スポーツのあなぐら

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2023年WBCと芝に関するお話

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WBCと天然芝の現実

WBC日本代表が戦う天然芝球場の数

2017年以来6年ぶりに始まったWBC
ところで
「今大会の日本代表は天然芝で何試合を戦うか」。
このように聞かれたら
日本人は何と答えるだろうか。
球場などにも本当に興味がある人は
すぐに正解がおわかりかと思うが、
そうでもない場合だと
「日本は必ず決勝トーナメントに行けるはずだから
アメリカでの2試合に決まってるだろ」
「決勝トーナメントに出場できるか
一応はまだわからないはずなのに
なぜそんなことがわかるんだ。
まさか日本は敗退するから0試合だとでも言うつもりか、
この非国民が」
だいたい
このどちらかを答える人が多いのではないだろうか。

しかし答えは「0」である。
日本代表が天然芝球場で試合をすることはない。
なぜなら
今大会で日本が試合をする可能性がある
東京ドームとLoanDepot Parkは
どちらも人工芝だから
だ。

 

2023年WBCにおける芝

それだけではない。
2023年のWBC本戦は
台湾でのプールA以外全て人工芝球場で行われる。

2023WBC本戦球場

開催地が4ヶ所と少ないこともあるが、
今大会では
日本とアメリカで使用する球場が
屋根のついた人工芝となっている。
ローンデポ・パークの日本語版ウィキペディア
「天然芝」と表記している*1ためもあってか
日本では
決勝トーナメントで使用されるこの球場を
天然芝と勘違いしている人も少なくないのだが、
実際は人工芝だ。

 

過去のWBCにおける天然芝と人工芝の比率

ところで、
WBCで人工芝の球場を使用してきたのは
日本の天然芝至上主義者、人工芝アンチが言うように
日本だけだったのだろうか。

WBC本戦開催球場一覧

これまでWBC本戦が行われた7ヶ国のうち、
天然芝球場が使用されたのは
アメリカ合衆国(50州)と台湾の2ヶ国しかない。
日本以外でも
プエルトリコ、メキシコ、カナダ、韓国のラウンドは
全て人工芝である。
プエルトリコとメキシコは
観客を多く入れられ
なおかつ期間中に芝の状態を維持できる球場が人工芝だった、
日本、カナダ、韓国は
全てドーム球場なので
大勢の観客を入れるには3月はやや寒すぎるのも
大きな理由かと思われる。
特に韓国は
KBO本拠地のほとんどが天然芝なのに
唯一の人工芝本拠地を使用したことになるのだ。
また言うまでもなくカナダは
MLBの本拠地である。

 

人工芝の復権と日本の天然芝至上主義

アメリカにおける人工芝への「回帰」

このように
WBCでは
アメリカ50州以外のほとんどが人工芝球場だったわけだが、
今回は
アメリカ国内でも人工芝の球場が使用されることになった。
今までにアメリカ国内の人工芝球場は
2017年の予選に使われたMCUパークだけだったのに
2023年はなぜ人工芝球場を使うのだろうか。

答えは表の中に書かれている。
Chase Fieldは2019年から、
LoanDepot Park(旧Marlins Park)は2020年から、
天然芝を人工芝に替えたからだ。
以前にも書いたが、
現在のMLB
人工芝のホーム球場は5ヶ所。
全て開閉式か密閉式の屋根がついた球場である。
今のアメリカでは
人工芝への回帰が進んでいる。
いや「回帰」ではなく
「過剰な天然芝至上主義からの脱却」が正解だろう。
何十年も前に比べれば
人工芝の質がかなり良くなったこともあって、
何が何でも天然芝にはこだわらず
どうしても芝の育成が難しければ素直に人工芝を使う、
こういう方向性にシフトしただけだ。

 

日本における天然芝至上主義者の問題点

一方日本では、
野球に限ったことではない*2
様々な環境や事情を全く無視して
何が何でも内外野総天然芝にこだわる
過剰な天然芝至上主義者が少なくない。
彼らの主張する天然芝礼賛と人工芝否定には
いくつも問題点があるのだが、
ここで指摘できる問題は
今まで
アメリカを見習って
内野外野ともに天然芝にし、人工芝を排除しろ」と
主張してきたにもかかわらず
当のアメリカで人工芝の地位が再び持ち直しても
そのことには全く関心を示さない点だ。
先述の
ローンデポ・パークのウィキペディアもいい例と言える。
この球場の天然芝が人工芝に変わってから
3年にもわたって
記述が直されていなかったのだ。

また日本人内野手の守備力の低さを
人工芝のせいと断定するむきも少なくないが、
今まで定説のように扱われてきたこの説も
改めて考えるとやや根拠に乏しい。
なぜなら
アメリカの大学や高校には
人工芝球場をホームにしているチームが少なくなく、
1A以下のマイナーチームにも
人工芝を使用しているチームがいくつかある。
その数の多さを考えると、
アメリカの内野手の守備力が
天然芝出身か人工芝出身かで
有意な差となって表れている、
そんな調査結果があっておかしくないはずである。
だが少なくとも、
日本人内野手の守備力と人工芝とを結びつける人が
そうしたデータを出しているという話は
聞いたことがない。
それに日本では
練習で酷使され枯れてしまう天然芝や
初期費用のかかる人工芝よりも、
内野どころか外野ですら土やクレー舗装にしている
高校、大学のほうがはるかに多い。
プロ野球の二軍でも
内野が人工芝なのは
12チーム中4チームにすぎない。
この点でも
内野守備力と人工芝との相関関係については
証拠不十分だと言うほかないのだ。

これを書いている時点では
2023年のWBC
どのチームが決勝トーナメントに進むかはわからない*3
ただ
日本代表が決勝トーナメントに進出した際には、
MLBにおける人工芝の現状についても
LoanDepot Parkの人工芝を眺めながら
改めて見直していく必要があるだろう。

*1:2023年3月8日時点。3月17日時点では「人工芝」と書かれている

*2:秩父宮やサッカー、ラグビーでのハイブリッド芝批判など

*3:この後日本は無事決勝トーナメント進出を決め、LoanDepot Parkを天然芝と勘違いする人が野球解説者やメディアも含めて続出した