スポーツのあなぐら

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「低反発金属バット」が向かう先

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センバツ高校野球の低反発金属バット

本格的な採用から2年目を迎える
高校野球の低反発金属バット。
今年のセンバツ大会では
「対応する高校が増えた」との声をよく目にしたが
数字としてはどうだっただろう。

2025センバツ打撃1

2025センバツ打撃2

今年はここ数年に比べると打率がかなり高かったため
出塁率長打率がともに大きく上昇し、
さらにタイブレークなどの影響もあったのか
平均得点も大幅に増えた。
反面HRは6本と
去年よりは倍増したが少ないままで、
IsoPOPSとは異なり低い数字にとどまった。
低反発バットになってからの2年間、
特に今年目立ったのは
二塁打本塁打に対して三塁打がやけに多いことだ。
さらに6本のHRのうち
西日本短大付属によるものだけとはいえ
ランニングホームランが2本もある。
やはり球が飛ばないために
外野がより前進するようになったことで
打球が外野を抜くと進塁しやすくなったから、
これが大きな要因のように思える。

 

大学野球と金属バット

アメリカの大学野球と低反発金属バット

ところで低反発金属バットといえば
今年の日本で注目されている話題がもう一つある。
スタンフォード大学でスタメン出場を続けている
佐々木麟太郎だ。
アメリカの大学野球では
木製バットが使われる日本の大学と違い
反発係数の決められた低反発の金属バットが使われている。
そんなアメリカの大学野球の成績はどうなっているか、
日本人野手が在籍しているカンファレンスを
見てみよう。

2025アメリカ大学打撃1

2025アメリカ大学打撃2

ずっと「打高投低」と言われてきた甲子園大会の中でも
特に本塁打が多かった2017年夏と比較しても
アメリカの大学野球はかなりの打高投低である。
OPSだとBig Westは2017年夏甲子園より低いが
IsoPやHRの確率は高くなっている。
スタンフォード大学が今年から所属している
Atlantic Coast Conferenceは
まだカンファレンス内での試合が少ないせいも
あるかもしれないが
現時点だととんでもないと言っていいレベルの打高で、
HRを4本打ち打率も出塁率も悪くない佐々木が
まだリーグ平均を下回っている状況なのだ。
一方、Big Westとはいえ
先発投手兼任で防御率4点程度にまとめている武元は
投手としても健闘していると言える。

 

同じ「低反発」で飛ばない環境と飛ぶ環境

アメリカの大学野球が金属バットであることに対して
「決まった反発係数内だから日本の高校野球とは違う」と
いう声もしばしば見かけるが、
それならなぜここまで打撃成績に違いが出るのだろう。
実際のところ大学野球では
MLBでもまず見ることがない打球速度が
頻繁に計測されるようになったという記事もある*1
単に規定された反発係数の範囲が広すぎるのか、
今年のMLB開幕戦で指摘されたように
日本で使われる球よりも使用球がよく飛ぶのか、
同じ反発係数でも
かなり飛ばしやすい金属バットが開発されたのか。
日本でも昨年あたりから
投手のレベル以外に
使用球の反発係数以外の要素が関連しているのではないかと言われているが、
どうやらこれと似たことが
アメリカの大学野球では
極端な打高投低の形で起こっている可能性もあるようだ。
高野連が低反発バットを採用したのは
この打球速度を安全性の高いレベルに下げるためなので、
反発係数は低いがよく飛ぶ金属バットが
少なくとも高野連主導で使われることはないように見える。
ただ現在の金属バットに対して
高校球児が本当に対応できるようになった時や
反発係数さえ規定範囲内であれば
使用する金属バットが各校の裁量に任された時に、
以前よりもライナーを狙う環境で
守っている野手の安全はどこまで維持できるのだろうか。

また低反発バット採用が主張される際に
選手の安全性よりもはるかに多く理由に挙げられていた
「低反発にすれば真の強打者、スラッガーが育つ」は
はたしてどのような結果になるだろうか。
実際に低反発バットが使用されてからは
声高に主張していたライターや識者ほど
褒めるけなす以前に関心自体も示さなくなったように見えるが、
とりあえず得点が増えた今大会では
スラッガーの育成に関する見解が聞けるか。
この点も注目ポイントと言えよう。

 

参考
一球速報.com
Atlantic Coast Conference
Big 12 Conference
Big West Conference
Western Athletic Conference

*1:日本のスポーツ紙か野球ニュースサイトでこの内容を要約した記事を見て知ったのだが、どこの記事だったかは失念した