スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

高卒投手の育成が上手いチームはどこか

スポンサーリンク

 

緒言

先日twitterで、
「高校生投手の育成が上手いチームはどこか」
という話題を見かけた。
なんでも
「佐々木朗希はロッテでは育てられない」
と揶揄する向きが今も絶えないらしい。

ただその時見た内容の基準がかなりあいまいだったので、
せめてデータを出しながら考えてみようと思い立った次第。
今回は2004~15年*1までのドラフト指名選手を対象に、
各チームの高卒投手がどの程度戦力になったのか見てみよう。
また「育成」の時期がどうしても前後するので、
2002~03年と2016年以降の指名選手のうち
戦力になった選手も同時に載せておく。
戦力の基準はいつもの通り
1年に先発10試合以上または20試合以上登板。
そして大見得を切っているのに、
最後の「判定」基準はガバガバである。
というか2004年の4巡指名を4位以下枠にしたり、
分離の高校生3巡を上位扱いにしてる時点で
さらにガバガバだ。
だめじゃん。

 

各チームの判定

埼玉西武

f:id:Ltfrankc:20200211013210j:plain

 

支配下指名 14
育成指名 0
1位指名 5
2・3位指名 3
抽選外れ 1(増渕竜義
判定 B-

1位指名に限って言えば涌井、菊池がエースに成長。
高橋と今井が今後彼らに続く可能性はある。
ただし2位以下で長く戦力になったのは今のところ武隈だけ。
田中はロッテに移ってから3年目にあたる
13、14年目にようやく花開いた。
2位以下の育成ができてない点ではB-、
この弱点も鑑みて1位以外の高卒投手を
あまり多く指名してない点ではB判定といったところか。

 

福岡ソフトバンク

f:id:Ltfrankc:20200211013146j:plain

 

支配下指名 20
育成指名 11
1位指名 4
2・3位指名 8
抽選外れ 2(大嶺祐太松井裕樹
判定 B-

大成功の選手は先発に千賀と武田、
リリーフに岩嵜がいる。
高橋純平も今後が期待できるし
「育成の星」が山ほどいるから、
ほとんどの人はAかせいぜいA-だと思っているだろう。
しかし現実はこれだけ大量指名しているのに
成功者数は他と大して変わっていない。
1位以外の支配下指名が全滅。
特に2008~11年は評論家の評価が非常に高い素材を
かなり重点的に集めていてこの結果である。
「育成の星」も実際に戦力になった高卒投手は千賀だけで、
よく名前のあがる長谷川宙輝や尾形崇斗は
一軍どころか二軍でもまだ活躍していない段階。
前にも書いたようにチームはとっくに現実を見て対策している。
いいかげん巷も現実を知ろう。

 

東北楽天

f:id:Ltfrankc:20200211013114j:plain

 

支配下指名 14
育成指名 1
1位指名 6
2・3位指名 4
抽選外れ 2(佐藤由規菊池雄星
判定 B

高卒投手の抽選運がそこそこ良く、
5人もの投手を引き当てている。
上の2人に佐々木朗希と
なぜか東北の選手だけ当たらないのが困りものだが。
現状先発主体の選手では田中と辛島が成功し、
片山と松井はリリーフで台頭した。
先発転向の松井が今後どうなるか。
難点は大成した選手以外のほとんどが
戦力になっても1年程度にとどまっていること。
今後伸ばしそうな選手が
別チームに何人かいるのも少しマイナスポイントか。

 

千葉ロッテ

f:id:Ltfrankc:20200211013040j:plain

 

支配下指名 14
育成指名 5
1位指名 3
2・3位指名 6
抽選外れ 1(藤浪晋太郎
判定 B

2009~12年まで高卒投手の獲得がなかったり、
2003~2007年まで高卒投手を大量指名していたりと、
しばらく極端な時代が続いていたロッテ。
成瀬や内、唐川が出てきたのだから、
あるいは最近二木、岩下、種市が出てきたのだから
もっと高卒投手ばかり獲るべきだと考える人は多いが、
調子に乗って大量指名すると
2005~08年のように失敗続きの危険性もある。
ただ最初に書いたような
「佐々木を育てられない」理由は
これを見る限り全く見つけることができない。

 

北海道日本ハム

f:id:Ltfrankc:20200211013651j:plain

 

