スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

2022-23年ドラゴンズのトレードと星野中日との類似点

スポンサーリンク

 

6月21日に公示された、
ドラゴンズとファイターズとの間で成立した
郡司裕也、山本拓実と宇佐見真吾、齋藤綱記の交換トレード。
世間では
ドラゴンズが若手を放出し
一方的に大損したトレードとして認知され、
ドラゴンズ、特に立浪監督へ批判が集中した。

このトレードの是非はともかく、
今回少し考えてみたいのが
立浪監督就任以降どうしても対比されることが多くなっている
星野監督時代の中日のトレードである。
昨年11月に相次いで成立したトレードの際にも
「星野ならこんなベテランを獲るトレードはしなかった」
という批判をしばしば見かけたのだが、
実際の星野監督時代のトレードはどのようなものだったのか。
見てみることにしよう。

 

星野時代のトレード一覧

なお今回紹介するトレードは日本人選手だけ。
外国人選手のトレードは含めていない。

1986-87

1986-87

星野のトレードの中で最も有名なはずだが
星野仙一のトレードとは」の話になると
全く話題に上らなくなる
のが
落合を獲得したこの年のトレード。
正セカンドに抑え投手、
25試合に登板うち11試合に先発した中堅、
34試合に登板した高卒4年目の若手を放出してまで
30代中盤にさしかかったベテランを獲得した。
他には過去2年連続でトレードが成立していた
西武とのトレードが2件。

 

1987-88

1987-88

ベテランを放出して
もう少し若い選手を獲得するトレードが2つ。
リーグ優勝を果たしたことも一因なのだろうが
星野仙一のトレード」論では特にこの2件の、
それも「ベテランの放出」だけがさかんにとりあげられ、
これ以外のトレードは見向きもされないことが多い。

 

1988-89

1988-89

前年以外でかろうじて名前の挙がることがあるのは
やはりこの「ベテランを放出した」中尾のトレードだろうか。
若い加茂川と一緒に獲得した西本は中尾と同年齢。
その一方で
実は若手を放出して中堅選手を獲得するトレードも
2件成立している。
片平は87年に12試合32打席出場。
江本はやはり87年に36試合登板し
89年も3試合に登板していた。

 

1989-90

1989-90

交換トレードの成立が6件とかなり多い。
そのうち5件は
放出した選手より年齢の高い選手を獲得している。
交換相手は杉本、鈴木に
前年獲得した片岡、加茂川のトレード経験者や
斉藤、藤王らドラフト1位選手の存在が目立っている。

 

1990-91

1990-91

この年に関しては
年齢が下の選手を獲得するトレードのほうが多い。
ただ選手の知名度という点では
ドラゴンズが獲得した長嶋、
次いで石本が圧倒的に高いか。
2年前に獲得した斉藤と
前年に放出した小松崎の交換も面白い。

 

1995-96

1995-96

星野監督が復帰したこのシーズン、
成立したのは4件で全て複数トレードとなっている。
各トレードの平均年齢を見ると
放出したほうが高いのが2件、
獲得したほうが高いのが2件で全く同じだが、
25歳以下を放出しているのはドラゴンズだけである。
また5年前に放出した音と山田、
9年前に放出した平沼を呼び戻している。

 

1996-97

1996-97

ナゴヤドーム初年度はほとんど動いておらず、
金銭トレードと交換トレードが1件ずつ。
ドラフトも上位3人が高校生で
外国人以外の補強が極端に少ない年だった。
金村と小野はどちらも
近鉄出身かつトレードで3球団目となるが、
金村はFA移籍、小野は自由契約からの移籍で
トレードはこのときが初めて。

 

1997-98

1997-98

前年最下位から2位に躍進したこの年は
件数こそ2件だがどちらも複数トレード、
どちらも放出した選手のほうが
平均年齢が高い形となった。
矢野、大豊と関川、久慈の件は
しばらくの間
星野の上手さとタイガースのトレード下手が
さかんに強調されていたが、
矢野がその後長く主力として活躍したことなどもあってか
最近はほとんど話題にされなくなっている。

 

1998-99

1998-99

金銭トレードが多く交換トレードは2件。
鳥越以外は
移籍選手、獲得選手ともに出場機会が少なく、
11年ぶりのリーグ優勝に貢献した新戦力は
武田一浩福留孝介岩瀬仁紀など
FAとドラフトで獲得した選手に多かった。

 

1999-2000

1999-2000

これまた複数トレードが2件という年。
こちらの平均年齢は
獲得した選手のほうが少しだけ高い。
実績豊富な小池、佐野、鈴木の投手3人は
登板機会がそこそこあったものの
前年に比べると活躍したとは言えない結果になっている。

 

