今年はW杯の関係で
例年よりも早く開幕したJリーグ。
そんなJリーグは先日、
次期チェアマンに秋春制推進派の野々村氏が就任すると発表した。
また最近偶然見かけた記事では
「Jリーグの本来あるべき姿」という文言があったが、
どうもW杯とは関係なく
「秋春制こそがサッカーのあるべき姿」という主張が
見え隠れしているように感じられた。
これらの状況からは
Jリーグの内外ともに
何とかしてJリーグを秋春制にしたい人たちが
かなり攻勢をかけている様子がうかがえる。
ただヨーロッパのサッカーだけを見て
秋春制を主張するのはどうなんだろうか。
第三者の視点から見ると
秋春制を主張するのであればこそ
サッカー以外にも見るべきスポーツがあるように見えるのだ。
秋春制を推すからこそ見てほしいスポーツ
毛嫌いせず見てほしいスポーツイベント
2022年のJリーグが開幕した2月中旬時点で言うと、
見ておかなければならなかったのは
北京オリンピックだ。
ただしオリンピックでも
スケートやカーリング、そり競技は
別に見なくてもいい。
観戦必須だったのは
スキージャンプ、クロスカントリーなどの
ノルディック競技だ。
とはいっても
元々北京周辺は雪が多くなく
人工降雪に頼る競技運営になっていたため、
「やっぱり雪なんて秋春制には関係ねえよ」
と言い出す人が大半ではないかと思う。
また近年は
ノルディックやアルペン競技が開催されるヨーロッパも
深刻な雪不足のため
人工降雪が用いられることは珍しくない。
しかし
そんな北京の雪不足の裏で
今年大雪に見舞われ、
2007年2月から3月にかけては
ノルディックスキー世界選手権が開催された日本の都市がある。
札幌だ。
2007年に行われた冬のスポーツイベント
この札幌の地図を見ると
実にとんでもない地域であることがわかる。
クロスカントリーのメイン会場だった
白旗山競技場は
北海道コンサドーレ札幌のホームである札幌ドームから
約6.5kmの距離にある。
また野球ファンだとわかると思うが
高校野球の(南)北海道大会が行われる円山球場。
この球場と
ラージヒルの会場であり毎年W杯も開催されている
大倉山ジャンプ競技場とは
直線距離だと1.2km程度しか離れていない。
そしてもう一つ、
一部のクロスカントリー系競技が行われたのは
ほかならぬ札幌ドームである。
このように
よほどの暖冬じゃなければ
人工降雪の必要もなく
住宅街からほとんど離れていない場所で
スキー競技が行えるほどの大雪に見舞われる地域、
それが札幌なのだ。
そして以前にも説明した通り、
日本という国は
日本海側を中心に
札幌ほどではないにせよ
降雪量の多い地域が広範囲に広がっている。
たとえ具体的な降雪量を知らなくとも、
このようなウィンタースポーツを見ていれば
日本の降雪量が
サッカーで秋春制を採用しているヨーロッパの国々とは
比較にならない量であることがわかるのだ。
しかも上述のとおり
ノルディック世界選手権は2月から3月にかけて開催された。
つまり
「12月末と1月をウィンターブレイクにするから問題ない」という
秋春制推進論者の主張は通用しないのである。
ヨーロッパで参考になるサッカーリーグとは
秋春制推進論者が参考にすべきリーグはどこか
逆に
秋春制推進側の視点に立って考える場合、
Jリーグはどこの秋春制リーグを参考にすべきなのだろうか。
偏見かもしれないが
推進している日本人は
ドイツを参考にしている人が多いように見える。
しかしこの冬の状況を見た場合、
ドイツはさほど参考にはならないようだ。
ドイツで
W杯やノルディック世界選手権がよく開催されるのは
オーベルストドルフだが、
ここには
2021年時点で日本人選手*1も在籍する
サッカーチームがあるものの
リーグ自体は六部か七部あたりに相当しており
ウィンターブレイクが明けるのは3月後半。
トップリーグの秋春制には参考にできない。
他の世界選手権開催地も
イタリアやフランスは
サッカーのトップリーグチームがない地域で、
北欧はすべて春秋制だ。
そうなると残っている秋春制の国はたった一つしかない。
チェコである。
札幌の次にあたる2009年に開催されたリベレツには
一部リーグにあたるフォルトゥナ・リガに所属し
現在のチェコ一部リーグになってから
二部に下がったことが一度もない
スロヴァン・リベレツがある。
残念なお知らせ
ただし
Jリーグが参考にする場合、
いくつか問題点はある。
まずリーグのレベル。
スタジアムの規模は
J1の最低基準よりも小さいところが多く、
国による経済事情の違いがあるとはいえ
年俸も日本よりかなり少ないようだ。
なのでリーグのプレーのレベルはわからないが
経営規模でいけば
日本よりかなり低いように見える。
