高卒上位野手にかけられる即戦力の期待
前に2015年ドラフトを早々と振り返ってみたわけだが、
この年は4年ぶりに
平沢大河、オコエ瑠偉の2人の高校生野手が1位指名された。
甲子園でもよく知られた2人だけに指名後の期待度は非常に高く、
巷では即戦力に近い扱いを受けていた*1。
その2人のここまでの通算成績を見ると、
いくら高卒4年目といっても物足りなく感じる人もいるだろう。
いや「物足りない」ならまだいいが、
むしろ「プロの育成が下手だからだ」
「一軍スタメンで使わないから伸びないんだ」
と考える人のほうがはるかに多いように見える。
それでもオコエの場合は競争相手に彼同様身体能力の高い選手も多く
そこまでオコエ一人に集中しているわけではないが、
平沢は将来のスラッガー候補として期待されているふしがあり、
彼以外が使われると何かにつけて激怒する人が後を絶たない。
だが、そもそも彼らは伸びてないのだろうか。
先に言ってしまうと、
私はむしろ2人とも順当に成長しているように思う。
そもそもこの2人が実際にどういう伸び方をしてるのか、
元々この2人はどういう選手だったのか、
チームや監督を批判する人たちは
本当にちゃんと見ているのだろうか。
今回は実際に彼らが残している数字に着目してみよう。
プロ入り後の2人の歩み
まず2人の4年間の一軍成績から。
平沢は3年目、オコエは2年目に期待を持たせる成績になったものの、
昨年はその期待に応える働きが出来なかった。
長打は多少打つが2人ともかなりの低打率で、
競争相手となる選手にも全く勝てていない状況だった。
だが「一軍で結果を残していないから今後も起用しない」では
誰一人選手を抜擢できないことになってしまう。
では二軍成績はどうだろう。
平沢は二軍でも打率の低さが目立っている。
しかも巷の評価と違って長打をさほど打っていない。
特に昨年はよく一軍起用されたなと思うぐらい状態が良くなかった。
二軍復帰後に絶好調*2だった藤岡が一軍に戻ると
スタメンを奪われたのも仕方ないところ。
その代りというか、
長所として見られるのは四球の多さだろうか。
球を選んで歩くことに関しては
平沢は優れた能力を持っていると言えそうだ。
一方のオコエは二軍成績はかなり良くなってきていて、
もう二軍でやることがなくなってきているように見える。
ただ一点気になるのは三振が妙に多いことだ。
下でも三振が多く、四球は選ばない。
制球力が課題の投手が多い二軍でまだこれだと、
一軍での本格的な活躍まではもう少し時間がかかるかもしれない。
甲子園の「魔物」
本題はここから。
この2人、もともとドラフト上位候補として
評価の高い選手ではあったが、
巷の評価がドラフト1位競合クラスまで跳ね上がったのは
夏の甲子園になってからだった。
特に平沢は甲子園で一気に人気が高まった。
その時の数字を見てみよう。
夏予選は犠打飛数しかわからないので
犠打と犠飛それぞれの数は不明だ。
平沢はHR3本、二塁打2本が見ている者に強烈な印象を与え、
評価が跳ね上がるきっかけとなった。
またオコエはバッティングもさることながら
その身体能力の高さを守備や走塁でも見せつけていた。
だがまず平沢の数字を見てほしい。
この年の5月に右足小指を骨折していたとはいえ、
予選の数字はかなり悪いと言える。
木製バットになったU-18では二塁打を3本打ったが、
やはり打率は低く、
長打もそこまで多いわけではない*3。
その反面打率のわりに出塁率は悪くない。
一方のオコエ。
こちらはどの大会も結構な数字を残しているが、
どの大会でも高校生相手に四球は少なめだ。
2人が3年の夏に記録した成績の特徴は、
二軍成績の特徴と非常に似ている。
つまりどういうことか。
この2人は伸びが悪いのもなければ
常時スタメン固定しない監督が悪いのでもない。
高校時代に見えた姿そのままで少しずつ成長しているだけなのだ。
それに対し、2人に対する期待度は明らかに過大だった。
オコエに関しては打席を見ていても能力そのままに打っている印象で、
その能力が一軍レベルまで適応できるなら
元々の身体能力もあってスタメン定着は早いが
適応できなければバッティングに時間がかかるタイプ。
そして平沢はどう見ても甲子園が過剰に打ちすぎただけで、
プロ入りの段階では長距離打者じゃなく
低打率だが四球は選ぶ中距離打者である。
そしてどちらも即戦力のスタメン候補となるには
それなりの急成長を必要とする選手だった。
そんな彼らがなぜ「即戦力級」の評価を受けたのか。
「甲子園には魔物が棲む」とよく言われるが、
この魔物の一つが「夢」だからに他ならない。
見ている人間に「夢」という名の毒を注ぎ込み、
その日の試合に対しては
狂わされた観客の空気が
選手や審判に強いプレッシャーを与える。
個々の選手に対しては
目の前で起こった出来事に「夢」のバイアスを追加して
その選手の将来の期待値を極限まで膨らませる。
「一軍で使えば伸びる」も
まさに夢魔に憑りつかれたが故の産物と言える。
夢さえあれば、
「現実に残した成績よりもはるかに上の数字を
一段上のリーグで残せる」と錯覚するのだ。
全国大会にはどれもそうした傾向はあるが、
高校野球の甲子園大会は知名度などの関係で
そうした悪魔の数も桁違いだ。
平沢とオコエが
「今シーズン一軍で完全にブレイクしない」
と断言する理由はどこにもない*4。
だが「一軍で使えば絶対に活躍できる」確証もどこにもない。
「夢」を見るのはファンの自由だけども、
その「夢」を理由に監督やチームを批判したいのであれば、
「夢」の前に実際にある現実を見ておくべきなのだ。