「ハンカチ世代」の大学生投手
4年前の2006年に巻き起こった斎藤佑樹フィーバー。
斎藤は早稲田大に進み高卒即プロ入りはしなかったが
4年後の2010年、
いわゆる「ハンカチ世代」の大学生がドラフトの中心と位置付けられ、
「松坂世代」に勝るとも劣らない大豊作と見られていた。
中心にいたのは斎藤、大石達也、福井優也の早稲田勢。
他に東京六大学では加賀美希昇、
東都では澤村拓一、南昌輝、乾真大、
さらに地方でも塩見貴洋、中村恭平の北東北勢、
大野雄大、榎下陽大など多数の投手が
1~上位候補に名を連ねていた。
ただ松坂世代と比べると野手の1位候補がほとんどいないのがまず一点。
主な1位候補を個別に見ても
斎藤は大学通算勝利数が多く大舞台での勝ち運にも恵まれているが
東京六大学での成績は平凡、
大石は抑えなので実績を割引く必要がある*1、
澤村はシーズンによって目立つ一発病、
大野は最後の秋に負傷などと、
特にスタッツを見ると
それぞれに不安要素を抱えていた。
高校生で目玉と目されたのは甲子園春夏連覇を果たした興南高の島袋洋奨
ではなく、一二三慎太。
前年秋の神宮大会でマニアの心をわしづかみにした彼だったが、
センバツ大会では今一つの出来だったあとサイドスローに転向、
球速は早くなったものの極度の制球難に陥ってしまった。
のちにイップス発症による改造だったことが明らかにされたものの、
「夏の結果を求めた監督のエゴ。オーバースローに戻せば良くなる」
と断定していた
一部のドラフト評論家やマニアからは評価が高いままだった。
一方野手は
実際に上位で指名された山田哲人、吉川大幾、
山下斐紹らが上位候補と目されていた。
社会人はというと、
高校生以上に大学生のイメージに押されたか上位候補は少なかった。
その中で1位とされたのは榎田大樹と岩見優輝。
ただ同僚の美馬学と共に活躍していた榎田はともかく、
岩見は2年前の1位候補という印象をそのまま当てはめた感は否めなかった。
1位入札
選手名 | ポジ | 出身 | 競合 | |
---|---|---|---|---|
1 | 大石達也 | RHP | 早稲田大 | 6 |
2 | 斎藤佑樹 | RHP | 早稲田大 | 4 |
3 | 澤村拓一 | RHP | 中央大 | |
3 | 大野雄大 | LHP | 佛教大 | |
5 | 塩見貴洋 | LHP | 八戸大 | 2 |
5 | 伊志嶺翔大 | CF | 東海大 | 2 |
7 | 須田幸太 | RHP | JFE東日本 | |
7 | 福井優也 | RHP | 早稲田大 | |
7 | 榎田大樹 | LHP | 東京ガス | |
7 | 山下斐紹 | C | 習志野高 | |
11 | 山田哲人 | SS | 履正社高 | 2 |
12 | 後藤駿太 | CF | 前橋商業 |
入札 | 外1巡 | 外外1巡 | 外外外1巡 | |
---|---|---|---|---|
By | 大石達也 | 須田幸太 | ||
E | 大石達也 | 塩見貴洋 | ||
C | 大石達也 | 福井優也 | ||
Bs | 大石達也 | 伊志嶺翔大 | 山田哲人 | 後藤駿太 |
S | 斎藤佑樹 | 塩見貴洋 | 山田哲人 | |
F | 斎藤佑樹 | |||
G | 澤村拓一 | |||
M | 斎藤佑樹 | 伊志嶺翔大 | ||
T | 大石達也 | 榎田大樹 | ||
L | 大石達也 | |||
D | 大野雄大 | |||
H | 斎藤佑樹 | 山下斐紹 |
一般の知名度では圧倒的に高かったと思われる斎藤をおさえて
一番人気になったのは大石。
大学では3イニング以上投げることが珍しくないとはいえ、
リリーフ投手に6球団競合とはかなり驚かされる結果だった。
巨人以外を拒否した澤村と
4年秋に全休した大野も
これらの要因がなければ競合していた可能性がある選手。
一方、外れ1位以降では
大学生野手や社会人投手、高校生野手が多数並んでおり、
巷の評価とプロの評価との違いが垣間見える格好にもなっている。
パリーグ
福岡ソフトバンク
