スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

ある強打者の「指名漏れ」についての考察

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「なぜか」評価の高かったあの選手

今回は私がずっと「なぜこの選手が指名漏れ?」じゃなく
「なぜこの選手の巷の評価がやたらと高いんだ?」と
思っていた「指名漏れ」選手について少し触れておこう。
これは後付けでもなんでもなく、
この選手については名前こそ出していないが、
「(オリックスが)すぐに補強したいポジションに即戦力はいない」
「長打はあるが低打率低出塁率高三振率の社会人」などと
自分の中での今年の評価の低さを何度か匂わせている。
もう誰のことかおわかりだと思う。
パナソニックの片山勢三内野手だ。

指名されないのは「守備のせい」か?

片山の場合、守備に関してさほど期待できないのは
ポジションの時点で最初からわかっているから、
評価基準はとにもかくにもバッティングになる。
そしてこのバッティングが、
評論家の中でも大御所であればあるほど非常に高く評価される傾向が見られ、
一般のファンも指名を期待する人は多かったようだ。
特に阪神オリックス

そんな彼の指名がなぜなかったか。
よく理由として言われているのは守備で、
サードも挑戦していたがうまくはいかなかったようだ。
だが本当に最も考えられる理由は打撃だ。
この2年間の数字*1を見てみよう。
片山を評価する際に引き合いに出されるのは
基本的に片山と体格が似ていて、
ポジションはファーストかサードで、
低打率だがHRが多い。
このうちいくつかの条件が該当する選手が挙げられることが多いが、
社会人を経た選手となると井上晴哉ぐらいしか見当たらないので
井上の数字を一緒にあげておいた。
なお再計算したところ今年の「グランド・スラム」は
おそらくどこかで数字を打ち間違えた*2ので注意。

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全然違うと言わざるを得ない。
社会人2年目の井上が2Bと3BなしでもOPS1点台を記録したのに対し、
今年の片山はここまでOPS.700すらも割り込んでいる。
絶不調もいいところだ。
もっと言えば、2年前に指名漏れしたこの選手とも見比べてほしい。
片山の場合はほぼ一塁専任なのに、
プロから指名のなかった外野手の谷田よりも
長打重視の指標であるOPSが下回るのではさすがに苦しすぎだし、
井上はあれだけの数字を残しながらも大成するまでに5年かかったのだ。
また片山の場合は三振が極端に多い反面、
社会人相手に四球を選べていないのも気になる点だ。
ちなみに「グランド・スラム」に掲載された選手だと、
昨年HRが最も多かったのは79打数で9HRの岡崎啓介(日立製作所)。
この他HRが多い選手はどうしても中堅からベテランに多くなるが、
若い選手では2位タイに7HRに101打数の山野辺翔(三菱自動車岡崎・現西武)、
6HRは105打数の近本光司(大阪ガス・現阪神)や
笹川晃平(107打数・東京ガス)、永利拓也(75打数・西部ガス)などがいる。
ここまで不調だと、守備のことを不問にしても
今年プロが指名するのはさすがに困難なはずだが、
なぜか評論家やライター、ファンからは高く評価され続けた。
評論家やライターの場合は
ドラフト前に候補選手のマイナス点を書いて
ファンに負のイメージを植えつけたくないという配慮があったかもしれないが、
今年絶不調と述べられていたのは
自分の知る限りだと「野球太郎」の座談会ぐらいしかなかった。
なぜあそこまで高評価され続けたのだろうか。

ざっと考えただけでも、簡単な理由が3つ挙げられる。
まず体型である。
どういうわけか、
この手の横にもかなりがっちりした体型の選手は
ファンやマニアからやたらと期待される傾向がある。
ごく最近でも山川穂高や井上が素質を開花させているから
一応説得力がないわけではないのだが、
マチュアでは中距離打者として活躍している選手に対しても、
他の同タイプの選手より長打力を伸ばす期待を掛けられることが妙に多いのだ。

次に打球の飛距離。
片山を推す評に非常に多いのが「打球が飛ぶ」という内容だ。
「天性の長打力が魅力」と言いたいのだろう。
でもこれ、実際には
「飛距離は教えられるものではない。才能だ」
という昔からの野球人の思想がそのまま反映されている。
むしろこの教えは、
逆に指導者や周囲の人間が簡単に「才能がない」とレッテルを張ることで
選手が長打力を伸ばす可能性を阻害していると思うのだが…。

そして3つめ。
それはここ最近の「ファースト専任」に対する異様な期待感だ。
この「期待感」にも2つの意味がある。
1つは体型と同じで、ファースト専任の選手に対する
将来の長打力への期待。
最近ドラフト候補になっていた選手だと丸子達也(早稲田大→JR東日本)、
体型・ポジション両面が合わさった選手では
元中日の中田亮二JR東海)などが当てはまる。
いずれも大学や社会人での実績以上の長打力がつくと期待されていた。

もう1つはファーストのポジションそのものにある。
「ファーストはファースト専任の選手をドラフトで獲りたい」と
考える人が近年急増しているのだ。
ここ何年かでファースト経験の豊富なレジェンドOB選手が
「ファーストは簡単そうに見えるが難しい」と
たびたび口にしていることも一因かと思う。
ドラフトとは違うが、
今年のU-18代表選考に対する批判も記憶に新しいところだ。
ただ、日本代表のように他のポジションを練習する余裕のない短期戦、
しかも公式戦ではポジションが固定されることが多い高校生ならともかく、
将来活躍する選手を長期的な視点で育てようとすると、
そんなことをしている余裕はない。
たとえそうやってファーストが育ったとしても、
ちょうど育った時にファーストの日本人枠が空いている保証もない。
たとえファーストを獲って育てる場合であっても、
せめて外野でも活躍できる見込みがある選手を獲得し、
複数のポジションをやらせながら育成するほかないのだ。
ファーストのレジェンド選手にしても、
ほとんどの場合は外野など他のポジションの経験もかなり積んでいる。
「ファーストに回せると考えるのは安易」とよく言われるが、
「ファースト専任ならファーストで絶対に育つ」と言うのも
いくつもの点から考えれば安易な発想と言える。

片山が今後どういう成長を遂げるかはわからない。
来年一気に成長してドラフト指名をされるか、
数年後にさすがにプロ入りはなさそうな年齢で開花し
社会人のレジェンドスラッガーとして君臨するか。
いずれにせよたしかなのは、
今年はまだプロ入りすべき時ではなかったということ。
そして、あくまで「まだ」ということであって、
来年以降の可能性も決してないわけじゃないということだ。

*1:現在行われている日本選手権の成績は反映されない

*2:特に三振-四死球は15-4になっていて、全て1ずつずれている