「ドラフトは10年先のチームを見ろ」の「定説」は正しいか
「ドラフトは今現在じゃなく10年先のチームを見ろ」。
これはドラフト評論家だけではなく
プロのスカウトも口にする言葉である。
また最近は
ドラフト評論家、元スカウトなどによる
ドラフト採点への批判として
このような書き込みを非常に多く見かけるようになったが、
なぜか
自分たちが批判している評論家と
全く同じ主張である。
「5年先、10年先じゃないとわからない」と言いながら
5年後、10年後の結果の検討を
自分では行わないのも同じだ。
このブログでは
過去のドラフトを年別に振り返ることも
多少やってきてはいるが、
そもそもドラフトの本義は
チームを強化し順位を上げることであり、
ドラフトによるアマチュア選手獲得と育成は
チームを強化するための数ある手段の一つにすぎない。
なのに
ドラフト評論・採点における「ドラフトの成果」は
「大成功の選手を1人でも輩出すること」しか見られず、
チームの成績や
大物選手を輩出すること以外でチーム成績に結びつく成果は
すべて排除されることがほとんどだ。
それでは
5年前・10年前のドラフトは
ちょうど5年後・10年後の将来のチームに
どのような結果をもたらしたのだろうか。
今回は
2019年から5年前・10年前のドラフトにさかのぼり
指名選手の2019年の成績とチームの順位を
見ていこう。
「10年先を見たドラフト」の5年後・10年後
5年後戦力になっていた高卒選手は
ドラフトにおいて
「5年後・10年後を見据えろ」と言う場合、
大学生だと5年後・10年後は27歳と32歳。
社会人は
大卒2年目でも5年後ならまだ29歳、
高卒3年目では10年後でも31歳と
まだまだ働き盛りな年齢のはずなのだが、
ドラフト採点*1では
大学生・社会人中心の指名は
「来年のことだけを考えた指名」、
高校生中心の指名は
「3~5年後の将来を見た指名」と言われる。
ならちょうど5年後の2019年には
どのくらいの高卒選手が
どの程度戦力になっていたのだろうか。
野手は何といっても岡本。
前年から一軍で主力として活躍している。
野手で起用が早かった清水は
これを書いている2022年時点だと
シーズンベストの成績。
投手のほうは
高橋と岩下が先発ローテに定着したほか
石川がすでに実働3年と
早い段階から戦力になった。
ただこの起用が
2019年の順位に結びついたのは
ジャイアンツとライオンズのみ。
10年先のチームに貢献した選手は誰か
もう一つの「10年先」では
どの程度の選手が戦力になっていたか。
こちらは出自関係なく見てみよう。
10年目に戦力となった選手は
高卒と社会人出身がほとんどで、
大卒プロ入りの選手が極端に少ない。
野手は高卒、社会人ともに
早くに戦力になり始めた選手が多く
10年目も成績が良い。
投手は高卒の比率がかなり高い一方、
なぜか
先発が秋山とアメリカへ渡った菊池しかおらず
大半がリリーフである。
そしてこちらも
2019年の順位と10年後の活躍度とには
何ら関係性が見られない。
パリーグチーム別
1位 埼玉西武ライオンズ
失点は2年連続リーグ最下位だが
その失点を得点力で凌駕して
リーグ連覇を果たした2019年のライオンズ。
前年までのエース菊池が
アメリカへ渡ったため
10年前の指名選手はほぼチームにいなくなった。
5年前の指名選手はこの年大活躍。
防御率は悪いが
高橋と佐野はイニングを稼ぎ、
外崎は主力の浅村が抜けたセカンドで
その穴をしっかり埋める働きを見せた。
2位 福岡ソフトバンクホークス
レギュラーシーズンでは2位にとどまったものの
CS以降は圧倒的な強さで日本一となった。
今宮は怪我がやや多くなってきたが
バッティングによる貢献も大きくなっている。
怪我にも苦しんだ川原は
このリストでの戦力基準に達しなかったものの
自身最高の成績を残したのが2019年だった。
2014年指名の5年目は
ほとんどが高卒だったこともあって
まだこの時点ではほぼ戦力になっていない。
3位 東北楽天ゴールデンイーグルス
2009年組は
戸村が一時期先発ローテに入り
西田も正ショートとして使われた年もあったが
結果を残せなかった。
西田は前年にホークスへ移籍し
ベンチ要員として戦力になっている。
2014年組では
2球団競合で獲得した安樂と
シーズン後にトレードでマリーンズへ移籍する小野が
ともにリリーフで開花することになるのだが、
5年目の時点ではまだ2人ともくすぶっている。
4位 千葉ロッテマリーンズ
少なくとも
グラウンド内での結果としては
長く活躍する選手を3人も獲得した
2009年のマリーンズ。
特に荻野は
30代中盤になってもこの成績である。
5年目になる2014年指名選手では
中村がやや不調だった一方で
