スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

青空の下ではできない日本野球

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今回のようなタイトルがついている場合、
世間一般での内容はだいたいにおいて
「日本はドーム球場が多いから駄目」になっている。
ただし今回はそんな話ではない。
あらかじめおことわりしておく。

 

ドーム球場の数

アメリカには
「野球は青空の下でやるもの」の格言があるとされており、
日本ではドーム球場をを批判する際に
この言葉がしばしば用いられる。

さて、そんなドーム球場の数だが、
NPBはたしかに屋根のついた球場の比率が高い。
現在のNPBホームでは6/12、
つまり半分がドーム球場になる。
日本ハムが移転する新球場も屋根付きだから、
屋根の有無については変わらないわけだ。
一方、今年のMLBは8/30。
去年まで屋外だったレンジャーズが
今年から新しく建てられた開閉式球場に移るため、
1ヶ所増えた。
現在そのほとんどは開閉式で、
完全閉鎖型はトロピカーナ・フィールドだけ。
また以前使われていたドーム球場のうち、
オリンピック・スタジアムはワシントンD.Cへ、
ヒューバート・H・ハンフリー・メトロドームは屋外球場へ
それぞれ移転したが、
アストロドームとキングドームは
新球場も屋根付き球場になっている。

ここまでだと日本があまりにも時代遅れなように見えるが、
一応考慮しなければならない点として、
アメリカの開閉式ドームは1998年以降に建てられたことがある。
それが日本の場合だと
屋外球場だった現メットライフドームに屋根を付けたのが98~99年で、
それ以降に完成したのは札幌ドームしかなく
あれから既に19年。
そもそもNPBの本拠地球場自体
2000代に新しく建てられたのは札幌と広島だけなのだから、
「単に球場を作ってないだけ」の側面もあるわけだ。

 

「青空」の本質

「青空の下」とは

現在の日本でもドーム球場を嫌う人は結構多く、
「野球は『青空の下』でやる(見る)ものだ」
と主張する人はよく見かける。
最近の気象傾向の関係で
一部にはドーム球場の価値を見直す人もいるが、
その大半は対象が高校野球に限定されていて、
プロ野球に屋根を求める人は非常に少ないのが実態と言える。

だがここで、もっと根本的な部分に踏み込んでみよう。
そもそも「青空」ってなんだろう
ここで言う「青空の下」とはアメリカから来たものなのだから、
この「青空」についてもアメリカを基準に考えてもいいはずだ。

 

耐えられる暑さの基準

まずは気温。
MLBホーム球場がある都市の、
月別平均気温の最高気温が最も高い月の気温と、
それぞれの体感温度
ミスナール(1937年)および改良ミスナール(1972年)で出してみた。
アメリカのデータは全てWeatherbaseを参考にしている。
基準となる年が各都市でばらけているので
比較用のデータとしては不完全だがご容赦いただきたい。

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一番下のデンバーは風速が不明なので参考記録
高めの気温だとおおむね風速1m/sにつき体感温度-1℃である。
アーリントンに屋根がついたことで、
最高気温のトップ5が全て屋根付き球場になった。
これで完全屋外とドームとの境界が明確化されたわけだ。
また他に屋根のついているミルウォーキートロント、シアトルと
以前屋根があったミネアポリス
全く別な理由で屋根が必要だったことになる。

では日本はどうか。
本拠地がある都市に加えて、
某雑誌で「16球団構想」での拡張候補地とされた都市、
これまでエクスパンション候補とされやすかった都市

出してみた。
日本のデータは気象庁を参考としており、
この表の全て1981~2010年の平均となっている。

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日本はやはり気候が似ているのか8月で固定されている。
アメリカは8月より7月のほうが多かった。
それはともかく、
最高気温もさることながら体感温度を見てほしい。
結構な数の都市が
ドームと屋外の境界線上にあること、
大阪、名古屋と熊本、京都は
セント・ピーターズバーグを上回っていることがわかる。
そして何よりも、
MLBのホームは半分近くの体感温度
今回のリストで三番目に低い千葉より下。
しかも仙台はおろか札幌よりも下の都市が
日本でもなじみの多い西海岸にいくつかある。
これで一つ重大な事実が判明した。
MLBの「青空」は全体的に日本よりずっと涼しいのである。

 

日米で最も適さない大都市

じゃあ寒さの方はどうだろうか。
4月の気温に関しても少し見てみたい
と言いたいところだが、
4月はさっきとは逆で、
日本はアメリカよりも比較的暖かいところが多い。
関東以西は盆地にある京都なども
全て対象外としても問題ない結果だった。
ただし状況が一変する都市が一つ。

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札幌である。
札幌は気温、体感温度ともアメリカやカナダのトロントより低く、
4月にもかかわらず雪がデンバーに次いで多い。
noteのほうで「寒すぎ+雪多すぎ」と書いたのは
単純にこういう理由。
さっき見たように夏は快適な部類だが、
春先はNPBMLB合わせて
最も屋外での野球に向かない地域なのだ。
あと風速のわからないデンバーについてだが、
このぐらいの気温になると
夏場と違って風速1m/sにつき体感は約2℃下がる。

 

