スポーツのあなぐら

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ドラフトで「暗黒期」「黄金期」を作る方法

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このブログではこれまで、
「暗黒期」あるいは「黄金期」と言われることが多いチームが
「暗黒期」「黄金期」突入前の約10年間に
どのようなドラフトをしてきたか見てきた。
今回はここまでの内容で判明した
ドラフト視点で見た「暗黒期」「黄金期」のパターンについて
一通りのまとめをしておこうと思う。

 

 

野手陣の暗黒化に定形はない

まずは「暗黒期」の野手から見ていこう。
暗黒期というと野手の低迷に歯ぎしりするファンが多く
何かしらの特徴があると思っている評論家も多いようだが、
暗黒期前数年間のドラフトには
これといった定形パターンはなかった

高校生中心 横浜広島
大学・社会人中心 中日ロッテオリックス
バランス型 ヤクルト阪神

大雑把に分類するとこうなるが
ものの見事にばらけている。
ただし主力の編成からは
暗黒期が近くなるパターンはある程度見える。
危険なのは主力がほぼ同年代の選手で固まっている時だ。
彼らの全盛期どころか衰えがほぼ同時期に来てしまい、
主力が全盛期の間に次世代を育てられなかった場合こそ、
暗黒期の到来になるわけである。
しっかり育つかどうかが全てであって、
どこからプロ入りしたかは一切関係ない。
暗黒期到来後のドラフトもやはり同じで、
「ほぼ確実に暗黒期」と言えるパターンはない。
数年間大社中心だった中日や横浜、オリックスばかりがクローズアップされるが、
広島や阪神のように
高校生野手中心の指名で破綻がさらに長期化したチームもある。

唯一共通しているのは、
外部の評論家やファンが
「高校生を獲らなかったせい」「上位指名で野手が少ないせい」
と批判することだけだ。
この批判をするためには、
横浜や中日のように
「暗黒期突入の原因を暗黒期突入後のドラフトのせいにする」
こともいとわない

また80~90年代阪神
暗黒期前の全盛期がドラフト外入団を含めるとバランス型、
暗黒期後にはそれが高校生中心に変貌した。
「全盛期には時代に備えて高校生を獲れ」
「弱い時こそ将来を見据えて高校生を獲れ」という
大御所ドラフト評論家の主張を既に実践していたチームだったのだが、
その結果は長きにわたって貧打が際立つ暗黒期で
しかも高卒中心指名を大社偏重だったことにして反面教師扱いされた。
我々が反面教師にすべきなのは
結果の出なかった高卒中心指名自体をなかったことにする
一部のドラフト評論家やファンである。

 

投手指名によくあるパターン

逆に投手指名はというと
大半のチームに当てはまる法則が1つだけ見えている。
何年にもわたって高校生投手を大量指名することだ。
これをやったチームはたとえエース格が1、2人出たとしても、
ローテもリリーフも数が圧倒的に足りなくなり、
かなり高い確率でチームとしての投手陣が崩壊する。
いや、エースがいるほうが
「エースが1人いるから大成功。もっと高校生を」と
ほめられるから余計にたちが悪い。
特に目立つのがセリーグで、
中日、横浜、広島、ヤクルト、阪神
ほぼ全チームが該当する。
パリーグの場合も
オリックスは95年までずっと高校生の比率が高く、
ロッテは年代の区切り方でわかりづらかったと思うが
2003~07年にかけて高卒投手を大量指名*1している。