支配下指名 16
育成指名 0
1位指名 4
2・3位指名 3
抽選外れ 5(田中将大菊池雄星松井裕樹高橋純平、小笠原慎之介
判定 B

常に高卒天国と思われがちなこのチームも実は極端。
ダルビッシュや鎌倉、須永英輝などがいた頃に
高卒投手を大量指名したが失敗し、
2010年以降しばらくはほとんど指名しない時代があった。
もっともこれは
高校生投手にだけくじ運が異常に悪くなるのが一因だが。
ここで上沢と石川が台頭したものの、
今後2位以下で戦力になる選手が出てくるかどうか。
総合的には下手でもないが上手くもないと言ったところか。

 

オリックス

f:id:Ltfrankc:20200211012837j:plain

 

支配下指名 13
育成指名 0
1位指名 2
2・3位指名 4
抽選外れ 3(辻内崇伸田中将大藤浪晋太郎
判定 B-~B

これまで高卒投手の育成がボロボロの状態だったが、
最近になって山本、榊原が台頭し始めている。
育成が上手くなっている、下手だった、と考えるよりは
「自分たちが育成できる選手」を見つけられるようになった、
と考えるほうが自然かもしれない。
今まで好んで獲ってきたのが
1位(1巡)の2人に代表される
速球派の素材偏重だったため、
この志向から西のような選手へ
脱却できてきたと考えるべきなように思える。

 

読売

f:id:Ltfrankc:20200211012758j:plain

 

支配下指名 16
育成指名 7
1位指名 2
2・3位指名 8
抽選外れ 1(佐藤由規
判定 B

育成指名を多用しているホークスと似たところがあり、
大量指名している分
全く戦力にならない選手の数も多くなっている。
2~3位指名がやたら多いのも似ている。
ソフトバンクに比べると
少し戦力になった選手の数は上回っているが、
長期的に活躍する爆発力では劣っている、といったところか。
ここでは数の多さを優先して少し高めの評価にしている。
しかしここまで「0とそれなり」の両極端に分かれるとは。
「それなり」に100が少ないのも通説とは大きく食い違う。

 

横浜

f:id:Ltfrankc:20200211012737j:plain

 

  TBS DeNA
支配下指名 12 2
育成指名 2 2
1位指名 4 0
2・3位指名 2 0
抽選外れ 3(田中将大佐藤由規松本竜也 1(松井裕樹
判定 B- B-

TBSもDeNAも評価が難しい。
TBSは数を撃って外し続けているのでCでもおかしくないんだが、
今回の範囲だと山口が大成したため
一応B-判定とした。
90年代後半から2000年代前半の高卒投手大失敗は
マルハドラフトなのでこれもTBSだけの責任とは言えない。
一方、DeNAになってからは
毎年のように高卒投手を指名しているものの、
ほぼ1人ずつしか獲っていないため
単純に総指名数が少なく、
「5年以上」の成功者を出すには期間が短すぎる。
評価保留の意味も含めてのB-。

 

阪神

f:id:Ltfrankc:20200211012629j:plain

 

支配下指名 14
育成指名 1
1位指名 2
2・3位指名 3
抽選外れ 1(菊池雄星
判定 B-

阪神は高卒投手の指名が多くなかったが、
このチームも獲る時期と獲らない時期にはっきり分かれていた。
2006~07年は高校生ドラフトで野手重視になっていたのが一因。
2年間の高校生1巡は入札、外れ入札が4人全員野手だった。
そうかと思うと、秋山が1年目に少し出てきて欲が出たのか
2011年にかけて大量指名していたり。
判定のほうは
藤浪が即戦力だった一方で秋山がずっと伸び悩んだのと、
最近もてはやされている望月、才木、浜地が
ロッテやオリックスと比べてしまうと明らかに弱いのでB-。
藤浪と松田、
あと長い時間をかけた秋山と島本の存在もあるので
Cにはできなかった。

 

広島東洋

f:id:Ltfrankc:20200211012559j:plain

 

支配下指名 17
育成指名 4
1位指名 3
2・3位指名 6
抽選外れ 3(片山博視唐川侑己森雄大
判定 B-

戦力になった選手も多く
大成した超大物もいるのにB-判定にしたのは、
指名数の多さと大物3人以外の出来が
まだいま一つと感じたから。
B+以上は無理だが「Bにしろ」の異論は認めてもいい。
最近戦力になったアドゥワと遠藤も
まだまだ実力が物足りない中で
戦力不足も相まって台頭したので、
ここからさらに伸びていくのか、
それとも尻すぼみで終わるのかの見極めが必要になる。

 

中日

f:id:Ltfrankc:20200211012443j:plain

 

