スポーツのあなぐら

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DeNAドラフトに要求されている「正攻法」とは

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今年の横浜DeNAのドラフトに対して、
一部のドラフト評論家から
「競合から逃げずに目玉選手を入札しろ『正攻法』のドラフトをしろ」
という批判が出ている。
中でも話題になったのは
西尾典文氏の「『正攻法』のドラフト」という表現だろう。
ベイスターズの指名は各ドラフト採点だと
人によってかなり差の激しい点数になっているが、
低く評価する人の理由は概ね
この「正攻法」からの「逃げ」を挙げている。

でもドラフトの「正攻法」とは何なのだろうか。

 

「正攻法」の定義

まずはドラフト評論における
「正攻法」の定義について考えていこう。
単純に考えると
一番評価の高い選手、一番人気の選手から順番に入札していくこと
となるが、これは少し違う。
正確にはその時点で
絶対評価が最も上の「巡目」に位置している選手を指名すること
だ。
つまり1位入札では
「1位入札候補」と認定された選手の中から誰かを指名する。
たとえば「その年一番良い選手を獲る」日本ハム
一番人気ではなかった斎藤佑樹や伊藤大海を入札しても
評価を下げられないのはこういう理由だ。
外れ1位は少し異なり、
より格上の「1位入札候補」がまだ残っていたらまずそちらを優先する。
「外れ1位候補」を入札するのはその後。
2016年の残り全球団佐々木千隼入札はその理想形にあたると思われる。
2位以降も流れは同じだ。
そしてドラフト後の「採点」では
全チームが
その評論家のつけた判定に基いて「正攻法」をとっているか
という視点のもとに点数が増減していく。
なお「全チームが自分の絶対評価に沿うべきだ」と考えているか
そのチームの絶対評価に沿った『正攻法』なら許されるか

人によって分かれるらしい
また評価基準が相対ではなく絶対評価なので
各巡目に12人の候補選手がいるとは限らない。
それゆえ
抽選を外し続け「外れ1位候補」がいなくなったために
問答無用で最低評価を下され、
「一番良い選手から逃げ続けた」と叩かれる理不尽もある。

 

DeNAは「正攻法」をとっていなかったか

ではベイスターズ
DeNAになってから
どの程度「正攻法」のドラフトをしていたのか、
どういうドラフトをすれば「正攻法」とされたのか
考えていこう。

 

2012年

1位入札:東浜巨(3球団、二番人気)
一番人気:藤浪晋太郎(4球団)
外れ1位:白崎浩之
2位:三嶋一輝


東浜は3球団競合の二番人気だったが、
当時の評価を考えれば
さすがに「逃げ」と言われることはないと思いたい。
その後白崎と三嶋はそれなりに評価されてはいたが、
投手なら佐藤峻一、川満寛弥、濱田達郎、
野手は高橋大樹北條史也、伏見寅威に比べると
ワンランク低かった。
体格やフォーム、志望届提出の経緯等で評価を下げられていた
小川泰弘、則本昂大と同じぐらいだったはず。

 

2013年

1位入札:松井裕樹(5球団、一番人気)
一番人気:松井(5球団)
外れ1位:柿田裕太(3球団)
2位:平田真吾


一番人気で地元の高校生松井を入札したので
1位入札は「正攻法」と認められるはず。
しかし外れ1位と2位はかなり怪しい。
外れで3球団競合の柿田は
当時外れ1位で競合しそうな評価をされておらず
外れ外れ1位以降の岩貞祐太、渡邉諒や
2位序盤で指名された浦野博司東明大貴から
4位指名の園部聡や上林誠知、梅野隆太郎まで
柿田より上と判定されうる選手はそこそこいた。
さらに平田はおそらく独自枠扱い。
3~5位の嶺井博希、三上朋也、関根大気で全体評価は持ち直したが
上位指名は「逃げ」評価と思われる。

 

