スポーツのあなぐら

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ファーム新球団本拠地に求められている条件は何か

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※7月18日、エイジェックの参加表明をうけて更新

 

4月17日に第一回が、
5月22日に第二回の説明会が行われた
「NPBファーム・リーグ拡大」。 説明会では
この構想が発表された当初から
静岡をホームとする参入を表明していたハヤテグループや
今までにもNPB参入の意志があるとされてきた
新潟、栃木、熊本などが参加し、
7月中旬時点では
栃木のエイジェックが参入申請を表明したほか、
熊本の火の国サラマンダーズが
条件を満たした場合に参入を申請するという。

一方で
この流れがそのまま「16球団構想」実現につながることを
期待する人もいれば、
同じ静岡でも
従来「16球団」の本拠地として期待されていた草薙球場ではなく
清水庵原球場を本拠地とすることに
疑問符をつける人も少なくない。
今回は
この本拠地球場に焦点を絞り、
二軍の新規参入チームに求められている条件を
考えてみようと思う。

 

イースタンリーグ

さて
ファーム新球団の本拠地に関しては
「新球団」の最近の前例はないものの
「新球場」のほうで
いくつか移転計画が持ち上がっている。
それらの移転計画から
新球団本拠地が求められている条件を
推察することが可能だろう。

まずはイースタンリーグ
イースタンリーグでは
新球団候補本拠地とされる清水庵原球場のほかに、
スワローズが
これまでのヤクルト戸田球場から
茨城県守谷市へ移転する計画が持ち上がり、
調整が行われている。

移転場所はこの常総運動公園の南側。
公園そのものを南にリニューアルし、
スワローズの球場、屋内練習場、クラブハウスなどに加えて
一般市民用のスペースも用意されるようだ。
この球場、
つくばエクスプレスなどの守谷駅から遠く
集客はあまり考えられていない立地と言える。
観客は臨時バスなどで移動することになるのだろう。

重視されているのはもう一つのバス移動、
つまり選手、スタッフの移動*1である。
報道でも主な理由として挙げられていたが
東にある守谷サービスエリア
反対側の上りも3~4km程度、
車なら10分程度と遠くない。
このSAがスマートインターチェンジ化すれば
利便性が一気に増し、
神宮球場への移動だけではなく
他のイースタン本拠地への遠征にも
使いやすい場所になるのだ。

この利点は
現在のヤクルト戸田球場も同じ。
観戦に行く我々観客にとっては
同じ武蔵浦和駅を利用することになる
ロッテ浦和球場に比べ
はるかに不便な場所なのだが、
チームにとっては
美女木ジャンクション周辺にある
高速のインターを使い分けられる、
選手などの移動には便利な場所となっている。
またすぐ近くに
二軍の新球場が作られているジャイアンツ球場も
稲城ICまで車で10分程度。
仙台以外の二軍が全て南関東にある
イースタンリーグでは、
バス移動の利便性は
かなり重大なポイントに位置付けられていると
考えられる。

 

清水庵原球場

この一連の流れを踏まえると
静岡での新球団候補地が
草薙球場ではなく清水庵原球場なのも
理解しやすくなる。
草薙球場東名高速から遠くはないが
清水庵原球場のほうが東にあり、
しかも北東にある清水いはらICがかなり近い。
また新球団は独立したチームなので
一軍のあるチームよりも
観客動員に力を入れなければならないのだが、
だからといって
常時1万人以上、最大2万人近い観客が
二軍戦で入るようになるのは考えづらいし
そこまで集める必要性もない。
清水庵原の計算式はいまいちわかりづらいが、
考えうる最大値で計算しても
使用料は草薙*2より清水庵原*3のほうがはるかに安い。
土日祝日に
内野固定席の4,000人を埋められるかが
現実的な目標値となるだろう。

 

