スポーツのあなぐら

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U-18日本代表と各国代表におけるポジション専任選手の違いとは

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U-18代表選出に対する批判

2023年は台湾で開催されているU-18野球W杯。
この2023年大会の日本代表選考では
ドラフト上位どころか1位入札候補とも言われている
佐々木麟太郎や真鍋慧などが選ばれなかったため
大きな批判にさらされた。
その後、代表を率いる馬淵監督が
明らかなスモールベースボール、バント中心の選出をしたと
公言したことで
さらに批判を浴びることになったが、
「誰もが知るスラッガー候補」の選出漏れとともに
もう一つ批判されたのが
「ファースト専任選手の不在」だった。
同様の批判は2019年大会の際にも起こっており、
結果的に2019年は総合5位に終わったことで
このような主張がファンの間で
「正論」として認識される要因にもなっているようだ。
またこれと似たような主張は
2023年WBC日本代表選出でも見られ、
専任がヌートバーだけだったセンターや
先発要員を重視し中継ぎ専任が少なかった投手陣が
特に大きく批判されている。
このことから日本のファンは
代表チームに

野手なら各ポジション専任の選手が2人以上、
投手は先発、中継ぎ、抑えの専任を
「バランスよく選ばれる」ことへの
こだわりが非常に強い
ことがわかる。

 

日本以外のU-18代表選出

過去5大会ベスト6のポジション

では日本以外のチームは
どういう人選をしていたのだろうか。
過去5大会において
最初のラウンドを勝ち上がった6チームの
選手登録を見てみることにしよう。

各国内訳2013

2013年は投手の数が各チーム7~8人で
野手の登録人数が多めになっている。
一方で
アメリカは登板した選手が13人もおり、
投手登録のMckinney以外は
全員が2試合以上に登板した。

各国内訳2015

この年は投手の登録人数が8~10人に増え、
キャッチャーを2人体制にするチームが多かった。
アメリカは外野登録が2人しかいない。
なお今回紹介する5大会のベスト6で
投手登録人数よりも
実際に登板した人数が少なかったのは
2015年の日本だけ。
登板しなかった勝俣翔貴は
大半の試合でライトかファーストのスタメンだった。

各国内訳2017

なぜか2017年の選手登録は
内野手を各ポジションに細かく分類するチームが多く、
日本も内野手のうち
ファースト1人、サードが3人、ショート2人。
登録選手がいないセカンドには
ショート登録の西巻賢二か
サードの井上大成が入る試合が多かった。

各国内訳2019

ファースト専任がいない、
外野の登録人数が2人しかいないなど、
代表選考の時点から
日本チームがこっぴどく叩かれていた2019年。
ただし外野手の登録人数に関しては
2015年のアメリカや2017年オーストラリアの例もあるので
この年の日本だけが異常とは言えない。
再び内野手をポジションごとに登録しなくなった一方で
アメリカとオーストラリアが
UTLの枠を設けている。

各国内訳2022

アメリカとメキシコは
キャッチャー登録が1人、
アメリカ、台湾、オランダの外野登録が2人と
各チームの選手登録がかなり変則的になってきている。

 

「専門家」を軽視するチームはどこだ

ここまでの内容からわかることは
まず選手登録の陣容が毎回大きく変わることである。
もっとも高校生の代表候補選手は毎回違うし
選手の人数も
投手、野手合わせて20人しかいないのだから当たり前
のことだ。
中でも特に「変則的」と言えるのはアメリカで、
外野登録2人、ユーティリティ6人、キャッチャー登録1人など
極端な選手登録数の先鞭をつけるのは
いつもこの国である。
それに比べれば日本は毎回かなりオーソドックス、
少なくとも
どの年代の代表に対しても
野手8ポジション全てに
2人以上の専任選手が選出されないとすぐ癇癪を起こす
日本のファン視点
ではオーソドックスと言える。

一方で日本代表の大きな特徴としては
投手の登録人数が毎回6チーム中最少なことがあげられる。
しかもほとんどの大会で
野手登録選手の登板がなく、
キャッチャーの野田海人が登板した2022年大会は
2012年大会で
内野手登録の菅原拓那と城間竜兵が登板して以来
5大会ぶりの野手登板だった。
この年の甲子園では菅原は投手兼ファースト。
城間はセカンド兼投手で大学以降は投手専任となり
2023年時点でもパナソニックで現役だ。

 

アメリカ代表選手のポジション

今回とりあげた2013年以降の5大会で
優勝4回、準優勝1回と
圧倒的な結果を残しているのがアメリカである。
日本代表選考を毎回批判している人たちからすれば
そんなアメリカチームは
さぞかしファーストをはじめ
各ポジション専任選手を重視する選出をしているはずだが
どうなっていたのだろうか。
実のところ
アメリカの代表選手が
高校時代にどのポジションに入っていたかは
掲載されているサイトがほとんどなくわからないのだが、
プロやNCAAでプレーした場合は
少なくとも高校卒業後に
どのポジションに入っていたかがわかる。
なのでここでは
大会中、特に二次ラウンド以降の起用と
高校卒業後のポジションについて、
内野手を中心に焦点を当ててみよう。