2年目から一軍に定着した柳田が球界屈指のバッターに成長した。
上位野手主義者からは2位指名である点が、
アンチ中央球界(特に東京六大学)からは地方リーグ出身の点が
注目される柳田だが、
これほどのバッターも1年目は一軍でわずか6試合5打席だった点や
本格的なスタメン固定が3年目だった点は誰も興味ないようだ。
特に大卒選手に1年目から失格のレッテルを張りたがる人たち。
本格的な育成枠大量指名に動き始めたこの年の指名結果からは、
早くも最近のホークスドラフトの特徴が色濃く現れている。
甲斐と山下、千賀と支配下指名の高校生投手3人との逆転現象だ。
埼玉西武
2年連続で6球団競合を制して獲得した大石は
抽選後の監督インタビューで先発転向が示唆された。
二軍では2年間先発として育成されるも結局一軍での先発登板*2はなし。
怪我と四球が多く、今一つ活躍しきれなかった。
それを補って余りある活躍を見せたのが26歳で指名の牧田。
先発にリリーフにフル回転で投壊気味のチームを支えた。
野手の方は大卒で3位指名の秋山が1年目から一軍に定着。
打撃の方は2年目、5年目と段階的に成長していった。
それ以外の選手はかなり微妙。
前川と林崎は結局戦力になった年がなく、
高卒4年目でのプロ入りだった熊代も打撃が伸びないまま
20代後半から出場機会が激減している。
千葉ロッテ
競合の末獲得した伊志嶺は1年目こそ良かったものの、
2年目以降は打撃守備ともに低迷した。
前年に獲得した荻野貴司、清田育宏や大松尚逸、岡田幸文らもいる中で
即戦力外野手を獲りすぎと批判されたが、
西岡剛流出による荻野のショートコンバートや
大松の守備への不安などが理由だったのだろう。
2位以降も大学生中心の指名。
特に2位ではここから数年間、
1位候補とされた中で残っていた選手の指名が続いていく。
結果は南がリリーフとして多少奮闘した以外は結果を出せていない。
北海道日本ハム
4球団競合の斎藤は1、2年目こそそこそこだったが、
その間も徐々に内容が悪化していき3年目からは完全に低迷。
現状だと二軍のイニングイーター、
あるいはロングリリーフ要員としての役割が強くなっている。
投手は他にも上位候補とされた乾や榎下を獲得したものの、
こちらもほとんど活躍できなかった。
一方の野手は西川が2年目途中から一軍に定着した。
元々内野手出身とはいえ、
外野手がセカンドとして育成されたという特異な経緯をたどっている。
身体能力に定評のある谷口は
故障が多いのもあってなかなかスタメン定着できない。
オリックス
大石の抽選を外した後は塚原以外全て野手を入札した。
2009年が投手5人の指名だったこともあって、
今度は野手の育成に重点を置いたものと思われる。
後藤はその守備力もあってか、規定打席こそないものの
20代前半の3年目から7年目まで毎年200~400打席弱を与えられていた。
4年目の2014年は良かったんだがそれ以外の年は打撃が伸びてこない。
三ツ俣もバッティングが伸び悩み、
根尾昂や高松渡らがいる現状では一・二軍のバックアップ要員の感。
そして宮崎と深江も結局バッティングが伸びないままで、
微妙を通り越して失敗ドラフトに近い印象すら与えてしまっている。
唯一の投手塚原はオリックスの高卒投手としてはかなり伸びた部類。
四球が多く安定感はなかったが失点は防いでいた。
東北楽天
08、09年の2年間2位で高校生野手を獲ってきた楽天だったが、
この年は上位即戦力投手、3位以下は野手を指名した。
故障がちな塩見だが一軍登板の無かった2013年を除くと
全ての年で先発が8試合以上になっている。
全132試合中127試合が先発登板。
2位の美馬は1年目は社会人時代と同様にリリーフだったが
2年目からは先発に回って毎年ローテを支えている。
先発登板の最低が14試合と結構とんでもない数字に。
一方の野手は地元の大学生ショート阿部に
高校生の榎本、勧野は長打力も意識した指名。
しかしこちらは成功とは言えない結果に終わった。
セリーグ
中日
故障を抱えたままプロ入りした大野は
2年目後半から一軍ローテに定着すると、
