スポーツのあなぐら

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中日ドラゴンズの若手野手起用を考える

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現在の12球団のうち
ファンから
「監督・コーチが馬鹿だから我慢して若手を使わない」と
叩かれないチームはほとんどないと言っていい。
今年に限ってはオリックスが例外になっているが
チーム成績がすぐによくならなければ
たとえ若手ばかりがスタメンに並び続けても
「若手を使わない」と叩かれるのがこの世界である。

さて今回はその中でも
特に叩かれている中日ドラゴンズ
若手起用について考えてみよう。

 

現在の中日の二軍状況

まずは二軍の主な選手を見てみよう。

2021前半D野手

スタッツは7月5日時点のもの。
太字は一軍。
なお若手では
高卒3年目の根尾昂と4年目の高松渡が
今シーズンほぼ一軍で過ごしている。


石川昂は怪我で
今年の復帰が難しい状態だ。
育成の石岡はほぼファースト専任になっており、
使うには
今シーズン好調のビシエドを追い出さなければならない。
また石垣もユーティリティに近い使われ方で
サードが増えたのは石川昂が離脱してから。
阿部寿樹が不調のセカンドは
堂上、溝脇も一軍に昇格しているものの
主に使われている堂上は
阿部より少し上程度で
京田陽太の代わりにショートに入ることが多くなった
三ツ俣大樹も堂上と同じような状態だ。
外野勢はウェスタン平均こそ上回っているが
突き抜けていいのは
四球をやたらと選んでいる伊藤ぐらいしか見当たらない。
また高卒ルーキーの土田が
1年目としては好調。
このままなら
今シーズンのどこかで
一軍経験を与えられる可能性はある。

ここから言えるのは
たしかに二軍の打線は好調だが
一軍で使ってもいいほどの選手は少ない
ということ。
もう少し一軍で使ってみてもと思えるのは
溝脇と伊藤ぐらいで、
しかもこの2人を使い続ける場合、
一軍最大の課題である
長打力不足の解決にはあまり結びつかない

ことを理解しなければならない。

 

「使ってほしい選手」が起用されない理由

「それなら」と大半の人は言うだろう。
「長打力の高い若手を
我慢してスタメンで使い続けるべきだ。
首脳陣は我慢と覚悟が足りない」と。
そのわりに
根尾昂の起用では
スタメンで我慢し続ければ「聖域だ。外せ。落とせ」
スタメンから外せば「なぜ我慢しない」と
起用法が変わるたびに要求も180度変わっている気がするのだが
それはともかく、
その中でも「使え」と首脳陣が叩かれる若手は
なぜ一軍で使われないのかを考察しよう。

 

明らかに不調の若手をスタメンに固定すべきなのか

石川昂が戦線離脱した今現在、
「一軍で我慢して使え」と最も騒がれる選手は
石垣だろう。
しかし今年の石垣は本当に使っていいのだろうか。

石垣雅海

現状かなり調子を落としているのがわかる。
去年が絶好調*1だから
今年が悪く見えるだけというのではない。
三振率30%超は
ウェスタンリーグのなかでも
3人ほどしかいない。
しかも石垣の場合は
昨年から減った安打数が
そのまま三振数増加に直結していて、
体の状態がどこかおかしいのではないか
とすら思える成績だ。
OPSだけなら
むしろもう少し一軍経験を積ませても
ぐらいの内容なのだが、
この三振率激増は
故障や体調不良を抱えたまま出場しているか
二軍でもまだ試行錯誤に苦しんでいるようにしか見えず、
一軍に呼んでいい状況にはないと言える。

 

スタメン固定だけが英才教育なのか

次は1年目からとにかく「使え」と騒がれていた
3年目の石橋だ。

石橋康太

今期の石橋は
一軍にはかなり長くいたのだが
1年目と同様にスタメンに入ることがほとんどなく
「飼い殺しにするな」などとよく批判されている。
また西武、ロッテ監督時代には
炭谷銀仁朗田村龍弘
早い段階で一軍スタメンに抜擢した
伊東ヘッドコーチへの失望も大きいようだ。
しかし以前も書いたと思うが
私は石橋のこの起用は飼い殺しではなく
むしろ英才教育の部類に入るのではないかと考えている。

