スポーツのあなぐら

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Jリーグ秋春制と冬についてのあれこれ

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ACL秋春制移行に加えて
昨年のサッカーW杯での日本代表の活躍に
自分たちの方針と世論に対して自信を深めたのか、
2023年になってからは今まで以上に
何とかしてJリーグ秋春制にしたいらしい
サッカー協会、Jリーグ
アドバルーン*1が活発化しており、
そのたびに
秋春制の推進*2というよりも外部の強硬な過激派*3
気炎をあげている。
そんな秋春制にとっては
大きなネックの一つである(はず)の
冬と秋春制について少し考えてみよう。

 

 

スキー競技とサッカーの関係

ノルディック世界選手権と秋春制

近年のJリーグ
2月下旬にかけての開幕が多いが、
奇数年の2月といえば
アルペン、フリースタイル(&スノーボード)、ノルディックと
各スキー競技の世界選手権も
開催される時期にあたる。
このうち以前にも触れた
ノルディックスキー世界選手権は
2000年以降2023年までに
計12回開催されているが、
その開催地をサッカーリーグ別に分けると
秋春制が5都市5ヶ国*4
春秋制は日本を含む4都市4ヶ国*5となっている。
では
その開催地となった町には
各国のサッカー上位リーグに属しているチームが
どの程度あるのだろうか。

この答えは
以前にも出した通りで、
秋春制の5都市のうち
一部リーグにいるのは
チェコのリベレツにあるスロヴァン・リベレツだけだ。
あとは二部どころか
オーベルストドルフ(ドイツ)以外は
サッカーチームが存在するのかすら確認できなかった。
また2019年の開催地となった
オーストリアのゼーフェルトは
他国の秋春制の強豪チームが
シーズンオフのキャンプ地として利用する町でもある。
一方
春秋制の4都市は
スウェーデンのファルンだけが二部で、
ノルウェーオスロフィンランドのラハティ、
そして日本の札幌に一部リーグのチームがある。
なお2025年開催予定は
北極圏のトロンハイムノルウェー)だが
ここにあるローゼンボリBK一部リーグ
2026年のミラノ・コルツィナ五輪では、
ノルディック競技は
ミラノから約200km離れた*6
ヴァル・ディ・フィエンメで行われる。

これは、
ヨーロッパでは基本的に
ジャンプ台やクロスカントリーの会場が
設けられるような町に
札幌はおろか山形ぐらいの人が住んでいる地域が少ないことが
理由の一つだろう。
北欧3ヶ国と日本以外は
せいぜい数千人程度の町がほとんどで
唯一10万人に達するリベレツも
25万人の山形よりはかなり少ない。
そのためもあって
秋春制においては特に考慮する必要もない地域と
見なされている
と思われる。
中堅以上の都市があるのは
ほぼ北欧に限られているのだが、
緯度がまるで異なるはずの日本には
北欧並の降雪量と人口とが両立する都市が
非常に多く存在している
と言えるのだ。

秋春制・春秋制降雪量

実際、
この後紹介する
秋春制を採用している国の主要都市のなかで
山形より降雪量が多いのはモスクワ*7しかなく、
春秋制の中でも非常に多かった
ノルウェーのトロムソと札幌の半分程度だった。

 

W杯開催地秋春制のチームはあるのか

それなら
普段転戦しているワールドカップはどうだろう。
今期のスキージャンプでは
スーツの規定違反問題や
コロナ禍でしばらく行われていなかった
日本での開催、
女子ジャンプでの日本人選手による表彰台独占など
話題も多かったが、
はたしてこちらはどうなっているだろうか。

残念ながら、
これまた表にするまでもなかった。
男子、女子ジャンプに複合の開催地も調べてみたのだが
やはり
春秋制の一部、二部所属チームは
ノルウェーフィンランド、日本に
いくつもあるものの
秋春制のほうは
チェコでの開催がなく、
最高は
オーストリアのビショフスホーフェンと
ルーマニアのルシュノヴの三部だった。
三部だがどちらも地域別に分かれているリーグである。
特に今期は
オーストリアブンデスリーガにいた期間が長く
モラス雅輝氏がコーチ、監督代行を務めるなど
日本との関係も深かった
FCヴァッカー・インスブルック
2021-22シーズンで経営破綻*8に陥り、
ライセンスも更新しなかったため
二部から四部へ降格。
唯一二部以上に所属していたチームが
このような形で降格したこともあって、
今シーズンのスキージャンプが行われる町にある
秋春制の上位リーグ所属チームは
1チームも存在しなくなってしまったのだ。