2014年

1位入札:有原航平(4球団、一番人気)
一番人気:有原(4球団)
外れ1位:山﨑康晃(2球団)
2位:石田健大


有原入札から山﨑獲得に成功し
2位が外れ1位以上の評価だった石田。
3位以下でも識者評価の高かった倉本寿彦、福地元春と続いたため
全チーム最高かそれに準ずる評価をされていた。
もっともこの2、3年後には
セリーグは一番人気から逃げ続けるから抽選に当たらない」と
叩かれていたので、
有原の入札も山﨑の外れ1位入札も
広島、阪神ともども「正攻法」とみなされてないかもしれない。

 

2015年

1位入札:今永昇太(単独)
一番人気:高橋純平(3球団)
2位:熊原健人


全体の1位入札8人のうち「逃げ」と批判されそうなのは
桜井俊貴とむしろ競合した高山俊
今永入札が「正攻法」じゃないというなら
大半の選手は「逃げ」扱いになる。
その場合「正攻法」とされるのは
高橋、平沢大河に小笠原慎之介オコエ瑠偉の高校生4人か。
巷では外れ1位以上の指名候補と見られていた熊原は
たしかに識者の評価はそこまで高くなかったと記憶している。
だがこの時点で残っている熊原以外の選手だと
「正攻法」は茂木栄五郎ぐらいしか見当たらない。
2位熊原なら充分「正攻法」だと思うけどどうだろう。
そしてこの2年連続大学生投手の1・2位指名、
しかも山﨑、石田、今永が戦力になったことで
この後は大卒投手上位指名自体にマイナス点補正がつき始める。

 

2016年

1位入札:柳裕也(2球団、二番人気)
一番人気:田中正義(5球団)
外れ1位:佐々木千隼(5球団)→濱口遥大
2位:水野滉也


柳の絶対評価は「1位入札候補」だったと思うが、
入札した横浜は先述の大卒投手マイナス補正、
中日には落合GMのアンチ高校生*1マイナス補正で
評価を下げられてしまった印象がある。
この年の横浜ドラフトは
濱口の絶対評価が高かった評論家からも
最低クラスの採点をされてしまった。
同じ大卒投手でも右なら少しはましな点数にされたんだろうが…。
横浜が田中以外で「正攻法」とされるのは
高校生で柳と同じ地元枠の藤平尚真だろう。
そして楽天、ロッテに連敗したあとは
堀瑞輝、古谷優人、高橋昂也が高校生の上位指名になるが、
今度は左投手のマイナス補正がつきかねない。
残るは吉川尚輝、京田陽太の大卒ショートか
2位以内では1人も指名されなかった高校生野手か。

 

2017年

1位入札:東克樹(単独)
一番人気:清宮幸太郎(7球団)
2位:神里和毅


一番人気は清宮幸太郎だが、
中村奨成でも「正攻法」とは言われると思う。
事前の予想も多かった田嶋大樹は左投手なのでどうだったか。
一方、東の単独指名が「逃げ」評価ということは
東は最大で外れ1位候補の扱いだったことになる。
ここまでだと競合特攻以外は「逃げ」扱いにされそうだが
「正攻法」とみなされうる選手がもう一人だけいる。
安田尚憲だ。
宮崎敏郎の後継候補であり
どちらかを外野に回せば筒香嘉智の後継候補とも見れなくはないので、
東に行くぐらいなら安田に行けよと
考えた識者も多いのではないだろうか。
村上宗隆は巷では1位入札候補とまで評価されていなかったので
たぶん該当しない。
そしておそらく評論家のDeNA評価を決定づけたのが2位神里。
今でも「桑原将志や乙坂智、関根大気をつぶした」と激怒されていそうだ。
ただ2位以降で残っていた高卒内野手には
「正攻法」と認定される選手が見当たらない。
増田珠だと内野手指名なら後の結果を見た後付け設定だし、
外野なら神里指名での「外野手飽和」批判と矛盾する。

 