理由の一つは
伊東コーチ自身がそういう育成をされていたことだ。

伊東勤

伊東は1年目に一軍で33試合に出場しているが
スタメンはわずか5試合。
途中出場も12試合しかなく
出場試合数の半分は代打だった。
優勝を争っていた前期*2はともかく、
早々に優勝戦線から脱落した後期も
スタメンで使われ続けるということはなかったのだ。

そしてもう一つ。 伊東コーチが監督時代に抜擢した
炭谷と田村が、
守備面はともかく
バッティングでは完全に伸び悩んだことだ。

炭谷・田村

炭谷は4年目、田村は3年目に
通算どころか年間300打席以上を与えられた。
しかし時代が違うとはいえ、
西武時代の炭谷とこれまでの田村が
伊東の通算OPS.681を上回ったシーズンは
今のところ一度もない*3
早くに「300打席我慢された」にも関わらず、
高校時代はむしろ打力のほうが定評があり
強打者候補としても期待されていたはずの2人が
バッティングでずっと苦戦し続けているわけだ。
彼らと同じ轍を踏まないように
考えてもおかしなところはないだろう。
ただでさえ投手が打席に入り
打線が分断されるセリーグならなおさらだ。

一方で
伊東と石橋の置かれた状況には
違いもある。
まずスタッツにも記しておいたように
伊東の高卒1年目が20歳であること。
これは伊東が定時制高校に通っており
普通科の高校生の1年後にプロ入りしているから。
つまり
伊東が一軍スタメンに定着したプロ入り3年目の年齢は
石橋にとっては4年目の来年にあたり、
郡司やA・マルティネスらがおらず
今以上に石橋の一軍スタメン固定が叫ばれていた2019年は
伊東がドラフト指名される年にあたるわけだ。

もう一つは
伊東がプロ入りした時期の主力捕手。
当時の西武の主戦捕手である
大石友好黒田正宏はいずれもバッティングがかなり弱く、
2年目の伊東と大差ない成績にとどまっている。
彼らへ代打を送った後に
第三捕手である伊東が起用される余地が大いにあるばかりか
伊東自身を代打に送れる状況だった。
一方、現在の中日は
昨年から打撃好調の木下拓哉がスタメンに定着し
ここ2年間はOPS.700以上を記録*4
不調の波が押し寄せるか
休養日を設ける場合でもないと
キャッチャーで起用する機会があまりない。
桂依央利が一軍で好調な今ならなおさらだ。
これは郡司にも同じことが言える。

 

「300打席」我慢された選手のその後

ところでこのチームには
早い段階でかなりの打席数を与えられた選手は
いないのだろうか。
「いないに決まってる。だからこんな暗黒期になったんだ」
「若手(高校生)を獲ってもいないのにいるわけがない」
と言われるのは目に見えているが、
実際にはいる。
星野監督時代の話ではない。
比較的最近の話だ。

 

経験のないポジションを与えられた若手

まずは堂上直倫だ。
将来のスラッガー候補として期待された堂上直は
高校時代守っていたショートではなく
サードでの育成。

堂上直倫

二軍でのHRは少なく打率も高くはないが
そこまで悪くもない速度では成長していたと言えるだろう。

その堂上が最初に一軍に定着したのが4年目。
森野将彦が全盛期を迎えていたサードではなく
井端弘和が不調で戦列を離れたセカンドでの抜擢だった。
しかも
二軍でセカンドを守っており
成績がそこまでは変わらなかった
岩崎恭平、谷哲也ではなく、
それまで公式戦でセカンドに入ったことがなかった堂上直を
直前の二軍3試合で初めて守らせ
即一軍セカンドに起用したのだった。
また後半の守備固めでは
堂上直がサード、森野がファーストに入ることも多かった。

2010年は井端の数字を上回り
代役として充分な成績を残したものの
翌年からは
使用球の変更や守備の負担の影響もあったのか
バッティングでは全く結果を残せなかった。
少し調子を取り戻した井端弘和*5
再びセカンドへ戻った荒木雅博の成績を上回ったのは
2016年のことである。
なお井端は2015年に現役引退。

