スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

2021年楽天ドラフトとドラフト採点について

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2021年末、
東北楽天のチャンネルにあげられた動画
「ドラフト採点、ドラフト評論への批判」がなされていたことが
話題になった。
ざっと見た限りでは
動画の内容を好意的にとらえ
ドラフト採点批判で留飲を下げていた人のほうが
圧倒的に多かったようである。
また昨年のイーグルスの指名に対して
かなりの低評価を下す採点が多かったのも事実だ。
2021年のイーグルスのドラフトは
なぜ識者から低い点数をつけられたのだろうか。

 

 

2021年楽天ドラフトの評価が低かった理由

2021Eドラフト

なぜ点数が低かったかというと
「目玉候補」の抽選に向かわず
評論家の絶対評価が高くない選手を
上位指名したから。
要は「正攻法」のドラフトをしなかったからである。
1位は
競合した隅田知一郎や小園健太、
東北枠でもある風間球打、
入札時点では残っていた森木大智や佐藤隼輔などを狙わず
最初から吉野に入札。
動画内で取り上げられた
二誌の筆者による
それぞれの吉野の具体的な絶対評価はわからないが、
ドラフト直前の『野球太郎』*1だと
巻頭の名鑑では総合評価B+の総合14位以内、
「ドラフト候補&有望選手リスト」の中では
上位候補枠の17名すなわちベスト17位以内に入っている一方で、
座談会のほうでは
外れ1位候補、サプライズ候補を含めた
計20名の中に入っていない。
このように
吉野の評価自体は概ね高かったものの
それも人によってまちまち。
たしかに1位指名候補という評価はあまり見ることがなく、
一般的な絶対評価
2位序盤から中盤ぐらいの指名候補ということになるだろうか。
2位では
愛知二部でプレーしていた大学生の安田悠馬、
3位がいわゆる三拍子がそろっているとされる前田銀治を
指名したが
この2人も絶対評価は高くなかったようだ。

ではそんな吉野を
イーグルスが1位指名した理由を改めて考えてみよう。

 

①指名候補の絶対評価が違う

そもそもの問題として、
全12チームの選手の評価は
採点をする評論家などの評価と同じではない。
各チームで評価は異なるし、
巷の各評論家・識者でも
全く同じ評価になることがありえないのは
『野球太郎』の例を見ても明らかだ。
そして
ここ最近のイーグルス
自分たちの絶対評価に沿った順番で指名をするとも
標榜している。
なので
吉野に入札した最もシンプルな理由は
イーグルスの中で
単純に吉野が候補者リストの最上位にいたから

ということになる。
このように
実際のドラフト指名が
巷の評価と大きく食い違う結果になることは
別におかしいことではない。

一方評論家や記者などは
基本的には自分の絶対評価をもとに
各チームの採点記事を書く。
なので
各自の絶対評価の違いによって
点数がかなり辛口になるのは
当然のことと言える。
むしろここで気になるのは
この自分の採点基準を表明しているか否か。
実際、
ドラフト採点に対してこうした批判が出た際に
「あくまで自分はこれこれこういう基準で
採点をしているから」と
述べていた人は私も何人か見ている。
その場合は
別に何もおかしな点はないはずで、
記事を読む側も
その点は最初から割り切れば済む話でもある。
一方で
そうした基準を何も表明していなかったり、
「各チームの評価を尊重している」と言いながら
各チームの選択をただ頭ごなしに否定しているとなると
問題と言えるだろう。

 

②巷の「1位指名候補」は何人いるのか

次に
識者の言う「1位指名候補」の数を考えよう。
現実のプロ野球のドラフトでは、
何らかの理由で指名権の剥奪でもなされない限り
1位指名は必ず12人になる。
しかし識者にとって、
「1位指名候補」の評価は
その年、各識者の感覚、候補選手のプロ志望の意思などで
毎年同じものにはならない。
しかもこの点を
その年の相対評価として
一番上から順に並べて12人を捻出するのではなく
自分の中での絶対評価で判断するため、
「1位指名候補」を12人そろえていないと思われるケースが
しばしば見られる。
こういう年だと
一部の識者の言う「正攻法」のとおりに
ひたすら一番人気を指名し続けても
運がないという理由で「1位候補」がいなくなってしまい、
残っていた「2位以下の候補」を1位指名した結果
ボロカスの採点をされてしまう理不尽が発生するのだ。
採点の有無はともかく
絶対評価によって「候補」の数と指名人数が合わなくなる例は
1位以外でも起こる。
たとえば
読んでいて気づいた人もいたかもしれないが
先述の『野球太郎』の候補者リスト。
上位候補マークのついた選手は17人で
3巡どころか2巡目の24人にも満たないのだ。

