スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

日本ハムの野手が「弱体化した理由」を探ろう

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今回は
ファイターズの野手陣が「弱体化した理由」について
本当に起こった出来事は何か、
そもそもの日本ハムの野手育成の戦略は何だったのか。
傍から見てわかる範囲で考察していこう。

 

2015年から変化した本当のドラフト戦略

2021年の春に書いた
「『日本ハムが短期間で弱体化した本当の原因』は本当か」では
日本ハム『弱体化』は2015年以降のドラフトのせい」
という某ドラフト評論家の説を検証した。
あの「高校生を全然獲らない」説は誤りなのだが、
それとは別に
2015~20年のファイターズのドラフトにおいて
2014年以前と変化したポイントはたしかに存在している。

F野手指名ポジション

獲得する選手のポジションだ。
上に挙げた2008~14年はほとんどの選手がセンターライン。
それもショートが非常に多い。
対して2015年以降はセンターライン以外の選手が増えている。

F野手1年目起用ポジション

そしてプロ入り直後のポジションはこう。
CFはセンターを含めた外野全般、
SSはショートを含めた内外野全般を指す。
投手兼任だった岡と岸里はセンターで
高校3年ではライトだが元々内野だった西川はDHとセカンド、
一軍でもしばらくセカンドに入っていた。
センターラインを予定しなかったのは宇佐美と
すぐにサードで育成された高濱*1しかいなかったのだ。
それが2015年以降は
センターライン以外が増えただけじゃなく
入団後もセンターラインを想定していない選手が増えている。
清宮の抽選を引き当てたため
2年連続で高校生のファーストを指名もした。

実際のところは
2008~14年がむしろ変則的と言える。
2007年以前は
札幌移転後の2004年以降だけでも
市川卓鵜久森淳志金子洋平中田翔
センターライン以外の選手をそこそこ獲得していたからだ。

F06-10主力元ポジション

こうなった理由の一つは
2000年代後半の主力を見るとわかる。
外野やサードも
大半がショート出身者で構成されていた。
坪井は
社会人時代の外野のポジションが今正確にわからないので仮。
長打力の高い選手も
だいたいセンターライン中心で、
2008年以降の指名でも
長打力の高いセンターラインを何人か獲得している。

ただそれでも彼らの成長にかなり不安を覚えたのが
センターライン以外の選手を獲得するようになった理由だろう。
これらはほぼ長打力に定評のある選手で固められている。
また2021年の開幕直後は長打力でかなり苦戦したため
フロントがずっと抱き続けてきた不安も的中する形となった。

 

なぜ「若手を使わなくなった」か

Bクラスが増えてきた
2017年以降のファイターズに対しては
「若手を使わない」監督やフロントへの
「聖域」批判が激増した。
しかしちょっと待ってほしい。
もともとファイターズは
「若手の抜擢」で絶賛されてきたチームではなかったのか。
そのチームが「若手を使わない」のは
近年のファイターズを批判する人がよく言う
「感情、人気のための贔屓」のせいなのは
本当だろうか。

もっと客観的で最も単純な理由がある。
抜擢されるだけの実力をまだ身につけていなかったからだ。

「高卒1年目200打席」の後

ファイターズといえば
「高卒1年目の野手に最低200打席を与える」
ことでもよく知られている。

F高卒1年目04-11

2004~11年に獲得した
高卒野手の1年目はこうなっている。
200打席に到達しなかったのは13人中わずか3人。

F高卒1年目12-19

2012年以降は
200打席以上の比率がさらに上がり、
わずか7打席足りなかった姫野と
ここには出していないが
手術で離脱した細川凌平以外全員が200打席に達した。
なお上野は2020年の公式戦が大幅に減ったため
基準を二軍試合数の比率に合わせた160打席としている。
その一方で1年目からイースタン平均を超える選手の数は
あまり差がない。

しかしここで見たいのは1年目よりも2年目だ。

F高卒2年目04-11

2011年までの指名選手の成長がすごいことになっている。
13人中6人が平均超え。
しかも6人全員がOPS.800以上かつ平均より.050以上高い。

F高卒二年目12-19

それに対し
2012年以降の指名選手
1年目より成績が向上した選手こそ多いものの、
二軍平均を上回ったのは
すでに一軍で活躍していた大谷、
二軍ではわずか31打席の清宮を入れても19人中5人。
しかも1年目から好成績だった選手しかおらず、
万波の成績が落ちたぶん
数は1年目より減少する結果になっていた。