 

ところで堂上直は
落合監督から高木監督へ代わった2012年から
森野に次ぐサード二番手としての起用が増えている。
しかしそのサード二番手の座も
すぐに別な選手へ奪われることになり
一・二軍とも内野全般のユーティリティ、
それもショートで起用されることが多くなった。
「高木監督のことだ。そのサードもどうせベテランだろ」
と人は言うことだろう。

 

一番手でも「なぜ使わない」と叩かれ続けた若手

堂上直の代わりに二番手サードになったのは
高卒1年目19歳の高橋周平だった。

高橋周平

1年目から一軍出場機会を得た高橋は
2年目の時点で早くも107試合285打席に到達。
3年目中盤にしばらく一軍スタメンとなった時点で
「300打席」に到達したと思われる。

1年目はほぼサードだったものの
2年目、3年目の二軍ではショートも多かった高橋。
しかし一軍ではほぼサードに固定され、
二遊間の補強もされた2015年以降は
再び一・二軍ともほとんどサードになる。
早くに一軍経験も積んだ高橋にとっていたかったのは
2013年に加入したサードのルナが好調だったことだ。
高橋を起用するときは
ルナがいないかファーストの森野がいない場合になるが
この森野も2013年以降は復活しており、
高橋を使い続けるには
競争を排除し
高橋を聖域にする選択
をしなければならなかった。

ルナがチームを去った2016年以降も
高橋に代わってサード二番手として起用された
福田永将を超える結果は残せなかった。
それでも
ルナに代わる一番手サードとして起用されたのは
高橋である。
高橋が一軍主力として充分な結果を残せるようになるのは
セカンドに入った2018年からだった。

 

野球ファンが口にする「我慢」とは

以前にも紹介した文春野球の
「300打席我慢して使い続けろ」論
吉田正尚や若手の存在をすっかり忘れてしまった
オリックスファン以外では、
このコラムに共感する
ドラゴンズファンがかなり多かったと記憶している。

しかし現実はどうだろう。
たとえ300打席を我慢したとしても、
すぐに結果が出なければ
堂上直や高橋のように
実際に若手を起用した事実は忘れられる。
さらに高橋にいたっては
「スタメンをはく奪し
石川昂や石垣を使え」という声が
非常に大きくなっているのが現実だ。
杉本裕太郎より2学年、
高橋は早生まれなので3歳若いにもかかわらず
杉本のようなそれ以上の伸びしろは一切ないと思われていることになる。
杉本と同期同学年の木下拓も
高卒1年目の石橋を使えと叩かれていた。
このような
オリックスの西村、福良両監督がやったような
まだ結果を残せない若手の優先起用
を求める人たちが
あの市原氏の記事に共感しているのだ。
またオリックスでもそうだったが
若手が結果を出せないまま
我慢して使い続ければ
中日ファンがどう反応するかは
今年の根尾の起用が証明
している。
実際には半分の150打席も我慢できないばかりか
与田監督以下首脳陣の逆を主張するために
主張が日々二転三転する状況が続いている。

一軍へ昇格させ経験を積ませる段階に達した若手を
チーム事情に合わせて起用し続けるのは
チームの将来のために必要なことだ。
しかし今あげたような主張を繰り返す中日ファンにとって
「若手」は監督・コーチ・チーム批判のための
ただの便利な餌と化している。
「若手起用」は一見正論のような顔を持っているが
そんなことはない。
あなたが
暗黒期の長期化を本当に懸念するのであれば
「若手の抜擢」がはらんでいる
こうした要素も知っておく必要がある。

*1:ただしスラッガー候補としては二軍での四死球率がかなり低く、一軍のスタメンを経験させ続けるにはまだ早かった

*2:パリーグは82年まで前後期制。82年前期はもつれた展開から最終盤に抜け出した西武が、後期は日本ハムが独走で優勝

*3:炭谷は2019年に巨人で.745を記録、138打席。

*4:2019年は98打席で.652。打席数は少ないが石橋の二軍成績を一軍成績で上回っている

*5:巨人時代を含む