今回は過去のドラフトの中から
ドラフトの「理想的な『正攻法』」をし続けたチームが
存在しているのか、
あるならいつの時代のどのチームだったかを
検証していこう。
2008~20年の「正攻法」候補
日本ハム
1位指名に限って言えば
一番人気に特攻し
単独指名でもしっかり1位入札候補を獲りに行く日本ハムは
理想的な「正攻法」となるだろう。
全体でも残っていた高評価選手、有名選手を獲ることは多く
2008~20年のなかでは最も「正攻法」に近いチームではあると思う。
ただしそんなチームにも一つ難点がある。
高校生投手が少ないことだ。
2006・07年に結構な数の高卒投手を指名したものの、
2008~20年の支配下指名は13年で投手51人中14人(27.5%)。
全チーム中西武、ロッテに次いで3番目に少ない。
野手が高校生偏重となった
2010年以降に限定すると11人、25.6%まで減る。
1位特攻と野手の高校生偏重路線を
手放しで褒め称えていた人たちも気づいたのか
最近たまにこの点が言及されるようになった。
その評価自体は何も口にされていないが、
「投手は最低1/3以上が高校生」の教義には
思い切り反しているので
不満のほうが大きいと思われる。
ソフトバンク
ホークスも一番人気への特攻が多く
単独などの場合も全て1位入札候補を指名。
全体でも投手・野手ともに高校生の比重が高く
三軍と育成選手で選手の頭数を大量にかき集める。
ここまでは「正攻法」の極みと言っていいだろう。
しかしこのチームの場合は
上位指名が投手偏重になったことが難点となる。
2010年に山下と柳田悠岐を上位指名してから
2019年の外れ1位で佐藤を指名するまでの間、
野手の上位指名は栗原陵矢だけだった。
黄金期のためウェーバー順が序盤に来ることが多い
3巡での野手指名*1を行っていたことや
ここ4年間で1位指名野手の抽選をことごとく外したことなど
合理的な理由はいくつもあるのだが、
上位指名の「バランス」を求める評論家にとっては
不満だらけだったようで
ここ数年は主力野手高齢化の大きな要因とされている。
2019・20年は2年連続で野手2人の上位指名になっているけども
佐藤、井上、笹川吉康の人選に不満があるのか
ドラフト後の評価は高い点数になっておらず、
評判が改善されるかどうかは未知数。
ということで
2008年以降の指名に限定すると
「正攻法」の理想形とされそうなチームは
ちょっと見当たらない。
最近なら
高校生の抽選をかなり当てているロッテや中日も候補に挙がるだろうが
ロッテは今も全体での大社の比重が高めなので入らない。
中日はここ3、4年ぐらいの話なのでもうしばらく様子見。
また両チームとも
実力がまだまだ不足している20歳前後の高卒選手を
聖域にし続ける起用をあまりしないため
この点でも不満が募っていると考えられる。
1978~92年の一番人気特攻チーム
それなら1位指名が入札・抽選になった1978~92年はどうだろう。
この15年間のうち
「一番人気への特攻」が最も多いのは2チームある。
在京の強み
1つは日本ハム。
この頃の日本ハムも今ほどではないが一番人気での競合が多い。
ここは単独指名が少なく毎年のように1位抽選を行っていた。
前年に広島1位指名を拒否していた木田を翻意させたように、
「在京セ」には劣るものの
東京のチームとしてこれらに次ぐブランドを持っていたことが
抽選特攻を後押しする要因になったと思われる。
ただしこの当時のハムが「正攻法」と扱われることはまずない。
考えられる理由は三つ。
まずくじ運が良くない。
抽選は3回ひきあてているが
木田と田中富が3球団競合で中島2球団。
4球団や7球団競合にも勝っている北海道移転後と比べると
単純にインパクトが弱かった。
2つめはチームがあまり強くなかったこと。
1981、82年にリーグ優勝(後期優勝)、後期優勝を果したものの
それ以降は93年まで2位になったことがなく
3~5位を行ったり来たりする状態が続いた。
そして3つめは1位指名選手の人選。
大学生と社会人が非常に多く
高校生で入団したのは上田だけ。
のちの主力選手が大量にそろっていて
良い人選をしているように見えるが、
やはり高校生が少ないので興味が薄れたのだろう。
見たくないものには蓋を
もう1チームはここだ。
阪神である。
阪神の場合は一番人気と単独指名のどちらかを狙う傾向が強い。
しかし阪神の場合も「正攻法」と呼ばれることはありえない。
最初の2年間で江川と岡田の抽選を当てたが
以降は単独指名と抽選負けを繰り返したのもある。
だが何といっても大きい理由は
ドラフト評論が世間一般に浸透しだした1990年には
阪神が暗黒期の真っ只中だったこと。