降水量の本当の恐ろしさ

次はドーム球場のもう一つの利点である雨だ。
降水量についてはまずこの表が見ていただこう。

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4~9月における
月別の平均降水量区分を簡単にまとめたものだ。
アメリカと日本を統一してあるけれども、
見出しをよく見ればその意味に気づくだろう。
アメリカもフロリダは雨が多い。
だがそれ以外の地域はそこまで多くなく、
4~9月までずっと100mm未満の都市が半数近くある。
逆に日本。
札幌以外の都市では100mm未満がほとんどなく、
ここに載っていない月は全て150mm以上なのだ。
静岡県内と南九州はほぼ150mm超。
特に熊本と鹿児島は平均300~400mm以上の月もあり、
台風の多そうな那覇よりはるかに降水量が多い。
ほぼ毎月150どころか200mmを超える
静岡と浜松もなかなかすごいところだ。

このぐらいでは
アンチドーム球場派は何も感じないだろう。
「たまにある雨の中の観戦や雨天中止も味があっていい」
が彼らの口癖だからだ。
また今以上にドーム批判が相次いでいた時代には、
「ドームは雨天中止を嫌がる球団オーナーのわがまま」
とよく叩かれていた。

ドーム球場の持ち主へのツッコミは置いておくとして、
雨天中止は本当に「たま」のものなのだろうか。
こんなデータを出してみた。
昨年以外の中止試合数は
全て各年の『オフィシャル・ベースボール・ガイド』によるが、
交流戦に関してはもしかしたら集計の仕方がずれているかもしれない。

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ドーム球場ができる前、
各球団にとって雨天中止はずっと死活問題だった。
特に1970年代までは、
多い年には4試合に1回の割合で試合が流れている。
少ない年でも6試合に1回、
つまり平均すれば週1ペースで中止が発生する計算である。
主催試合だから各球団2週に1回か。
「本当か?」と疑う人は所蔵されている図書館を探して
実際に読んでみるといい。
最も多い1976年はセ92、パ98の計190試合が中止になっている。
さらに当時のパリーグは前後期制だったのだから
日程消化がいかにつらかったかしのばれる。

 

そこに「青空」はなかった

苦行と楽しさの狭間で

「野球は青空の下でやるもの」
しかし残念なことに、日本の「青空」は青空じゃなかった。
日本の野球は猛暑と雨の中で行われるものだったのである。
今回のようなブログタイトルだと普通
オーナーだの自治体だのと誰かの責任を追求しようとするが、
これは誰の責任でもありえない。
単に日本がこういう気候だっただけの話だ。
「ナイター前提の夏の最高気温を調べても関係ない」
と言い出す人もいるかもしれないけども、
MLBだってしばらく照明がなかったリグレー・フィールド以外は
ナイトゲーム中心でやってきたのだから、
最高気温で比較しても何ら問題ないはずだ。
プロ野球はプレーする選手だけじゃなく
観客が快適に観戦できる環境づくりが重要になる。
こうして調べてみると
今までよくこんな過酷な環境で見てたなと思うほどだが、
過酷さも無駄足も気にしないマニアばかりだったのか、
熱中症の言葉が広まっていなかっただけで
急病人の観客は昔から少なくなかったのか、
そんな風にも考えられる結果だった。

そしてもう一つ厄介なことに、最近は平均気温が上がっている。

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これは2011~19年の平均。
温暖化云々言うと
アレな人たちが沸いてきかねないのでやめておくが、
気温が以前より上昇していること自体は間違いないようだ。
降水量はここには出してないが、
平均だとやや減少傾向が見られていた。
ただ突発的に降りすぎる年があるのでこれも判断が難しい。
あと現在のNPB本拠地では
広島の体感気温上昇率が他より圧倒的に低い。
「広島が屋外でできているから他の地域もできる」
と必ずしも言えない状況になってきている。

 

ずれている「批判」の矛先

さて今回のデータと結論について、
野球関連で一つ危惧しないといけないことがある。
今まで猛暑・雨と野球とに言及する動きはそれなりにあったが、
その内容はほぼ高校野球
交流戦クライマックスシリーズへの批判にばかり使われていて、
ドーム・屋根の必要性やNPBのレギュラーシーズンについては
ほとんど目が向けられずにいたからだ。

高校野球の場合、
良くも悪くもというか
あまり良くない伝統もあの絶大な人気を支えている面が強く、
またたとえその人気を捨ててでも
改善したほうがいい部分は多くある。
だがそれらを考えて
野球、高校野球、球児らの発展のために発言*1しているのはごく一部で、
高野連高校野球、野球をただ殴りたい、
高野連の後援あるいは高校野球を放映する各社を殴りたい
だけなのが見え見え*2の輩が大量に便乗しているのが現実だ。
交流戦とCSのほうも、今まで
ドーム球場を「オーナーの私利私欲」と叩いたり
「試合数をMLB並に増やせ」などと主張していた連中が
増えた試合での雨天中止・強行を理由に批判してるのだから
はっきり言って論外。

いずれにしても
「ただ自分が気に入らないものを叩きたい」
「自分のために殴りやすい物*3を利用したい」
のは共通している。
今回の内容がそのような目的に利用されないことを願いつつ、
読まれた方も自身がそうした面に陥っていないか
見つめ直していただければ幸い。

*1:最近だと目立つのは筒香

*2:明らかに野球に興味がない、若者の将来にも関心がない、目下の人間には「体育会系」かつ精神論etc.

*3:こういう連中にとって自分以外の他人は者ではなく物である