スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

2005~2011年の「高卒1年目200打席」

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前回の続き。
今回は2005年から11年とちょっと短い期間になる。

2005~2011年選手一覧

2005年

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2003、04年から一変して高卒野手当たり年だった2005年。
だが200打席到達は16人中4人と指名数も到達者も多くない。
到達者4人が全員成功しているが、
一方で200打席に満たない成功者もこれだけいるわけだ。
炭谷は開幕一軍スタメンに抜擢されるなど一軍要員になったことで
かえって打席数を稼げなかった側面もあるだろうか。
他に1年目で一軍出場したのは川端23、岡田6、平田2打席。
打撃成績の良かった陽は2年目から一軍機会が増えた*1が結果を出せず、
一軍スタメン定着は外野コンバートされた5~6年目にかけて。
それ以外の選手も完全なスタメン定着は5・6年目以降だった。

2006年

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2006年の指名選手は野手17人中*26人が200打席以上を経験した。
坂本が2年目にスタメン定着したことだけがやたら強調される年だが、
あとは上田と堂上がそれなりというぐらいで、
成功したのは1年目にあまり出場機会のなかった選手が多い。
この年も当たり年ではあるものの、
坂本以外が大成にかなり時間のかかった年でもあった。
200打席到達の5人と梶谷は2年目に二軍スタメンだった一方で、
両福田は打席数を60~70程度増やすにとどまり、
會澤は怪我で全休した。

2007年

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この年は支配下指名の半数以上が高校生という珍しい年。
ただし投手が多く、高卒野手は16人+育成2人(+コンバート2人)だった。
そんな中で1年目200打席に達したのは中井と中田の2人だけ。
丸、中村、伊藤は1年目はそこまで打席に立っていなかった。
2年目に成績を伸ばしたのは中井、中田、中村の3人で
逆に調子を落としたのが藤村、丸、安部。伊藤は全休。
中田と中村はポジションが全く空いておらず、
中井は1年目サードから翌年大田泰示の加入でショート中心、
さらに3年目は藤村ショート起用のためセカンドサード併用と
かなりユーティリティ的な起用になっていた。
これで一軍の三遊間が空けば守備に目をつぶって起用されたかもしれないが、
サード小笠原道大、ショートが1歳年上の坂本でやはり空いておらず、
ちょっと不運な印象がある。

2008年

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支配下10・育成4・コンバート1の計15人のうち、
2009年に200打席を超えたのは5人でリーグ平均超はなし。
2年目はそこそこ成長した選手が多く、
表の中でOPSがリーグ平均を超えたのは大田、橋本、中川、杉谷。
2年目から一軍出場が増えた浅村は平均をわずかに下回っていたが、
一軍でも成長していった。
こういう例を出すと「やっぱり使えば伸びる」を
連呼する人が後を絶たなくなるのだが、
浅村の場合はショートからファーストへ回っての起用だったことを
考慮に入れておく必要があるだろう。
また打率や長打は伸びたが
三振と四死球の比率がほぼそのままの選手がほとんどで、
この状態から3年目に使用球が変わるとどうなるか
ということにもなる。

2009年

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「高校生野手は大当たり年」と見せかけて、
筒香と今宮以外が厳しすぎるので総合すると何とも微妙な2009年。
1年目からその能力の片鱗を見せたのは筒香で、
2年目はさすがに.759まで下がったものの
リーグ平均との差は1年目とほぼ同じだった。
ただ三振率が激増したあたりは一軍での苦戦を予感させるものでもあったか。
今宮は統一球への対応に成功したのか、
2年目は.694まで伸ばしリーグ平均を大きく上回った。
こういう伸び方をしたところでちょうど一軍ショートが空けば、
とりあえず使ってみない監督はまずいないだろう。
2012年当時はあまりにも投高打低すぎたので
打撃に目をつぶることができたのも今宮にはプラスに働いたと思われる。
反面、10年経過した今年は片やポスティングでアメリカ行き、
片や勤続疲労で故障が目立つようになっているあたり、
「10年先の未来」と「若手の抜擢」の矛盾点も垣間見えている。

2010年

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開幕一軍スタメンだった後藤をはじめとして計6人が200打席以上。
支配下14・育成7・コンバート1だから比率としてはこれまで通りか。
2~3年目で一軍スタメンに定着した西川、山田とそれ以外との差が
1年目の時点でも明確に出てはいるが、
2年目は2人ともリーグ平均を大きく上回り、
さらに三振率が減って四球率は増える理想的かつ早すぎる伸び方をした。
甲斐と牧原は三軍での結果がわからないので不明。
牧原は2年目に298打席、OPS.636とこちらもまずまずの成長を見せたが、
甲斐は2年目も二軍では43打席で、
290打席を与えられた山下とは大きな差がついていた。
これが5年後には完全に逆転するのだから面白い。

