スポーツのあなぐら

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【再掲】日本ハムのドラフト戦略に生じた綻び

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※ニコニコのブロマガの内容を再構成した。

日本ハムのドラフト戦略が変わった」?

2015、16年の日本ハムのドラフトを見て、
「ここ2年ほど日本ハムのドラフト戦略が変わった」と言われることがある。
1位指名で一番人気の選手に向かうのは変わらないが、
2010年から続いていた上位での高卒野手指名が2015年と16年はなくなり、
全体的に大卒野手の指名が増えたというものだ。
そしてその理由は一切考察されることがなく
「大成功している戦略をわざわざ変えるのか謎だ」とだけ書かれて締めくくられる。

その理由を探る前に、2010~14年の日本ハムドラフトの特徴もおさらいしておこう。
この5年間の日本ハムは指名した野手16人中高校生が14人と高校生が異常に多い。
大学生は2人だけ、社会人は独立リーグを含めても2009年の荒張裕司が最後だ。
それがこの2年間は大卒野手を3人指名した。
この間高卒野手も4人と相変わらず多いのだが、
前述のように高卒野手の上位指名が途絶えたことと相まって
非常に異色の展開と受け止められたようである。
一方で実は、最近の日本ハムは投手も非常に珍しい指名をしている。
2010年以降の日本ハムの投手指名は、野手とは逆に高卒が非常に少なく
2015年までの6年間24人中たったの4人。
高校生投手の1位抽選を3回外したことを考慮してもかなり極端な数字だった。
そんな日本ハムがこの2年間で高校生投手を5人も指名した(ただし1人拒否)のだが、
この点は全く注目されていない。
大社投手が極端に多いこと自体が知られていないのと、
「エースになるのは高校生だから大社主体から高校生にシフトするのは当然」
とでも思われているようだ。
ちなみに6年で4人止まりというのはヤクルトも同じ数字である
(高卒投手の1位抽選を外し続けているのも同じだ)。

日本ハムで起こった戦略の弱点

「育成上手」と言っても実際にはそれぞれのチーム事情に合わせた戦略があるはずだが、
ドラフト評論や世間一般でこの言葉が使われるときは
現実の戦略の中から論者にとって都合のいい部分だけが抜き取られることが多い
そのため日本ハムの場合は「高卒を獲って早く抜擢する」
という伝説だけが独り歩きしているが、
以前書いたように実際の日本ハムのドラフトは高校生でも即戦力が中心である。
つまり身体能力に優れているため成長させやすく、
ポジションがあまり固定されず空いたポジションに抜擢しやすい選手を
(できれば他の高卒よりも安く)獲るというものだ。
投手のほうは無理に高卒をとらないのもこの点に近い要素と言える。

この戦略は一定の成果をあげていたものの、一方で弱点というか弊害も見えてきていた。
これは日本ハムと同じ戦略をとれば必ず同じことが起こるわけではない
ことは先に書いておく。
現在の日本ハムでは何が起こっていたか見てみよう。

二遊間の不足

日本ハムは2011年から毎年高卒ショートを指名してきたが、
残念ながらショートだけじゃなくセカンドの育成でもつまづいている。
大引啓次のトレードや田中賢介の復帰で何とか持たせていたが、
二軍のショートは高卒1年目の選手を毎年のように入れ変えて
二軍で使い続けたものの伸び悩んできた。
定着した中島卓也(2008年指名)も粘りに定評はあるが
それ以外の打撃部分は頭打ちだし、何より故障や不調のときの代替がいなくなっていた。
4年目から一軍で使い続けたことで、FA権取得が少しずつ見えてきたところでもある。
一昨年の石井一成はこの部分に対応させる指名だったわけだが、
昨年は早くもその穴が露呈した格好になってしまった。

長打力の不足

長打の多い生え抜き選手については慢性的に不足していたと言っていい。
長距離砲と言えるのは中田翔のみ、中距離ヒッターだと陽岱鋼がいたが、
あとは流出を前提として獲得した大谷翔平を除いて中距離打者も育たない状況だった。
そんな中で陽と大谷はチームを去り、中田ももうすぐチームを離れる可能性がある。
大田泰示のトレード、清宮幸太郎の指名で少しは持ち直した感もあるが、
大田の場合は代わりにより若い中距離打者候補の石川慎吾を放出しているし、
森本龍弥、宇佐美塁大、渡邉諒などは完全に伸び悩んだ。
この点を何とかしようとしたのが大卒の横尾俊建と森山恵佑の獲得で、
高卒野手でも今井順之助の指名がこの補強ポイントに該当する。
こちらは注目されていないが、
今あげた3人がセンターラインの選手じゃないのも
最近の日本ハムにはあまり見られなかったポイントだ。
またこの3人は昨年の清宮獲得で
今後どのように育成・起用されていくかも注目される。

左腕投手の不足

ここは先ほど挙げた指名の変化のうち注目されていなかった3点目のポイントになる。
日本ハムの左投手は、先発では武田勝吉川光夫、加藤貴之がいるものの
特にリリーフとなると宮西尚生以外生え抜きが全く出てこられない状態が続いていた。
ただしこの点は高卒投手が少なかったことは理由ではなく、
単純に左腕をあまり獲らなかったことに加えて
右投手も含めて出自関係なく素材と体力重視の指名が多かったこと*1が大きい。
1位指名でも左腕を外し続けた*2のも影響したか。
この視点から最近の投手指名を見ると、
この2年で指名した高卒投手5人のうち
田中瑛斗以外の4人(拒否した山口裕次郎も含めて)が左腕であることが注目される。
近年の大学生・社会人は左投手がかなり実績不足に陥っており、
数をしっかり確保するためには高卒も獲って短期間で育成する必要があった。
「高卒=将来のエース候補を獲って育てようとした」などという宗教的な話ではなく、
現実的な将来を見据えた指名だったのだ。

日本ハムの指名で変わらないもの

こうしてみると、日本ハムの指名戦略の変化は
現状のチームを見据えて臨機応変に対応したものだとわかる。
教条的な高卒至上主義にこだわる人たちには見えなくなる部分なのだろうが、
実際の日本ハムフロントは言うまでもなく非常に現実的である。
一方でもう一つ見方を変えると、
さっきも書いたように日本ハムのドラフトは基本的に即戦力主体。
つまり、彼らの戦略は変わったように見えて実は何も変わっていない
とも考えられるのだ。
選手の出自にやたらこだわること自体が
日本ハムの戦略を見誤る重大なポイントなのかもしれない。

*1:たとえば高卒でも準地元枠の砂田毅樹などは指名していない

*2:2008年以降だと菊池雄星松井裕樹、岩貞祐太、小笠原慎之介を外している