スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

2019年ドラフト全体総評

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今年は「高校生の年」か?

さて、今年は高校生投手が大豊作と言われていたが、
実際に指名された選手の数はどうなっていただろうか。

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高校生投手は多い方ではあるが2008年や16年どころか昨年より少ない。
思ったほど多くはなかった。
高校生野手が多いのは昨年と同様に
ショートとキャッチャーの候補が多かったのが理由だろう。
支配下19人中、ショートは半数弱の9人でキャッチャーが4人。
野手のセンターラインはここに黒川史陽と武藤敦貴を入れた15人で、
それ以外には石川昂弥、小林珠維、伊藤海斗が投手経験者。

また今年は育成枠での野手率が極端に高く、
育成込みだと野手率が2002年以来17年ぶりに50%を超えた。
高校生野手合計30人は2008年以降の12年で最多、
と書くと大喜びする人はドラフト以外のライターにもやけに目立つが、
昔のドラフト外入団を含めると1988年の35人が最多で今年は2位。
そんな中、実は大学生野手19人が歴代最多記録になっている。
ただしこれも、
昔は高卒で社会人へ行く選手が多かったことを考慮しないといけない。
大社合計26人はそこそこ多いほうだが、
もっと多い年は最近の2015年や17年も含めて何度もある。

大学生と社会人の投手はかなり不作ぎみで実際指名数は少ないのだが、
上位指名には大社投手が多かった。
2位までと3位までの両方の数字を出しておこう。

  高投 高野 大投 大野 社投 社野
2008 7 3 4 4 4 1 23
2009 6 5 5 1 5 2 24
2010 2 6 9 2 5 0 24
2011 8 4 4 2 3 2 23
2012 5 4 10 2 3 0 24
2013 2 5 4 3 9 1 24
2014 4 4 10 2 4 0 24
2015 3 3 9 5 4 0 24
2016 6 0 12 4 2 0 24
2017 3 5 7 1 5 3 24
2018 2 7 8 5 1 1 24
2019 5 5 4 3 5 2 24
  高投 高野 大投 大野 社投 社野
2008 10 5 6 7 6 1 35
2009 9 7 7 5 6 2 36
2010 4 8 10 4 8 2 36
2011 9 9 5 4 5 3 35
2012 7 6 11 7 5 0 36
2013 3 6 4 8 13 2 36
2014 7 7 10 5 5 2 36
2015 7 4 10 8 6 1 36
2016 9 4 14 5 3 1 36
2017 5 7 9 3 7 5 36
2018 5 9 9 5 5 3 36
2019 7 7 9 4 7 2 36

特に3位での大社投手指名が多かったことがわかる。
野手は評価の高かった大学生捕手3人が前評判通りの順位で指名された一方、
評価は悪くないが「適正順位」では人によってかなり差が出そうな
小深田大翔と佐藤直樹の1位指名が目立っている。

ただし社会人と独立リーグに関しては
23歳以上の選手が異常に少ない。
野手の支配下が小深田と岸潤一郎、
育成に平間隼人、樋口龍之介と大卒の山崎真彰の計5人というのも
結構少ないほうだが、
投手だと宮川哲、岡野祐一郎、瀧中瞭太と
育成の畝章真と長谷川亮汰しかおらず、
調べられてはいないが支配下指名3人というのは歴代最少ではないかと思う。
高卒1年目を2人指名した西武に代表されるように、
即戦力よりも素材重視の傾向が例年にも増して強かった。
総合すると、
今年はまず上位で3~5年後を見据えた指名をした後に
5~10年後を俯瞰した補強をする。
そんな年になったようだ。

指名漏れ選手全般の感想

今年の指名漏れ選手に関して簡単な感想を言うと、
正直なところ妙な指名漏れはほとんどなかったと思う。
高校生投手が佐々木朗希と奥川恭伸がまずトップ2、
そこにU-18代表組と惜しくも選考から外れたレベルの選手がいて、
彼らとその次のレベルの差がかなり激しい印象だ。
野手もセンターラインが順当に指名されており、
しかもプロ志望したショートの数が結構多かったので、
もうこれ以上はプロも指名できないだろう。
というかどちらもむしろ獲りすぎじゃないかと思うぐらい獲っている。
野手だろうと思っていた選手で投手表記で指名されていて
気になっていた選手がいたのだが、
あとでスカウトのコメントを確認したらやっぱり野手だった。
なので、やはり獲られなかったことに違和感のある選手は
ちょっと思いつかない。