そしてウィンターブレイク。
2017/18シーズンまでは
12月第2週から翌年2月中旬までと
去年から今年のJリーグとほぼ同じ休止期間だったものの、
2018/19シーズンからは
休止期間に入るのがドイツと同じ12月末、
再開は
1月後半のブンデスリーガよりは遅いが
2月の第2週となり、
どこのリーグも早く始まっている今年は
2月第1週からである。
ブンデスリーガや
ウィンターブレイクがないヨーロッパリーグを
参考にされるよりはましとはいえ、
チェコを参考にしても
冬の休止期間は
現在のJリーグよりは大幅に縮まるのは確実。
こうした傾向を見ると、
Jリーグの2月開幕も
秋春制移行へのテストを兼ねているのではないかと
うがった見方もできてしまう。
もし現在と同じかそれ以上の期間の
ウィンターブレイクを設けると言っている人がいたら、
最初からそんな長期のブレイクを設けさせる気などないが
秋春制に賛同させるための方便にすぎないか、
日程消化などを全く考えずに
楽観的な想像をしているかのどちらかだろう。
ウィンターブレイクの現実
なぜこんなことになっているのか。
これはひとえに降雪量の問題である。
Weather Sparkに掲載されていた
1980~2016年の2月の降雪量を見てみよう。
ただ数値の出し方がいまいちよくわからないのと、
収集されたデータの時期が違うため
気象庁の統計などとは数値が異なる*2点は注意したい。
チェコはドイツに比べて雪が多く、
その中でもリベレツはやはり多い部類になっている。
ドイツでは
ミュンヘンがかなり雪の多い地帯のようだ。
ドルトムントはデータがなかった。
一方の日本は
新潟市でリベレツとミュンヘンの中間。
そして
札幌と天童が
ヨーロッパとは桁違いの降雪量を記録していることがわかる。
正直なところを言わせてもらうと、
野々村氏は
自分がずっとかかわってきた地域の降雪量のすごさについて、
自分がずっといたがゆえに
かえって感覚が麻痺しているようにも見える。
ドイツとチェコの例からはもう一つわかることがある。
ヨーロッパ*3のウィンターブレイクの期間は
リーグが行われる都市の中での最大降雪量に比例する
ということだ。
そして
想定されるウィンターブレイクが長くなりすぎて
日程消化などが追い付かない場合は春秋制を採用する。
こういう流れになっている。
…なんだか野球場の天然芝・人工芝の話と似ているな。
このように見ると、
推進論者が
本当にウィンターブレイクを設ける気があるかはともかくとしても
ヨーロッパ程度のウィンターブレイクでは
チェコぐらいの期間でも無謀に見える。
しかもミュンヘンなどでは
非常に金をかけた雪対策をとっていると聞く。
Jリーグが秋春制に移行した場合
そのミュンヘン並かそれ以上の雪対策が
必須になるチームが続出するわけだが、
その恒常的な資金はどこから捻出し続けるのか。
「自分は暖房を聞かせた部屋の中で中継を見るから
寒かろうと何だろうと知ったことか。
雪で試合ができない? 甘ったれるな」
で済む問題ではないのである。
他のスポーツを改革の参考にすること
秋春制を要求するなら見るほうがいいのでは
と思うスポーツは他にもある。
というか冬の屋外で行われるスポーツは
全て参考資料になると考えるべきではないだろうか。
今回取り上げた2007年はノルディック世界選手権は
観客動員数がまるで伸びなかったという。
同様に
最近開幕したラグビーのリーグワン。
こちらも冬のこの時期に
企業による動員なしで観客をどこまで集められるのか。
日本国内でも
冬の屋外で薄着で過ごしている白人を時折見かけるが、
日本人はヨーロッパのような
冬の屋外でのスポーツ観戦をしたがるのか。
耐えられるのか。
雪対策、寒さ対策をする資金を確保するという意味でも
この点は絶対に見ておきたいポイントだろう。
サッカー至上主義的な人たちは一番嫌がるかもしれないが
野球も見るべきだろう。
ただし見たほうがいいのは
日本ではなくMLBでもなくマイナーリーグ。
というのもMLBでは
ドラフトが卒業シーズンと同じ6月に行われるため
新人選手の契約とマイナー選手の自由契約が
シーズン中にも多数行われることになる。
この点に関しては
日本はすでにBリーグという先駆者がいるが、
日本の春秋制の学期とどう折り合いをつけるかについては
参考にできる点もあるのではないだろうか。
今回はサッカーの話だが、
何らかの改革の主張をする際に
他のスポーツやリーグも参考にすることは非常に重要である。
中には
「Jリーグを参考にしたプロ野球16球団」のような
奇妙としか言いようがない主張もよくあるけども、
このような他のスポーツを見ながら
日本の根本的な環境の違いを見直すことも必要ではないだろうか。