2011年

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1年目から200打席を記録する選手が9人に達した。
支配下17人・育成5人だから比率がやや高くなっている。
ただその分大成する選手が増えたかというと、そうはなっていない。
一軍でもそこそこ使われた高城は他のキャッチャーとの競争になったが、
バッティングがここから全く伸びてこなかった。
二軍リーグ平均を超えた2人のうち、
近藤は3~4年目にかけてバッティングが開花する一方でイップスに悩まされ
キャッチャーやサードで厳しくなったのはもったいなかった。
高橋は入団当初からサード中心の育成だったため、
はるかに実力の高いルナがいてはスタメン固定に至らない。
一軍スタメンとして何年も結果を出したのは
現状この2人と桑原ぐらいなので、
1年目の結果がある程度反映されているとは言えそうだ。

200打席をどう「作り出させる」のか

外部の人間が「200打席を与えろ」と主張するのはたやすい。
だが現実には1年間に使えるチームの打席数は限られている。
「新しく入った選手」に「200打席を与える」ためには
「誰かを1人戦力外」にして「誰かの200打席を取り上げ」なければならない。
もちろん、その200打席分のポジションも空けておく必要がある。
200打席というのは二軍フル出場の約半分にあたり、
二軍の控え要員になっていた選手を切った程度では賄いきれない。
しかも1年間二軍レギュラーとして鍛えることを考えれば、
200打席程度では到底足りない。
レギュラークラスのどこかの選手から1年分を全て奪い取らないと無理で、
しかも本来ならこの選手が育つまで与え続ける必要がある。

そろそろ戦力外か引退が見えている
ベテラン・中堅選手がいるならわかりやすい。
だがもしドラフトで野手を獲り続けた場合、
それも高卒至上主義者が言うように高校生野手を乱獲し続けた場合、
いったい何が起こるだろうか。
200打席以上を確保する主な方法は2つだ。
1つは二軍で育成中の他の若手から奪うこと。
別なポジションが空いていればその若手をそちらに回すことで対処は可能になる。
中井がいい例だろう。
彼は1年下の大田が入ったことでサードからショートへ回り、
さらにセカンド中心だった同学年の藤村をショートとして育てるために
サードとセカンドへ入り、
その後大田の外野コンバートで再び三遊間へ。
これが4年目の2011年まで、
サードに村田修一が加入する前に起こった出来事である。
それでも、こういう使われ方は
バッティングで充分期待できたからと言えるかもしれない。
何年も先じゃないと期待するのは難しい程度の成長だったならどうか。
今年何人かの選手に通達されたように、
高卒2・3年目の選手を育成に回すか、戦力外にするしかなくなるのだ。

もう1つの方法は若手至上主義、高卒至上主義がよく主張する理想形と言える。
一軍レギュラーのポジションに二軍の若い有望株を抜擢することで
二軍の打席数とポジションを空ける方法だ。
「こうすればこの先10年は安泰」などとよく言われるけどもこれは大嘘で、
とんでもない問題点が潜んでいる。
1年目ではないが2年目に打席数が316へ伸びた梶谷を例にとろう。
梶谷は2年目にはまだ.627だったが
3年目に389打席で.778と一気に伸びてきて、
この年には一軍も22試合44打席経験している。
ところで梶谷が入るショートの空きはどこから出てきたかというと、
チームで長く活躍していた大ベテランだが
衰えもかなり見えていた一軍の石井琢朗である。
そして石井に代わってショートレギュラーになったのは石川雄洋。
つまり、今度成長してきた梶谷に一軍レギュラーの座を与え、
さらにまた別の高卒選手を獲得して使うためには、
わずか2歳年上で前年一軍レギュラーに抜擢したばかりの
高卒5年目の若手のポジションを剥奪しなければならない
ことになるのだ。

このように、
「高卒野手は早いうちに抜擢しなければならない」と常日頃言っている
若手至上主義、高卒至上主義の主張を実践しようとすると、
「高校生を乱獲しては1年目から二軍で打席を与え、
2~3年目には一軍レギュラーに抜擢し、
さらに3年後には次の高卒3年目を抜擢するために
24歳前後の時点でポジションを奪い取る」

というサイクルが延々続くわけだ。
現実にそんな馬鹿げたことを繰り返すチームはもちろんないのだが、
理論上はこういうことになる。
「5年先10年先の未来を見据えて育成、抜擢しろ」と言う人たちは
残念ながらこの矛盾点には気づいていないようだ。
いやそれとも、自覚があるかどうかはともかくこれが本音なのだろうか。
だとすれば22歳の大学生や24歳の大卒社会人指名を異常に嫌うのも
説明がつくわけだが…。

*1:2年目116、3年目123打席

*2:ほかに投手から木村と北篤がコンバート、計19人