スポーツのあなぐら

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「高卒1年目200打席」に意味はあるのか

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このブログではこれまで 3回わたって
「高卒1年目に200打席に到達した野手は大成する」という俗説を
検証してきた。
今回はこの3回の内容から何が見えてきたか、
簡単にまとめていこう。

 

200打席に達しない成功選手

まずたしかなのは、
「200打席を経験した選手の成功率は高くなるが、
200打席与えられても失敗する選手や
200打席に達しなかった成功選手も多い」

ということだ。
1年目に200打席を経験しなかったがのちに戦力となる選手で
圧倒的に多いのはキャッチャー。
高卒1年目ではプロに入って覚えることが非常に多く、
しかも一・二軍合わせて2ポジションしかないところに
6~8人はそろっているのだから、
その中で一番未熟な高卒1年目の選手全員に打席数を多く与えろと言うのは
そもそもかなり無理がある要求と言えるだろう。

もう一つ、単純な「200打席」に疑問符を投げかけるのは、
1990年代後半から2000年代中盤の西武。
1年目から200打席を経験した
赤田将吾以外の玉野宏昌、高山久大島裕行黒瀬春樹
いまいち伸びきらなかったのに対し、
200打席に達しなかった
小関竜也中島裕之中村剛也栗山巧炭谷銀仁朗
のちの主力に成長したからだ。
もっとも199打席の中村や一軍帯同がやや長かった炭谷に関しては
「『200打席』への反証」とは言えないと思うが、
小関、中島、栗山は見逃してはいけない例になる。
それ以外の時代だと松井稼頭央や浅村栄斗のように
1年目から打席数を多く与えられた主力も輩出しているので、
「打席数を与えることが全くの無駄」と言っているわけでもない。

 

勝ち取った200打席と与えられた200打席

1年目で200打席に到達した高卒野手の数は指名年別だとこうなった。

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年によってばらつきは大きいが、
最近は200打席以上を与えられる確率がかなり増えているようだ。
なら比例して高卒選手の成功率も増えていくのだろうか?
少なくとも「1年目に200打席を与えたから成功率も上がる」
ことはまずないだろう。
これまで見てきてわかったのは、
1年目から200打席を与えられる選手には2種類あるということだ。
「200打席を勝ち取った選手」と「200打席を与えられた選手」である。
そして成功した選手のほとんどは
二軍の中で結果を出し「200打席を勝ち取った選手」になっている。
今年1年目の選手なら山下航汰が勝ち取った例に該当するだろう。
育成指名だったにもかかわらず
1年目から三軍ではなく二軍で出場機会を与えられ、
なおかつかなりの結果を残して支配下登録となった。
いくら素質を買われても実際の試合でただ三振の山を気づいていたら
さすがに三軍に下げられていたと思う。
逆に「200打席を与えられたが結果を出せなかった選手」は
その後も停滞し、結局一軍で活躍できないケースが多い。
若手にはとりあえず打席数を与えておけば伸びる、
すなわち「使えば伸びる」は
現実には通用しないのだ。
それに200打席到達数の分母が増えても分子が大幅に増えなければ
確率が上がらないのは当然の話だし、
高校生しか指名されない高卒至上主義の理想郷が出来上がれば
成功する選手が高卒選手ばかりになるのもまた当然の話だ。

最近は200打席を与えられる選手が増える一方で、
既に何年か実践していたチームでは
逆に200打席を与えるか、長くチームで育成するかどうかを
最初からシビアに見極めるような様子も見られ始めた。
たとえばソフトバンクの2016年指名組は
1年目に4人の選手が200打席以上を記録したが、
逆に200打席を与えられなかった3人のうち
森山孔介と松本龍憲は2年で戦力外になっている。
また2010年以降に
事実上姫野優也以外の全員が200打席を突破している日本ハムは、
早くに戦力外にはせず5年目までは在籍させるようにしている節があるが、
森本龍弥や宇佐美塁大などの起用法では、
徐々に二軍の空いたところを埋める起用が増えていった。
高卒ルーキーを起用するために高卒3年目あたりで
二軍のポジションを1つ剥奪することも当然やっているのは
前回見たとおり*1

 

三軍の重要性とは

これらのことから、
三軍がどういう意味合いを持っているのかも見えてくる。
三軍が重要な理由は、
ただ若手の選手枠数が確保できることではない。
二軍レベルには到達していない選手に対して
彼らの現在のレベルにより近い出場機会を確保できることだ。
「若い選手は高いレベルで使えばすぐ伸びる」
「二軍で使っても『低い二軍のレベル』で止まるだけ」
「だから一軍に固定しろ」
と常日頃主張する人には理解されないかもしれないが、
これまで見た限りでは、
1年目に「二軍という高いレベル」で打席数だけを与えても
そこで大きくつまづいてしまった選手は
その後しばらく伸びないか、
つまづいたままで終わるケースが圧倒的に多い。
だからと言って試合に出場する機会が全くないのも問題だ。
それなら二軍で使うのはしかるべきレベルに到達してからにして
その時までは三軍などで粘り強く鍛えられるほうが、
チームにとっても選手にとっても有意義なのだ。
もっとも若手至上主義・高卒至上主義の理論を総合すると
「若手は全盛期に達する前に一軍で使い捨てるもの」のようだから、
若手でさえあればその選手のレベルはどうでもいいのかもしれないがね。

2年目以降にどう伸びるか

あともう一つ指摘しておかないといけない点がある。
「『1年目の好成績=即戦力』ではない」ということだ。
これもいくつかパターンはあるけども、
わりとあるのが1年目は良いが2年目から成績が下がって伸びないケース。
このパターン自体は一軍でもよく見かけることではあるが、
高卒1年目の好成績の場合は
ファンや評論家の期待値が過剰にはね上がり、
なおかつその期待値は高止まりしたままになるから厄介で、
しかも一軍で使わない首脳陣を叩くことに終始する。
この点は「現在の選手の内容」をしっかり見る必要がある。

また「好成績」と言っても、
打率やHR数、あるいはOPSは良いが
それ以外の部分が良くない場合も注意が必要だ。
この点は2年目以降に成績が伸びた場合にも言えることで、
OPSはよくなったがそれ以外の部分が悪化するというケースも少なくない。
特に三振数がやたら多いのに四球を選んでない選手は
一軍で起用しても一軍の投手に対応できないことが多いようだ。
例に出すとちょっと申し訳ない気もするが、
オコエ瑠偉なんかはこのパターンの典型のように見える。
それでもこの手の選手がある程度一軍で起用される場合は
バッティング以外に守備や走塁で使えるから起用されるのだが、
ファンは打撃に関しては結果をむやみに期待せず
まず二軍でもこの弱点が改善されるまで待つべきだろう。

*1:というかこれをしないとルーキーを抜擢し続けるのは無理だ