これまでの抽選運と現実の結果
今年もNPBドラフト会議が無事終了。
1位入札への抽選結果に一喜一憂し、
1位指名の「逃げ」に激怒するおなじみの光景もひと段落ついたようだ。
今年のドラフト抽選について、
競合した選手別に少し考えてみよう。
早川隆久
早川に入札した4チームは
特攻すればだいたいどこかで抽選を当てる楽天、ロッテ、西武と
勝率は非常に低いが昨年奥川を引き当てたヤクルト。
この中では圧倒的にくじ運が悪いヤクルトが2連敗と
わかりやすすぎる結果になった。
というかロッテは
外れ1位入札が全て競合し全勝。
どうなってるんだこのチームの戦略と運は。
佐藤輝明
一方、佐藤に入札した4チーム。
どこもヤクルト以外の早川入札チームより明らかに運が悪いが、
中でもオリックスと巨人は悲惨。
そしてまだましな阪神とソフトバンクのうち、
直近の馬場皐輔の直接対決で勝っている阪神が
今回も勝ったわけだ。
今年の抽選はどちらも
確率通りに収束するどころか
運の格差がさらに広がる形で終わった。
単独指名
最後に単独指名の4チーム。
そこまで大競合に特攻しないのもあるだろうが
実はかなりくじ運が良い中日、
くじ運がそこまで良くはないが
大当たりは確率以上にひいている日本ハム、
ここ3年ぐらいは運がよかったものの
大瀬良の前は外れ1位以外で6連敗を喫していた広島、
抽選は一応当たっているが
〇は黒塗りされ続けている横浜。
中日と日本ハムは
運の良さを生かして指名予定選手を公言することができた。
一方の広島と横浜、特に横浜は
早川と佐藤の大競合が確定している以上、
外れ1位指名で競合しそうな選手の指名を行うのは
当然の選択肢と言える。
「外れ1位」の「作法」と現実の戦略
「1位」には格というものがあるだろう
今年のスポーツ紙や評論家によるドラフト採点で
いささか異質だったのは
西武とソフトバンクに対する評価の低さだ。
採点する人によって多少の差は出るにせよ、
基本的に
1位抽選と上位指名の結果が非常に大きなウェイトをしめ、
1位で高校生や大型野手を指名すれば
点数で上乗せされる傾向が強いドラフト採点で、
スラッガータイプとされる渡部健人と井上朋也の指名が
なぜ評価されなかったか。
その理由は単純で、
識者の中での彼らの「適性順位」が「外れ1位候補」ではなかったから。
指名選手は各チームの補強ポイントとは関係なく
それぞれの「適性順位」にそって指名されなければならず、
「適性順位」よりも高い順位で選手を指名するのは
もっと高い順位で指名されるべき他の選手を逃した、
ということになる。
だから人によっては
「個人的にこういう指名が好き」と書かれながら点数は低い
というよくわからない現象も起こる。
1位競合回避が嫌われるのもこれが理由の一つだろう。
また横浜の採点が大きく分かれるのは、
入江大生入札の「逃げ」による大きな点数マイナスに対し
「適性順位」よりも低い順番で獲れた
牧秀悟の2位指名に何点プラスするかが人によってまちまちだからだ。
「外れ1位」指名戦略に必要な視点
しかし「外れ1位」指名には
次点の1位候補を獲りに行く以外にも重大な視点がある。
チームの2位ウェーバー順までに誰が残っているかだ。
いくらチームの補強ポイントと合致している選手であっても
現実に指名する前に獲られてしまってはどうしようもない。
「2位までに残っていそう」はただの願望にすぎない*1のだ。
ではこの点に沿って
西武とソフトバンクの外れ1位指名について考えてみよう。
まず西武の視点。
大学生サードを補強ポイントとして考えた時、
見ないといけないのは
1位で佐藤輝明を入札したオリックスの動向だ。
去年大卒の勝俣翔貴を指名し
サード起用の可能性がある太田椋もいるのに
わざわざ佐藤を入札してきたのだから、
2位までに渡部を指名することは充分考えられた。
また序盤に野村佑希が故障で離脱した日本ハム、
内田靖人がもう一つ伸びてこない楽天、
宮崎敏郎の後継者を探していて渡部が地元枠になる横浜も
可能性がゼロとは断言できない。
また1位候補で残った投手は
最近急激に伸びてきた大学生が多く、
言い換えると実績には乏しい。
チームとしてはのどから手が出るほど欲しい
1年目からの即戦力かは微妙なところで、
それなら2位で残っていた選手からも選べると
考えられる。
次にソフトバンク。
こちらも西武と同じくオリックスの1・2位指名へ備えないといけないが、
井上朋也を欲しいと考えている場合
もう一つ気になるのは巨人と西武の動き。
巨人は岡本和真がいるので
ポジションの汎用性が乏しいタイプの大卒サードは
あまり考える必要がないが
岡本と6学年7歳差空いている井上なら話は変わる。
くじ運が悪すぎる巨人が即戦力投手の抽選を外し、
2位ウェーバー順が巨人より前のホークスに先んじて
サードを指名してくる可能性があった。
そして西武。
花咲徳栄高は西武の地元であるうえに
西川愛也がサードとしては厳しい状態で、
西川の後輩にあたる井上の2位指名はありうる。
また昨年・今年の指名を見る限り
ホークスのフロントは現役の若手投手の成長に
相当な自信を持っているようなので、
大社投手の上位指名は不要との判断だったと思われる。
今回は1位の抽選運と
外れ1位戦略について考察してみた。
1位指名のくじ運は平等どころか
イカサマを疑うレベルの偏りを見せてくる。
各チームの担当者は相対的に
ドラフト評論家程の豪運を持っているわけではなく
「1位競合に向かっていく」という敢闘精神で
どうにかなるものでもないから
抽選を外した時のリスクとリカバリーを常に考える必要がある。
また他のウェーバー順にも言えることだが
外れ1位以降は他のチームとの読み合いでもあるので、
主要なドラフト候補を番付順に並べ、
何も考えずその順番に沿って指名していけばいいものでもない。
最低でもこれらの要素に考えが及ばないようだと、
ドラフトというある種の「知的ゲーム」を理解することはできないのだ。