以前、NPBにおける選手起用人数について書いたことがあった。
しかしあれを見て、
「人数が多くなるのは選手を固定できない弱いチームが混ざるからじゃないの」
と思った人もいるかもしれない。
たとえそう思われなかったとしても、
プロOBやそれ以外の野球・ドラフト評論家には
「V9のような9人野球」を理想としている人をかなり見かける。
日本一チームの年間野手・投手人数
ではまず、日本一チームと全チーム平均との比較をしてみよう。
改めて確認すると、主力の条件は
- 野手は100打席以上または全試合1/3以上出場
- 投手は先発10試合以上または20試合以上登板
となっている。
日本一になったチームの起用人数は当然平均よりばらつきが大きくなるが、
野手か投手どちらかが偏ることはあっても、
全体で見るとリーグ平均とさほど変わらない。
「強いチームほど選手が9人で固定される」という歴史は存在しないことがわかる。
V9もスタメンはある程度固定されてはいるが、
控え選手も数がしっかりそろっており、
主力に故障等が出た時には
彼らがしっかりとその代替を担うのも強さの一因だったと考えられる。
そして時代の変化という点でも、
日本一チームがその流れに大きく逆らうことはない。
強豪チームの通算野手・投手人数
さて、ここまで見たのはあくまで1年間の人数。
しかしチームの編成は翌年以降も継続していくものだ。
ならば強豪チームのトータルでの人数はどのようになっているか。
対象となるのは次のチームである。
後半の3チームは日本一は1回ずつ、日本シリーズも3年連続では出ていないが
リーグ勝率は3年連続トップなので入れておいた。
この他に次点も2チーム用意した。
- 1981~83年巨人(81・83年優勝、82年ゲーム差0.5の2位)
- 2014~17年ソフトバンク(2014・15・17日本一、16年8月中旬まで首位独走)
これだと89年西武(3位だが近鉄とのゲーム差は0.5)も入れて
西武を統一した方がいいのではないかと思われるかもしれないが、
今回は89年は除外した。
では見てみよう。
時代の移り変わりがよくわかる結果になっている。
V9の巨人は65~66年と73年が野手陣の世代交代と重なっていることもあって、
主力野手の数はかなり多くなった。
また、85~88年と90~94年の西武も非常に特徴的。
年数が1年違うとはいえ、たった1年空けただけで選手起用に変化が生じている。
2014~17ソフトバンクから見えてくるもの
それでもこれまではあくまで、1年ごとの起用人数の変化が
複数年にまたがってそのまま反映されている状況、
つまり複数年のトータルで見た場合の野手・投手の入替人数は
ほぼ同じペースに過ぎなかったと言える。
しかし近年のホークスはさらに劇的な変化を遂げ始めている。
1年だけで見ると野手と投手の起用人数がほとんど変わらないのに、
野手に比べて投手の陣容の入れ替わりが激しくなってきたのだ。
4年連続で主力に名前を連ねた選手は
野手は7人*1いるが、投手は27人中たったの4人しかいない。
森福允彦が移籍したことや武田翔太が2014年に該当しないこともあって、
生え抜きは森唯斗1人*2になっている。
特に目立つのはまず高卒投手が少ないことか。
投手は2008~11、14~16年に高卒偏重の指名をしているのに、
複数年活躍しているのは武田、千賀滉大と岩嵜翔(2007年指名)しかいない。
他の生え抜きは現状1年だけの二保旭、松本裕樹と出戻りの寺原隼人がいるだけだ。
そして外国人選手が多い。
サファテ以外にはスタンリッジ、バンデンハークの先発陣はわかるが、
バリオス、スアレス、モイネロのリリーフ陣が
毎年入れ替わっているのはかなり特異な光景だ。
野手陣が外国人選手にそれほど依存しない構成になっているのも一因*3だろうが、
逆に言えば、投手はそれだけ入替が必須なポジションになったという意味でもある。
漫然と過去に学んではいけない
最近のホークスのような変化が生じているのも重要だが、
他の強豪チームもそれぞれの時代の起用法や編成に適応して、
場合によっては先んじて変化しているのがよくわかる。
ところが面白いことに、
過去の強豪チームに何かを学ばせようとする人は、
その当時の選手起用や編成をそのまま現代の野球界に当てはめようとする。
これは大御所のプロOBどころか外部出身の野球評論家にも非常に多い。
わりと最近でも、過去の強豪チームにチーム編成を学ぶという
名目の書籍が出たことがあるが、
たしかここでも最も新しいのは94年までの西武だった。
しかし選手の起用一つ見ても、20年前と現在とでは全てが大きく変化している。
はっきり言って古すぎて役に立たないのだ。
なのに、こうした評論家はいまだに
V9巨人や最新でも90年代前半西武までの強豪チームをもとにした
起用や選手編成を主張している。
しかもなぜか強調されるのはその中のごくごく一部*4にすぎず、
印象論だけの間違いも多い。
過去に学ぶのは重要なことだが、
これらの時代の変化を考慮せずに学んでもそれは何の学習にもならない。
それを把握していて、
「回帰させるほうが却って有益ではないか」という説明をしたうえで
実験を求めるなら理解できる。
しかしほとんどの場合はそうではなく、
単に自分が見たいチーム構成や戦術を押しつけるための口実と化している。
そうした評論、周りの声には常に気を付けるべきだし、
自分自身の考え方もそのような固定観念にとらわれたものではないか、
考える必要もあるだろう*5