「ドラフトは10年先のチームを見ろ」の「定説」は正しいか
「ドラフトは今現在じゃなく10年先のチームを見ろ」。
これはドラフト評論家だけではなく
プロのスカウトも口にする言葉である。
また最近は
ドラフト評論家、元スカウトなどによる
ドラフト採点への批判として
このような書き込みを非常に多く見かけるようになったが、
なぜか
自分たちが批判している評論家と
全く同じ主張である。
「5年先、10年先じゃないとわからない」と言いながら
5年後、10年後の結果の検討を
自分では行わないのも同じだ。
このブログでは
過去のドラフトを年別に振り返ることも
多少やってきてはいるが、
そもそもドラフトの本義は
チームを強化し順位を上げることであり、
ドラフトによるアマチュア選手獲得と育成は
チームを強化するための数ある手段の一つにすぎない。
なのに
ドラフト評論・採点における「ドラフトの成果」は
「大成功の選手を1人でも輩出すること」しか見られず、
チームの成績や
大物選手を輩出すること以外でチーム成績に結びつく成果は
すべて排除されることがほとんどだ。
それでは
5年前・10年前のドラフトは
ちょうど5年後・10年後の将来のチームに
どのような結果をもたらしたのだろうか。
今回は
2022年から5年前・10年前のドラフトにさかのぼり
指名選手の2022年の成績とチームの順位を
見ていこう。
「10年先を見たドラフト」の5年後・10年後
5年後戦力になっていた高卒選手は
ドラフトにおいて
「5年後・10年後を見据えろ」と言う場合、
大学生だと5年後・10年後は27歳と32歳。
社会人は
大卒2年目でも5年後ならまだ29歳、
高卒3年目では10年後でも31歳と
まだまだ働き盛りな年齢のはずなのだが、
ドラフト採点*1では
大学生・社会人中心の指名は
「来年のことだけを考えた指名」、
高校生中心の指名は
「3~5年後の将来を見た指名」と言われる。
ならちょうど5年後の2022年には
どのくらいの高卒選手が
どの程度戦力になっていたのだろうか。
主力あるいはベンチ要員として
一軍で活躍したと言えるのはこの10人。
何といっても
三冠王に輝いた村上が突出している。
指名された当時の期待値からは
かなり物足りなく映るかもしれないが、
実働4年目の清宮と
実働3年目の安田も
リーグ平均をある程度上回る成績を残した。
一方の投手は
先発で戦力になったのが遠藤。
早くから期待されていたものの
先発ではなかなか結果を出せなかった
清水、山本、本田が
リリーフで開花した。
ちょっと残念なのが平均順位。
スワローズとバファローズは優勝しているのだが、
他は
今年下位に沈んだチームの選手が
大半になってしまった。
10年先のチームに貢献した選手は誰か
もう一つの「10年先」では
どの程度の選手が戦力になっていたか。
こちらは出自関係なく見てみよう。
戦力が2人以上いるのは
スワローズ、ライオンズとバファローズ。
谷内と松葉が
それぞれファイターズとドラゴンズに移籍しているため
リーグ優勝に貢献したのは
石山、小川、伏見の3人ということになる。
こちらのほうは
平均順位がちょうど真ん中の数字である。
一番下の2人は
指名自体は大成功で
10年後もまだ年齢は若いけども
「10年後のチーム」には全く貢献できないという例。
今は
指名した選手が良すぎると
こういうこともしばしば起こるので、
「10年後の将来を見る指名」がさらに難しくなっている。
パリーグチーム別
1位 オリックスバファローズ
2021、22年の連覇に大きく貢献したと言えるのは
2017年組のほうか。
田嶋と福田が主力として活躍し、
今年は本田がリリーフで台頭した。
地味だが山足も
控え要員としてそれなりに頑張っている。
西浦は一軍デビューが早かったが
難病のため早くに引退することになった。
2012年組のほうで
2022年に選手として「優勝」に貢献したのは2人。
