先日、zozoの前沢社長が近年中の新規参入を断念したと伝えられた。
NPBのエクスパンションを望む声は根強いが、
複数球団の参入はやはりかなり難しいということなのだろう。
でもなぜ難しいのか。
最近はアメリカのMLBなどに加えて
JリーグやBリーグが引き合いに出されることが多くなっている。
それらと日本のプロ野球との違いは何だろう。
世間では可能な理由、困難な理由ともに様々な意見があげられているが、
今回ではこの問題ではあまり触れられるのを見ない
交通の視点から考えてみたい。
交通問題にも実は2種類あるのだが、
チームの輸送については
里崎智也氏なども触れているのでそちらは置いておくとして、
ここでは観客輸送のほうに焦点を当てていこう。
「プロ野球」特有の事情
まず「野球」の特徴としては
「数万人単位」の観客を「連日」動員することが挙げられる。
最低でも3日、基本的には6日連続での輸送能力が必須条件だ。
Jリーグは「連日」行われることはないし、
2連戦が基本のBリーグは収容人数1万人超のホームアリーナがない*1。
規模は違うが、この点はアメリカでもあまり変わらないだろう。
NFLは週1だし、
週3~4試合あるNBAも収容人数2万を超えるアリーナは少ない*2。
次に「日本」特有の事情。
一番のポイントは、公共交通機関に頼らざるを得ないことだ。
アメリカだと基本的に車社会なので、
球場の周囲数百メートルにわたって駐車場が整備されていたり、
大都市の球場はなんやかんやで鉄道や地下鉄駅が隣接していることが多い。
もっとも駐車場等の関係で500m程度離れていたりはするんだが。
一方の日本ではそんな広い駐車場のスペースはないし、
あったところで今度は周囲の道路が広くないので
すぐ大渋滞を引き起こすだろう。
なので周囲の公共交通の充実は必要不可欠、
それも1台100人乗車は到底不可能なシャトルバス主体では無理、
ということになる。
12球団のホーム
NPBの本拠地球場をざっと調べてみるとこうなった。
このうち、一般的に最寄駅から遠いと言われているのは
札幌、ZOZOマリン、ナゴヤ。
開始前や終了直後は混雑でどうしても遅くなるから、
実際には10分なら15分、15分なら20分以上かかるかもしれない。
距離にして7、800mから1kmで限界を超えると考えるべきだろう。
そしてそこからターミナル駅への所要時間も載せておいた。
とにかく不便とされるメットライフドームは
他のスタジアムがとにかく近いのもあって、
比較対象が充実しすぎているのも災いしたかもしれない。
他には札幌も遠いと言われているが、
マリンやナゴヤ、甲子園ではあまり言われないのは
交通機関に対する地域性の違いもあるのだろうか。
片や急行を使っても40分近くかかる終着駅、
片や路線図中央にあるターミナルから各停で14分の終着駅だ。
ズムスタやヤフオクも遠いという話を聞かないが、
こちらはターミナル駅との近さも一因じゃないかと思う。
そうするとちょっと気になるのが、
先日発表された日本ハムの新球場。
今でも遠いと言われている札幌ドームよりも
駅からさらに離れた位置に作られる*3ようなのだ。
球場への利便性を重んじるのなら、
臨時でもいいから新駅設置は必須だろう。
新球団候補地の交通事情
次に、新球団の候補地として挙げられそうな
地方球場の交通について簡単に調べてみた。
基本的には収容人員数の多い球場だが、
多めに選出したので
明らかにこの地域では無理だろうというスタジアムも入っている。
その点はご容赦いただきたい。
あと、全席ベンチの球場は除外しておいた。
自宅でしか見ないか、
野球を見ないのにただ煽りコメント打っているだけの人にとっては
どうでもいいことかもしれないが、
やはり現地観戦する時は
カップホルダーのついた跳ね上げ式の座席のほうがありがたいし、
せめてそれらに改修可能なスタジアムのほうがいいじゃないか。
現在の収容人数はあまり多くないが、
草薙球場の利便性が悪くないようだ。
あとはよく名前のあがる松山なども悪くはないように見える。
市坪が普段無人の小さい駅なのはひっかかるが。
逆によく候補に挙がる球場の中でかなりつらそうなのがエコスタ。
新潟は公共交通機関があまり整備されておらず、
バスか自家用車の二択を要求される球場になっている。
日本の他の球場に比べると駐車場は整備されているほうなのだが、
それでも最大5,600台。
近接しているビッグスワンでの試合もかなり大変という話も聞く。
駐車場の広さに加えて、
片道3~4車線のハイウェイがすぐ側を通っていることも珍しくない
アメリカと比べると、
MLBと同じように考えてはいけないことがよくわかる。
あともう一つ言うと、
日本人とアメリカ人とは時間の感覚が大きく違う可能性もある。
MLBでは駐車場が整備されていると言っても
大都市のダウンタウンにあるような球場では
さすがにそこまで大きなスペースがないこともある。
そんな球場では駐車場から球場まで徒歩10~20分
というケースもあるという。
逆に日本では、最寄駅から徒歩10分は遠すぎると批判される。
MLBができるのだから日本もできるはず、
とはやはり安易に考えないほうがいい。
もう一つの交通問題
これらの条件をたとえクリアできても残るのが、
里崎氏なども指摘する各都市間の移動の問題になる。
特に苦しいのはやはり松山か。
松山―札幌は直行便ができたのだが、
松山―仙台はチャーター便の一般販売があるかどうか程度らしい。
ましてや静岡に新チームができたらどうなるかというと、
この場合は在来線と新幹線乗継で6時間以上かかる。
日本の航空事情も基本的には中央集権で、
地方都市同士を結ぶ航路はかなり少ないということか。
同じ理由で東北、北陸、九州、沖縄も現状ではかなり厳しいと言えそうだ。
こうやって交通事情について調べてみると、
盛んに唱えられているエクスパンションの障害は、
オーナーだの既存球団の利益だのといった領域を
はるかに飛び越えたところにあるように見える。
いや、地方行政どころか政府レベルですら改善の難しい、
日本の地理事情そのものに起因するんじゃなかろうか。
エクスパンションを夢として語るのは良いとしても、
それが困難な理由を
嫌っている団体や人物へ安易に押しつけるのだけはやめておくべきだろう。
あと可能な方法として考えられるのは、
観客動員にこだわらない、
つまり現地観戦をしないファンに特化した
新しいビジネスモデルの構築になるか。