今回は、
今年ドラフト候補が特に多いショートについて
楽天が参入した2005年以降の各チームの動向を見てみることにした。
東北楽天
最初のドラフトで獲得した地元の塩川達也は伸びなかったが、
2006年に指名した渡辺直人が一軍に定着。
星野監督就任後は渡辺をトレードして松井稼頭央を獲得した。
大ベテランの松井が機能している間に西田哲朗を育てる予定だったのだろう。
実際に1年以上一軍で使い続けたものの、
2015年が183打席で.548ではさすがにそれ以上の固定は無理だった。
2016年からは大学時代サードだった茂木栄五郎をコンバートして結果を出しているが、
故障が多くなって打撃・守備とも支障が出始めている。
来年は西巻賢二を固定しないとドラフト評論家やファンから
罵声を浴びせられ続けるかもしれない。
当然気にする必要などないんだがね。
阪神
2004年の途中から結果も出し始めた鳥谷敬が
12年にわたってショートに君臨した阪神。
打撃は28歳からさらに進化をとげ、
守備も33歳ごろまで大きな衰えは見せなかった。
その間に若い選手も何人か二軍で育成していたのだが、
これでは使える場所がない。
鳥谷がショートから外れた後は
北條史也を固定しない首脳陣がよく叩かれていたが、
一軍にいれば実際に使われる機会が多かったのは北條だった。
そんな北條は今年中盤以降に結果を出し始めるも故障で離脱してしまう。
来年以降はどうなる。
千葉ロッテ
2005年のショートは小坂誠で、小坂より打席数の多い西岡剛はセカンドとの併用。
西岡は小坂が翌年からいなくなったこともあってスタメン固定される。
いまいちな年でもリーグ平均を上回る主力打者だったが、
さらに全盛期を迎えようというところでアメリカ行き。
若いショート自体は他にも育成し続けていたが、
彼らが伸びきらないうちに世代交代を迫られてしまった。
その後2年間メインになった根元俊一は大学時代セカンドの選手。
2013年からは打力がそこそこ安定している鈴木大地が入るが守備がいま一つ。
そこで2017年に平沢大河固定をもくろんだのか思い切って鈴木をコンバートするも、
さすがに早すぎた(一軍では2017年129打席.458)。
今年固定された藤岡は終盤に入ってスタッツが急降下。
来年はさらに平沢固定の大合唱が巻き起こるだろうが、両者をどう使うか。
中日
井端弘和のスタッツを見ると、
2005年以前にOPSがリーグ平均以上だったのは2002年だけ。
それが30歳を過ぎてからは高い守備力を維持しつつ、
打撃も平均以上の結果を残し続けるとは恐ろしい選手だった。
堂上直倫はショートではなくサードで3年ほど育成された後、
2010年からはセカンドやサード、守備要員として一軍に定着。
そこからさらにショートに入ることになったわけだが、
おそらく打力を期待して育成されていた選手が守備型ショートになるとは。
このあたりの誤算も、極端な高齢化の要因の一つだったのではなかろうか。
高卒至上主義の評論家からはむしろ期待する評価が聞かれる京田も、
ファンのほうは既に不要論を唱える人たちがかなり多い。
もし根尾昂が獲得できたら来年はさらに無理難題が新監督に浴びせられそうで、
かえって怖い。
オリックス
合併当初は阿部真宏、後藤光尊、塩崎真が起用されていた。
その後2007年からスタメン定着したのは大引啓次。
大学時代は守備がそうでもない巧打者という評価だったが、
プロでは守備寄りの選手に成長する。
これは大引の後に定着した安達了一も同じ。
いったいどういう伝統なんだ。
守備力に関しては「評論家やマニアの目が悪い」でも説明がつくものの、
打力の伸びが妙に悪くなる理由が見えてこない。
そして二軍を見てみると、
ウェスタンの平均を超えるショートもほとんど出ていない。
社会人、大卒ショートの指名が増えるのも納得である。
右に並んでいる二軍一番手11人中、高卒は6人。
横浜DeNA
2008年までは石井琢朗が入り続けたが、
2006年以外は打撃でも衰えが隠し切れなかった。
2008年途中から石井を外して固定されていったのは石川雄洋(.571)。
ただ石川はその後も打撃・守備とも伸びきらないまま
2012年からセカンドにコンバートされる。
その後は安定する選手が4年間出ない*1ところから倉本寿彦が定着するも、
守備がいまいちなうえに大和を獲得したこともあって
こちらもセカンドコンバート。
使い続けても打撃も守備も停滞する選手が大半で、
チーム内ではNo.1だがリーグの中で利得を稼げない状態なのがつらい。
また二軍を見ると、オリックス同様に
下でも結果を残せない選手が多い。
北海道日本ハム
日本ハムのショートは2002年に金子誠がセカンドから回って長いこと定着。
バッティングは安定してOPS6割台という守備型で、
二軍で1年目から結果を残した陽仲寿が起用されることもあった。
ただし陽も一軍ショートでは金子をはるかに下回る結果しか残せず、
一軍スタメン定着は外野にコンバートされてからだった。
守備のいい中島卓也が一軍守備要員に定着してからは、
一軍は大引啓次、中島とこれまた守備力の高い2人で何とかしているが
二軍の育成は大苦戦。
毎年のように高卒ショートを獲って固定しては
高卒1・2年目にしてもかなりひどい内容で終わるのが
定形パターンになってしまった。
今年一部の人たちから一軍スタメン固定が叫ばれていた平沼翔太も
二軍でこの程度になっている。
長打力の高いショート田中幸雄は突然変異だったのか。