チームで出場機会の多かった伏見のほか、
三菱重工Eastに所属している武田が
ENEOSの補強選手で都市対抗優勝を経験した。
2位 福岡ソフトバンクホークス
東浜は
3球団競合の期待値からすればやや時間がかかったものの
既に何年も先発ローテで活躍している。
早くにスワローズへ移籍した山中と
育成指名の飯田も一軍戦力になっているが
2022年は既に引退。
控えとして一軍戦力になった高田と
なかなか一軍枠が開かず殻も破りきれなかった真砂は
今年戦力外となった。
競合抽選を3回外した2017年は
2位以下が当たりで、
高橋、椎野、周東、リチャード、大竹が
既に一度戦力になっている。
ただ2022年に限って言えば
周東とタイガースへ移籍した渡邉以外は
あまり活躍できなかった。
尾形とリチャードは
外部の期待度が増田、田浦以上に高いのだが
なかなか一軍に定着できない。
3位 埼玉西武ライオンズ
長くクローザーを務めた増田と
増田の前にクローザーに入っていた高橋、
早くにリリーフで台頭し
増田に代わってクローザーを務めることが増えた平良と
この2回のドラフトで
3人のクローザーを獲得している。
與座も結果を残すようになってきた。
野手はいささか微妙。
外野転向した金子は
一軍の主力にはなっていたものの
打撃成績は良い結果を残せておらず、
二軍では打てるようになってきた
西川と高木も
一軍だとまだ全く打てていない。
高橋に齊藤大、伊藤と
怪我による長期離脱者も多い。
4位 東北楽天ゴールデンイーグルス
2012年は
カープが公言していた森の抽選を引き当てたが
怪我もあって殻を破れていない。
入団から10年連続でエース格となっている則本以外は
一度育成に下がってから復活した下妻と
一軍控え要員となった島井ぐらい。
1年目から支配下に回った宮川も
1年単位だと戦力と言うにはやや足りない登板数だった。
2017年組も評価が難しい。
早々に戦力外とした近藤は
スワローズでリリーフとして開花するも
2022年は怪我で登板なし。
あとは
山崎がショートに回って一軍戦力になっている一方、
岩見、渡邉、寺岡に
手術による育成再契約前提の近藤、
2年目に育成契約を拒否して移籍した西巻と
5年目で戦力外通告を受けた選手が続出している。
5位 千葉ロッテマリーンズ
外れ1位競合の抽選を引き当てた松永は
プロ入りから7年間活躍していたが、
ここ3年は怪我に苦しんでいる。
3年目から一軍に抜擢され
正捕手として起用され続けた田村も
2022年は
高卒ルーキーの松川虎生に
一軍を明け渡す形となっており、
長く活躍していた選手が
なぜかちょうど10年後の将来には
チームの戦力になっていない。
2017年組は
安田に開花の兆しが見え
和田が代走・守備要員として戦力になっている一方、
4年間正ショートとなっていた藤岡が
5年目は怪我と不調で戦力にならず、
菅野もなかなか殻を破れない。
6位 北海道日本ハムファイターズ
2012年、17年はともに
ドラフトの目玉の1人を獲得したファイターズ。
二刀流の大谷は申し分のない成長で
10年目の2022年は
MLBでもレジェンド級の大活躍を見せているのだが、
ファイターズで戦力になったのは
5年目までである。
鍵谷も
リリーフで10年連続戦力になっているが、
彼もトレードでチームを離れている。
2012年のドラフトでは
10年後に活躍する選手を2人獲得したが
2人とも10年後のファイターズには貢献しておらず、
10年後の順位は最下位という結果だった。
2017年に7球団競合の清宮は
5年目に実働4年目で開花の兆しが見え始めた。
あとは
リリーフでそれなりに働いていた西村が不調で、
高卒勢は結果を出せていない。
セリーグチーム別
1位 東京ヤクルトスワローズ
2012年は
長く活躍する先発の柱とリリーフの柱を
同時に獲得し、
2017年は
5年目で三冠王に輝いた主砲と