 

「ウィンターブレイク」で抜け落ちやすい重要事項

現実の秋春制の日程

次に、
外部の秋春制強硬派が
「これを設けるからさっさと秋春制にしろ」と主張する、
言い換えれば
彼らのような過激派であっても
さすがにこれを言わないと地方切り捨てが露骨になってしまう

ウィンターブレイクについて。
「ウィンターブレイクがあれば秋春制にしても問題ない」
「ウィンターブレイクの日程は
今の春秋制Jリーグと全く同じだ」と
秋春制過激派はよく言うのだが、
現実のヨーロッパでのウィンターブレイクについて
言及している人はまず見ない。
秋春制のヨーロッパ各国のうち
ヨーロッパ四大リーグとこれらに次いで規模の大きいフランス、
日本人選手の移籍もあるベルギーやポルトガルなど、
さらには長いウィンターブレイク期間がある国、
先ほどとりあげたノルディック競技が開催される国を含めた
計20ヶ国のリーグ戦がいつからいつまで開催されていたか。
コロナ前の2018-19シーズンを見てみよう。

2018-19各国日程

右に載せた「試合」は
全チームが戦う試合の最低数をさす。
ヨーロッパ各国のリーグには
レギュラーシーズンの後に
上位チームと下位チームに分かれて
優勝決定と残留の総当たり戦プレーオフを行う国が
いくつかある。
この試合数はそこで行われる試合を含めたものになるが、
中位チームが参加しない
優勝決定、あるいは残留・降格プレーオフなどは
この数に含まない。
なので実際の公式戦がもっと多くなるチームもかなり多い。

 

現実のウィンターブレイク期間

Jリーグの日程は
秋春制のウィンターブレイクと全く同じか。
答えはNOである。
今回調べた中で
Jリーグのシーズンオフと
同じ期間のウィンターブレイクがあるのは
ロシアにウクライナスロベニア
かなり限られていて、
ほとんどのリーグは
せいぜい1ヶ月半程度。
2~3週となっているリーグは
新年休み程度ととらえていいレベルだ。
Jリーグ側は
シーズンの開始時期を徐々に早めて
秋春制のウィンターブレイクへの移行を
なし崩し的に進めようとしているふしがあるが、
現在のJリーグの日程を
秋春制のウィンターブレイクと全く同じだ」と
断言するのは
現実のウィンターブレイクの設定時期について
「何も知らない」と言っているようなものである。

 

ウィンターブレイクと「猛暑」の関係

次に
開幕時期について考えてみよう。
2018年は
W杯が7月15日まで行われていたのだが、
翌2019-20シーズンの開幕日とはあまり差がなかった。
そして秋春制のなかで
開幕が9月までずれ込むリーグはなく、
7月中旬から下旬開幕のリーグもかなり多いことがわかる。
7月下旬から8月といえば
毎年同じ時期にピークを迎える
高校野球への批判が非常に高まる時期であり、
「猛暑で選手がかわいそうだ。秋春制にしろ」と
外部の秋春制過激派が特に騒ぎ立てる時期
である。
しかし
ヨーロッパの秋春制では
日本の「猛暑」の時期も試合が行われている。
しかもよく見てみると、
秋春制における開幕時期は
長期のウィンターブレイクをとるリーグほど早まっている

ことに気づくだろう。
6週間以上のウィンターブレイクがあるリーグは
例外なく7月開幕である。
猛暑への対策という点で見るなら
秋春制」は
ラモス瑠偉氏が主張している「夏春制」のほうが現実なのであって、
秋春制で選手を猛暑から守る」
「ウィンターブレイクがあるから冬に試合はしない」は
ヨーロッパの秋春制のことを全く知らないか、
秋春制を導入させるための真っ赤な嘘のどちらかだったとわかる。

 

なぜかウィンターブレイクの代わりに消えるもの

ウィンターブレイクの話になると
しばしば垣間見えるもう一つの奇妙な点がある。
何度も言うように
彼らのなかには
「今のJ1と全く同じ日程で秋春制にできる」と
主張する人が非常に多いのだが、
これはどう見てもおかしい。
なぜなら
春秋制Jリーグと全く同じ」ということは
ヨーロッパだと6月から7月にかけて存在するはずの
シーズンオフ期間が一切消えている
ことになるからだ。
しかしこの事実に全然気づかないか、
「シーズンオフはなくていいだろ」と主張する人が
後を絶たない。
これまた
ヨーロッパの秋春制のことを全く知らない証左であり、
常々「選手のことを考えろ」を
秋春制移行の理由に掲げている強硬派が
日本国内でプレーする選手のことを
全く考えていない証左にもなっている。
彼らにとって「サッカー選手」とは
ヨーロッパ四大リーグに在籍している選手だけを
指す言葉なのかもしれないが。