USA2013

2013年は
投手登録が少ないのに登板した人数は非常に多く、
キャッチャーのReetzに
内野手のFlahertyとGorgas、
外野手のHaseleyとThomasがマウンドに上がった。
野手のほうで特筆すべきはファーストで、
投手で唯一1試合のみの登板(先発)だったMckinneyが
大半の試合で入っていたほか
投手も務めたFlahertyもファーストに入っていた。
Mckinney、Flahertyともに
高校卒業後は投手になっている。

USA2015

ファースト起用が多かったのはPrattoとBakstで
左投げのPrattoは
その後もファースト主体の選手になっているが、
この大会でのPrattoは先発投手兼任。
しかも決勝の日本戦でも先発しており
かなり信頼度の高い投打二刀流の選手だった。
またサードも専任の選手ではなく
ショートのQuintanaや投手のGreeneが入っている。

USA2017

2017年のアメリカチームは
チーム内での役割がかなり固定化されており、
控え野手がほとんどいないことを除けば
日本のファンが考える理想形に近い運用と言えそうだ。
ファースト固定でのちにサード中心となったCasasは
高校時代の正確なポジションがわからないものの、
セカンド固定のYoungはユーティリティ登録なので
少なくとも高校時代にセカンド専任ではなかったのは
明らかである。

USA2019

キャッチャー登録1人、
内野登録1人にユーティリティ6人と
選手登録の時点で
ポジションの汎用性を前面に押し出す構成の2019年。
実際の起用でも
ユーティリティ枠の選手が何人も内野スタメンに入り、
ベスト6以降は不調のHendrickに代わって
内野登録のVukovichがライトスタメンとなった。
マウンドに上がった野手は4人。

USA2022

2022年は
MiLBやNCAAのデータがまだほとんどない代わりに
一部の選手の高校時代の登録記録がまだ残っていたので
わかる選手に関してはそちらを参照した。
日本風に?見ると
内野手8人がいかにも各ポジション2人ずつに思えそうだが
実際はショート扱いの選手が4人いるうえに
Grahovacは大会でキャッチャーも務めた。
さらにファーストのRussellは先発投手兼任。
ファーストどころかサード、セカンド専任すらも
全く見当たらない代表選出だった。

USA2023

2023年大会では
キャッチャー、内野手、外野手専任の登録が
この3人しかおらず、
野手は三種の2つのみを兼任しているのが5人、
投手兼任が5人*1となっている。
また2015年以降の5大会では
アメリカ代表の外野のみの登録が
全て左投で固められている。

 

特定部門の「専門家」にこだわるのはなぜか

臨機応変」を求めながら「臨機応変」を嫌う人たち

今回各選手の起用を細かく見たのは
アメリカ代表だけだったが、
それでも
最近の日本代表に対してよく批判されている
ファースト専任の選手の選出は
アメリカ代表でも全然ない
ことがよくわかったかと思う。
投手、野手合わせて20人、
そのうち野手専任の選手は約10人しか選べない
このU-18大会の規定と日程とを考えれば、
野手の選出において
いくつかのポジションを守れそうな選手を優先するのは
当然の思考であり、
その中でも最も汎用性が低くなりやすい
ファースト専任の枠が削られるのも
別に不思議なところはない。
かつての日本代表は
2013年に園部聡、2015・17年に清宮幸太郎
「いかにもスラッガータイプ」のファースト候補が
選出されていたことも
ファースト専任の長距離打者が
選出されないのはおかしいという固定観念
より強くする要因だったのかもしれないが、
必ず一塁手を代表に選ばなければならないという理由は
どこにも存在していないのである。

しかし最初に書いたように、
日本のファンは
「各ポジション専任」選手の代表選出に対して
異常なほどこだわる一方で、
各大会のルールを一切考慮せずに代表監督を批判する傾向が強い。
選出が20人と定められているU-18への批判もそうだし、
球数制限のため
複数の第二先発が必須にもかかわらず
1イニング限定のリリーフを大量に選ばせようとしたWBC
その最たる例だろう。
しかも
こうしたリリーフ投手の「回跨ぎ」が発生するたびに
各チームの監督、コーチを批判するのは
彼ら自身なのだ。
こうしてみると
よく臨機応変な対応」をどの首脳陣にも要求するわりには
臨機応変な対応」をとりづらい選出をさせたがる
のが
日本のファンによくある特徴と言える。

 

高校野球も担ってきた「専任」信仰の形成

一応最後に指摘しておくと
このような日本のファン心理、信仰の形成については
高校野球自体も大きく影響している。
今も各高校のレギュラー選手の背番号は
ポジションに応じてほぼ一律で決められており、
選手登録数が20人に拡大しようが
登録された選手全員に
一度でも出場機会を与える風潮が高まっていようが、
この点については
特に大きな変化は起こっていない。
また練習試合ならともかく、
公式戦で複数のポジションにつくトップ選手も
あまりいない。
なので
U-18代表選出に対する批判は
これまでの高校野球が培ってきた要素が
大きな要因の一つでもあるとは言える。
しかし
代表選手に昔ながらの「専門性」を求め
代表監督や首脳陣を声高に批判する人たちの中に
「旧態依然とした高校野球」を批判し
「時代に合わせた改革」を主張している層が
数多く含まれているのは皮肉としか言いようがなく、
何の説得力も持たないこともたしかだろう。

*1:内外野兼任が1人