若手起用の前提条件

ここまででだいたい想像ついたかもしれないが、
ファイターズの若手起用には基本原則がある。
まずは栗山監督になってから
日本一になった2016年までに起用された
高卒の若手の成績を見てみよう。

F若手起用2012-16

控えの守備・代走要員として一軍に起用された中島以外、
全てかなりの好成績を残して一軍へ抜擢されたのがわかる。
OPSだけじゃなく他の数字も悪くない。
しかもこの傾向が栗山監督の前、
梨田、ヒルマン両監督の時代から変わってないことは
先ほどの高卒2年目での二軍成績から
容易に想像できるだろう。

では2017年以降はどうだろう。
それまで若手抜擢が絶賛されていたファイターズに対し、
「若手を使わない」栗山監督やフロントへの批判が
急激に増えていくのはこの頃からだ。

FF若手起用2017-19

やはりほぼ全員の二軍成績がイースタン平均を上回っている。
「打撃がいいから」という理由で
バッティングがいまいち成長しない中島に代えての抜擢が
声高に叫ばれていた平沼も
二軍平均を初めて上回ったのは4年目の2019年。

F若手起用大卒

大卒選手の起用も
中島の打撃に不安のあったショートでの石井起用以外は
同じぐらいの基準になっている。
石井も2年目に二軍平均はクリアしていた。

このように、
二軍でそれなりの打撃成績を残してから
ある程度一軍で起用する原則は全く変わっていない。
しかも二軍成績の部分に限っては、
二軍で以前ほどの結果を出せない若手が増えたために
一軍起用の基準がむしろ緩和され、より早い抜擢が増えた
とすら言っていい状況だ。
というかそれ以前に
抜擢される若手の数そのものが減っておらず、
「若手を使わなくなった」という批判の根拠自体も
どこにも見当たらない。

FF若手起用2020-21

そして2020年には
この基準がさらに緩和。
この年は怪我で一軍に長くいられなかったが、
二軍平均を下回っていた野村が
開幕から打撃優位であるサードのスタメンに入り続けた。
高濱は3年目まで順調だったのだが
サード専任で育成されたため
レアードの厚い壁に阻まれてしまい、
2018年と19年は成績が大幅に落ち込んだので
18年オフのレアード移籍でもチャンスをつかめなかった。
五十幡は
大学時代の最高成績が.789*2
四死球数が三振数を上回ったシーズンは
一度もない。

 

「わかりきっている」が誰もわかっていない

システムの機能不全仮説

以前と違って若手が伸び悩むということは
これまでファイターズのスカウティング・育成を支えてきた
BOSシステムが機能不全を起こしている
と考えられる。
ただシステムの何が機能不全に陥っているかはわからない。

私の認識に間違いがなければ
BOSシステムは
スカウトなど人の主観に基づく部分も大きい。
その一方で
現在はトラックマンなどの導入により
NPBのチームでもより客観的で膨大なデータが手に入る。
このデータの更新がしていない、
または更新が中途半端
なのだろうか。
それとも
更新はすでに終わっているのだが
選手や首脳陣へ伝わっていない、
あるいは彼らがこのデータを活用できていない
のだろうか。
活用するのはあくまで人間だから
活用する人にとっては理解が追い付かないこともありうるし、
場合によっては
客観的なデータよりも
スカウトやコーチなどの主観のほうが
たとえ正確さでは下回っていても選手が有効活用しやすい
ということもあるかもしれない。
それとも
データの更新も活用もしっかりできて
選手も成長してはいるが、
他のチームも同様のシステムを導入しているために
それまで持たれていた日本ハムの優位性が失われ、
相対的に選手の成長が遅れているように見えるだけなのか。
これは
マネー・ボール』刊行後のアスレチックスなど
MLBでよく見かけるパターンだ。