一方、このブログでは普段大学生と社会人、
特に投手指名を推奨する傾向が強いから
大社指名の少なさに怒っているのではと思われたかもしれないが、
実のところ指名漏れに「なぜ?」と思った選手はほぼいない。
まず大学生は実績とスペックが不足している上に
この秋絶不調の選手が多い。
社会人は今年大卒1年目と27歳以上の選手が
主力投手となるチームが目立っていて、
大卒2年目以降も高卒4年目以降も軒並み苦戦している。
珍しく活躍している選手にはスペック不足で
プロが欲しがらないタイプも多い。
となると指名はないんだろうなと感じてしまうのも
あまり自分の中で違和感がなくなっている要因なのだろう。

社会人投手についてもう1つ推測できるのは、
チームまたは本人がプロ指名を凍結している可能性だ。
西田光汰(JR東日本)や中川一斗(JFE西日本)のように
今年別な指名確実の候補がいたり、
宮田康喜(日本製鉄広畑)のような
昨年エース(坂本光士郎)がいなくなったケースがそれだ。
JR東日本は近年明らかに投手で苦戦を強いられているし、
JFE西日本や日本製鉄広畑は大学生の大物をすぐ補強できるチームではない。
安定してイニングを稼げる選手が立て続けにいなくなるのは苦しいだろう。
広畑は来年さらに候補が1人増えて2人流出までありそうで、
チームとしてはこの懸念にどう対処するのか気になるところだ。
その点、東芝はよく宮川と岡野を両方出せたなと思う。
内定の情報を見てないのでわからないが、
かなりいい選手が確保できそうなんだろうか。

セ・パの指名傾向の違い

今年のドラフトは、チーム別に数値化するとこうなった。

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今年は阪神、巨人を中心にセリーグの高校生指名が多く、
パリーグも今まで高校生が非常に少ないとされる
オリックスの高校生比率が高い。
特に阪神は高校生の中でも有名どころばかりをかき集めたので、
阪神が自分たちの主張(高卒至上主義)に目覚めた」とばかりに
べた褒めしている評論家やファンが後を絶たない。
かつて「4位赤星、ハア?」の風潮に苦言を呈したはずの某ライター氏まで
阪神ファンに鞍替えするとか何とかツイートしたそうで、
魔力というよりはもはや闇の領域になっているような気がするが。

だが、現実のセリーグがこれまでどういう指名をしてきたかは
相変わらずほとんど知られていないようだ。

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高校生野手が多いのはたしかにパリーグだ。
だが高卒投手は全体的にセリーグがやや多い。
大学生と社会人の野手もセリーグがやや多かったが、
ここは今年のドラフトで少し差が縮まっている。
そして、社会人投手はパリーグが圧倒的に多い。
今年は特に西武と日本ハムが社会人を獲りに行ったため、
セパの差がさらに広がる形になった。
ここ12年をチーム別に見るとこうなる。

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オリックスは大量指名をする年が多いこともあって、
社会人の指名は多いが高校生もそこそこ獲っている。
そのうえで現在の貧打が続いているのを外部の人間は肝に銘ずるべきだろう。
阪神はたしかに高校生野手の指名が少なかったが、
実は指名がなかったのは12年中4回と極端な多さではない。
支配下指名が2人以上いたのが
今年しかないというだけの話だった*1
2014年ごろになるとバッティングの主力は30代中盤、
あとは守備型で打撃が伸びない27歳以上主体で構成されていたから、
高校生を大量に獲っても
今ごろ世代交代に完全失敗した暗黒期になっていただろう。
今年の指名でむしろ気になるのは、
去年まで野手の高校生偏重が続いていたソフトバンク日本ハム
ファイターズの支配下大学生野手は6・7位の2人なので
路線変更と断定するには微妙なラインだが、
ホークスは上位から社会人・大学生を並べた。
ここ3年間で1位野手抽選を5人連続外している不運に加えて、
これまでの高校生育成路線の成果が挙がってない現状が見えている。
特に長打力の高い主力は
2003年から17年連続で支配下指名している高卒にはおらず、
大卒の松田宣浩柳田悠岐と外国人にほぼ頼っているのだ。
ホークスの育成を手放しでほめ続ける人たちは、
現在のホークスフロント・首脳陣が正面から向き合っている
チーム事情をもっと知るべきだろう。

*1:2010年も投手指名の一二三慎太が野手コンバートされたため最終的には2人になる