スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

「中村奨成、小園海斗コンバート論」の真意

スポンサーリンク

今回は
先日西尾典文氏が書いて少し話題になった
中村奨成、小園海斗のコンバート論について考察しよう。

 

育成は本当に「出遅れ」ているのか

ところで
そもそもカープの若手育成は出遅れているのだろうか。
わざわざ「出遅れ」と言うからには
「高卒2年目と3年目の若手が一軍スタメンに定着してないのは遅すぎる」
という意味なのだろう。
では、三連覇した2016~18年の主なスタメン野手が
いつごろ一軍主力になったのか見てみよう。

21 鈴木誠也、(堂林翔太*1
22 菊池涼介丸佳浩、西川龍馬
23 新井貴浩安部友裕*2
24 石原慶幸
25 田中広輔
26 會澤翼松山竜平

堂林を除く10人中高卒が4人で大卒・社会人出身は6人。
ただし23歳以下のうち菊地、西川、新井は大社出身だ。
これでも他のチーム、
たとえば育成に時間をかけることが多いホークスと比べると充分早いが、
ほとんどの「若手」が高卒である現在との違いを考慮しても
大半の選手は
「出遅れた」現在の若手よりも上の年齢で
一軍主力に成長している。
しかもすぐの一軍スタメン定着はほとんどなく
実際のスタメン定着は1年から数年後になる。
西尾氏のコンバート論は
これまでのカープとは異なる育成を要求する理由」を考えながら
読み解く必要がありそうだ。

 

1人1ポジションの原則

肝心のポジションの面でも疑問符がある。
特に引っ掛かるのは小園。
昨年後半の大半を一軍ですごした小園は今年ずっと二軍で、
一見すると出遅れた印象はありそうにも見える。
しかし田中広は来年32歳。
ショートとしてはそろそろ限界の見えてくる年齢だ。
今年は「さっさと田中広を変えろ」と叩かれていた時期に
小園の調子があまりにも悪く
起用する余地はなかったが、
終盤に成績が急上昇したことも考えると
来年・再来年なら
自力でショートのスタメンを奪うチャンスは充分ある。
なのにそんな小園をショートからコンバートする必要があるのか?

答えは韮澤雄也を一軍の聖域にしたいからである。
だがこの答えを説明する前に
もっと重要な点を説明しておかないといけない。
小園のコンバートとは
小園のショート起用の可能性を残さないという意味になる。
単に一軍のセカンド起用を見据えるなら
二軍で各ポジションの経験を積ませればいいわけで、
わざわざショートからコンバートする必要はない。
ならなぜコンバートさせるか。
それはこの人たちが若手の複数ポジションでの起用を嫌うためだ。

たとえば今年のカープの二軍では
羽月隆太郎がセカンドとサード、
中神拓都がサードとセカンド、
韮澤がセカンドとショート、
林晃汰がファーストとサードといった具合に
機会に差はあれど複数のポジションを守らせている。
小園も試合数は少ないが
ショート以外にセカンドとサードへ入っていた。
これは成長した若手の力が
衰えてきたベテランとほぼ並んだ時に
スタメンを奪わせる、
少なくとも併用できるように育成するためで
どのチームでもやっている。

しかし若手至上主義者は
「V9の『九人野球』」を理想としている人が多い。
この人たちにとって
複数ポジションでの起用は二線級のユーティリティの役目。
不動のスタメンとして成長させるべき若手の育成において
複数ポジションでの起用は絶対に許されない。
そして自分が気に入った若手は早々に二軍を卒業させて
固定されたポジションでの一軍スタメンの座を与え、
「他の若手に代えろ」と言うまで聖域にしなければならない。
これが彼らの言う「若手の育成」
なのだ。
基本的にポジションは空くものではなく
無理やり空けるものだから、
その若手以外に使わせたい選手がいない限り
コンバートさせるのは中堅かベテランだ。

 

小園の「代わり」に使いたい若手

さてそんな人が
「若手をコンバートしろ」と主張するということは
「他に使わせたい選手がいる*3」という意味になる。
これをふまえて
現在のカープの若手野手事情を確認してみよう。

C若手野手年代表

キャッチャーのほうは既に一軍実績も積んでいる坂倉がいる。
正捕手の會澤翼がいなくなっても
28歳の磯村嘉孝が二番手候補にいるから、
捕手限定では中村奨の使う場所は限られると言えなくもない。
あるいは石原貴の評価も高いので
會澤・磯村から代替わりさせてもまだ中村奨は使いにくい、
という意味なのかもしれない。

一方、ショートは田中広に代えて使えそうな選手が少ない。
三好匠や曽根はバッティングの伸びがいまいち。
桒原は二軍でも控えでの出場がほとんどで来年25歳。
こちらも考えづらい。
京田と同じ東都出身のルーキー矢野を推している可能性もなくはないが、
やはり「小園よりも使わせたい若手ショート」と
考えられるのはたった1人。
韮澤しかいないのだ。

 

カープ伝統の育成」が要求する理想の起用

そして中村奨と小園のコンバート論は
来年高卒4年目と3年目の2人を
堂林と菊池に代えて
一軍の聖域にするのも目的なのだから、
韮澤も田中広とすぐ取り換えて聖域にしたいという意味になる。
打率とファンの評価が高い羽月は外野に回すのだろうか。
ファーストは林にさせると思われるので
西川か大盛のどちらかが外れるか併用になるわけだが、
まあ2人は27、25歳なので片方は控えで充分ということか。

以上のことから
西尾氏が主張するカープの来年の基本スタメンは次のようになる。

2021C若手厨スタメン

前年の二軍成績がそのまま一軍成績になることはめったにないので
OPSはよくても.050、
普通.100~.200は下がると思っていただきたい。
カープの歴史上類を見ないほど
若さに満ち溢れている反面、
小園以外の二軍選手は三振率が高く四球は少ない。
来年は最下位覚悟のいわゆる「我慢の年」というやつか。
我慢がそのまま暗黒期にならなければいいのだが。

*1:一度定着した後24~28歳まで控えまたは二軍

*2:スタメン定着は27歳

*3:いい例が中日のショート。二言目には「(高卒の)若手を使え」とのたまう彼らが根尾昂や石川昂弥のショート起用をうるさく主張しないのは京田陽太がお気に入りだからだ