支配下指名 17
育成指名 3
1位指名 4
2・3位指名 6
抽選外れ 5(佐藤由規岩嵜翔菊池雄星松井裕樹高橋純平)
判定 B-

「高校生嫌い」と散々叩かれていた時代にも
高卒投手を大量指名していた中日。
C判定にするかずいぶん迷った。
ただ今の中日ファンや高卒至上主義者には、
この時代までの中日の育成は既に過去のものと考えるか、
高校生を大量に獲らなかったから弱くなったと考えて、
現在の小笠原、藤嶋や
清水達也、山本拓実、石川翔らに過剰な期待をしつつ、
「これから『は』高校生を大量指名しろ」
と主張する人たちが少なくない。
だがこのぐらいの失敗は普通に起こりうることで、
決して特殊な状況ではない。
時期をほんの少しさかのぼれば高橋聡文朝倉健太もいるしな。
その意味も込めてB-とさせてもらった。

 

東京ヤクルト

f:id:Ltfrankc:20200211012423j:plain

 

支配下指名 14
育成指名 0
1位指名 4
2・3位指名 4
抽選外れ 3(菊池雄星藤浪晋太郎、安樂智大)
判定 B-

2000年代に高卒投手の1位抽選を当て続けたかと思えば、
2009年からは立て続けに高卒投手の抽選を外していった。
戦力として長続きする選手も少なく、
お世辞にも育成が上手いとは言えない。
ただスワローズを見ていると、
高卒投手の育成に必要な要素について考えさせられる。
必要なものの一つ、それは
大社出身の即戦力投手、FA、外国人じゃないのか。
要は戦力が充実している中で
伸びてきた高卒投手を無理させず壊さずに使える環境だ。
他のチームでもこういったケースは少なくなかったが、
ヤクルトの場合は
早くに抜擢されたことで
成長が止まるか故障に泣いて終わった選手が特に目立つため、
この実態がより鮮明に見える形になっている。

 

高卒投手の育成が上手い・下手なチーム

「育成が上手い」チームはない

ここまで判定した感想を書くと、
B+判定を出せないとは思わなかった。
もともとB+~Cの間で判定できるだろうと考えて
このネタを作っていった
のだが、
B+はつけられると思っていたロッテも
2000年代中盤の指名数が多すぎ、
やはり確率の関係でB+にはいたらなかった。

その結果、まさかの全チームBかB-。
どのチームも実際の成功者数はかなり限定的だ。
これでは育成が上手いチームを見出すのは難しいし、
逆に下手なチームを断定するのもまた難しい。
12球団の高卒投手育成力の差は
我々が思っているよりも微々たるものにすぎないようだ。

 

分母を増やしても成功数は増えない

今回の内容で見えてくるのは、
高卒投手の指名数と成功者数が全く比例しないことだ。
たしかに高卒投手を1人も獲らなければ高卒投手の成功者は出ないが、
指名数を増やしても成功者はほとんど増えず、
分母だけが増えて確率が下がる事態になっている。
特に高卒至上主義の評論家は
指名が少ないチームに対して
「高卒を増やせば確率が高いからもっと大成する」と批判するのだが、
指名(分母)が少ないから確率が上がることに
気づいてないだけの全くのでたらめだとわかる。

また今回の範囲での高卒投手獲得数は

  支配下 育成 抽選外し
91 17 14
92 19 17

ほぼ拮抗しているが
どれをとってもセの数がわずかに上回った。
「パリーグが優勢なのは高卒投手の指名が多いから」
これまた全くのでたらめとわかる。

 

育成で忘れられやすい要件

高卒投手のドラフト指名については
これまでにも持論を書いたことがあった。
基本的には2、3年以内には使える即戦力、
実戦の中で高い実力を持っている選手を獲ること。
次にヤクルトのところにも書いたが、
高校生以外の即戦力もしっかり獲って
チーム全体の投手陣を強くしておくこと。
特に注意しないといけないのが
「有望株の登場で自信を持って大量指名し大失敗する」パターン。
このパターンにはまる時は
大社の即戦力が失敗した中で高卒が台頭する
だから大社指名を減らして高校生をやたら増やすこともしばしばだ。
こう書くと
自称「バランス重視」の高卒至上主義と一見同じ主張になるが、
彼らが獲れと言う申し訳程度の大社投手数では
はっきり言ってぬるすぎる。
高卒投手は成功率よりも
成功者数そのもののほうが非常に限られているのだ。

そしてもう一つ重要な要素とは何か。
それは運。
即戦力が大成するということは、
誰もが育てられる選手を抽選で獲れるかどうかも
重要な要素の一つになる。
つまりくじ運が必要なのだ。
さらに言えば、成長や故障自体にも運の要素は少なくない。
「人事を尽くして天命を待つ」じゃないが、
何年も活躍する選手が出るかどうかの差は
最終的には運の差でもあると言えるのではなかろうか。

*1:楽天のドラフト1年目