スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

「16球団構想」候補地の「必要条件」

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ここでは
プロ野球でしばしば取りざたされる「16球団構想」における
エクスパンション候補地の必要条件を考えていきたい。

 

 

プロ野球」の特殊性

この必要条件を考えるにあたって
まず知っておかなければいけないのは
プロ野球の特殊な事情である。
と言っても
プロ野球=NPB」じゃない。
プロスポーツ、スポーツイベントとしての野球が
どれだけ特殊なスポーツかという話だ。

観客動員と野球

その特殊性とは観客動員数である。
ここでは
野球はNPBMLBに加えて
アメリマイナーリーグのAAA、
おそらく全米で最大の人気をほこるアメフトのNFL
バスケットボールからNBA
サッカーは日本のJ1と
アメリカでも最近人気が高まっているMLS
さらにヨーロッパ五大リーグとされる
プレミア、ブンデスリーガセリエA
リーガ・エスパニョーラのプリメラ、リーガ1の
2019年観客動員数を出しておく。
秋春制リーグ*1は2018-19シーズンのデータだ。

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1試合あたりの動員数では
やはりというかNFLが抜きんでている。
ヨーロッパサッカーも
ブンデスリーガプレミアリーグ
かなりの数字をたたき出している。
これについてはホームの収容人数も関係していて、
ヨーロッパサッカーは
各スタジアムの収容人数に最大6~7倍の開きがあり
格差が非常に激しい。
その中で各トップリーグ
かなりの確率で動員できている。

しかしそれを考慮しても
MLBNPBは1試合あたりの動員数がかなりの数で、
それなのに主催試合数も
サッカーの3~4倍、
二番目に多いNBAよりも1.7~2倍弱と
圧倒的に多い

そのため年間の観客動員総数では
MLBNPBが圧倒しているだけじゃなく
マイナーリーグですら
イタリア、フランスのサッカーに匹敵

J1やMLSを大きく上回っている。
もちろん
「観客総数が多いから野球のほうが人気が高い」
などという話ではない。
アメフトやサッカーは試合数をあまり増やせないかわりに
1試合の価値を高めることで成り立つスポーツであり、
野球は1試合の価値を高めるのが難しいかわりに
試合数を増やすことで1試合あたりのまぎれを
多少なりとも抑えていくスポーツと言えるだろうか。
それでも野球はかなり運の要素が強い競技と聞いた記憶があるけども
出典が思い出せない。
もしかしたら記憶違いかもしれない。

 

30万人 vs. 200万人

そして
この観客動員総数を支えるのは人口である。
しかしここで勘違いしてはいけないのは
この人口とは
エクスパンションの理由にされる「野球人口」でもなければ
一都市のみの人口でもない。
都市圏の人口のことだ。

この勘違いは非常に多い。
元になったTV番組を私は見てないのだが
以前、
エクスパンションを推進している古田敦也氏が
「人口30万人程度のシンシナティにもMLBのチームがあるのだから
日本の地方都市でももっとNPBの球団は可能なはず」
と発言したという。
たしかにMLBのホームがある全28都市を見ると
人口がそこまで多くない都市も多い。

人口 都市 チーム
200~ 5 7
100~199 3 3
80~99 1 1
60~79 6 6
40~59 3 3
40未満 10 10

(人口単位:万。以下同じ)

最少はシンシナティで30万人弱。
40万人未満の都市は全部で10ヶ所もあり、
100万人を超えるのは合計8ヶ所。
日本は
30万以上なら合計72ヶ所、
60万以上ですら23ヶ所もある。
だからこれらの都市、
それも地方都市にNPB球団を増やすのは十分可能なはずだ。
これが外部の16球団賛成派の主張になる。

一方で「プロ野球の集客には200万人の人口が必要」との説もある。
ただしこれも
具体的な統計ソースなどはなく
球団関係者が語ったことにすぎないので、
外部の16球団賛成派から
「球団の努力が足りないからだ」「ナベツネのせいだ」
で片づけられるのは目に見えている。
実際
人口の少なさを理由にNPB参入への慎重姿勢を示した松山市
やはり人口を理由に
動画の中でエクスパンションを全肯定しなかった里崎智也氏などは
かなり叩かれていた。

そこで「都市圏」が用いられる。
たとえば日本ハムは人口6万人に満たない北広島市へ移転するが、
観客はその6万人からしか来ないことがありうるのか?
これまでの阪神や西武は
50万人弱の西宮や34万人の所沢からし
観客を動員できていなかったのか?
基本的な集客力を周辺の大都市圏に求めているのは自明だ。
MLBでもこの点は同じことで
一都市ではなく「都市圏」を見ないと
こうした疑問は解決しないのだ。