2018年

1位入札:小園海斗(4球団、一番人気)
一番人気:根尾昂、小園(4球団)
外れ1位:上茶谷大河(2球団)
2位:伊藤裕季也


実は2018年は扱いが難しい。
根尾と並んで一番人気の小園入札に
1位入札から外れ1位候補でもあった上茶谷なので
「正攻法」そのものじゃないかと思うだろうが、
この年も「正攻法」と見なされそうにない理由が3点ある。
まず小園の評価。
ドラフト直前に西尾、小関順二氏らによって行われた
Baseball kingの仮想ドラフトでは、
吉田輝星や甲斐野央、斎藤友貴哉が入札される一方で
小園は1位入札ではなく外れ1位指名だった。
つまり西尾氏の小園の評価が
1位入札候補ではなかったかもしれないのだ。
次に外れ1位。
ここは大卒投手マイナス補正が大きく影響してくる。
しかも吉田が残っていたのだからなおさらだ。
そして2位の伊藤裕。
いわゆるこの年の上位指名の「バランス」的にも
数年間のベイスターズ上位指名の「バランス」的にも、
1位が大学生なら2位は絶対に高校生と主張したいのではないか。
残っていた中で彼らの評価が高かったのは
渡邉勇太朗、石橋康太、柿木蓮

 

2019年

1位入札:森敬斗(単独)
一番人気:佐々木朗希(4球団)
2位:坂本裕哉

評論家からの憎悪を一身に浴びたこの年のベイスターズ
蔵建て男氏は7球団競合でもくじを引き当てられる
強運の持ち主なのかもしれないが、
現実のベイスターズには
大競合で少しでも見返りを得られるほどのくじ運がない。
あるいは特攻する精神を見せることが大事ということか、
数少ないくじ運を他球団へ分け与える自己犠牲が大事なのか。
「正攻法」と評価されるには
佐々木・奥川恭伸・石川昂弥・森下暢仁から
西純矢の競合を外した後に
残った大学生捕手が1位で武岡龍世が2位。
これ以外に選択肢はなかったようだ。
もう一つ叫ばれていた
筒香の後継者を獲らなかった」批判に関しては、
ドラフト指名された大卒・社会人に
該当する外野手が見当たらない。
ポジションを考えなければ勝俣翔貴や柳町達、
指名されなかった選手では中村健人や片山勢三。
もしくは1位井上広大か武岡を使えば育つなのか。

 

2020年

1位入札:入江大生(単独)
一番人気:佐藤輝明、早川隆久(4球団)
2位:牧秀悟


そして「いいかげん『正攻法』をしろ」と叩かれた2020年。
佐藤、早川と伊藤、髙橋宏斗は「正攻法」認定されるが
広島と競合になる栗林良吏は正直微妙なライン。
「正攻法」だと外れ1位は誰が競合してもおかしくないため、
外れでどの選手に行っても
11、12番目の指名を行う可能性があった。
牧の2位指名は
「他球団がミスをしただけの結果論」ととらえるか、
ベイスターズの読み勝ちととらえるか、
「2位は大学生じゃなく高校生獲れ」と批判したいのか、
このあたりは人によってまちまちだろう。

 

「正攻法」の裏側に見えるもの

「正攻法」のデメリット

「正攻法」の最大のデメリットは
「正攻法」の期待値が見た目よりはるかに低いことだ。
今年ベイスターズが早川に入札したとしても
交渉権を得られる確率はたったの20%。
獲得できた時の期待値は一番大きいかもしれないが、
「獲得できる確率」を追加した時点で
その期待値は大きく下がってしまう。
さらにベイスターズは非常にくじ運が悪い。
DeNAも最初の3年間はずっと「正攻法」をとってきたが
3回とも抽選を外した。
TBS、マルハへ遡っても3球団以上の1位抽選で勝ったのは
1984年の一度だけ。
外れ抽選を除くと現在14連敗中*2だ。
ベイスターズが特攻する場合は、
抽選をほぼ確実に外すことを前提にしたうえで
リスクとリターンを計算しなくてはならない。

 