ただおかしなことに、
投手を高校生中心に獲り続けたチームが打線から崩壊していく
ケースも多い。
そして野手が崩壊した後に
投手も完全崩壊して真の暗黒期が到来する。
こういうパターンも目立っているのだ。
だが「投手を高校生ばかり指名し続けたから野手陣がボロボロになった」
というのはいくらなんでも無理やりすぎる論法と言える。
どう考えればいいだろうか。
どうしても風と桶のような考察にならざるを得ないのだが、
あるとすれば「野手に比べて投手は余裕があるように見えたから」か。
野手の場合
世代交代に備えていないチームはない
切羽詰まっていて長い時間かけて育てる余裕がないと思えば即戦力を獲り、
まだ時間をかける余地はある、
金やコネの関係で高校生しか獲れないなどといった場合は高校生を獲る。
これは例外なくどのチームもやっている。
ただし失敗する時は
どのような戦略をとっていても破綻するから困るのだが。
それが投手の場合だと
野手に比べて若い主力や有望株が何人もいたり
一軍を充分回せる程度の数が揃っているように見えるのだろう。
野手が高齢化しかけているだけに余計そう思えるに違いない。
そうした年齢層や育成力への自信、球場の特性などが相まって
今のうちに育成しておこうという気になるのではなかろうか。
しかし実際には、投手はどこか一つが崩壊すると
他の選手への負担が増すこともあってか
雪だるま式に崩れ落ちていく。
一軍で使える投手の数を多くすること以外に対処方法はない。
そしてこの崩壊は
二軍の若手有望株も容赦なく巻き込んでいく。
誰かが雪崩をかいくぐってエースに成長しても
その頃には自分以外が全て焼け野原になっているわけだ。
そんな崩壊が、単に野手より遅くやってきただけと考えられる。

この投手陣に暗黒期が到来してしまう条件に対し
高校生中心の指名は相性が最悪である。
一軍で使えない投手はむやみに増やし、
しかも年齢が若いので簡単に戦力外にはできない。
こんな指名を数年間繰り返せば、
まだ若く未熟で成長の余地があったはずなのに
既に疲弊と故障で成長が止まった投手陣が出来上がってしまう。
昔とある大御所評論家が
「最低でも投手の1/3*2は高卒でなければならない」
と書いていたが、
現実には支配下の1/3」は上限
1/3超はむしろ投手崩壊への危険域ぐらいに考えたほうがいい。
毎年故障者や不調者が出ることを考えれば、
一軍で使えない選手を最初から10人も置いておくなど
到底できないことなのだ。

 

黄金期を作るドラフトの特徴

逆に黄金期を作るには
どういうドラフトをすればいいか。
先に断わっておくが
黄金期の場合は
暗黒期よりも確率がはるかに低く
不確定要素やドラフト以外の要因も非常に多い。
あくまで「こういう傾向がある」程度に見てほしい。
ただし、その内容は暗黒期とあまり変わらない。
というよりは暗黒期の裏返しと言ったほうが適切だろうか。

野手は暗黒期前と同じでこちらも定形はない。
世間だと「野手重視、高校生重視こそ黄金期の前提」の
イメージを植えつける人がどうにも目立つが、
上位指名だけを見ても
野手重視が西武
平均的なのがダイエー広島
投手重視が日本ハムとバラバラだし、
同じ根本陸夫が手掛けた場合でも
西武とダイエーでは戦略が異なっている。
「チーム事情、時代の違い、制度の違いなどがあるんだから当然の話」
と言われればそれまでなのだが、
ことドラフトに関しては
「チーム強化戦略としての話」にしても
「『ドラフト会議』というプロ野球界の一大イベントの話」にしても
こうした様々な「違い」をすべて無視した
観念的な論調が幅を利かせることが多いため、
「わかりきった点」でも繰り返し繰り返しおさらいする必要があるのだ。

それでも共通点を探すと一つあった。
大学生・社会人からしっかりと当たり選手を輩出することだ。
それまでのチーム事情、若手の成長具合などを踏まえ、
穴になっているポイントを
高卒よりも全盛期が近く実力の高い大卒・社会人の育成でカバーする。
これが共通項として見えてくる。
もちろんこの点はドラフトに限ったことじゃないので
外国人選手やFA、トレードなどでカバーしても問題ないし、
「本当に即戦力として抜擢できる」高卒選手を獲得・成長させられたなら
それでも全く問題ない。
少なくとも世間一般で(本人も気づかないうちに)主張されることが多い
「高卒生え抜きを何年も一軍で使い続け、だめなら次の高卒を」という
自転車操業的な選択をすることはないようだ。