栃木県総合運動公園野球場

7月に参入申請を行うことを表明した
エイジェックがホームとするのは
栃木県総合運動公園野球場だ。

同じ宇都宮市内でも
30,000人収容の清原球場でなく
最大15,000人強のこちらを用いるのは、
これまでとりあげた交通の便の良さや
宇都宮市の都市圏人口の活用が大きな理由だろう。
南にある壬生ICからは約10km、20分と
少し離れているものの、
それでも清原球場に比べれば
他地域とのバス移動のアクセスが良く、
松山や那覇どころか
静岡、新潟以上の都市圏人口を抱えている宇都宮は
AAAからAAクラスのマイナーリーグ本拠地*4として
優秀である。

その一方で
栃木ゴールデンブレーブスのホームである
小山運動公園野球場を使わないのは、
球場、都市圏などのキャパシティだけではなく
別な理由も考えられる。
日本では
新潟や松山での新球団の話題が出るたびに
既存のアルビレックスやマンダリンパイレーツを
そっくりそのまま参入させるかわりに
独立リーグへの参加を解消させようとしたり、
四国全体で1チームを作らせるかわりに
アイランドリーグ自体を解散させようというような、
「球団数を増やせ」と主張しているにもかかわらず
プロを名乗る野球チームを
1都道府県ないし1地方に1チームまでと限定させようとする人が
異常に多い
しかしエイジェックは
二軍新球団とゴールデンブレーブスと社会人のエイジェック、
これらを全て共存させるつもりなのではないか。
公式に意思表示はされていないので
実際にどうなるかはわからないが、
このような意識の表れともとらえられなくはないだろう。

 

その他のイースタン候補地では

考えられる他の地域で注目したいのが新潟。
HARD OFF ECOスタジアムは
新潟亀田ICと新潟中央ICが近いため
バスでの遠征が比較的容易で、
老朽化が激しいものの
その北にある鳥屋野運動公園野球場も
やはり新潟中央ICがあるため悪くない。
また新潟市内のこの2球場のアクセスは
アメリカ基準だとマイナーリーグのAA並で、
一軍レベルの観客数を動員するには厳しいものの
平均数千人、最大1万人程度までなら
そこまで問題とはならないはず。
つまり新潟市
一軍本拠地としてはあまり適さない都市だが
二軍のマイナーリーグ化を見据えた
ファームの本拠地としては
かなり適した都市
と言えるのだ。
エコスタだと立派すぎて使用料の問題が生じるなら
都市圏人口20万人台と
AAと比較してもかなり下の部類にはなる

関東からの所要時間も短い
長岡・悠久山や三条・パール金属
ホームとすることも視野に入るだろうか。

 

ウエスタンリーグ

ウエスタンリーグ
イースタンリーグと似たような条件が求められるが、
イースタンには必要なくとも
エスタンには必要な条件も存在する。

 

小田南公園とタマホームスタジアム筑後

公園内を全面的に改築・改装したのち
タイガースが鳴尾浜から移転するという
小田南公園。
大物駅が近いため
鳴尾浜よりもかなり観戦しやすい場所になるが、
尼崎東、尼崎西、尼崎の各ICが
そんなに離れていないので
選手などがバス移動する際にも
それなりに使いやすい。

ホークスのファーム本拠地である
タマホームスタジアム筑後
八女ICからは6km程度離れているが、
普段の交通量が多くないのか
所要時間は小田南とあまり変わらないようだ。
最寄の筑後船小屋駅
新幹線の停車駅でもあるため、
遠征の利便性は非常に高い。

 

二軍とマイナーリーグのバス移動

イースタンリーグだとそれほどでもないが
ウエスタンリーグでは重い課題となるポイント。
それは遠征時の移動距離だ。
三軍がバス移動であることが知られている
ホークスのファームが
新幹線停車駅のそばにあるのは意味深である。
実際、
ウエスタンリーグ最長となる
筑後―名古屋間の移動距離は
高速道路を使用しても804kmに達する。
イースタンリーグ最長の
仙台―横須賀間436kmは
筑後鳴尾浜の674.1kmどころか
名古屋―由宇間の543kmにも及ばず、
新球団が清水庵原に作られた場合の
仙台―清水庵原間537.5kmで
ようやくこのラインに近づく程度である。
横須賀―新潟間も365km止まりだ。
このことから
特に中国地方と九州がかなり広いことがわかる。
イースタンは仙台までなので
遠いことは遠いが
エスタンの西側と東側とに比べれば
そこまででもないわけだ。
これだけの距離を移動するとなると
当然かなりの時間がかかるため
選手・スタッフの疲労も非常に大きい。
ウエスタンリーグの新球団は、
この移動時間を少しでも緩和できる場所、
つまり新幹線などの鉄道路線が使いやすい場所にあることも
イースタン以上に重要なポイントとなる。