 

③1位指名選手は「上位12名」から選ばなければならないか

ところで1位指名選手
常に絶対評価が最も高い
指名候補リスト最上位の選手を
選ばなければならないのだろうか。
そうとは限らない。
たとえば
1チームの絶対評価が非常に高くても
他11チームの絶対評価が高くないとわかっている場合、
別のチームが指名しそうになるまであえて指名せず
他の有力候補を先に指名する。
このような
候補リスト最上位の選手を2位以下で指名すること*2
理論上は可能
である。
絶対評価相対評価との差を利用した戦術の一例だが、
実はこの考え方は
自分の絶対評価で判断しているはずの
ドラフト評論でもしばしば目にする。
2016年の大山悠輔入札などで見られた
「〇〇は△位でも獲れた」という批判がこれで、
全チームの相対評価
自分の絶対評価と同一視しているがゆえに
こうしたことが起こる。

この視点で昨年の楽天の指名を考えてみよう。

2021ドラフトウェーバー順

イーグルスの2位指名は2巡目では8番目、
全体では20番目にあたる。
そして最初に書いたように
吉野は概ね2巡の序盤から中盤の評価。
また昨年は
外野手と長打力を補強ポイントとしているチームが
いくつかあり、
実際のドラフトでも
大学生ではあるが
外野手のブライト、鵜飼に正木、
さらに内野手の有薗と、
長打力に定評のある選手が
イーグルスの2巡目指名の前に
次々に指名されている。
つまり
チーム内での絶対評価を無視して
巷の評価に沿った順番にしたとしても、
イーグルスにとって
吉野は1位じゃなければほぼ獲得できない選手だった。
もっと言えば、
吉野に限らず
楽天2巡目の前に指名された19人は
全て1位以外では獲得不可能な選手だった
のだ。
これは他のチームも同じで、
2巡ウェーバー順最後のバファローズにとっては
1位じゃなければ獲得できない選手が23人もいたことになる。

 

④今の指名で次の指名を見通す意識

動画の中で指摘されていた
ドラフト採点で見過ごされやすい点の一つに
「指名の連鎖」があった。
要は
全候補の中で比較的希少なタイプが指名されたことで
同じタイプや同じポジションの選手の希少性がより上昇し、
予想されていた順位よりも早く
次々と指名されていくことだ。

この現象は
吉野よりも安田の指名に大きく影響したと考えられる。
まず安田は
巷での評価はあまり高くなかったかもしれないが、
12球団から調査書が送られたという報道が
ドラフト前にもなされており、
プロ側の評価がかなり高い選手だったことは
我々一般人でも知ることができた。
加えて先ほども書いたように
2巡では長打力がうりの選手が次々と指名されていて、
「長打力の高い選手」への指名の連鎖が
既に発生していたのである。
この連鎖は
イーグルス自身が一端を担ったものでもあるので
ある意味自縄自縛と言えないこともないが、
「長打力の高い選手」の残りが少なくなっているなかで
各チームによる相対評価が高いことが判明している安田が
イーグルスの3巡以下まで残っている保証は
どこにもなかった
のはたしかなのだ。

 

「予期せぬ指名」の意味を考えること

今回の内容は
あくまで我々一般人でも推察できる範囲で
各チームの思考の一部を書いたものにすぎない。
ただこのように推察すること自体は
ドラフト指名を見る全ての人に必要なものだ。
イーグルスの動画の中だと
批判や苦言は
あくまでドラフト採点に対してのみ行われていたが、
現実には
2016年1位指名発表時の観客でも明らかなように、
指名の意図・思考などを考えず
ただチームを批判する点は
各チームのファンもかなりのものである。
またこれを書いている2022年のドラフトでは
前日までに9チームが
全て違う選手の1位入札を公言しており、
チームによっては
自分が好む選手に入札しない球団への批判も
かなり多くなっている。
しかし
こうした自分の思い通りにならない指名を
頭ごなしに批判する前に
相手の意図を考えること。
そして
入札制度とウェーバー制度の本質を知ること。
知ったうえで
あえて自分の絶対評価に基づいた採点をするのと
知ろうともせずに
ただ自分の絶対評価に従わない各球団を叩くのとは
全く意味が違うのだ。

*1:『野球太郎No.040 2021ドラフト直前大特集号』イマジニア株式会社ナックルボールスタジアム、2021年10月

*2:下の指名された選手の心情などはここでは無視するものとする