 

現実から見える秋春制の前提条件

秋春制とは何なのか

ここまで見てわかるのは、
秋春制はそもそも
降雪量の多い地域で試合を行うことを想定していない

ということだ。
しかも今は
多少酷な環境でもプレーできる、
動き回るので寒さも少しは緩和される
マチュア選手のことだけではなく、
その試合を観戦する観客のこと、
そしてプロの選手に対して
それ相応の契約を結ぶチームの収益も考えなければならない。
ヨーロッパ、
そのなかでも気候、金銭ともに充実している
四大リーグへ移籍できる選手のことだけを
考えればいいというものではないのだ。
だから、
屋外でサッカーをするにはまだまだ多い
降雪地域の降雪量、
Jリーグ発足して以来
夏は確かに暑くなったが
冬の平均最高気温が30年間全く上がっていない
日本の気候のことも考えなければいけない。
AFLはどうしたと言う人もいるだろうが、
AFCのランキングが高い国の中で
春秋制がふさわしいのは
日本、韓国、中国、北朝鮮
東アジア地区のごく一部しかない。
こちらに関して言えばむしろ
今まで春秋制だったことのほうがおかしいぐらいだし、
それに対して条件の合っていない日本が
無理にでも合わせる必要もないはずだ。

またアメリカのMLS春秋制なのは
NFLとの重複期間を減らすだけではなく、
単純に
冬にサッカーを行えない地域が少なくないのも
大きな理由と考えられる。
そのNFLにしても
1月はトーナメント方式で
参加チームが次々と減っていくプレーオフ
2月にいたっては
冬でも非常に温暖な地域での
プロボウルスーパーボウルしか行わないのだ。

2019MLS日程

2019年のMLSの日程消化はこのようになっている。
10月3週目以降はプレーオフ期間。
この年のMLS
日曜か月曜の試合が多い一方で
木曜か金曜に
何チームかが代わる代わる試合を行い、
週1ではまかないきれない
試合数を補っている。

 

Jリーグ秋春制がもたらす未来とは

  • ウィンターブレイクは設けない
  • リーグのチーム数を減らし試合数も減らす
  • 複数ホームタウン制を採用する

他にもいくつかあると思うが、
秋春制にするための代表的な方策は
こんなところだろうか。

まずウィンターブレイクを設けないのは
北国、日本海側の広い範囲のチームに
致命的なダメージをもたらすだけではない。
日本には
冬でも快適にサッカー観戦できる地域はかなり少なく、
観客動員の面で大きな不安を抱えている。
さらにスタジアムの維持費も
大幅に増大する可能性が高い。
寒冷地用の芝を採用しているはずのヨーロッパでも
冬の天然芝育成は困難を極めるのか、
冬場は常にアンダーヒーティングを入れたうえで
さらにハイブリッド芝を採用するなどの対策をして
何とか芝を育成している状態である。
本州でも東京や大阪は
冬の最高気温はやや高いが
最低気温ではロンドンやパリと変わらない。
日本の広範囲にわたるであろう
この設備投資、維持費の大幅な増大に
各チームや自治体は耐えられるのか。
試合数の減少もやはり
観客動員数やスポンサー収入など
あらゆる形での収入減に直結する。
どちらの方法も
これらをはじめとした
様々な理由による収入の減少と支出の増大に
対処できるチーム以外は
全て切り捨てられるという意味であり、
先述のインスブルックやFC神楽しまねのような事態を
続出させるという意味になる。

複数ホームタウン制も
既にJリーグには
かなりの都道府県と地方都市にチームがあるのに
さらに別なチームもサポートできるスポンサーがいるのか、
もともと大きく離れた地域にいるチームを
応援するファンがつくのか、
自治体の協力や
スタジアムの確保は可能なのか、
地域密着からやや離れ
地元での試合数も大幅に減らしたチームに
現在のスポンサーが協力するのか、など
疑問点が山積みである。
しかもこれまた
資金力があり全国へも展開しやすいチームより
地域密着を謳うかわりに全国区とまでは言えない
地方のチームのほうが不利で、
せっかくの制度を活用しようがないチームのほうが
多いのではなかろうか。

