スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

クローザーに新外国人が起用されるのはなぜ?

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クローザー候補に求められる経験

2022年のタイガースは
前年クローザーを務めていたスアレスがチームを去り、
新外国人のケラーをクローザーとした。
しかしこのケラーが2試合連続で打ち込まれてしまい
急遽クローザーを湯浅京己に変更する事態に。
そのうえ
この新クローザーが登板する機会を得られないまま
連敗を重ねる結果となっている。

ところで
そもそもケラーは
なぜクローザーを期待されたのだろうか。
ケラーのように
クローザーを期待されて来日する外国人選手とは
いったいどういう選手なのか。
過去約10年のクローザー候補を
来日前のクローザー経験から見てみよう。

 

外国人選手の場合

PL外国人クローザー

ライオンズ2018年のヒースは
カープを離れた後に
メキシカンリーグでクローザーとして活躍していた。
ラズナーと宋家豪は
楽天入団後に初めてクローザーを任され、
日本でも先発でずっと活躍していたディクソンは
さすがにリリーフ経験そのものが乏しい。
だが全体的には、
日本でクローザーを期待される外国人選手は
マイナーリーグ、それもAAAでのクローザーの経験があるか、
ここには出さなかったサファテなどのように
既に日本で実績を積んでいるかの
どちらかが大半になっている。
近年ケラーと同じく散々な結果となったコーディエも
例外ではない。

By,D,C外国人クローザー

続いてセリーグはまず3チーム分。
やはりクローザー経験のある選手が多いが、
フランスア
二軍でも経験がなかった。

G,S外国人クローザー

ジャイアンツとスワローズは
外国人選手をクローザーに使うことが多いようだ。
来日前にクローザー経験がないのは
バーネットだけとなっている。
ただしマシソンやオンドルセクなどのように
既に一軍のリリーフとして信頼を得てから
クローザーを任された選手も少なくない。

T外国人クローザー

今回問題のタイガース。
こちらもクローザー経験者ばかりで
呉昇桓にいたっては
KBOでのデビュー当初からずっとクローザーだ。
スアレスはホークス入団前の成績。
そしてケラーも
やはり2019年にクローザーを担ったことがある。
2019年だけなので
この間に衰えてきたのか、
来日時期の関係で調整不足過ぎたか、
といった可能性も十分考えられるが
開幕当初は打たれてしまった。

 

日本人選手の二軍時代

ここまでの外国人選手のデータを見て
たいていの人がこう思っただろう。
「やっぱり日本人の抑えをしっかり育てないといけない。
だから阪神と巨人はだめなんだ」と。
しかし
そう簡単に事は運ばない。
なぜなら
日本人のクローザーの大半は
二軍でのクローザー経験がない

それまでに抑えを担ったことのある選手が
一軍のクローザーに起用されることが
なぜか極端に少ないのである。

L,F,H日本人クローザー

最初はパリーグの3チーム。
二軍でセーブをあげた選手自体が少ないうえに
セーブ数も登板数に対して明らかに少ない。

E,M,Bs日本人クローザー

こちらは
森原と内にクローザー経験がある。
しかし
故障続きであまり活躍できなかったとはいえ
投げられるときは好投していた内はともかく、
森原はクローザーを任された年に
調子が悪くなり
結局定着はできなかった。

By,D,C日本人クローザー

ドラゴンズは
岩瀬の存在があまりにも大きかったためか、
ここ10年間でかなりの数の選手が試されている。
だが二軍でのクローザー経験をもつのは
既に2年間の一軍実績があった祖父江と
一軍でセーブをあげる前に
何試合か二軍でもセーブをあげていた佐藤ぐらい。
この中では
浅尾、今村、中崎も
初めてセーブを記録したのは一軍だ。

G,S,T日本人クローザー

そして残る3チーム。
やはり中継ぎや先発からの配置転換が多く、
大勢、石山、秋吉、福原のように
1年目の一軍が初セーブという選手も多い。
ケラーの代わりに使われる予定の湯浅は
日本の中では
二軍でのセーブ数がかなり多い選手にあたる。

二軍以外で
抑え経験を得る方法としては
マチュアでの登板も考えられる。
しかし
マチュア時代に抑えを務めていた選手は
ドラフト指名されることも
大石や増田、美馬学などごく一部に限られているうえに、
1回あたりの連戦の数が少ない大学、社会人の抑え投手は
1イニング限定の起用になることがあまりない。
独立リーグなら抑えはほぼ1イニング限定で
これまでにもドラフト指名された選手は少なくないが、
多少なりとも一軍戦力になったと言えるのは
金無英、三ツ間卓也ぐらいしかおらず、
現役選手でも
渡邉雄大、戸田懐生、石森大誠など
その数は限られている。
湯浅はBCリーグでは先発だった。