3年目以降は規定投球回5回とローテの柱として活躍し続けている。
そのわりにファンからはやたらと叩かれ、
小笠原慎之介のほうがエースと言われる印象があるのは何故だろう。
高卒3年目で指名の武藤は2~3年目に活躍。
その後は精彩を欠いたが横浜移籍後の昨年復活した。
2位指名の吉川は先述の通り巷では1位候補とまで評価されていたが、
プロではバッティングが伸びず守備走塁要員止まり。
ちょっと面白いのが森越で、
一軍では2017年の29試合、2018年の39打席が最高にも関わらず
今年から西武へ移籍。
単純な一軍控え要員とも違う何かを持っている選手なのだろうか。
阪神
榎田と荒木以外の6人が高校生の高校生偏重かつ
一二三と岩本が甲子園の有名選手というドラフトだったが、
1位が大学生からの社会人指名だったため
ドラフト後の評価はあまり高くなかった。
「あまり」のプラス評価が高校生にあったことは言うまでもない。
その高校生の結果はいまいちで、
中谷はここ2年間OPS.600台前半と調子が上がらず、
岩本は2年目から一軍デビューするも結果を出せない。
その中でプラス材料は昨年リリーフで大活躍だった島本。
1位の榎田は2年目までの多投と
阪神というチームの特性(特に守備力)が合わなかったか、
4年目以降はあまり活躍できなかったが、
2018年は移籍した西武で結果を出した。
なお、同じ東京ガスの美馬とは
2年目に社会人時代と役割が逆転していたことになる。
巨人
この年は支配下4人が全て投手、育成で野手を大量指名した。
澤村は先発リリーフともに良い結果を残しているのにも関わらず、
チーム内外の評価は妙に低い。
勝率があまり良くないのが理由の一つだとは思うが。
宮國は2年目に先発で台頭したものの
3年目からは使用球が変わったためもあってか先発では結果を出せず、
5年目以降にリリーフで戦力になった。
4年目に16試合に先発した小山は
その他の年だと登板10試合、先発6試合が最高。
もう少し活躍しているイメージがあったかもしれない。
あとの選手はオリックス移籍後に1試合だけ出場した丸毛以外
一軍出場がなかった。
田中は現在セガサミーでプレー。
東京ヤクルト
外れ1位の抽選まで外したヤクルトだったが、
外れ外れ1位抽選で引き当てた山田が3年目から大活躍。
谷内亮太獲得によってショート以外での二軍出場機会が増えたところに
田中浩康の不調が重なり、
その千載一遇のチャンスをものにした格好だ。
山田以外では久古が左のワンポイントとして活躍した。
七條は2011年と13年に先発・リリーフで戦力になるも、
時期を考えると内容は微妙と言わざるを得ない。
西田は6年目にバッティングで目立ちかけたがその後また伸び悩む。
去年はここでの基準にわずかに届かない47試合出場、
代打要員で活路を見出すことができるか。
広島東洋
育成を含めると投手8人、捕手1人の極端な指名をした。
2004年にも投手7人だけという指名をしているが、
こういう時のカープはあまり良い結果を出せていない。
クローザーに成長した中﨑がいるので悪い結果ではないけれども。
福井は100イニング以上となると2年だけで、
ローテに1年間定着する年があまりなかった。
ずっと先発で育成されるも制球難が続いた中村は
昨年リリーフようやく台頭。
はたから見るとかなり回り道をしたように見えてしまう。
横浜
前年に高校生重視(5-2)の指名をした横浜は
この年大学生・社会人オンリーの指名。
ただ即戦力が多いかと言うと、
1位候補だったが伸び悩みが続いていた加賀美や
リーグ奪三振記録は作ったものの
それ以外の内容はいまひとつで多投*3も際立つ小林など、
素材と知名度、地縁重視のほうが目立っていた。
ワンポイントで活躍した大原慎などもいるが、
結果も相応と言ったところ。
また福山は2年で戦力外になったが直後に楽天で開花。
横浜にいたままで活躍できたかどうかは
守備力などを踏まえた検証が必要だろう。
1位の須田は極度の投手不足のために使われたという印象が強く、
本格的な活躍は30歳前後での3年間。
昨年は古巣に復帰して都市対抗優勝に貢献した。