ところで日本では、
このような二軍の遠征と移動に対し
「全米を長時間バスで移動してるマイナーリーグに比べて
日本のプロ野球選手は甘すぎる。
だからハングリー精神が足らず選手が育たないんだ」と
もうかれこれ2、30年叩かれ続けている。
試合後に移動を始めても翌日には試合をしている時点で
車で横断するのに何日もかかる広大なアメリカ全土を
全てバスで移動することはありえないわけで、
移動距離が長いAAAでは
日本の一軍と同じ空路の一般搭乗を使うことも多いのだが
AA以下になると
空路が使用されることはまずない。
そのかわり
この場合の移動は
試合後にバスで出発したあとも翌日の試合に間に合う距離で
なければならないはずだ。

MiLB距離

AA、High-A、Short-Aの最長と最短を調べると
たしかにマイナーリーグでは
バスで移動するリーグでも最短で100~200km、
最長となると
1,000どころか1500km弱に達するリーグもある。

 

二軍とマイナーリーグの真の移動距離

だが、アメリカとの距離の比較だけを見て
「日本のほうがはるかに楽だ」とは言えない。
なぜなら
アメリカのハイウェイの制限速度は、
州によって違うがキロに換算して
100km/h以上から約120、130km/hも珍しくない。
それに対し日本の高速道路は
制限速度が概ね80~100km/h、
東京や関西では50km/hや60km/h止まりのことも多い。
つまり同じ距離でも所要時間がまるで違うからだ。

MiLB距離・時間

なので
トイレなどの休憩を挟まない所要時間を
検索するとこうなる。
所要時間は
検索した時間の混雑、通行止めなどで変わるので
あくまで参考として見ていただきたい。
それでもこのキロ数と時間を見ると
明らかに平均時速が100km/hを超えているのがわかるだろう。
ちなみに
Texas League最長の1324.8km、13時間01分は
東京・バスタ新宿博多駅間最短の1088kmよりも
所要時間が10分ほど短く、
その1088kmより13km短いだけの
Eastern League最長の1075kmにかかる時間が
3時間弱も少なくなっている。
South Atlantic League最長の13時間46分は
中央自動車道を使用し
長距離夜行バス最長距離をほこっていた当時の
「キング・オブ・深夜バス」ことはかた号
休憩・乗降なしでかかる所要時間とほぼ同じ。
高速道路を使用した日本の1134kmは
アメリカの1472kmに匹敵する時間を要する
のである。

 

マイナーリーグから考える日本のバス移動の現実

ウエスタンリーグの移動時間を見るとこうなる。

ウエスタンバス時間

極端に離れている
Texas LeagueやSouth Atlantic Leagueにこそ及ばないが、
筑後と名古屋間の所要時間は
マイナーリーグの中でも
なかなかの長さに達していることがわかる。
当然ながら途中で休憩時間も必要になるから、
実際にかかる時間は日米ともにもっと長くなる。

これだけの移動をしなければならない
日本のウエスタンリーグで、
「バスで移動しないのは甘えだ」と
どう捻じ曲がればそう言えるのだろうか。
そもそもアメリカは
地方都市から地方都市へ人を運ぶ鉄道路線
あまり整備されておらず、
空港は都市ごとに設けられているが
路線は日本の地方空港と似ていて、
各都市と巨大都市を結ぶ路線は
1日~数日に1便出ていても
地方都市同士を結ぶ路線はほとんどない。
単に
バス・車以外の移動手段がほぼないマイナーリーグと、
他にいくつも移動手段があるのに
外部の人間が
「ハングリー精神を養うため」と称して
わざと過酷な手段をとらせようとする日本とでは
長距離バス移動の意味が全く異なるのである。
ブラック企業の新人研修か*5