岩下が先発ローテの一角を占めるまでに成長した。
5位 北海道日本ハムファイターズ
2009年のドラフトは
3年目に日本シリーズで活躍した中村も
あまり戦力にならず、
1年目から活躍した増井だけが突出する結果に。
その増井も既にFAで移籍したため
10年後には全く結びつかなかった。
2014年のほうは
エース格となる有原に加えて
何年か使われ続けている清水と石川も
まずまずの成績を残し、
太田がスワローズへトレードされていることを差し引いても
5年後の戦力を輩出する指名に成功している。
ただし順位のほうには全く結びつかなかった。
6位 オリックスバファローズ
指名した5人が全て投手だった2009年のバファローズ。
27歳で指名された比嘉が最も活躍しているが
山田も前年からリリーフで戦力になり始めている。
僅差の2位だった2014年の指名選手は
1年目からセカンドレギュラーになっていた西野や
小田などの社会人出身に加えて
2位指名の宗と野手転向した佐野の高卒勢も
一軍起用が増えてきた。
先発でいまいち結果を残せていなかった山崎は
この年リリーフへ回り登板数も多かったが
活躍したとは言い難い成績に終わっている。
セリーグチーム別
1位 読売ジャイアンツ
二度の入団拒否を経てプロ入りした長野は
FAの人的補償でこの年からカープへ移籍。
ファイターズへ移籍してから
一軍起用が増えた市川も
すでに引退している。
2014年指名の岡本は
4年目から一軍の主力として活躍。
戸根と高木は
どちらも最初の2年間戦力になった後に低迷し、
戸根が一軍へ復帰した一方で
高木は移籍先のライオンズでもなかなか復活できず
明暗が分かれている。
2位 横浜DeNAベイスターズ
5年目にリーグを代表する大砲へ成長した筒香は
この年も主力として活躍。
翌年からは海を渡りアメリカでプレーしているため
2022年時点ではベイスターズでの実働はここまで。
他の2009年指名選手では
国吉が登板数を重ねた。
長く戦力になっていた加賀は2018年に引退。
2014年組では
山﨑と石田がプロ入り以来5年連続で戦力になった。
倉本も4年間主力として起用されてきたが
2019年は不調で戦力とはなっていない。
3位 阪神タイガース
上位指名がいまいちだった一方で
下位指名が奮闘したこの年のタイガース。
1年目から一軍へ抜擢されていた秋山は
一軍戦力になったのが8年目の2017年だった。
病気から復帰した原口は
この年のオールスターにも選出。
「戦力」の形には届かなかったが
人々の記憶に残った年となっている。
抽選を2回外したわりには
有識者から高評価を与えられていた2014年指名選手は
横山が怪我に苦しみ
期待された石崎と江越もなかなか結果を残せないなか、
植田が控え要員として貴重な戦力になっていく。
5年目で開花した守屋はこの後が続かなかった。
4位 広島東洋カープ
2年目にはリリーフの主力として活躍していた今村は
この年も戦力になったが
やや衰えも見え始めている。
3年目に全試合出場した堂林は
その後壁にぶち当たって久しい。
一軍主力へ本格的に開花し始めたかに見えて
伸び悩むのは2014年指名選手も同じで、
前年の成績が悪くなかった野間と
2年前に先発ローテにも入っていた薮田が
結果を残せないでいる。
四球は多いものの
それなりの安定感を身につけた塹江が
登板数を増やしていくのはこの翌年から。
5位 中日ドラゴンズ
1年目から主力として起用されてきた大島は
30歳を超えたあたりから
成績が安定して高くなっている。
高卒投手2人は
いずれもリリーフで戦力になっているが
4年目から主力となった岡田に対し
この年トレードされたライオンズで活躍した小川は
ドラゴンズでの実績は2016年のみ。
10年目を迎えた2人の松井が
2人ともバファローズへトレードになっている。
屈指の大外れドラフトとして酷評されている2014年は
正捕手に起用された加藤と
控えで使われた井領、遠藤がこの年の戦力。
ただ
社会人野手2人が主力へ成長した2015年と比べると
さらに迫力不足感が強くなる。
この2回のドラフトは
投手が全員22歳以下、支配下野手が全員22歳以上。
6位 東京ヤクルトスワローズ
リリーフで主力になった
中澤と山本はいずれもやや短命気味で
10年後の戦力にはならず。
平井も登板数は多いが打ちこまれており、
2009年組で2019年の戦力になったと言えるのは
控え要員の荒木のみ。
2014年組は非常に厳しい結果。
5年目でNPBに在籍していたのが風張と山川の2人だけ。
前年53試合に登板した風張も
この後は一軍戦力にならないまま終わった。
山川は独立リーグで投手に転向。
2022年には
富山GRNサンダーバーズのクローザーを任されている。
*1:少なくとも複数の媒体で採点をする人の場合