スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

ホークスから「強奪せず育成する」ことを学ぶ

スポンサーリンク

今回は表題の通り。
「強奪などせず育成で強くなった」と評判のホークスから
チームが強くなる方法を学んでいこう。

 

 

ホークスの危機の脱し方

ダイエーからソフトバンクになった後、
ホークスには危機が2回訪れている。
1回目は最下位に沈んだ2008年。
2006年までに
小久保裕紀井口資仁城島健司がチームを離れ*1
打線が機能しなくなってきたところに
投手陣・守備もかなりのマイナスとなった年だ。
次が2012年。
投手陣から和田毅杉内俊哉、ホールトンが抜け
野手も川崎宗則アメリカ行き。
ホークスはここからどうチームを建て直し
現在の圧倒的な強さを手に入れたのだろうか。

 

2008年~:打線が改善された要因

強奪基準

ホークス2008-11新戦力

まず2008~11年。
パウエルは前年戦力にならず
戦力外になっての獲得なので強奪扱いにはできない。
2008年の新戦力は若手・中堅が主体。
高卒4年目の中西、大卒1年目の大場から
高卒10年目の小椋まで幅広く使われたが
この年は結局最下位に終わった。
また2008年に使われた生え抜き選手のうち、
中西、小斉、高橋秀はこの年以外戦力にはなっていない。
小椋もこの2年後の2010年の計2年間だけ。
長谷川と大隣が成功したものの
生え抜き若手・中堅の起用は
さほどうまくいかなかったのである。

ここからのホークスは少しずつ動いた。
2009年はロッテにいたオーティズを獲得し
投手陣は摂津、ファルケンボーグの新戦力が大当たり。
この他トレードや外国人の獲得もあって
チーム状況は少しずつ改善されたものの
戦力の衰えに対して
育成だけでは追いつかないと判断したのだろう。
そして2010年オフ、
育成選手を大量指名する一方で
内川、カブレラ、細川を獲得。
2011年はこの新戦力に加えて
28歳の松田宣浩と27歳の長谷川の打撃が覚醒し
投打で圧倒しての連覇と
7年ぶりの日本一を達成した。

2012年~:出て行った人数に対して

2011年オフは
和田、杉内、ホールトン、川崎の4人が移籍してしまう。
しかし日本では
ショートが国内移籍を目指してFA宣言することがまれ。
当然この年も国内移籍を目論むショートはおらず、
ここはさすがに自前で何とかするしかない。
となると補強すべきなのは投手である。

ホークス2012-17新戦力

すぐに獲得できたのは帆足と岡島。
さらに翌年は寺原と五十嵐を獲得し、
柳田、今宮、中村など打者の台頭もあって
2013年のピタゴラス勝率は早くもリーグトップに戻る。
しかしチームは勝ち運に恵まれず4位。
そんななかでホークスはかなり積極的に動く。
再度アメリカへ向かっていた岡島を呼び戻し
外国人は他球団の投手3人と李大浩を獲得、
FAでも鶴岡と中田を獲得する
大補強を敢行した。

さて再び日本一になった2014年までの補強で
いわゆる強奪にあたるのは
結果的に出戻りとなった寺原を含めて投手6人、野手2人。
出て行ったのが4人なのに対して
明らかに人数が多い

だがこれらの「強奪」に対して
私は非難するつもりはない

ドラフトでも投手は高校生偏重指名をしてきたホークスが
12、13年は5位の笠原大芽と育成の東方伸友の2人だけで、
逆に大卒・社会人は8人を獲得。
加えて岡島と五十嵐を獲り
ほとんどがリリーフとはいえ
生え抜きの戦力も何人か成長している。
これだけ大量の新戦力を獲得し台頭させても
2014年に限って言えば
ホークスのピタゴラス勝率、投手成績はともに
オリックスに次ぐ2位。
それでも足らぬとて
松坂や和田、川崎を日本へ呼び戻し
デスパイネを補強するのもしかたないことだったのである。

 

育成は強さの先にある

ここで問題になるのは
「ホークスが『強奪』も駆使して強くなった」ことではない。
「ホークスが『強奪』も駆使して強くなった」のに
「他のチームは補強をすることすら許されない」点だ。
特に今オフの巨人は
昨年オフに外様とはいえ山口俊が、
そして今年オフは菅野智之アメリカ行き。
2年間でエース格2人が抜け
2011年オフのホークスと状況が似ているのに、
井納翔一1人を獲得しただけで袋叩きである。
2012年以降のホークスの大量の「強奪」が
擁護されているのとは正反対だ。
生え抜き投手も戸郷翔征、大江竜聖、
畠世周、中川皓太などが出てきているのだから
「育成する気がない」も否定されているはずなのにである。
野手にしても
ホークスはショートがいなくなったことに対して
ショートの穴が埋まった後に
ファースト(DH)とキャッチャーを補強しているのに、
梶谷隆幸獲得が叩かれているのもおかしな話。
「どちらも批判する」「どちらも叩かない」
これなら一貫しているのだが、
巨人は叩かれてもホークスは批判されないため
ひどい矛盾が生じている。

こういうことが起こるのは
「補強・ベテラン=悪、『強奪』=絶対悪、育成・若手=正義」の風潮が
前にもまして強くなっているからに他ならない。
巨人だけではない。
ロッテや楽天がFA選手を獲り合えばボロクソ、
中日やヤクルトのように戦力外になったベテランを獲ってもボロクソ、
ひどいときは新外国人を獲っただけでボロクソ(特にオリックス)。
特に外国人野手の場合は高確率で「育成放棄」扱いされ、
許されるのはキューバ
アジアのリーグに「外国人」枠で所属する選手*2
どちらかであることが多いように見える。
さらに
ホークスですらバレンティン獲得をボロクソに叩かれていた*3
工藤監督への日常的な「聖域」批判などから考えても、
「補強」「強奪」が全否定されるのは
現実の福岡ソフトバンクホークスも例外ではない。
「強奪」が許されているのは
「強奪」を一切せず自前の「若手」育成だけで強くなった
架空の福岡ソフトバンクホークスだけ
なのだ。
小林至教授などホークスの周りにいる人たちが必死になって
「育成だけで強くなった」偽のホークス像を作っている*4のも
こうした世間の空気があるからだろう。

一方
現実のホークスが教えてくれているのは、
育成に多額の投資をし
なおかつときには「強奪」もいとわない資金力と、
補強も駆使して生み出したチームの強さこそが
育成の最大の武器になるということ。
南海ホークスなど暗黒期のチームに見られたように
チームが弱く
その若手がチームの中ではトップクラスの力を持っていたとしても、
リーグで戦える力がないまま一軍出場し続けると
なかなか高いレベルに成長しないまま
慢性的な故障を抱えてしまったり
FA権を取得してチームを離れてしまったりする
危険性が高くなる。
逆にチームが強い場合は
適切な時期に適当な一軍出場機会を与えて慣れさせ、
リーグで1年以上戦える実力を身につけたうえで
レギュラーの地位を勝ち取らせる。
若手の育成にそれだけの猶予を与えることができるのだ。
「育成したから強い」のではない。
「強いからこそ長い目で見た育成ができる」のである。

*1:ただし小久保は2006年オフに出戻り

*2:韓国・台湾人選手だと扱いはかなり悪い

*3:ただしホークスの場合は他球団に比べてフロントよりもバレンティン、松坂ら個人を叩く風潮が強いような気がする

*4:清武英利GM時代の「育成の巨人」も同じことをやっていた