イースタンバス移動

イースタンリーグ
現状唯一離れている仙台と関東の移動が
そこそこの時間になっている。
南関東のほうは過酷とは言えないが、
信号や渋滞に阻まれるためか
30kmに満たない行程でも
100km超のマイナーリーグより時間がかかる計算だ。
信号のない首都高速を使う場合は案外早いが、
イースタンにはイースタン
ただ地図を眺めただけではわからない苦労*6があるようだ。
まあウエスタンには
カープのような
ホームでの試合や練習のたびに
大野寮から由宇まで片道1時間かけて通うチームも
あるわけではあるが…。

イースタン新球団候補バス移動

イースタン新球団本拠地候補となる
清水庵原とエコスタはこう。
さすがに清水庵原と仙台は時間がかかり
新潟もそこそこの時間になっているが、
それでもホークスとカープの遠征のほうが厳しいのが
中国地方と九州の恐ろしいところだ。
東北道には100km/hや120km/h区間があるのも大きいか。
また静岡県
ドラゴンズの準地元のような扱いになっているため
静岡はウエスタンじゃないのかと
言う人も少なくなかったが、
静岡県はそもそも東西に広い県なだけに
静岡市あたりだと
神奈川の東にある横須賀のほうが
名古屋よりも近くなる。

 

エスタン候補地

参入への応募の意思を既に示している
火の国サラマンダーズは
主にリブワーク藤崎台球場を使用している。
熊本県内は硬式野球に使える球場が多くなく、
収容人数が
独立リーグやファームには過剰にも思えるが
選手と観客、どちらの交通の便を考えても
現時点だとこの球場がメインとなる。
そして選手・スタッフの移動問題は
傍から見るとかなり厄介に見える。

熊本バス移動

現在は基本的に九州の中で済んでいるが、
二軍に参入するとなれば
最低でも名古屋までの長距離移動が必要。
これがバスでの移動だと
名古屋遠征のたびに
休憩時間なしでも11時間弱を
移動に費やすことになる。
大阪や尼崎も
休憩時間なしで約9時間。
つまりこれらの遠征では
毎回1人あたり片道約2万円を支払って新幹線に乗せるか、
バスで毎回過酷な移動をさせるかの
二択を迫られるわけだ。
一軍を持っておらず
できるだけ支出を抑えたいであろうチームが
どういう選択をするか。

この視点でいくと
陸路の移動手段がバスか本数の少ない特急に限られる四国も
やや遠征しづらい地域になっている。

四国バス移動

ホークスの三軍にとっては
これでも近畿、名古屋よりまし*7
名古屋からのバス移動も
由宇、タマスタよりはましなわけだが、
バスと鉄道で移動時間が1時間も違わない、
空路以外はどちらもそこそこ長時間になるのが問題だ。
ホークス三軍が
二軍公式戦のような小刻みの遠征をしないのは
この移動の過酷さも理由の一つではなかろうか。
日本海リーグの所属チーム数が減った富山、石川は
筑後からの距離・時間が名古屋以上に遠く
互いの遠征がさらにつらいことになる。
地域だけを見るなら
参入チーム、他のウエスタンリーグ所属チーム双方にとって
win-winになりそうなのは山陽地方
岡山や福山あたりと思われるが、
2チーム以上作る必要がないなら
経験と意志のある熊本で充分とも言える。

*1:あとは用具のトラック移動も

*2:終日867,300円

*3:終日376,500円。25,100×5×3

*4:AA本拠地30都市の都市圏人口は2010年時点の中央値が537,434人。500万人以上が4都市、200万人台1都市、30万人未満は5都市

*5:もっともマイナーリーグ自体にもブラック企業、特に日本で言う「やりがい搾取」がかなり強く、2021年にこれを是正するためリーグ、チーム数の削減が行われている

*6:同様の批判はプロに対してだけではなく、神宮第二球場が使えなくなった直後の東都大学野球二部に対しても強く見られた

*7:四国の西側はフェリー使用のほうが短い