「飛ばない金属バット」が本格的に導入された
2024年の選抜高校野球。
大会で起こった変化について数字で見ていこう。
数字から見える「飛ばない金属バット」の影響
何と言っても注目されるのが
金属バット導入以降では最少と話題になったホームラン。
1回戦で2本のHRが出たものの
最終的にはわずか3本という結果だった。
ちなみにこの数字をプロ野球に換算すると
143試合で1チーム7本である。
一方
HR以外の二塁打と三塁打も数を減らしたものの
HRに比べれば大きな差ではないかのように見える。
しかしこの大会では
外野手の守備位置が以前よりもかなり前に出ていると
指摘されてきた点に注目したい。
外野が前進すれば
それだけ長打が出やすくなっているはずなのに
二塁打も減っているということは
それ以上に球が飛ばなくなったということ。
三塁打の数が減ってないのは
前進守備の影響で
外野の間を抜けた当たりを追う距離が長くなったからだろう。
犠打や盗塁が増えたのも
長打が減って一塁にランナーが止まる確率が高まったことと
内野のインプレーで終わる確率が高くなり
ダブルプレーを防ぐ必要性が増したことが理由と思われる。
平均得点は2011、12年の「統一球」「違反球」程度だったが
平均OPSは9年ぶりに.600を下回る結果になった。
打率が低かった9年前と比べても
ヒットのうち長打が占める割合が下がった一方で
単打自体の確率はここ最近とほとんど変わらない。
いかに打球が飛ばなくなったか改めてよくわかる。
投手のほうは
三振、四死球といった成績に
これまでとの大きな違いが出ていない。
打者1人あたりの球数は
実際にはやや減少した。
出塁数が減ったぶん
1イニングあたりの球数も減少したが、
打者1人あたりの球数と投高打低とに
関連性が見いだせないのは
史上最多のHR数を記録した2017年夏と比較しただけでも
よくわかる。
2017年夏の打者1人あたりの球数は
2016年以降だと春夏通じて最少の数字。
また1イニング平均1.07球、
両チーム合わせて20球程度の差が
試合時間の短縮にそこまでつながるかも疑問である。
「長打が出ない、点は取れないのが本物の野球」な日本人の野球観
今大会では
金属バットによる本塁打数最少という
明確な新記録が生まれたため
「投高打低」の大会だったことが改めて認識されたが、
この記録がなければ
大会はどう総括されていただろうか。
実際
初日こそ8回までに3点以上とったチームがなく
かなりひどい貧打の大会になるのではと危惧されたものの、
大会初本塁打が出た2日目には
「今までの打高がひどかっただけ」
「『(モイセエフのような)本物のスラッガー』は
HRを打てるのだから何も問題ない」など
12、3年前にも聞いた声のほうが圧倒的に多くなっていた。
結局のところ、
昔ほどではないにせよ日本人は
「本物の野球」へのこだわりが強いのだろう。
そしてこの「本物の野球」には
「本物の強打者にだけ本塁打を打つ権利がある」
「長打は考えず小技を駆使して何とか1点をもぎとる」
などといった世界観が存在している。
たとえば準々決勝の4試合。
結果は5-0、6-1、5-2、4-1で
平均得点3.0は
プロ野球の「違反球」時代より少ない「投高打低」のはずだが、
この4試合の得点を見て
「投高打低」と思う日本の野球ファンがそんなにいるだろうか。
むしろ
「全試合で4点以上だから打低じゃない」
「3試合で5点以上入ったから打高投低」
と思う人のほうが多いのではないか。
「バントばかりの野球は面白くない」と言いながらも
いまいち勝利がともなわないと
「バントや盗塁など細かい野球をしないからだ」と
批判が殺到するのも同じ理由だろう。
最近でこそ
「小技より長打を打つほうが効率良く点が入る」
という認識も広まってはいるものの、
そうした昔から変わらない日本人の野球観を
改めて感じされられる大会でもあったように思う。