「正攻法」をとっていたチームが暗黒期と認めるわけにはいかないし、
阪神が自分たちの主張した通りのドラフトを行っていたこと自体
30年たった今でも全く気付いていない可能性すらある。
また単独指名と外れ1位で獲得した大学生と社会人は
それなりに主力になったが、
1位指名の高校生はほとんど活躍できなかった。
唯一遠山が1、3年目に戦力*2になったものの規定投球回には達せず
活躍したという意識は薄かったと思われる。
あとは定時制高校の中込を社会人扱い*3にしておけば
「高校生を獲らず即戦力ばかり獲ったから暗黒期になった」の
イメージ作りは容易だったのだ。
全12チームの一番人気特攻数はこうなる。
抽選にやたらと強いことで知られたヤクルトは
二番人気、三番人気での勝利が多く
3球団以上の一番人気勝利は高野光と広沢克己の2回*4。
西武は阪神と同じで一番人気と単独指名への特化が際立っている。
ただ、いわゆる寝業を駆使しての単独指名狙いも多いため
大物を何が何でも獲りに行く点ではある意味「正攻法」だが
現代ではこの手法は使えない。
逆に単独指名が最も多いのはロッテ。
あまりの不人気ゆえ
人気選手には拒否される可能性が高かったのが理由だろう。
もっともこの当時は
一番人気の選手に特攻しても「正攻法」とはされない可能性がある。
3球団以上競合する高校生の一番人気が少なく、
15年間で清原、近藤、川島、松井の4人しかいないからだ。
一番人気以外の3球団競合も小野が加わるだけで
計22人中たったの5人*5。
1位候補の囲い込みや逆指名が後を絶たない時代とはいえ
かなり少ないと言っていいだろう。
「高校生の将来性」が
「ドラフト候補が成功する確率」の大きなプラス要因にされる
ドラフト評論においては、
大学生か社会人の一番人気も
「将来を見据えない各球団の頑迷さ」程度にしか
とらえられていなかった。
これは1991年の模擬ドラフトの結果からも明らかである*6。
なお今挙げた大競合の高校生5人全員に入札したチームはなく、
4人に入札したのもたった1チーム。
阪神だけだ。
理想の「正攻法」を実践したチームはここだ
あとは逆指名・自由枠制度があった
1993~2004年の統一ドラフト時代から探すしかない。
誰もが認める一番人気選手が大学生や社会人にいる場合*7は
既に争奪戦が終わった後のドラフト指名になるため、
1位競合が高校生でしか起こらず
「正攻法」「逃げ」の評価としては不完全なのだが
この期間で探すとどうだろうか。
そうやって探していくと、
5年間と短い期間ではあるけども一つ見つかった。
1位指名は競合抽選へ果敢に挑戦し
上位指名は
「高校生6:大社4」「投手5:野手5」で
評論家好みのバランス。
全体では投手・野手とも高校生が60%以上だが
他球団が「目先の即戦力」に走ったため残っていた
評論家の評価が高い選手を
リストの上から順に獲得していったような指名なので
むしろ完璧と言える。
1997~2001年の横浜だ。
あとは
逆指名制度がない今なら獲得に向かうことができる
一番人気の大卒・社会人へも特攻し、
その結果次第で
上位指名の「投手:野手」「高校生:即戦力」の「バランス」をとりつつ、
3位以下でも外部の識者によって作成されたランク付けに従って
高校生中心の指名をすれば
「正攻法」のドラフトが完成する。
大卒・社会人は評論家が「即戦力」と評価する素材型、
「適性順位」が高いのにまだ残っている選手中心になるが
「適性順位」とかけ離れていると
逆に「選手に失礼」と叩かれる*8ので注意。
高校生の多さは「正攻法」のマイナスにはならない。
特に野手は日本ハムの例から
高校15:大社2(88.2%)なら「さすがに高校生多すぎ」、
1:1(50.0%)では「大社多すぎ」、
2:1~17:3(66.7~85.0%)は「ベストバランス扱い」
と判明しているので、
大卒・社会人は
たとえば今年なら佐藤輝明、五十幡亮汰、古川裕大などの
高評価選手に限定し、
あとは「適性順位」通りに
ほぼ高校生で指名していけば「正攻法」になる*9。
投手は大社多めでもよいが
DeNAのように高校生が毎年1~2人以上程度だと叩かれる。
現在のNPB平均に近い高校生33%は
ヤクルトのような投手が払底しているチーム限定のあくまで最低ライン。
最低でも高校生50%が基本になるか。
これでドラフトにおける「理想の『正攻法』」が判明した。
全チームがこのような指名をしていけば、
少なくともドラフト後の採点において
「1位抽選を外した」以外の理由で減点されることは少なくなるだろう。
最後にもう一つ。
この「正攻法」は全チームが揃って行うことが重要だ。
理由はこちらを参照してほしい。
抜け駆け、ダメ、ゼッタイ。