スポーツのあなぐら

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【再掲】2015年楽天ドラフトに潜む真の危機とは

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※ニコニコのブロマガの内容を再構成した。

 

高評価だった2015年ドラフト

2015年に、楽天は1~4位までを野手で固める野手偏重をした。
この野手偏重指名に対しては、
「さすがに投手指名が少なすぎるのでは」との評価も一部であったものの
予想通り高評価というかべたぼめする識者が多かった。
オコエ、茂木、堀内といった有名どころの指名が多かったのも
評価をさらに押し上げる材料になったかもしれない。

ドラフトを評価する際、こうした野手中心の指名は賛美される風潮が強く、
もはや宗教の域に達している感がある。
宗教ゆえなのか実際の指名を無視したイメージによる印象論が語られることが
ドラフトの世界でもしばしば見られる。
楽天に関してはこれまでが「投手偏重指名」とされてきたため、
余計に高評価につながったようだ。

楽天ドラフト指名の実際

では楽天のこれまでの指名がどういうものだったのか、
一年ずつ簡単に追っていくことにしよう。
まず参入直後の2004~2007年まで。

自由枠、高校1巡 高校生外れ1巡 2巡、大社1巡   投手計 野手計
2004 一場靖弘   渡邉恒樹 自由枠は一場。2巡渡邉のあとは4巡以降全て野手 2 4
2005 片山博覗   松崎伸吾 高校生が片山を抽選で獲得したあと野手2人。大社も3巡で青山を獲得後は野手で固める 4 7
2006 田中将大   永井怜 1巡は高校生が4球団競合の田中、大社が永井とこの年も投手2人。3巡以下はオール野手 2 4
2007 佐藤由規 寺田龍平 長谷部康平 高校生の抽選を初めて外し1巡以外の高校生投手もチーム初。しかし大社でまた抽選獲得した後に野手2人 4 2

ここまでですでに何が言いたいか分かった方もいるかもしれないが、
続いて2008年以降も見ておこう。

1位 外れ1位 2位   投手計 野手計
2008 野本圭 藤原紘通 中川大志 この年1位で野手に入札したことはおそらく誰も覚えていないだろう。3位以下は投手多め 4 2
2009 菊池雄星 戸村健次 西田哲朗 2年連続2位は高校生野手。3位からはすべてバッテリー指名 3 2
2010 大石達也 塩見貴洋 美馬学 ここから再び上位は投手で固める路線に 2 3
2011 藤岡貴裕 武藤好貴 釜田佳直 2007年に続く外れ1位無名の北海道選手 2 4
2012 森雄大   則本昂大 1位が広島公言の森。2位は現エース則本だが日本生命との関係はどうか 3 3
2013 松井裕樹   内田靖人 5球団競合の松井を獲得するも、内田以外オール投手指名で巷は低評価 8 1
2014 安樂智大   小野郁 立花社長、3年連続で抽選当たり 4 3
2015 平沢大河 オコエ瑠偉 吉持亮汰 地元平沢を外すも徹底的に野手指名。概ね2013年とは正反対の高評価に 1 6
2016 藤平尚真   池田隆 統一ドラフト9年目で初の単独指名 8 2
2017 清宮幸太郎 近藤弘樹 岩見雅紀 野手はくじを外した2人を含めても長打力重視 3 4


では数字をまとめてみよう。
あと上では書かなかったが育成指名の数字も加えておく。

上位投手 上位野手 本指名投手 本指名野手 投手計 野手計
2004-2007 8 0 12 17 13 19
2008-2017 14 6 38 30 44 42
2004-2017 22 6 50 47 57 61

どこをどう見たら投手偏重に見えるのだろうかというぐらい野手指名数が多い。
これでも楽天が投手偏重だったと言う人にとっては、
上位指名じゃない野手は選手にあらずということなのだろうか。
楽天の指名は参入当初から
2位までは投手、その後徹底的に野手を獲りに行くのが基本的なパターンだった。
最近はもう少し1年のみでのバランスにこだわらない指名が続いていると言えるかもしれない。
むしろ2013年の投手偏重がなければ2015年の野手偏重を除いても野手偏重に近い
指名を続けていたことがよくわかると思う。

楽天の育成が抱えた2つの危機

しかし2015年の楽天が野手偏重のドラフトをしなければならないほどの
チーム状態だったことはある程度事実である。
ここが楽天に潜んでいた本当の危機的要素と言えるだろう。
つまりこれだけ大量指名し続けてきた野手が育っていないのだ。
特にこれまでは生え抜きの二桁HR不在が引き合いに出されていたが、
スラッガータイプを全く獲っていないわけではない。
上位では中川や内田、
3位以下でもルシアノ・フェルナンドやマニア受けの非常に高かった勧野甲輝などがいた
(なお高校通算HRが最も多かったのは榎本葵の47本)。
既にほぼレギュラーをつかんだ選手では大学3年春に5HRを打った岡島もいる。
しかし伸びない、特に長打力が伸びきらない。
レギュラーを固定しない併用しながらの全体野球で補えていればいいのだが、
そのあたりもうまくはいっていなかった。
余談だが昨年は初めて二桁HRを達成した日本人選手が9人も出たが、
うち上位指名はたった1人(大田泰示)。
楽天の茂木栄五郎、島内宏明も含めて3位以下の指名選手が一気に増え、
上位指名選手との数が拮抗するようになった。

そしてもう一つ厄介なのが、
これまで(本当は)野手重視ドラフトを続けてきた反動として
慢性的な投手力不足に陥っていることだ。
特に数が足りていないのがチームの調子がいいCSでも顕著に見られ、
2009年第2ステージでの岩隈の中1日リリーフ起用や
2013年の田中、則本のスクランブル起用といった事態を招いている。
それを補うべく行ったのが2013年の投手偏重指名だったのだろうが、
立花社長が重視すると公言している奪三振率が高い反面制球の悪い選手が多かったり、
逆に極端に三振率の低い相沢(2013年1.99)のような選手がいたりと、
現状松井以外あまり機能していない状況である*1
今後も1位で獲得した松井や安樂、藤平などエース格候補はいるが、
現代野球に不可欠なそれ以外の先発・リリーフがいない展開が
続く可能性は極めて高いと思われる。
個人的には他にも高卒エース候補重視の上位指名が多いことも気がかりだが、
社長はじめ楽天首脳陣はただ夢を見たいだけの若手マニアとは当然違う。
この点はむしろセイバーメトリクス
特にWARに潜むちょっとした罠にはまっていたのではないかと疑っているのだが……
まあこのへんは触れないでおこう。

最後にもう一度。
上位2位までの指名しか見ずに語られてきたことが影響しているのだろうが、
楽天のこれまでのドラフトは投手重視どころか野手重視といえる指名だ。
しかしこの野手たちの発掘、育成が特に長打力の部分で機能しなかった。
2015年の野手重視ドラフトは決して
「野手を上位から指名した。意欲的で素晴らしい」で片づけてはいけない。
むしろこれだけ野手を獲ってきて、投手の将来性も非常に苦しい中で
さらに野手偏重をしなければならなかったという点にもっと目を向ける必要があるだろう。

*1:もっともチームが持つ指標をすべて一般に公言するはずもなく、何かしら別な判断材料に基いた指名だったのだろう