スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

立浪抜擢の「裏側」を読み解く

スポンサーリンク

今年の中日のオープン戦では
3年目の根尾昂がレフトで使われることが多かった。
そんな根尾の評価が高いのか
キャンプで臨時コーチになった立浪和義氏の評価が高いのか
与田監督が嫌いだからかは定かではないが、
1試合でも根尾がスタメンから外れると
首脳陣が袋叩きに合う光景を目にするようになった。
また
ショートではなく外野で使われていることに
怒りを持つ人もいるようだ。
そんなときによく引き合いに出されるのが
高卒1年目の1988年に開幕スタメンに起用された
立浪和義その人である。
また今年は
巨人の秋広優人が開幕一軍スタメンを期待されたこともあり、
1年目の立浪の注目度が以前にもまして上がった。
しかし実際の立浪がどういう起用をされたか、
その当時の中日のチーム事情がどうなっていたかは
ほとんど明記されることがない。
今回はこのうち
この当時の中日のチーム事情を中心に
立浪起用の実情に迫っていきたいと思う。
なお立浪の起用の仕方については
以前取り上げたことがあるので
そちらも参照しながら読んでいただけるとありがたい。

 

 

立浪抜擢に関する誤解

1988年の立浪「抜擢」には
これまで全くと言っていいほど語られることのなかった
重大な誤解が存在する。
立浪起用のためセカンドにコンバートされた宇野勝
この当時、既に宇野は不動のショートではなかったことだ。

1986-87D野手

1985年にサードのモッカが引退した中日。
次に獲得した外国人は外野手のゲーリーだった。
そんな翌86年は開幕戦から
空いたサードに宇野がショートからコンバートされ
代わりには鈴木康が起用される。
谷沢がずっと入っていたファーストには
川又が起用されるようにもなっており、
世代交代を一気に進める時期に差し掛かっていた。

そして87年は
上川がチームを離れたした代わりに落合が加入。
落合がサードに入って宇野は再びショートに戻る。
上川が抜けたセカンドにはショート二番手でもあった仁村が入り、
外野とファーストも
かなり流動的な起用が行われるようになった。

1988-89D野手

88年はさらに変化。
よく知られているように
立浪が起用された代わりに宇野と仁村徹がそれぞれコンバート。
外野は大島と平野が抜けたことでこちらも大きく変化し、
中尾が外野へコンバートされたほか
ルーキーの音も使われている。

86~87年の内野とともに忘れられているのが89年。
ゲーリー、中尾がチームを去ったのも大きな違いだが
この年の誤算の一つは立浪が故障で長期戦線離脱したことだ。
そのため
宇野、落合、仁村徹をもとのポジションに戻さざるを得ないばかりか
立浪の復帰や小森の起用などに合わせて
宇野も仁村徹もサードで起用されるなど
ポジションのやりくりに四苦八苦していた。

 

見落とされている立浪起用の必要条件

これらを振り返ってみると
立浪の抜擢には
語られているようで語られない
絶対的な要素が存在していたことがわかる。
他の選手たち、
特に「若手のためにコンバートされた」としか解釈されない
宇野の万能さである。

宇野勝1986-91

外国人のポジション*1が毎年入れ替わったのにも合わせて
86年から91年までの宇野は
めまぐるしくメインポジションを代えられていた。
にもかかわらず86年以外は毎年かなりの好成績を残しており、
宇野がいなければこれらのポジションは
ただの弱点と化すところだ。
これは
セカンドとサードを往復した仁村徹
ファースト、レフト、ライトに入った川又にも同じことが言えるし
落合も移籍当初はサードとファーストを往復していた。
2000年代以降の選手でたとえると
落合監督時代前半から中盤の森野将彦が宇野に近い存在か。
彼らのユーティリティ性があったからこそ
さすがに最初の2年間は打撃で結果を残せなかった*2立浪が
打線に致命的なダメージをもたらさずに済んだのだ。

 

若手抜擢で戦力を低下させたいか否か

ここまで見た80年代後半の中日に対し
現在の中日内野陣はポジションの汎用性がやや乏しい。
ショートの京田はバッティングのやや弱い守備型なので
コンバートするポジションはなく、
高橋周平、阿部寿樹、ビシエド
バンテリンドームのパークファクター補正や
高橋、阿部の守備力を考慮すれば
簡単にスタメンから外したり
コンバートしたりできる選手ではない*3
それにこちらを外野へコンバートしたところで
今度は「石垣雅海や岡林勇希をスタメン固定しろ」と
叩かれるだけだろう。

じゃあ根尾が京田よりも打てるのかというと
「絶対に打てる」と言う人が圧倒的に多いが、
こちらもかなり疑問符がつく。
昨年打撃の調子があまり上がらなかった京田の
一軍OPSは.647。
それに対し昨年の根尾の
二軍OPSは.637。
根尾の二軍成績のほうが京田の一軍成績より下だったのだ。
開幕一軍には入ることが決定したようだが
OP戦のOPSは.595*4
とりあえずはレフトだから
立浪と違ってショート守備の負担は軽減されているのが救いか。
だが一軍で壁にぶつかったとき、
一軍でただ使い続けても
巨大な風車に突撃させて選手を破壊してしまうだけだ。
1試合の結果や日常の鬱屈した不満を
チームや首脳陣に感情的にぶつけるのを「我慢」することは
監督、コーチよりもファンにこそ必要なものである。

*1:90年がサードにバンスロー、91年はライトにライアル

*2:高卒1、2年目にそこまでの結果を強要するほうが無茶なのは言うまでもない

*3:高橋はセカンド経験はあるが

*4:なぜか若手起用の話になると都合のいい時だけ打率しか見えなくなる若手至上主義者が多いが