スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

ドラフトの「真の『正攻法』」を考えよう

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今回は
昨年何度かとりあげたドラフトの「」について、
本来あるべき?1位入札の「真の正攻法」を考えてみよう。

 

 

期待値100の期待値は100か?

先日twitterにこんな問題を載せてみた。
ここにも掲載しておく。

 「期待値100」がちょっとわかりづらいと思うが、
ここでの「期待値」はあくまで仮定。
その選手の成功率に
成功した際に見込まれる生涯WARをかけたもの、
そんな感じで解釈してもらえれば充分だ。

答えは
「正解はないが100になる確率は非常に低い」である。
たしかにこの選手自身の期待値は100だ。
しかし
プロ志望届の提出期限を迎えた時点で
この選手の期待値は100ではなくなる

1位競合が確実な一番人気ならば
非常に高確率で抽選になるからだ。
競合数に応じて「この選手を獲れる確率」は減るのだから
期待値が100ではありえなくなるのである。
一昔前のように自由競争の制度が適用されたり
逆指名前や2008年以降にも何人かに見られたような
希望球団*1以外の入団拒否を打ちだしている場合は
該当する希望球団にとっては期待値100になるし、
プロ志望届を提出しなかった場合は
その後プロ入りするかどうかはまだわからないのだから
プロ入り解禁年になるまで期待値は0になる。
そして
この選手の交渉権獲得球団が決まり
そのチームが正式に契約を結んだ瞬間、
この選手の期待値は再び100に戻るのだ。
理論的な話でちょっと複雑かもしれないが
ここまではおわかりいただけるだろうか。

 

特攻か回避か

ではある年のドラフトで
期待値100の一番人気A、
期待値90の二番人気B、
期待値80の三番人気C、
期待値70の四番人気Dがいたとしよう。
五番手から十二番手まではここでは簡略化し、
8人の平均が62としておこうか。
この8人の個別の期待値は
70以下であれば何でもいい。

お題

さてこの1位入札において
AどころかBとCも避け
Dを単独指名したチームは、
ドラフト後の採点で「逃げた」と必ず袋叩きにされる。
「逃げた」と叩かれるからには
Dを単独指名したチームは
「逃げたせいで大損をした」と評価されているはずである。
え、まさかドラフトの専門家ともあろう人たちが
得をしてるのに「勇気がない」だのと低評価してる
なんてことはないよね?

 

単独指名のメリット

実際に計算してみるとどうなるか。

期待値62

左は全チームが競合した場合。
これだと
Aに5球団、Bに4球団、Cに3球団競合なら
Cを入札したチームが若干損な選択をしたことになり、
それぞれ6、4、2なら
C入札の2チームが得な選択をした計算になる。
ところが右のように
12球団のうちどこか1球団が抜け駆けをしてDを単独指名した場合、
競合に特攻したチームの期待値は
全チーム競合よりも下がることになる。
外れ指名でDを獲れる可能性が0になったからだ。
この場合は
それぞれの競合の期待値が下がる代わりに
Dに抜け駆けしたチームと
抜け駆けによって競合数が1つ減った競合が
得をする
形になる。
つまりこのケースで競合を回避し
Dを単独指名するメリットは

  • 単独指名したDを確実に獲れる
  • Dを単独指名したことで競合している他チームの期待値を下げる

この2つになる。

 

特攻を公言するメリット

逆に一番人気指名を明言するメリットは何か。
それは
まだ入札選手を決めていないチームに
理性的な選択をさせるため
である。
なにせ大量のチームが競合して
一番人気の期待値は大きく下がってしまうと
二番人気や三番人気に抜け駆けをしたチームが得
をし、
特攻したチームのほとんど*2は共倒れになるだけなのだ。
そこで一番人気入札を明言することで
少しでも競合数を減らし
他チームには
一番人気競合とほぼ同じ期待値になる他の競合か単独指名
狙わせる。
もちろん明言そのものは
あくまで自分のチームのためのものなのだが、
このように考えるとある意味では
他チームにとってもwin-winととれなくもない。

 

ドラフト採点の「正攻法」と現実の「正攻法」

ドラフト採点の「正攻法」の前提条件

ドラフト採点における
1位入札の「正攻法」を書いていくとこうなる。

  • 1位入札は絶対評価で「1位入札候補」と認定された選手を指名する
  • 選手の絶対評価は採点をした評論家の評価に基づく
  • 「本来あるべき『正攻法』」は最高評価の選手に全チームが入札し、次に次点評価の選手へ残る11チームが入札…、これが全1位入札確定まで計12回繰り返すこと
  • 最高評価の選手を指名しなくても各チームの絶対評価や補強ポイントに沿っていれば許されるかは評論家の感情で決まる

