き
若手至上主義、高卒至上主義の人たちが理想とするような
高卒野手ばかりで構成されたチームはどこだろうか。

2016F

ファイターズである。
レアード、大野、市川に154打席出場の岡を除けば
打線のほとんどが生え抜きの高卒で固められた構成。
しかも30代は田中と市川だけで
14人中7人が25歳以下の高卒。
まさに若手至上主義、高卒至上主義の理想郷であり、
ここからファイターズの黄金期が続くと
思っていた人も多いのではなかろうか。

しかしこの直後2017年以降のファイターズは
2023年までの7年間で3位が1回、
あとの6年は全て5位以下という暗黒期に突入する。

2017-22F

しかもこの状況は
外国人選手や大卒選手の戦力が減り
野手がさらに生え抜きの高卒ばかりになったところで
起こっている。
大谷や陽がチームを離れたこともあるが、
彼らが抜けベテランが衰えたぶんの打力、守備力を
新たな生え抜きの若手高卒や大田だけでは
カバーしきれなかったのである。
なお2017年以降になると
「若手が使われない」と叩かれることも増えていた
ファイターズ主力打者の平均年齢は
2022年以外全て27歳以下。
今現在高卒の育成がうまいと言われるバファローズ
平均年齢27歳以下になったのは
2019年だけだ。

そもそもファイターズの打線は
以前は高卒偏重ではなかった。

2006,07,09,12F

ドラフト評論で言うところの「脇役」には
高卒がある程度揃っていても
打線の主軸は大卒、社会人出身、外国人選手が担っている
現在のバファローズや2010年代のホークスに近い
構成だったのである。
この間に高卒偏重の野手指名を続け
2016年に一度は成果が出たものの、
若さに反してその成果は全く続かなかった。
逆に考えると今のバファローズ
福良GMがコーチを務めていた
2012年以前のファイターズに近いとも言えるが、
福良GM就任後のオリックス
社会人野手の指名がなくなった一方で、
大学生野手の指名は多くなっている。
高卒偏重の指名にしないのは
当時のファイターズから
何かを学んだがゆえなのだろうか。

 

大社主体で高卒の主砲がいての三連覇

ここまで見たのは
ドラフト評論で言うところの
「『主役』が大卒・社会人、『脇役』が高卒」の
チームばかりだった。
それでは従来主張されてきたような
「『主役』は高卒、大卒・社会人は『脇役』」の
チームはないのだろうか。

2016-18C

近年該当すると言えそうな強豪チームはカープだ。
外国人選手以外では
鈴木、丸、會澤が非常に高い成績を残し、
その次点に何人かの大卒、社会人出身が固める構成で
リーグ三連覇を果たした。
ところで2016~18年のカープの場合、
「育成上手」と讃えられたにしては高卒の数が少ない。
本来なら若手育成に高卒も大卒もないはずだが、
タイガースへの批判や
各チームの称えられ方でもわかるように
日本だと「若手育成」は
高卒選手に対してのみ用いられることがほとんどなので、
何とも奇妙な光景のように見えてくるのである。
もっとも心の奥底では
高卒偏重じゃないチームに鬱憤が貯まっている人が多く、
會澤、坂倉将吾、小園海斗などを
スタメン固定し続けなかった緒方監督や
大学、社会人出身の野間、西川らに
矛先が向けられたのかもしれないが。

 

選手の育成に「高卒」「大卒」の区別をつける必要はあるか

どういうわけか今回紹介したチーム、
というより2010年代以降に黄金期を迎えたチームは
主力野手の打撃成績が
「生え抜き高卒」とそれ以外で
明確に分かれているチームがほとんどだった。
しかし考えてみれば
若手野手の育成が「高卒」「大卒」といった出自で
極端に変化してしまうのもおかしな話である。
そんな「高卒」「大卒」など関係なかった強力打線も
一つ見ておこう。

2018-19L

この2年間のライオンズは
山川、秋山、浅村、中村、外崎、森の6人が
非常に高いレベルの成績を残しており、
打撃成績に関して
優劣をつけられる存在とは言えない。
その代わりに
マイナスの振れ幅が投手のほうへ行ってしまった、と
とれなくもないが、
素質の高い打者を
その出自に関係なく育て上げた結果が
二連覇につながったのが
2018、19年のライオンズだった。

 

最後に

最後にもう一度言うが、
優勝のために高卒野手は絶対必須ではない。
また
「高卒野手が育っている」「育成上手」と
褒めたたえられているチームが
打線の主軸も主力野手の人数も
高卒選手ばかりとは言えない。
だから
チームに必要な主力野手をそろえられるのであれば
「生え抜きの高卒野手が育成できていない」ことは
何一つ問題ではない。
問題なのは
そんな全く根拠のない
「高卒野手が育たないから優勝できない」
「主役は高卒。大卒と社会人は脇役」といった
言説がまかり通っている
巷のドラフト評論家や野球ファンであり、
野球界そのものである。