「正攻法」の建前と本音

DeNAのドラフトで
外れ1位・2位を含めても「正攻法」とされるはずなのは
2014~15年。
指名された4人のうち3人が1年目から戦力になった。
上位指名の大卒投手といっても
これほど早く戦力になる選手が続出するのは
そうそうあることではない。
大成功と言っていいだろう。
しかしこの大成功がドラフト評論にもたらしたのは
DeNAに対する「将来を見ない近視眼的なフロント」のレッテルだった。
長年投手のやりくりに大苦戦する暗黒期だったチームが
最低でも年間6人は必要になる先発ローテと
これまた多数の投手が必要になるリリーフ投手のうち
先発2人とクローザー1人を獲得したにすぎないのに、
まだまだ薄い投手層を1人分厚くしようとするだけで
散々な叩かれ方をしているのだ。
しかもくじ運の悪さにもめげず
「正攻法」で選手を獲り続けた結果がこの仕打ちでは、
いくら採点を上げるためにドラフト指名をしているわけじゃなくても
やってられない話だろう。

もう一つ問題になるのは
最初の方に書いた 「全チームが自分の絶対評価に沿うべき」なのか
「そのチームの絶対評価に沿った『正攻法』なら許される」のか。
この命題に対し
西尾氏は一見後者の意見であるようなツイートをしておられる。
ところが最初に出した記事では
「こうした方針が今年だけでなく、
これまで毎年繰り返されている(略)
『その年の一番良い選手を狙う』という正攻法の姿勢も見せてもらいたい」
と書かれている。
これだと「毎年」逃げていることになるのだから
わずか2年前の小園→上茶谷の指名も
「正攻法」ではないと明言しているわけで、
「早川、伊藤よりも入江が上、と判断していたなら」と矛盾する。
大競合の抽選を外すリスクを負ってでも獲りに行った
ベイスターズを含む4チームの小園の絶対評価
認めていないことになるのだ。

 

以上のように、
ドラフトの「正攻法」は
一見もっともらしく思える建前がある一方で
感情、本音からくる制約がそこかしこに存在する代物になっている。
もっともこれらの制約に関して言えば
それぞれの評論家がその本音を隠さずに語るか、
あるいは自分自身でも気づいていなかった感情を悟るかすれば
済む話ではある。
ドラフト採点などにとかく矛盾が生じることが多いのは
これらの本音を隠したままで語っているからに他ならない。

最後にこれだけは提案しておこう。
「成功する確率の最も高い選手」を獲りに行くことを
「正攻法」と言うのであれば、
「成功する確率」の中に「獲得する確率」も盛り込んでほしい
12球団のチームが獲得しようとアメリカへ渡ろうと関係ない
野球ファンや評論家と違い、
「成功する確率の最も高い選手」を獲得できるのは
全ての野球チームの中でたった一つしかない。
完全ウェーバーの一番最初に指名できるなら話は変わるが、
100%獲得できないのであれば
ドラフト指名権を得る確率が下がれば下がるほど
その選手に対する
チームとしての期待値は下がってしまうのだ。
現在言われている「正攻法」は
それらの期待値もすべて無視し
ドラフト評論家の選手評価に基づいて
やみくもに抽選へ特攻することとほぼ同義になっている。
しかし
低確率ながらも「一番良い選手」を獲得できたときの期待値と
高確率で抽選を外した後に
外れ1位で各チームが入札している中でも獲れる選手の期待値とを
合計した期待値に対して、
単独指名で100%獲れる選手の期待値が上回るのであれば、
むしろ単独指名狙いのほうが
「正攻法」とされてしかるべきではないのか。
単なるアマチュア野球の評論家ならともかく
ドラフト後の各チームの採点をしている以上は
「その選手を獲得できる確率」も頭に入れる必要があろう。

*1:ただし落合監督GM時代の1位指名は2年に1回必ず高校生

*2:マルハ5連敗(計1勝10敗)、TBS5連敗、DeNA4連敗