スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

若手が使われるために最も有効な方法を教えよう

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プロ野球ではどういうわけか
「今年は最下位になってもいいから若手を使い続けろ」
と主張するファンが少なくない。
しかもこの主張は
シーズンが終盤に差し掛かり
CS出場も難しくなってからではなく
開幕前からでも頻繁に目にするものである。
そしてそんな多くのファンから
「監督・コーチが馬鹿だから我慢して若手を使わない」と
叩かれないチームはほとんどないと言っていい。
また2021年は
前半戦と後半戦でのブランク期間が長く
休止期間中の一軍ではエキシビジョンマッチが行われた。
ここでは例年のオープン戦と同様に
若手が起用が増えたこともあり、
後半戦での若手起用を求める声はさらに高まることだろう。

今回は
「若手が起用され続ける」には何が必要なのか、
私なりの見解を述べたいと思う。

 

 

若手が「使われる」最も有効で確実な方法

どうすれば「若手が使われる」ようになるか。
NPBの大半のチームに当てはまる結論を
先に言おう。
それは
「監督以下首脳陣の大半が退任すること」だ。
以下にいくつかの具体例を示す。

 

中日

D2021若手F

何人かの若手の起用法については
以前検証したことがあり、
石垣についてはこの2年間で
減少した安打数と増加した三振数がほぼ一致している点、
石橋に関しては
木下拓の存在と
伊東コーチの監督・選手時代の育成経験を応用している可能性を
示した。
また昨年の成績をもとにした分析では
一軍でのOPSは二軍のOPSより平均して.200強減少する*1
という結果が出ている。
このことを考慮すると
二軍OPSが.600台後半から.700台前半に集中している
ドラゴンズの若手が一軍スタメンで起用され続けた場合、
ほとんどの選手のOPS
根尾と同じ.400台後半~.500台前半にとどまる可能性が高く
一軍で結果が出ていない中堅・ベテランの主力よりも
成績が下回ることになる。
この結果に対して
ドラゴンズファンが本当に
「いや若手の成長のためだ。我慢しよう」と
言うのであれば一貫性はある。
しかし
長くても100~150打席までに
「贔屓起用だ。聖域だ」「二軍へ落とせ」などと
監督、首脳陣、若手自身に批判が集中するのは
根尾ですでに証明済み
しかも
1試合でもスタメンを外せば
「我慢しろ」「若手を使う覚悟が足りない」と
主張が与田監督の起用の反対へ毎日変わる
事態になっている。

 

広島

C2021若手F

これまで以上に主力の不調者が続出している
今年のカープ
そのため賄いきれなかったポジションを中心に
若手の起用が大幅に増えた。
小園、林が想定をはるかに上回る活躍を見せており
坂倉も好調を維持している。
こうして
今までのような
「若手を使わないから弱い」論が使いづらくなった代わりに
今度は、
若手が台頭しているのにもかかわらず
チームの打力が激増していないことに
不満を持つカープファンが続出。
得点力が伸びない最大の理由は
これらの若手を含めたチーム全体の長打力不足によるものなのだが、
この点が取れない理由を
盗塁、エンドランを多用しない
佐々岡監督の采配のせいと決めつけたり、
昨年までの二軍公式戦での外野出場が0試合しかない中村奨を
不慣れなレフトスタメンに固定させようとする*2など、
カープの場合も
今までこうしたファンから主張されてきた
「負けてもいいから我慢して若手を使い続けろ」とは
ほど遠い批判が繰り返されている。

 

ソフトバンク

H2021若手F

2021年は
昨年序盤に一軍を経験した三森がセカンドに定着しつつある。
また2020年は
やはり2019年に一軍出場機会を増やしていた栗原が
スタメンに定着し今年も好調を維持。
このほか
佐藤直や谷川原など
一軍での経験を積み始めている選手はかなり多い。
しかし
工藤監督や小久保ヘッドコーチなどの首脳陣が
このような形で若手を起用している事実を認める人は
ほぼ皆無と言っていい状況だ。
そんな中複雑な立ち位置に置かれているのが上林。
2019年以降不調と故障に見舞われている彼は
今年も一軍で結果を残せていないのだが、
一軍にいる間は「聖域」と叩かれ続け
二軍に下がると「なぜ一軍に上げて使わない」と
首脳陣が叩かれる事態
が発生した。
また結果を出せておらず
「高卒でなおかつ長打力のロマンがある」を満たさない若手が
一軍にいる間「聖域」扱いされる
事態は、
今年の佐藤直や柳町、昨年の三森、川瀬など
もはや日常茶飯事となっている。
また二軍でのHR、打点がリーグトップで
エキシビション中にアピールしたリチャードは
前半戦終了時点では
打点以外の数字*3
松田の一軍成績を下回っていた。

 

オリックス

これまで
「攻走守すべてに中途半端な即戦力社会人野手」ばかりが
起用されてきたと批判されたオリックス
このオリックスに関しては
過去4年間の主な外野手を見てみよう。

BsOF

試合数は各ポジションでのスタメン出場、
打席数はシーズントータルでの打席数をあらわす。
福良監督時代の2018年は
高卒4年目22歳の宗が35試合連続、
西村監督が就任した翌2019年は
さらに若い高卒2年目20歳の西浦が30試合連続で
開幕からスタメンに入っていた。
またセンターに限って言えば
坂口智隆がスタメンに定着した2008年から
13年連続で高卒選手がセンター一番手。
さらに2014年以降は7年連続で
24歳以下の高卒の若手がセンタースタメンだったが、
2020年途中から中嶋監督が就任し
「若手が抜擢されるようになった」今年は
社会人出身で29歳の福田が
センターへ回って一番手となり、
ライトは30歳でやはり社会人出身の杉本が
主砲として活躍している。