2000-01

2000-01

ドラゴンズでの星野仙一最終年は
金銭が2件と交換が3件。
交換トレードでは実績充分のベテラン2人を獲得したほか、
光山の金銭トレードから続く
ベテランキャッチャーの変遷も見てとれる。
吉原と柳沢はどちらもジャイアンツ出身。
金銭での放出2件がちょっと気になるところで、
紀藤と波留の獲得で増えた支出分を
少しでも補填する目的もあったように見える。

 

星野監督時代と現代との類似性

年齢の高い選手を獲るのも星野戦略

星野監督時代のドラゴンズが行った
交換トレードにおける
放出した選手と獲得した選手の平均年齢を
比べてみるとこうなった。

放出>獲得 14
放出<獲得 18
同年齢 1

これだとそこまで大きな差ではないが、
1対2以上の複数トレードになると

放出>獲得 6
放出<獲得 13

よりベテランを獲りに行く傾向が
際立って強くなるのである。
ベテランを放出するトレード自体も
決して少なくはないが、
これが星野のトレードの基本的な特徴と言えるだろう。

 

他球団の「空気」を入れる

次に、
ドラゴンズに限ったことではない
この当時のトレードの特徴を二つ挙げておこう。
まずは他チームの優勝経験者の獲得が多いことだ。
特にドラゴンズは星野が監督になる前から
2年連続でライオンズとのトレードを成立させ
杉本正大石友好鈴木康友を獲得しているほか、
大宮や西本など
リーグ優勝、日本一を経験したベテランを獲得している。
リーグ優勝ではないものの
落合も1981年の前期優勝と80、81年プレーオフの経験者だ。
他のチームだと、
中でもライオンズ在籍経験もある選手を
次々と獲得したダイエーが目立つ。
中日優勝後にトレード件数が激増したのは
他のチームから同様の需要によるオファーが
殺到したのも一因ではないだろうか。

そしてもう一つは
放出する選手、獲得する選手ともに
一度トレードを経験した選手のトレードがかなり多い点だ。
トレードを経験した選手のほうが
チームに溶け込みやすいだろうという
目論見だろうか。
これは現代でも
そういう傾向があるように思えるが、
それにしても星野の場合は
獲得した選手を1、2年で手放す頻度が高い。

 

星野時代と立浪時代の類似

2022-23

2022年オフから23年にかけて成立したトレードと
星野時代のトレードを比較してみると、
超のつく大物のトレードがない以外は
さほど大きな違いがないことがわかる。
最終的な成果は数年たってみないとわからないものの、
少なくとも
この時代のドラゴンズを引き合いに出して
最近の一連のトレードを批判するのは
的外れと言えるだろう。
またここ最近
特にトレードの相手とはなっていなかった
イーグルスベイスターズとのトレードは、
他球団の空気を少しでも多く入れようとしたのも
成立させた理由の一つではないだろうか。
あとチーム成績そのものには直結してないが、
先日話題になった
開幕から65試合連続で
ドラフト1位指名が先発投手を務めた記録にも
そのうち11試合で涌井が貢献している。

こちらは獲得した選手のほうだけだが
4人のうち砂田以外の3人が
トレード経験者というのも興味深い。
これもまた
ここ10年のほとんどをBクラスですごしたチームに
新しい風を入れたい意識のあらわれともとれるし、
悪く見れば
トレードに対する認識が1980~90年代から
少しも変わっていないともとれる。

 

おわりに

今回の内容は
星野監督時代のトレードに興味のない人は
「だからどうした」としか思わないだろうし、
両監督のアンチには
「星野と同じことをするような立浪はやっぱりだめだ。
さっさとクビにしろ!」となるだけだろう。
それは別に構わない。
ただ星野仙一のような
フロント、編成として実績を残した人物の場合、
彼らが実際に行ったトレードやドラフトなどを
三者が都合よく解釈し時には捻じ曲げ、
ただ自分が好んでいるだけの手法の
絶対的な一例として紹介される
ことが多い。
特に最近は
「ベテラン*1を追い出す」ことが琴線に触れるのか
「いらないベテランを放出して若手を獲る」トレード*2
求める人がやけに増えており、
平野、大島、中尾のトレードや
優勝後の落合放出の画策などが
その代表的な例として紹介されることも多くなっている。
なのでここでは、一連のトレードが
事実と異なる内容や対比によって
過剰な批判をされることを少しでも防ぐ意味で
あくまで事実を紹介させていただいたしだいである。

*1:老害」「聖域」に置き換えると共感する人はより増えそうだ

*2:そもそも自分たちが「プロ野球では使えない」とけなすような選手を、即一軍で活躍できる有望な若手と交換してくれる自己犠牲の塊のような相手がいくらでも存在すると思えるのかが謎だが