投手もやはり暗黒期の逆。
高校生指名は多くても投手全体の1/3程度にとどめ、
大学生と社会人の指名がかなり多くなっている。
唯一の例外はドラフト外での高卒投手獲得が多かった西武だが、
こちらは78年のドラフトとドラフト外計3~4人だけで
チーム投球回の半分以上を入れ替えているので
状況と投手起用の時代背景が大きく異なる。
さらに西武は黄金期突入後の1985~87年にも
投手指名を高卒偏重にしたことで
88年に早くも戦力が枯渇。
2年連続で社会人投手の上位指名*3を敢行せざるを得なくなった。
ダイエー時代の指名が大社投手偏重になったのは
こうした経験から教訓を学んだのも一因だろうか。

 

高卒投手を獲っても暗黒期を防ぐには

それでも高校生投手を獲りたい場合はどうすればいいだろう?
実際のところ
大学生と社会人ばかり獲ったとしても、
かなり成長しないとプロでの活躍が難しい選手ばかり獲ったのでは
何も考えず高校生を乱獲するのとやってることは同じだ。
じゃあどうするか。
チームの崩壊を免れる方法が全くないわけではない。

① 大社投手をしっかり獲る
しっかりと言っても、
90年代後半の横浜のように
上位で1人獲ったらあとは高校生を乱獲していいわけではない。
ドラフト評論家は大喜びするかもしれないが、
チームは確実に崩壊する。
やはり「高校生は投手指名全体の1/3まで」が基本になるか。
たとえ高校生偏重になる年がどこかであったとしても、
それ以外の年では高校生投手指名を控えたほうがいい。
そうでなければ、せめて2018年のホークスのような
大社投手偏重指名をしばしば挟まないとチームが持たなくなる。

② とにかく即戦力投手を獲る
「①と同じだろうが」と怒る人がいるかもしれないが違う。
高校生偏重になるチームによくある弱点は、
高校・大学・社会人等関係なく
成長に時間のかかる素材型を特に乱獲すること。
要は「高校生でも即戦力に狙いを絞れ」ということだ。
先ほど挙げた黄金期のチームの高卒投手であれば
工藤公康ダルビッシュ有が1年目、
渡辺久信吉武真太郎前田健太が2年目に
純粋に戦力として台頭している。
逆に球が速くてフォームは「綺麗」だが
早い成長が難しい素材型を乱獲したところで
大喜びするのはやはり大御所のドラフト評論家だけで、
現実の投手陣は壊滅への道を突き進む。
あるいは今までに何度か書いたことだが、
チームが一軍戦力として育てられる選手を獲ることだ。
「一軍戦力として」がポイントで、
いくら体幹は鍛えても制球難でとても一軍で使えない
では意味がなくなる。

③ ドラフト以外の選手獲得手段を駆使する
あとは外国人、FA、トレード、海外からの出戻り、自由契約など
ありとあらゆる手段で使える選手をかき集めることだ。
大量の育成枠を活用して使える支配下登録選手の数を増やすのも
戦略の一つになっている。
生え抜き至上主義などはとっととどぶに捨ててしまおう。

ここ最近は指導方法というか選手のトレーニング手法などが
以前よりもかなり洗練されてきたためか、
早くに活躍しだす高校生投手は少し前までに比べて増えている印象がある。
だがそれにしても活躍する選手の数に限界はあるし、
何らかの理由で育たなかった時の保険は
しっかりとかけておかなくてはならない。
ドラフトの歴史を振り返ると、
こうした保険をかけることを怠ったり、
保険がうまくいかなかったときは暗黒期まっしぐらになる。
しかも一軍で使える投手数は今後ますます増加の一途をたどるだろう。
半世紀以上前の大エースの夢を見てるようなドラフト評論家や
その年の甲子園以外でしかドラフト候補を知らないファンの声に
惑わされることのない指名と評価が求められる。

*1:5年で14人。2003年の高校生5人指名もあって大社計13人を上回った

*2:育成選手制度ができる前の話

*3:しかも88年は寝業を駆使しての1・2位指名