「弱体化」原因のもう一つの仮説

もう一つ考えてみよう。
高卒2年目野手の打撃成績が
二軍平均を上回る確率は
かなり良い年でもせいぜい25%
調べられた限りでは30%を超える年はなく
悪い年なら10%程度にとどまるものだ。
しかも平均を超える選手のほとんどは
平均より少し上程度で
.050以上高い選手が3人も4人も出ることはない。
ファイターズの若手は
2012年以降の指名選手でも充分高い確率だったが
2004~11年は異常な高さだったのである。

ならこうも考えられないだろうか。
ファイターズの育成力が弱くなったのではなく
これまでの運が良すぎただけではないのか?
もちろんこれまでのシステム構築や
スカウティングと育成力の大幅な向上、
これらは紛れもない事実
で否定はしない。
ただこれらの結果としても
ドラフトでは2011年、
育成結果だと2014年までは出来すぎで、
良くても「弱体化した」今ぐらいが本来の確率
ではなかろうか。

「育成上手」の「功罪」

読んだ方々がどう考えているかわからないし
こういう考察においては
一番嫌われる考え方かもしれないが、
私の中でしっくりきたのは後のほうの二つ。
つまり「相対性」と「運」だ。
そしてこの想定だともう一つ腑に落ちるのが
2015年以降のドラフト戦略の変化。
ポジションの汎用性を下げながら長打力重視の指名を増やしたのも
大学生野手の指名を少しだけ増やしたのも、
それまでの結果が
相対性と運の良さに依存していた部分も大きく
この優位が失われつつあったことを
すでに自覚していたからではないだろうか。

現在の日本ハムには
「高卒を獲って使えば育つのに全然獲らなくなったからだ」
「『高卒を使えば育つ』と思って高卒しか獲らないからだ」
「監督・フロントのお気に入りばかりで若手*3」を使わないからだ」
などの批判が混在している。
最初の二つは相反した内容だが、
最後のほぼ全員に共通するものになっている。
これは
ファイターズの野手育成、ドラフト戦略が
「FAにも即戦力にも目がくらむことなくただ高校生を獲り、
打席数を与えた後一軍でもすぐに使って育てた」

と巷で広まり、
さらにこの内容が各自の思想や嗜好に合わせて
日本ハムの育成が上手いのは自分の思想通りのチーム作りをしたから」
と解釈されたため
に起こったこと。
どの批判も要は
「俺様の言う通りのドラフト、育成、起用をしなくなったからだめなんだ」
というわけだ。

このような育成批判のされかたは
「育成上手」とされたチーム、
最近だとカープやホークス、ライオンズ野手などに対しても
しばしば見られる。
「俺様の言う通りにしないから弱い」
と叩かれるのは他のチームも同じだが、
「育成上手」なチームの場合は
それまでと同じ育成・起用法であっても
「前とは大きく変わってしまった。成功してた頃を思い出せ」
という批判も多くなる。

 

ファイターズが取り組んでいる「新たな手法」と課題

日本ハムドラフトの基本戦略

これまでの起用法を総合すると
ファイターズのドラフト野手指名の根底にあったのは
極度の「即戦力志向」である。
というか
FA選手を獲得しないことを標榜したうえに
金満チームと違って
FA権を取得した選手を引き留める資金にも乏しく
海外FA権を取る前のポスティングで
win-winの関係を作ることも想定したこの戦略では、
時間をかけたいはずの高卒野手でも
即戦力を取り続けなければ
チームが持たないのだ。
その最たる例は大谷の指名。
成長して主力となった暁には
長くとも5、6年の貢献でMLBへ移籍することを前提としたものだった。

ただ彼らが実際に運用してみてわかったことは
いくら即戦力を獲るといっても
高卒に加えて時々獲得する大卒・社会人に外国人選手、
すべての面で驚異的な成功確率がないと
この手法を長く続けるのは無理
ということ。
選手の獲得・育成のレベルが
平均よりやや上程度でも厳しくなるのは
若手起用の基準にあらわれている。
しかもファイターズの場合、
2014年の渡邉諒あたりから
1年目によかった選手や
一軍に少し出始めた即戦力候補のほとんどが
軒並み故障でつまづき、伸び悩むようになった。
さらに外国人野手も
レアード以外厳しい状態が8年続いている。
現在のファイターズの弱体化は
このような形で説明することができる。