今回「正攻法」を考えていくうえで判明したのは三番目。
評論家による採点では
「一番確率の高い選手に向かう*3のが『正攻法』」とされているが、
その「一番成功する確率の高い選手」は
ほとんどの場合抽選になるので
実際に獲得できる確率はかなり低い。
この「獲得できる確率」を考慮すると、
先ほどだした例のように
競合数次第では
二番手どころか四番手以降の選手よりも
ドラフト前の期待値が下がることすらあるのだ。
二番人気以降の選手への抜け駆けが
一番人気への特攻よりも有利な選択にならないようにするには

  • 1巡ウェーバー制かつ補強ポイントも合致した全体1位指名である
  • 逆指名等の自由競争で既に獲得チームが決まっている
  • 全チームが採点をした評論家の順位通りに入札をする

このどれかの条件でしか成立しない。
完全ウェーバー制はまだ実現はしておらず
こうした評論家は逆指名には反対しているのだから
残る「正攻法」は三番目ということになる。

本当にあるべき「正攻法」の姿とは

まず確認しないといけないことがある。
今回はわかりやすい数字に基づいた
非常に簡略化した例を出したけれども、
実際の入札*4では
完全な数値化の難しい*5多数のドラフト候補を用いた
はるかに複雑なメタゲームが行われていることだ。
「正攻法」とは
この駆け引きの中で最大の期待値を選択すること
である。
たとえ四番手、五番手以下の選手を単独指名したとしても
期待値が適切であればそれは「正攻法」なのだ。

ここで一番人気の突出度以上に大事なのは
抽選を外した後。
外れ1位以降で指名可能な選手の実力だ。
今回5~12番目の平均期待値を
中途半端な62に設定したのは理由がある。

期待値60、65

左が60、右は65に設定した場合だ。
右のようにDとそれ以下との差が小さい場合は
Aに5、Bに4、Cに3の
全球団競合が最適解となり
Dに抜け駆けをしても最も損な選択になる。
逆に左の場合は
全球団競合だと全チームが損な選択をしたことになり、
どこか1チームが抜け駆けでDを単独指名すると
競合数が1チーム減った入札と
Dを単独指名したチームが得をする。
1位入札を決める際にも
外れ1位以降がいかに重要か
がわかるだろう。

もう一つ大切なのは
選手の絶対評価と補強ポイントが各チーム異なる
ことだ。
たとえばDにあたる選手を
他のチームよりも期待値を高く見積もっていて
外れ1位では指名される可能性が高いと判断すれば、
他者からは「なんでDを単独指名?」と思われても
そのチームにとっては「正攻法」になる。
もしその選手が
2位以下の自分たちの順までほぼ確実に残る場合は
たとえ非常に高い期待値を見積もっていたとしても
1位以内では入札しない、
これも立派な「正攻法」だ。
逆に一番人気へ特攻しても
競合数が過剰に多く
期待値が二番手以降の競合や単独指名より劣ってしまった場合、
これは「正攻法」と言えるだろうか。
精神的には「正攻法」と思えるのかもしれないが
戦略、戦術としては失敗の部類
であり、
「正攻法」と呼ぶのは無理があるだろう。
まあある意味では「特攻」の名称に忠実*6とも言えなくはないが…。

 

ドラフト1位入札における「正攻法」とは
入札の期待値を最大に高めること。
これだけだとドラフト採点と何も違いはないが、
これまでに挙げてきた内容を踏まえると
最大の期待値とは実に多種多様だ。
自チームによる絶対評価、戦略以外に
他11チームの絶対評価すなわち相対評価
非常に大きな役割を担う。
そして競合という制度がある以上、
一番人気競合と何番手かの単独指名には
驚くほど差がない。
むしろ「正攻法」にならないのは
戦略や計算もなく精神的な理由だけで
一番人気へ無謀な特攻をしたり、
過剰に低い評価の選手の指名に走ったときぐらい
のものなのだ。
一番人気への特攻だけが「正攻法」ではない。
どのみち
ドラフト採点での「正攻法」をし続けたとしても
抽選を外し続ければ、
誰も褒めてくれないどころか
現在の巨人、2018年までの阪神、2012年までのオリックスなどのように
「抽選から逃げ続けるから一番人気がいない」と
「正攻法」を主張する人たちから真っ先に叩かれるのが
オチなのだから。

*1:MLBも含む

*2:つまり抽選を外したチーム

*3:そのわりに「一番確率の高い=高校生、中でも育てるのは大変だがロマンあふれる超素材型」になる人が非常に多いのも奇妙な話だが

*4:ネット上などの仮想ドラフト、模擬ドラフトでも同様。会議倶楽部やBaseball kingでどうなのかはわからないが

*5:ただし現在の各チームフロントでは映像解析等を用いてできるだけ主観を排除した数値化がなされている可能性もある

*6:むしろバンザイ突撃や(比喩的な意味での)ヘルシップのほうが近いか?