①「有望な若手」は必ずチームの将来を担う存在になるのか
②二軍の起用法からドラフト戦略の意図は見えるか
③安定している中に苦しさも垣間見える先発運用
戦力・ドラフト傾向分析
過去10年の成績
10年で勝ち越しが6回、Aクラスは8回。
優勝こそないものの、
Aクラスがここまで多いのは
1970年代前半から中盤以来である。
打力は高くなくほとんどの年で平均以下。
しかしそれ以上に失点を抑えている年が多いうえに
予想される勝率以上の好成績を残す年も多く、
Aクラスに食い込む要因の一つになっていた。
2023年の成績
交流戦、交流戦後はいずれも負け越したが
序盤の貯金がきいての首位ターン。
序盤の快進撃を支えた得点力が
交流戦以降は大幅に低下し、
交流戦では投手陣も苦戦した。
過去15年のドラフト傾向
1位の単独入札は伊藤と大山だけ。
2球団で一番人気ではないパターンも
高山と小園しかない。
くじ運は
藤浪まで20年以上連敗が続いていた時期より
少しましになった程度。
外れ1位指名も含めた3球団以上の競合だと
藤浪の前が11連敗、
藤浪と佐藤輝の間にも8連敗を喫している。
野手の入札がかなり多く、
全チームで半数を超えているのはタイガースだけだ。
2位は高校生と大学生がほぼ半々。
3位のほうは大学生が多くなっている。
1位で確保するケースが増えたためか、
こちらでは野手の指名が減っている。
野手はしばらく大学生の指名が多かった一方で
社会人が少なく
セリーグでは最少の数字。
2013~18年は
大学生と社会人に偏っていたが、
世代交代が一段落ついたという判断なのか
2019年以降は高校生の指名が
大幅に増えている。
2010年代前半までは
野手の育成が芳しくなく、
質・量ともに苦戦が続いていた。
と、こちらは成績からのイメージどおりなのだが
投手も質はともかく量が不足気味。
その量を
外国人やFA、トレード等で補うのも得意なことが
毎年の好結果につながっているものの、
これらの歯車が狂ったときに
この弱点が最悪の形で露呈したのが
昨年開幕直後の大連敗だったと言えるだろう。
野手補強ポイント
野手についての基本的な考え方
基本的な前提条件はこうだ。
- 若手は全盛期(年代表オレンジ)に向かって少しずつ成長する
- 全盛期の選手は同じぐらいの成績で推移するかゆるやかに衰える
- 全盛期を過ぎた選手は特に守備がいつ大幅に下降してもおかしくない
この前提条件を踏まえつつ
若手・中堅の具体的な成長速度やポジション適性、
ベテランの衰えかたなども含めて
補強ポイントを見定めることになる。
また
今年のドラフト候補で
ポイントに該当し
なおかつプロを志望する選手が少ない、
他のチームとの兼ね合いで
欲しい選手を予定している順位では獲れそうにない、
などといった場合には
補強ポイントを翌年以降に持ち越すこともよくある。
一回のドラフトで
補強ポイントを全て埋めきる、
投手・捕手・内野・外野のポジションを均等に獲得する、
といったことにこだわる必要はないのだ。
過去10年の打撃成績
甲子園の特性もあってか
長打率は毎年低く
打率も基本的に低いが、
打率に比べて出塁率が低いという年は少なく
打力のマイナス要素を
ある程度のところで食い止められているポイントと
言えるだろう。
盗塁の多寡は
単にチーム構成の違いによるもの、
特に近本の加入が大きいと思われる。
2023年野手陣の状況
打率が低くHRも少ないため
長打率はリーグ最少だが
毎年平均程度は選んでいた四球が激増し
出塁率はリーグトップ。
二塁打が少ないが
三塁打は全チームでずば抜けて多い。
序盤極端に効率が良かった得点数が
前半戦終了時点では
予想得点とほぼ同じ数字に戻っており、
このへんの揺り戻しも
得点力低下の要因となっていたようだ。
大山と前半戦終盤に怪我で離脱した近本は
ある程度好調を維持していたものの
佐藤輝、木浪がかなり調子を落とし、
ポジションで彼らに代わる選手も
新たに好調となる選手も出てこなかった。
キャッチャーでは
2年目の中川が2年連続で好成績。
ただこの成績を見ると
1試合を通して使われたかどうかがわからないので
連日キャッチャーのスタメンをはれるだけの
体力があるか。
今年の外野は
森下、前川、井坪にこの後出てくる小野寺と
若手の調子の良さが目立つ一方で、
森下以外は
一昨年の島田や若手ではないがミエセスと比べると
やや見劣りがする。
その中で井上が完全に調子を崩してしまった。
