スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

「日本ハムが短期間で弱体化した本当の原因」は本当か

スポンサーリンク

今回は先日のデイリー新潮に掲載された
日本ハム弱体化の原因について、
この記事内容も含めた巷で主張されている俗説
検証していきたいと思う。

 

 

俗説その1「高校生の指名が減ったから」

これは今春発売された
毎年恒例のとある書籍で
実際に主張されていた説。
この説を主張した人は
日本ハムが2015年のドラフトで
6年ぶりに高校生野手を上位指名せず*1
下位指名とはいえ大学生の横尾俊建を獲得したあたりから
徐々に不満を募らせていたようで、
弱体化の原因を2015年以降の「変化」に限定している。

しかしこの説はどう見てもおかしな点が二つある。
まず日本ハムの高校生指名が
たいして減ってはいない事実だ。

2008-20F上位指名

2008年以降の上位指名はこう。
高校生の1位入札は多いが
2015年外れ1位小笠原慎之介も含めて
かなり抽選を外してしまった。
2013年に
柿田裕太、岩貞祐太の社会人・大卒投手の抽選を当てていたら
2位がどうなっていたか、
2019年に河野の抽選を外していたら
次に誰を入札したかもわからない。
また久々に大卒野手を上位指名した2016年は
高校生野手の上位指名が1人もおらず
3位指名された4人のうち2人が
すでに支配下登録にはいない、
高校生野手の人気が極端に低かった年*2でもある。

  高投 高野 大投 大野 社投 社野  
2008~14 7 17 9 4 11 1 49
2015~20支配下 7 11 10 7 7 1 43
2015~20全体 8 11 11 8 8 3 49

指名数全体を見ると
77%と極端な高校生偏重だった2008~14年に比べれば
たしかに高校生野手の比率は下がった。
それでも支配下野手指名の半分以上が高校生、
育成指名を含めた全体でも
野手指名の半数が高卒選手になっている。
代わりに投手は高校生率が若干上昇した。
この主張をした人物は
ファイターズの投手指名が即戦力中心だったのを
批判することが増えており、
また「高卒:即戦力のバランスが大事」と言いながら
野手の高校生偏重指名を絶賛していることを考えると
この程度の高卒率の増加では不満だらけなのだろう。

 

もう一つは
ファイターズの「弱体化」が始まった時期。
西尾典文氏も認めるように
「弱体化」は2017年からその兆しが見えていた。
しかし
2015年以降のドラフトが原因だとすれば
弱体化の始まりが早すぎる。
また
この人たちの言う通り
2014年までのドラフトが
「5年先、10年先のチームを見据えた高校生中心の理想のドラフト」
であるなら、
この「理想的なドラフト」の成果が
2017年から現在にかけて出ていないのはおかしい

それどころか
理論上は
上位指名で高校生野手を獲り続けたから、
高校生野手偏重のドラフトをしたから
「5年先、10年先」のここ数年でチームが大幅に弱体化した

ことになってしまうはずなのだ。

 

つまりこの説は
暗黒期突入後のドラフトが暗黒期到来の原因とされた
ベイスターズやドラゴンズほどではないが、
単なる好き嫌いからくる高卒至上主義に基づいた
矛盾点だらけの
問題しかない説にすぎないのである。

 

俗説その2「若手の戦力外通告が早くなった」

これは西尾氏が先ほどの記事でにおわせた説。
挙げられていた選手の中には
それなりに一軍登板のあった河野秀数、
東大出身の宮台康平など
野球ファンには知られている名前があるので
一見するともっともらしく思える説ではある。
また一般の野球ファンや野球をよく知らない人には
忖度されている斎藤佑樹がクビになる」ことを
首を長くして待ち望んでいる人も多いため、
結果的に
そういう人たちが受け入れやすい主張にもなっている。

