スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

西田陸浮選手のMLBドラフト指名について

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オールスター戦に合わせる形では3年目となる
今年のMLBドラフトは、
オールスターが行われるT-Mobile Parkの隣にある
Lumen Field*1で3日間にわたって開催された。
観客の前で指名発表を行うのは初日だけで、
観客は通常の座席ではなく
人工芝フィールドに設けられた
特設ステージで指名発表を見守る形で、
よりNFLに近い姿を目指した演出がなされていた。

そのような演出の強化や
いくつかのルール変更も行われた中、
今年のドラフトでは
オレゴン大学の西田陸浮内野手
ホワイトソックスから11巡目に指名された。
日本人選手としては
2013年の加藤豪将*2以来10年ぶりである。
ここではこの西田選手について、
他の日本人選手の成績との比較で
見てみようと思う。

 

NCAA Div1でプレーした選手の成績

これまでの西田のプレー環境について

その前に
ここまでの西田のプレー環境について
少しふれておこう。
西田は東北高校を卒業(2019年度)後に渡米し、
大学サマーリーグ
マウントフッド・コミュニティ・カレッジを経て
今シーズンからオレゴン大学でプレー。
高校卒業からは4年目だが
アメリカの大学は秋春制なので
現在は大学3年である。
ポジションは
高3夏がファーストで
オレゴン大、サマーリーグはセカンドやライト、
マウントフッドではショートを守っていた。

今シーズン編入したオレゴン大学は
NCAA Div1のPAC-12に所属している。
他カンファレンスとの対戦も含めた
今年度のPAC-12全体の成績は363勝261敗。
かなり強豪の部類に入るカンファレンスだ。

ユージーンにある
ホームのPK Parkは4,000人収容で
マウンド以外に土がない人工芝。
今年度の平均観客動員数は1,855人*3だ。
この大学には
54,000~60,000人収容可能なAutzen Stadiumや
昨年の世界陸上が行われたHayward Fieldなどもある。
なおPAC-12で野球が行われている11大学のうち
5,000人*4以上収容可能なホーム球場は4ヶ所で
平均観客動員数は1,832人*5
カリフォルニアより北の
オレゴン州ワシントン州にある4球場が
人工芝である。

 

アメリカでの西田の成績

西田のこの2年間の成績はこうなっている。

西田成績

上二つはサマーリーグのもの。
HRは多くなく打率と出塁率が高いが、
それ以上に目を引くのが盗塁の多さだ。
サマーリーグやNWACでは
全出塁数の三分の一から半数近い盗塁を決めており、
NCAAに移った今シーズンは
さすがに盗塁数が減ったものの
それでもまずまずの結果を残している。

 

NCAA Div1の日本人選手

ここで過去の日本人選手と比較してみよう。
対象は西田と同じNCAA Div1でプレーした以下の3人。

  • 秋利雄佑:カリフォルニア州立大ノースリッジ、卒業後は社会人*6で2023年現在も主力として活躍中
  • 山崎真彰:ハワイ大、2019年東北楽天育成指名
  • 大塚虎之介:サンディエゴ大、2022年はBCリーグ茨城アストロプラネッツでプレーしたのち引退、現在フィリーズ国際スカウト

近年のDiv1でプレー経験があり
現在も野球界に携わっている日本人野手としては
北海道日本ハムファイターズの通訳・広報から
現在同チームのアナリストをなっている寺嶋太嗣*7や、
昨年はルーキーリーグFCLアストロズのコーチ、
今年はカブスマイナーリーグ内野コーディネーターを務めている
大高大五郎*8などの名前も挙がるが、
今回は卒業後も選手としてプレーしたことが
わかっている選手に絞った。
昨年ファイターズに指名された山口アタルなどの
Div2以下の卒業生や
高卒で指名された加藤豪将も除いている。

NCAA1成績1

実はOPSで見ると
西田の成績はリーグ平均を下回っている。
アメリカの大学野球全般が
ここ最近さらに打高投低ぎみになっていることや
強豪リーグなだけあって
他カンファレンスとの対戦で
成績が上がりやすいのも理由だろう。
なのでリーグ平均成績も含めた比較では
西田はやや見劣りする成績にも思えるのだが、
盗塁数から垣間見える高い身体能力や
三振率の低さなどの
総合的な能力の高さで評価されたか。

ではもう一つ、
今年度Div1でプレーした
他の日本人野手とも比較しておこう。
こちらは西田と同じく
日本の高校を卒業後に留学した
マーセッド大の大山盛一郎、ワグナー大の小林舞夢、
サザンインディアナ*9の太刀岡蓮、
ミドルテネシー州立大の根岸辰昇の4人。
カリフォルニア大ノースリッジのSakaino Shunsuke*10
この中に含めていない。