小野寺以外の内野が可能な若手で
まずまずなのは4年目の遠藤。
3年間結果を出せていなかったので
生き残りをかけたアピールを今後も続けられるだろうか。
全体的に見ていると
スタメンの際に最後まで出場させる選手が昨年よりも減り、
途中交代や途中出場で
試合数自体は多く出場機会を与えるケースが
特にキャッチャーと内野手で増えている印象だ。
補強ポイント
最も気になるポイントはサード。
大山から佐藤輝と
ここ数年間の一軍サードに若い主力がいて
昨年まではライオンズへ移籍した陽川もいたとはいえ、
今年は二軍のサードに
ある程度固定されている選手がいない。
有力なドラフト候補のことを考えると
今年は上位指名で
サードかサードを見据えたファーストを
狙っている可能性がある。
外野に関しては
二軍に若手の有望株がそろっている反面
まだ一軍で結果を出せている選手はいない。
一昨年は調子が良かった井上のように
若手がその後伸び悩む可能性も充分あり得るため
今年も新たに獲得するかどうかは悩ましいところだが、
有力なサード候補が獲れた場合は
将来的な佐藤輝の再コンバート等も視野に入れて獲らない、
サードが獲れなければ獲得し
若手のうち1人か2人は代わる代わる
一軍と二軍を往復させる、
といった選択肢も考えられる。
キャッチャーは
支配下の選手数自体は足りているので
誰かに戦力外通告をしない限りは
獲得しても育成枠になるか。
投手補強ポイント
投手についての基本的な考え方
野手と比べて
投手は年齢による成長・衰えのばらつきが激しく、
故障や不調などからくる戦力外も早い。
また近年は
個々のイニング、登板数を抑える代わりに
投手の調子を見極めた一・二軍の入れ替えが激しく、
一軍である程度使われる主力の数そのものは激増している。
そのため
一部のドラフト評論などでも主張される
- 二軍以下で将来を見越して何年間も育成し続ける
- より力のある選手を差し置いてでも、若い投手をただ一軍で使い続ける
このような手法は
以前にもましてとりづらい。
それよりも
- 最低限の出場選手登録人数にこだわることなく、一軍で起用可能な投手の絶対数を増やしていく
- 今年台頭した若手が来年以降も活躍し続けることをあてにして、目の前の年齢(特に18歳)と将来性に特化した指名を繰り返してはいけない
これらがどのチームでも最重要課題になる。
過去10年の投手成績
甲子園を本拠地にしているためか
被HRは安定して少ない。
2020~21年に三振率が激減したが
昨年は再び持ち直し、
2010年代中盤に増えていた四球数も
19年以降はかなり減っている。
一番の課題は
投手そのものよりも
投手と守備とのバランスだったか。
2023年投手陣の状況
与四球は相変わらず非常に少ないが
序盤に比べて被安打、被HRが増えた。
対セリーグでは失点がリーグ最少なのに
交流戦の対パリーグでは
リーグで二番目に失点が多かった。
序盤打ちこまれていた
西純に復調の気配が見える一方、
西勇の状態がなかなか良くならない。
しかし彼に代われそうな存在を二軍で探すと
一番手に来そうなのは青柳、
次いで富田、秋山、桐敷ぐらいしか見当たらず
既に全員が今年一軍で先発を経験している。
湯浅の不調が誤算だったと思われるリリーフ陣も
二軍では好調で一軍でほとんど投げていないのは
岡留と小林を残すのみ。
ルーキーの門別は
どう見てもまだ体力づくりを兼ねている段階で、
今年の戦力の一角とみなすのは間違いだろう。
補強ポイント
基本は中6日でも
ときおり中8~10日をとらせることが
当たり前になっている現代の先発ローテ。
一方、今年のタイガースで
一軍先発をさせられそうな選手の数は
先ほど書いた6人と他のローテ固定4人を合わせて10人。
かなり安定感が高いように見えて
実際はぎりぎりのところで運用しているのが
現在の先発陣である。
しかし現在のタイガースには
二軍で鍛えられてきたこの2年間の村上どころか、
手術で一度育成枠へ回る前の
2019年から20年の才木に近い成績を残している
二軍の若い先発がほとんどおらず、
今年から来年にかけて
劇的な成長を見せる先発候補がいないと
現有戦力から一軍先発候補を増やすのは難しい。
タイガースは2~3位あたりで
極度に素質を重視した投手指名をしたがる傾向があるが、
今年は
1年目から一軍ローテで活躍できるとまではいかなくとも
二軍で即好成績を残せる実力をもった先発候補は
獲っておくべきだろう。