しかし残念ながら
この説も的外れだ。

F4年以内戦力外

入団3年以内に戦力外となった選手がいなかったのは
2011年から14年の間だけ。
東北楽天が参入した2004年以降の指名選手に限定しても、
チーム最大の発展期・全盛期と言える2000年代後半と
2015年以降に早期に戦力外となった選手の数は
ほとんど変わらない。
少し指摘のあった4年目の選手も含めても
まったく差がないのだ。
しかも「長い目で育成しなければならない」はずの
高卒選手の戦力外が早く、
この少し前にあたる2005年には
地元枠だった池田剛基
高卒3年目で戦力外となっている。
現在は
基本的に高卒選手を最低5年間在籍させる方針は変わっていない。

この説はもう一つ、
別な問題点を抱えている。
プロ入りから日の浅い若手を
戦力外にしなければならないのは何のためなのかを
まったく考慮していない。
そしてその理由とは
ドラフトで新しい若手を獲得するためなのだ。
特に育成選手は
契約等の問題もあって
入団3年以内の戦力外が非常に多い。
実際
昨年12人の育成指名をした巨人は
その代償として
プロ入り3年目の選手を8人も戦力外にしたし、
やはり育成指名が多いソフトバンク
育成契約を拒否した茶谷も含めて
ここ3年間で6人*3が戦力外となった。
両チームとも
入団3年以内の戦力外選手が出ない年のほうが珍しいぐらいだ。
また
アメリカのマイナーリーガーが最も嫌がるのはドラフト、
すなわち指名された選手と引き換えに
大量のマイナーリーガーが解雇される
日であるのは
有名な話である。

しかもこれは
ドラフトで大量指名したチームをほめたたえ、
逆に指名数が少なめだと
「チームを経営する気がない」などとの批判を繰り返している
ドラフト評論家が口にしていい内容ではない。
自分たちが推奨するドラフト戦略をとった結果として起こる
早期の戦力外を批判することは
矛盾を通り越して
無責任とすら言っていいレベルの話なのだ。
感情移入などもあってか
こうした相反する主張をしがちなドラフト「識者」*4
この矛盾に対して意識的に自重する必要があるし、
西尾氏のような方の場合は
ご本人がそこまで声高に主張していないとしても
早い戦力外のメカニズムについて説明するなり、
毎年一緒にドラフト解説をする評論家に忠告するなり
しなければならない、
そのぐらいの内容なのである。

 

俗説を生み出す心理

今回は
日本ハムの弱体化」に関する俗説に焦点を絞って検証した。
今回検証した主張に共通しているのは
自分の宗教が間違っていることを認めたくない心理である。
しかし以前説明したが
チームが暗黒期へ突入する特定の手法は存在しないので、
高卒至上主義も
完全な間違いと断定することはできない。
それにファイターズの高卒野手戦略も
2011年ドラフトぐらいまでは機能していたのだから
絶対に不正解というわけでもないはずだ。

なのにこの心理がはたらくのはなぜかというと
この人たちにとって高卒至上主義は
数あるドラフト戦略のうちの一つではなく
唯一絶対の正解だから
だ。
弱体化の原因を
少し数を減らしただけの高校生指名に求めるのも
ほんの数年間とっていなかっただけの早期の戦力外に求めるのも
それゆえである。
前に佐藤世那の戦力外でも述べたように
若手の戦力外というのは
自分が批判したいチームに対してだけ目につくものだ。
こうした
調べればすぐわかる間違った主張に飛びついてしまうのは
こうした人間心理の闇の部分が出たからと言えるだろう。
ただしもう一言付け加えると
これ以外のファイターズに対する一般の批判は
ただの恨み、妬みからくるもっとひどい感情論に終始するので、
この2つの主張のほうがまだましですらある。

 

とはいえ最近のファイターズを検証すると
気になる点はある。
またそれ以前に近年のファイターズは
どのような戦略をとっているのか、
この点もあまり顧みられているとは言えない。
今度はこれらについて
私のような外部の人間でもわかる範囲で
事実に基づいて検証していきたいと思う。

*1:高校生の上位指名がなかったのは2008年以来7年ぶり

*2:現在一軍主力になっている坂倉将吾は4位最後

*3:こちらは入団2年目も2人いる

*4:こんな末端のブログを書いている私自身も含めて