NCAA1成績2

今シーズン出場機会が少なかった根岸以外の3人は
まずまずの成績で一定の盗塁能力もあり、
リーグの中でそれなりの活躍をしたと言っていいだろう。
長打力では大山が光るし
太刀岡も出塁能力は悪くない。

一方でPAC-12は
他カンファレンスとの対戦を含めた
カンファレンス全体の勝率が明らかに高く、
今年のドラフトでは
指名選手614人のうち
48人もの選手が指名されている。
西田が他の日本人選手より優れていた点は
NCAAの中でもかなりレベルの高いリーグで
ある程度の結果を残したことだ。
この点は
日本で東京六大学や東都からの指名が
他の大学リーグより多くなるのと似ているが、
アメリカの場合は
能力や結果に応じて編入、転学を繰り返すので
それ以上の信頼度と言えるかもしれない。

 

西田はホワイトソックスと契約すべきなのか

契約しないメリットとデメリット

さて西田は
ホワイトソックスと契約するのだろうか。
日本と違いMLBのドラフトでは
スチュワート・ジュニアなどのように
指名されても契約しないケースが
そこまで珍しくない。

11巡契約金

2021年と22年の11巡で指名された60人のうち
契約しなかったのは4人。
11巡目にもなると
契約金が200,000ドルに満たない場合がかなり多くなり、
そのうえで
以前より多少改善されたとはいえ
マイナーリーグの安月給で生活しなければならない。
それなら
翌年以降にもっと高い順位で指名されることを狙って
今年は契約を見送るのも選択の一つに入ってくるし、
大学3年目の西田にはその余地がまだあるのだ。
実際、11巡指名で契約しなかった選手のうち
3人は高校生でもう1人は大学3年。
契約金が高くなった選手も
今後の指名順位上昇や他スポーツでの活躍なども見込める
高校生や短大生が多い。

逆に契約しないデメリットはと言うと
今書いたメリットがそのまま当てはまる。
来年以降にかけたからといって
来年指名される保証はどこにもないし、
今後の指名順位上昇の可能性が徐々に減ることで
かえって足許を見られることも考えられる。
また日本人選手の場合は
春秋制から秋春制アメリカへ留学する際に
約半年分のブランクが生じる。
これによって
同じ学年でも
生まれた時から秋春制の学校へ通っていた選手より
年齢が1年上になってしまうため、
MLBからの指名を目指す際に
不利となる可能性があるのだ。

 

西田の指名に関する「懸念事項」

外側から見ただけでも想像できる
契約しないメリットとデメリットを考えてみたが、
MLB球団との契約を当面の目標としてきたのであれば
契約しないメリットも大きい反面
デメリットも結構大きいように見える。
とはいえ
これらの価値を判断するのは本人。
外から眺めているだけの我々にできるのは
公式の発表を待つことだけである。

唯一懸念される事項は
西田とは直接関係ない「外側」にある。
この西田の指名にかこつけて
アメリカへ留学すれば
MLB入りするチャンスが無限にある。
有望な選手は旧態依然とした日本からさっさと出て
みんなアメリカへ留学しなければならない」
という言説が
今後しばらく飛び交いかねないことだ。
しかも
このような主張を繰り返す人たちは
選手の留学・渡米に直接かかわっているわけでもなく、
実際に留学を支援している団体から話を聞くことがあっても
彼らの忠告には一切耳を貸さない

そうした無責任な言説に
選手自身が耳を傾けるかどうかも
これまた本人次第ではあるが、
外側の人間がこのような主張に安易に同調して
留学・渡米を絶対的な美徳とし、
選手に留学を半ば強要するような
身勝手な風潮を作りだしてしまうことだけは
避けなければならないだろう。

*1:NFLシーホークスMLSサウンダーズFC等のホームとなっている屋外スタジアム。シーホークスマリナーズのホームだったKing Domeの跡地に作られた

*2:ヤンキース2巡、現ファイターズ

*3:39試合で合計72,338人

*4:日本の大学最大の東北福祉大と同じ

*5:318試合で582,756人、最高はオレゴン州立大の1試合あたり3,568人

*6:三菱重工名古屋→ヤマハ

*7:セント・ボナベンチャー大、Atlantic 10

*8:イェール大、Ivy League

*9:昨年度から在籍していたが2022-23シーズンからDiv1昇格。ただし日本の大学野球の昇降格制と違い、その大学が参加している全てのスポーツのディビジョンが1つ上がる

*10:大塚と同じランチョ・バーナード高校卒、出身は千葉