 

「若手が使われる」ことの意味を考える

「求められる『若手起用』」の二つのパターン

「監督以下首脳陣の大半が退任すること」が
なぜ必要不可欠なのかおわかりいただけるだろうか。
首脳陣が代われば若手が起用されるからではない。
現在の各チームの首脳陣がいくら若手を起用しても
「若手を我慢して使い続けろ」と主張する人たちには
若手を起用した事実が事実と認められないから
である。
現時点での例外はオリックスの中嶋監督ぐらいだろう。

主な理由は二つ。
まずは単純に
若手起用のスピードが自分が主張するような速度ではないため。
各チームのファン以上に
マチュア、海外野球中心の有識者
高卒至上主義のドラフト評論家に多く見られるタイプで、
自分が主張していた通りに
若手を一軍スタメンに固定していれば
もっと多くの若手がもっと早くに一軍で大活躍していたと
自分の目利きに絶対的な自信を持っている。
最も過激な場合だと
一軍のスタメンが
高卒1~4年目の選手で固められ
20代中盤から後半になれば
新たな若手のためにスタメンを剥奪されるか
早々にアメリカへ挑戦するのを理想*4としている。

もう一つは
「若手起用」の主張自体が
監督、首脳陣やチームへの反感のはけ口にすぎないタイプ。
この人たちは

  • 自分がお気に入りの監督・首脳陣によって
  • 自分のお気に入りの若手を使われ
  • その若手がすぐに好成績を残し
  • チームも優勝争いのトップに上昇する

これらの条件を全て満たさないと
不満が軽減されない。
それでもプロ野球
強いチームでも何十敗もするものだから、
不満が解消されることは永遠にないだろう。
番狂わせが起きやすい代わりに
負ける試合が1試合しかないトーナメント*5でも見せたほうが
平和かもしれない。

 

「若手起用」の定義とは

これらの主張が厄介なのは
「若手起用」の定義が各自で異なるうえに
非常にあいまいなことだ。
どのくらい起用されれば
「若手を抜擢した」ことになるかが一人一人異なるだけではなく
「自分が嫌いな監督の采配」を批判できるように
定義が刻一刻と変化する。
そして自分の主張の矛盾点を指摘されても
「矛盾した主張」と自分の主張とが
完全一致するとは限らないうえに
ここでまた
自分の主張が指摘された主張に合わせて転換するので、
議論にもならないばかりか
「自分」は常に完全勝利しているのだ。

そもそも「若手」の定義自体もあいまい。
普通に考えれば年齢だと思うのだが
高卒か大卒・社会人かで
若手の基準が大きくぶれたり、
いわゆるスラッガータイプかアベレージタイプかでも
大きくぶれる。
しかも
監督へのヘイト次第でどうにでも定義を変化させられるため、
昨年時点で社会人出身29歳の杉本が若手扱い、
対して
杉本に代わってスタメンに使われていた高卒の若手や
今回は載せなかったが
昨年高卒21歳の清宮幸太郎なども
「聖域」の「老害」扱いとなるのだ。
さらにオリックスの事例からは、
選手の出自という
人によって定義が変わりようのない事柄ですら
彼らにとってはあいまい
だとわかる。
使われてすぐにうまくいかなかった選手は
高卒の若手であろうと全て「中途半端な社会人」、
吉田正や杉本は(名誉)高卒と認定されていることになるからだ。

そして
彼らがよく言う「我慢」も
その内容は実に恣意的だ。
与田監督に対して
あれほど「我慢して使い続けろ」と言っていたのに
若手もチームも結果を残せないと我慢できない
反応もさることながら、
若手が結果を残しても
佐々岡監督のように
チームが好成績でなければ我慢できない。
若手もチームも結果を残したところで
昨年までの工藤監督のように
嫌われている監督ならどんな状況でもアウト。
逆に中嶋監督のように
ヘイトがそこまでたまっていない場合は、
前半戦終了時点の紅林弘太郎が
今年の中川圭太より成績が落ち込んでいても我慢できる。
バファローズの状態が上がらず
敗戦のたびにヘイトをためていたら
ここまでの評価にはならなかっただろうし、
福良監督や西村監督のままで
現在のオリックスの成績を残していたとしても
既に憎悪を集めすぎていた両監督では
やはりここまでは評価されなかったと思われる。
一軍で使われても結果を残せなかった
2019年までの杉本も
大半のオリックスファンから
「中地半端な社会人」と扱われていたのは
すっかり忘れられている。

以上が
「若手の起用」に関する考察になる。
どの点をとっても
「若手を起用しろ」のほとんどは非常に感情的なもので、
主張をしている人自身の様々な願望が
反映されているにすぎない。
そして本当にチームと若手にとって有益な起用法は
むしろ現実の起用の中に見え隠れしていることのほうが
はるかに多い。
たとえ監督や首脳陣の起用を批判するにしても
起用法やベテラン、若手を頭ごなしに否定するのではなく、
この起用法の意味を
感情にとらわれない形で理解する必要があるのである。

*1:岡田友輔「データで見るNPBのファームのかたち」『デルタ・ベースボール・リポート4』(水曜社、2021年)p.167

*2:今年は二軍で計13試合。うち前半戦終了時点では8試合

*3:打席に対するHR率も松田(一軍)3.3%、リチャード(二軍)は3.1%になる

*4:なのでNPBには完全ウェーバー制を求める一方でMLB球団によるアマチュア選手の青田買いを推奨し、2020年の田澤純一のような長くアメリカにいた高齢選手の日本復帰を特別視する傾向も強い

*5:当然ながらシングルエリミネーションに限る