 

クローザー抜擢とドラフト指名順位

たまにだがもう一つ指摘されるのは
ドラフト1位指名選手のクローザーが多いことだ。

1 20
自由・希望 2
2 10
3 6
4 5
5 4
6 3
7 1
育成 2
53

2001~07年の3巡以下は
すべて順位を1ずつ繰り上げている。
今回名前を挙げた日本人選手の指名順位を見ると
たしかにドラフト1位が多く、
自由枠、希望枠を含めたドラフト1位指名は
41.5%に達している。
ただ
日本のドラフト上位指名はそもそも投手が多く、
より即戦力に近い選手が
より上の巡目で指名されやすいはずなので
成功率も高くなる。
これらの要素によって生じる
指名順位別の
投手の成功者そのものの比率と
このクローザーの比率に
大きな差がない場合、
「ドラフト1位だからクローザーになりやすい」とは
言えない点に注意したい。

 

日本がおかしい…のか?

ここまで見たように、
日本のプロ野球
阪神や巨人に限らず
「二軍でクローザーを育成する」意識が乏しい。
一方で
クローザーを期待されて日本に来る外国人選手は
クローザー経験者が多い。
では
日本の育成がおかしいのだろうか。

「日本のクローザー育成がおかしい」
というのであれば
MLBも見ておく必要があるだろう。
2021年に20セーブ以上を記録した
19人の投手を見てみよう。

MLBクローザー

MLB
1年間マイナーでクローザーを経験した選手が少ないが、
いくらかのセーブを記録した選手は70%弱いる。
この数字を見ると、
「やっぱり日本は抑えを育てようとしなさすぎだ」
そう思う人も少なくないかと思う。

しかし表には書ききれなかったが
日米に共通する点もいくつかある。
まずMLBのクローザーにも
マイナーでクローザーを2年以上務めた選手がいないこと。
来日する外国人選手と同じく
クローザーを経験するのは
数多いマイナーリーグの中でAAAが多いこと。
そして
しばらくリリーフで実績と信頼を得た選手が
クローザーを任されるケースが多いことだ。
数は少ないが
ずっと先発で活躍していたベテランが
クローザーに起用されるケースも
日米ともにある。

逆にMLBにはあまりない日本のパターンは

  • 先発で育成された若手が一軍で初めて配置転換される
  • プロ入り1年目から一軍リリーフで戦力になる

この2つぐらいしかない。
だが前者は
一軍でもいくらか先発で使われ続けてからの配置転換なので
一・二軍でのリリーフ経験自体が少なく、
後者は
不調の際に二軍で再調整するなどの場合も
一軍の役割が中継ぎなため
二軍でも中継ぎで使われる。
どちらも
二軍でのクローザー経験を得づらいのだ。
この違いが
日本人選手と外国人選手の
二軍、マイナーでのクローザー経験の差に
直結していると考えるべきではないだろうか。

 

タイガースは何がまずかったのか

では今年のタイガースの
失敗の原因は何だったのだろうか。
ここまで見てきたように
「外国人選手を安易に起用した」という批判は
正しいようで正しくない。
「日本人の抑えを育成しなかった」も
やはり正しくはない。
正しい批判と言えそうなのは
「来日後のケラーを見切り発車でクローザーに決めた」
ことぐらいだろう。
たしかにケラーの開幕クローザー決定は
調整具合をあまり見ることのない拙速なもので、
同じ新外国人のウィルカーソンが
二軍で調整中なのとは対照的だった。

だが日米のクローザー起用も踏まえたうえで
考えるべき本当の問題点は
なぜケラーをクローザーにせざるを得なかったか、
すなわち
実績と信頼を得られるリリーフが少ないことであり
リリーフの育成そのものがうまくいってないことである。
昨年の補強ポイントでも書いたことだが、
タイガースは
2021年の時点でリリーフの人数が全く足りていない。
近年のドラフトでは
投手指名と育成が称賛されていたが
実際の投手の指名、育成と維持には大きな問題を抱えていた。
加えて開幕前にも
故障者・不調者が続出したことで
ケラー以外のクローザー候補が枯渇してしまった。
これが真相であろう。
「外国人選手を使おうという浅はかな抑え投手起用の問題」
「監督が退任を発表したから」などと
安易な見方をしてしまうと
本質を見落とす。