BIG BOSSに課せられたミッション

2017~20年のファイターズの野手指名は
目の前の補強ではなく
明らかに2023年に照準を合わせていたように見えた。
というのも2023年は
2014~16年に獲得した高卒と
2019・20年に獲得した大卒が25~27歳になり
徐々に全盛期に差し掛かってくる時期。
そこに
まだ30歳前後で通常ならあと数年全盛期が続くはずの主力を加え、
最近獲得した高卒選手もからめばなおよし。
こういう構えになっていたのだ。

しかし昨年のファイターズは
近藤、松本以外の30歳前後の主力を次々と放出。
中堅と若手以外がスタメンで使われる可能性そのものを
できるだけ排除した。
これだと
「2023年に優勝を目指す」というのは現実的には考えづらい。
現状は5位が多かった札幌移転前にも近く、
2023年の目標は
2004年と同じ数年ぶりのAクラスとCS出場へ
下方修正したように見える。
この状況下でフロントは、
BIG BOSSこと新庄監督に
どのような起用を求めているのだろうか。

FF若手2021-22

上から6人が
昨年から今年にかけて一軍起用のあった選手。
下2人のキャッチャーは
なぜ使わないと言われてもおかしくないので
一応出しておいた。
ここで一軍成績を出していない選手は
ほんの数試合一軍にいて打席もほとんど立たなかった。
気になるのは細川とルーキーの水野。
細川はシーズン途中に怪我でしばらく出られず
二軍成績もふるわなかったが、
復帰後は早くに一軍に呼ばれ
しかもスタメンで使われた。
水野も
社会人での成績は
ドラフト前の評判とは違いそこまで良くなかったものの
今年の開幕スタメンに名を連ねている。
二遊間の人材が不足し
選手の成長などに対する解析が進歩しているとはいえ、
この2人や上野は
野村と同様に
二軍での実績が伴わないうちから
使われるようになっているのだ。
若手至上主義者にとっては
二軍で結果を出せていなくとも
自分が気に入った若手をスタメンの聖域にするのは
当然のことかもしれないが、
これまでの「育成がうまい」ファイターズは
そういう方策をとってこなかった
しかしスタメンで使い続けるかどうかはともかく、
昨年のファイターズのフロントが
若手以外が使われづらい状況を
意図的に作ったことは確かである。
ありていに言えば
果たして若手は使えば育つのか
この実験が
栗山前監督を経てBIG BOSSに課せられたミッションなのだ。

野手起用に関する課題

傍から見ていて、
ファイターズ野手陣の大きな課題は
若手に故障者が続出することだろう。
どう検証してもチームの中に原因がなく
ただの運でしかない場合は別だが、
そうでなければ
将来の主力候補の成長を
早い段階で停滞させてしまうこの点の改善は
必須事項になる。
外国人野手については
ドラフト指名や故障者の影響で
通常外国人選手も想定されるポジションに
若手がそこそこそろってしまっている。
その若手を上回るか
若手が何らかの理由で伸び悩んだ際の
外国人選手を確保しておくことは当然重要だが、
最初の改善点よりは少し余裕が生まれる。

もう一つ気になるのは
主力になった選手の耐用年数。
通常だと
選手の全盛期は30代前半までは続くもの。
それどころかファイターズの場合は
金子誠コーチや稲葉篤紀GMなど
30代前半から中盤の選手も
2000年代後半から2010年代前半の全盛期を支えてきた。
まだ余力を残した状態で引退したBIG BOSSにしても
2006年は34歳だ。
ところが、
昨年不調でチームを離れた主力野手は
29歳から32歳。
その前にチームを去った陽などもそうだったが、
近年のファイターズは
30歳前後でバッティングの衰えが際立つ選手が多すぎる。
まだ現役の選手が今後持ち直す可能性も当然あるのだが、
この衰えの原因は何だろうか。
「若手の抜擢が早い」ファイターズに集中しているということは、
主力抜擢が早かったために
耐用年数と劣化の年齢が
他のチームより早まりやすくなっている可能性も
否定できないのだ。
ただの杞憂なら何の問題もないが
この点は今後の動向を見守りたい。

*1:2017年からはセカンドも増えた

*2:3年秋、犠打飛は計算せず

*3:「若手」と書いて「おれさまのおきにいり」と読む