長打力も高いリードオフマンを獲得。
どちらも
10年先・5年先の優勝に多大な貢献をした。
2017年のほうは
宮本が控え要員としていい働きをしており
今年は調子が悪かったが
大下も2021年の優勝には貢献している。
2012年指名組は
他にスワローズで活躍した選手が少ない。
2位 横浜DeNAベイスターズ
どちらの年も
ドラフトそのものは
大成功か悪くない結果なのだが、
ちょうど10年後・5年後に限定すると
なんとも難しい評価になる。
今年も宮崎が主力として活躍した2012年は
最近クローザーもつとめていた三嶋が
登板機会を増やせず、
プロ入り後8年間活躍し続けた井納は
ジャイアンツへ移籍した後
ほとんど戦力にならなくなってしまった。
2017年指名の選手たちも
1年目に新人王の東は
怪我からなかなか復活までいたらず、
神里もここ2年間精彩を欠いている。
リリーフで一度台頭した櫻井は
手術後で一軍復帰はお預けなど、
出場機会を大きく増やした楠本以外は
微妙な結果となった。
3位 阪神タイガース
ずっと一軍で起用されていたものの
5年目から制球を乱していた藤浪が
2022年は本来の力を少し取り戻した。
北條は
ライバルが増えてきたこともあって
年々出場機会を減らしている。
高校生2人の上位指名だったが
今のところピークは
北條が出場機会を増やし
藤浪が制球を完全に崩す前の2016年、
つまり4年目か。
抽選を二度外した2017年は
主力になった選手の数が多い。
ただ熊谷は控えとしての一軍定着、
島田も打席機会を増やしたのは今年が初めてと
まだそこまで大きな成果とは言えない。
馬場と高橋が一軍へ戻り
島田が主力として定着し続ければ
本当に大成功のドラフトということになるだろう。
4位 読売ジャイアンツ
2017年以来5年ぶりのBクラスとなった
2022年のジャイアンツ。
10年前のドラフトで獲得した菅野は
10年間先発ローテの柱として活躍。
最近はいささか不安定さな印象があるが、
それでも十分な結果を残し続けている。
この年のドラフトで
他に戦力になったのは公文だけ。
今年は無失点に抑えたが登板数が18止まりで、
20試合以上というここでの基準には
ほんの少し足りなかった。
2017年1位指名の鍬原は
5年目で初めて不安定ながらも一軍戦力に。
この年の指名の中心となった社会人野手は
今までそれなりに一軍出場機会が多かった
田中と若林は成績がかなり悪化した。
逆に大城は
5年間で最も良い成績を残したのに
ファンの評価は
バッティングのほうも極端に低い。
5年目の選手で今年大城を上回ったのは
村上と塩見しかいないのだが。
5位 広島東洋カープ
2年目から一軍で使われ始め
4年目には球界を代表する打者に成長した鈴木は
今年からMLBへ。
代わりにというか
これまで一軍の控え要員だった
上本のバッティングが開花し
10年目に一軍の主力として活躍した。
2017年に2球団競合で獲得した中村は
外部の期待度は非常に高いものの
まだ一軍ではポジションも結果もついてきておらず、
そもそも二軍でもそこまでの結果はまだ残せていない。
代わりに投手のほうはまずまずの出来。
高卒遠藤がリリーフと先発で
既に3年戦力になっていて、 ケムナもリリーフで活躍している。
6位 中日ドラゴンズ
2012年1位指名の福谷は
しばらくリリーフで活躍し
いったん調子を落とした後に先発で復活したが、
10年目の今年はあまり活躍できなかった。
2年目と3年目に先発登板を増やした濱田と若松は
すぐに故障、不調に泣き、
キャッチャーで育成された杉山は
大学時代の打力をほとんど発揮できないままなど、
不完全燃焼で終わる選手が多かった。
支配下で
1位の鈴木以外全て高校生を獲得した2017年は
5年目に清水と山本がリリーフで活躍、
高松も一軍控えで戦力になるなど
高卒勢が頑張っている。
*1:少なくとも複数の媒体で採点をする人の場合