つまり秋春制とは
降雪地域に限らず
有り余る資金力と体力までは持っていない
全てのチームの切り捨てに他ならない
のだ。
どの方法を採用しても
秋春制からは
各チームの大幅な減収しか見込めない。
そのため
チームの収入が大きく減り、
さらにヨーロッパへの移籍選手を大量に送り出しても
まだ多くの日本代表選手を輩出し
ACLへ毎年出場できるだけの
資金が豊富なトップチーム以外は切り捨てる
ことになる。
大物外国人選手や
出戻りする日本人選手との契約が増えると言う人もいるが、
彼らの力に見合うだけの契約ができる資金を持つチームを
できるだけ減らそうというのが秋春制なのに
どこからそんなチームを捻出しろと言うつもりなのか。
それに
いくら資金力の豊富なチームであっても
1つのチームで契約し出場させられる選手の数には
限りがある。
この主張は
Jリーグのトータルで見ると
まずありえない空論である。
もっとも
「日本人選手に対して
相応の契約ができる国内のチームも金も減れば
それだけ海外へ移籍する選手が増えるかも」と考えると
秋春制強硬派にとっては
まさに狙い通りなのかもしれないが。

 

それでも秋春制を了承させる二つの手段

逆に考えると、
Jリーグやサッカー協会が
各チームに秋春制を了承させる方法も
この一点に集約されることになる。
すなわち
様々な要因による各チームの大幅な減収を
Jリーグの放映権料増加と
増加した収益の各チームへの分配によって
毎年全て補填が可能だと、
全チームに対して保証し実行することである。
当然ながら
Jリーグ側の経営が行き詰っては
これまた何の意味もないので、
特に秋春制過激派が主張するような
ルヴァンカップ等の廃止・縮小が行われる場合は
それらによるJリーグ側の減収が補填されたうえで
分配を行わなければならない。
現実には
ルヴァンカップの範囲拡大をはかっている時点で
Jリーグにもそんな余裕があるのかは
はなはだ疑問なのだが。

ただ
DAZNとの契約に関する報道を見ると、
現在J3に在籍するチームに対しては
既に「自助努力」に任せ切り捨てる方向へ
舵を切ったように思える。
であるならばいっそのこと、
外部の秋春制過激派がしばしばもらしている本音を、
秋春制を内部から推進している
協会とJリーグも共有してしまい公表してはどうだろう。
つまり
「ヨーロッパの四大リーグに移籍できる選手と
日本代表クラスの選手と契約し続けられる
資金力のあるチーム以外は、
日本代表の足しにならないから必要ないし
潰れるなら勝手につぶれてくれ。
それでも
サッカーをしたければ、チームを持ちたければ
自己責任でどうぞ」と
明言してしまい、
そのうえですみやかに秋春制を強硬することだ。
世間はなんやかんやで
自分が住んでいる地域以外の地方都市を
全て田舎の過疎地と切り捨てるし、
他人に対しては自己犠牲を強要し
「自己責任」「自助努力」を求めるのが大好き。
自分以外の日本人が
日本国内で自分よりも多くの収入を
「たかがサッカー*9」で得ることも大嫌いだ。
そして
反対するチームやサポーターらを
既得権益」「抵抗勢力」「野党」などと断じてしまえば、
今は地方切り捨てに反対している人たちも
一部の熱心なJリーグファン、サポーター以外は
手のひらを返して賛成に回ることだろう。

*1:かなり話題になった一例

*2:JFAの田嶋会長やJリーグの野々村チェアマンをはじめとした内部から推進・交渉している人たちはこちらに分類している

*3:強硬な過激派の主張は基本的に「俺の言う通りにさっさとやれ」だが、かなり大雑把に分けると「誰がどれだけ不利益をこうむろうと知ったことではない」タイプと「ただ移行しただけでも最上位から末端まで共存共栄できるはずだ」タイプがいる。なぜかどちらも兼ねている人も多い

*4:イタリア、ドイツ、チェコオーストリアスロベニア

*5:フィンランド、日本、ノルウェースウェーデン

*6:長野オリンピックで使用された白馬ジャンプ台から東京までの距離とほぼ同じ

*7:参考。ヨーロッパの降雪量が記されているサイトが他に確認できず、比較対象である日本などもあえて同じサイトを用いた

*8:2001年にも経営破綻、再建している

*9:「サッカー」の部分は他のスポーツ、職業に置き換えても成り立つ