 

多数の観客動員を支える下地

このように
16球団構想をはじめとした
プロ野球のエクスパンションの話題で
野球人口ではなく都市圏人口の話をすると
プロ野球OBでも叩かれることが多い。
しかしプロ野球において都市圏人口はかなり重要な意味を持つ。
毎週ならまだしも
毎日試合を見に行ける人の数が
物理的・金銭的にも限られている
のは
考えればすぐわかる話ではあるのだが、
MLBよりもかなり人気がある
NFLNBAと比べると
このことがさらによくわかる。
なおアメリカの都市圏については
2010年のMetropolitan Statistical Areasを用いる。

都市圏人口 MLB NFL NBA
1000~ 4 4 4
500~999 9 7 8
300~499 8 6 5
200~299 8 8 7
150~199 1 3 2
100~149 0 3 4
99未満 0 1 0

都市圏人口200万人が前提になるのはMLBだけ
人口30万人程度と極端に少ないにも関わらず
かなりの人気をほこるグリーンベイ
さすがに例外中の例外としても
NFLNBAには
人口100万人台のホームがちらほら見られる。
しかしMLBで人口100万人台というのは
AAAの標準よりやや上程度にすぎない。
実際
インディアナポリスやラスベガス、ジャクソンビルをはじめとして
NFLまたはNBAのホームがあり
野球はAAAのホームがある都市圏は11ヶ所、
そのうち人口100万人台は8ヶ所にのぼる。
地域によって各スポーツの人気に大きな違いがある*2とはいえ、
MLBでは都市圏人口が非常に重要になっているのだ。
またこのことから
日本でもNPBと都市圏人口問題を切り離してはいけないし、
毎日試合があるプロ野球
試合が週1、2回程度のJリーグBリーグ等とを
単純に比較してはいけない
こともわかる。

 

精神論では未来のプロ野球選手を食わせていけない

この極端なまでの多売戦略と
観客動員総数の比重の高さ、
ここからくる都市圏人口の依存度の高さが
野球の大きな特徴、特殊性と考えられる。
2020年に某TV番組で
ソフトバンクのフロントでも活躍された小林至氏が
NPBでは試合が10試合できなくなっただけで
収益が全てなくなると語られていたが、
12チームで最も少ないロッテが1試合平均23,463人。
年間166万人以上が入るNPBでも
71~72試合中10試合以上潰れれば赤字。
これが「プロ野球」の難しさでもあり、
規模の大きさでもあるのだろう。

「16球団構想」にしても
そのほかのエクスパンション案にしても
NPBMLBへ日本人選手を送るための育成機関」
プロ野球は高校を卒業してもまだ野球をやりたい球児に
最低限の収入を与えてやるためのもの」
「野球で大金を得ようとするなどおこがましい*3
ぐらいに考えているなら
人口も将来の収益も何も考えず
16チームどころじゃなく
エクスパンションを急ピッチで進めてもいいだろう。
しかし現実の「16球団構想」は
新型コロナの影響でさらに道が険しくなったのもあるだろうが、
この球団経営の怖さを当然熟知しているはずの
王会長や小林氏らが
少しずつ少しずつ推進しているものだ。
現実に新球団が誕生するまでまだまだ時間がかかることも
話が出てきた当初から
当事者が述べ続けていたことである。
しかし巷では
「CS反対」や「アンチナベツネ」などの
安易かつ拙速な賛成論が非常に多い。
こうした精神論や陰謀論などに基づいた16球団構想への賛同は
むしろ実際にエクスパンションへ動いている人たちに対する
侮辱であり冒涜でしかない。

*1:NBAとヨーロッパサッカーは秋春制MLS春秋制

*2:NBAスパーズのあるサンアントニオは今年AAAが撤退した。フロリダ州なども野球人気が非常に乏しい地域として知られている。逆にサンディエゴやセントルイスのようにMLBしかない250~300万人以上の大都市圏もある。以前あったNFLチャージャーズラムズはどちらもロサンゼルスへ移転した。

*3:これには主に2パターンある。一つは「たかが野球で金をもらう? だから日本はだめなんだ」という感じの考え方、もう一つは「野球を利用して大金を稼ごうなどと卑しいことを言うな」という考え方だ。前者は稲尾和久が最初プロ入りを反対した父親に実際にこのニュアンスのことを言われたそうだ