読売
ショートでここまで利得を稼ぎ続けるチームも
そうそうは出ないんじゃなかろうか。
9年間定着した二岡智宏から坂本勇人に代わって既に11年。
その交代にしても二岡の諸事情や故障、
坂本の好不調に空きポジションがあまりにもうまく重なった*2もので、
周囲の人間がよく主張するような
結果を残しているレギュラーのポジションを無理やり奪ったものではない
ことは記しておかなければならない。
その坂本の年齢が全盛期に差し掛かったところでの
3年連続大卒ショート獲得は理にかなっている。
福岡ソフトバンク
チーム事情もあって1年サードで使われた川崎宗則が
2004年からショートに固定されていたホークス。
打撃で突出した年は多くないが安定してリーグ平均レベルの成績を残した。
その川崎がアメリカへ渡った後は
二軍で順調に成長のあとを見せていた今宮健太が定着し、
高卒ショートを早くに固定する大成功例のように思われている。
守備力に関してはたしかにうまくいった例なのだが、
こうしてみると20代前半でバッティングが停滞し続けたのがわかる。
本当に大成功例にしてしまっていいのだろうか。
ここ2、3年は打撃も年齢相応に上がってきている反面、
故障や好不調の波の激しさがいささか気になるところ。
今年セカンドに定着した牧原大成は二軍で結果を残してから
一軍で安定するまでが長かったのがやや痛かったか。
東京ヤクルト
1997年から長くショートに定着していた宮本慎也だが、
OPS.700以上は2000年と2004年だけ。
それが30代後半に3年連続.700を超えたのが驚きである。
2番での自己犠牲が想像以上に個人スタッツへ響いた*3としか思えない。
彼のチームバッティングによる貢献度のプラスは、
それによって生じたスタッツのマイナスを本当に上回るものだったのだろうか。
二軍で順調に成長していた川端慎吾は故障が多く、
ショートでは2年強だった。
ショートの育成は全体的にかなり苦戦しており、
二軍ではまずまずも一軍で結果を残せない選手が続出。
トレードやFA、自由契約などをフル活用することになった。
稀代の大打者に成長した山田哲人も、
ショートだったら果たしてそこまで成長できただろうか。
埼玉西武
攻守ともハイレベルだった松井稼頭央がアメリカに渡ったのが2004年。
その松井に代わって定着したのがバッティングの成長著しい中島裕之だった。
かなり早い段階で平均を大きく上回るも
なぜか大問題児などと言われた中島だったが、
2013年にアメリカへ行くまでこちらも非常に高い打撃スタッツを残す。
ただ、2011年に成長著しかった浅村栄斗がファーストに定着したことで、
チームの青写真が一気に瓦解してしまうことになった。
若手の台頭がかえってチームの将来を迷走に追い込むこともあるのだ。
その後のショートは攻守とも苦しい併用が続いたが、
昨年から源田壮亮が高い守備力を背景にスタメン固定。
源田がまだ若い間は高卒ショートの育成をもくろんでいくかもしれない。
広島東洋
2005年は2年連続で定着していたシーツが移籍し、
開幕から結果を残していた尾形佳紀(.808)が長期離脱する。
シーツの前に高卒1年目から固定された東出輝裕*4も4年かけて伸びず、
育成が苦戦続きの中でついにショートに定着したのは
2005年ドラフト指名の梵英心。
かなり厳しい年もあったがおおむね安定した梵の後をうけたのは
こちらも社会人出身の田中広輔。
二軍のほうは菊池涼介と上本崇司以外高卒選手の名前が並ぶのだが、
実際に一軍で結果を残すのは社会人が続いている。
年齢的にもちょうど全盛期に近づいた選手が成功していると見るべきか。
二軍に名前の見える安部友裕がサードで出てきたのもちょうどそのあたりだ。
高卒ショート固定のハイリスク
今年になってから、
「高卒ショートを3年目までに一軍スタメンに固定しなければならない」と
主張するドラフト評論家を見かけた。
なんでも、それ以降だと大卒1年目に勝てなくなるからだそうだが、
そんな一軍のレベルに到底達していない高卒選手を固定させようとしているのかと
思わずツッコミを入れたくなってしまう理論である。
ちなみにそこでスタメン固定を迫られていたのは平沢と平沼だった。
たしかに高卒選手が早い段階でハイレベルな結果を残すなら
それにこしたことはない。
ただこうやってまとめてみると、
高卒のショートは早い段階で一軍でスタメン固定した場合、
どういうわけか21~22歳あたりから打撃がしばらく停滞した後、
25~28歳ぐらいで再び伸び始めるケースが目立つ。
この停滞が中島、西岡、坂本のように
リーグ平均を安定して上回るレベルで保たれているなら大成功と言えるのだが、
今宮や石川、ショート時代の東出のような
リーグ平均を大きく下回る停滞も多い。
21歳前後でスタメン固定することに大きな意味がある選手というのは
前者のような怪物たちのことだ*5。
後者のような選手がバッティングでも力を発揮し始めるのは概ね20代後半で、
これだと大卒や社会人出身選手と何ら差がなくなり、
大卒や社会人出身選手を否定する理由にはならないのだ。
少なくとも、「これが高卒の強みだ」と言うことはできない*6。
またバッティングのレベルがもう一段階上がらないまま固定されているうちに
故障やら何やらでショートとして使えなくなってしまうようでは、
チームにとってもさらにマイナスになる*7。
ショートという
守備の負担が大きいポジションが抱えるリスク
とも言えるだろう。