スポーツのあなぐら

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田澤純一は2020年のドラフトでなぜ指名されなかったか

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今年のドラフトでは
現在埼玉武蔵ヒートベアーズに在籍している
田澤純一投手が指名されるかどうかも焦点の一つだった。
結果は「指名漏れ」になったのだが、
この結果に対しては
NPBが変わろうとしない」だの「排除の論理」だのといった
感情や陰謀論に基づいた批判記事が続出している。
だがこれらの批判は本当だと言えるのだろうか。
少なくともすぐに考えられる理由は2つある。

 

たとえ「出戻り」でもオファーされるか

まずは単にBCリーグで結果を残せなかったからだ。
この点は「指名漏れ」の理由として挙げる人が多いものの
具体的にどういう結果だったのかを
掲載している記事はあまりなさそうだし、
今年歳内宏明がヤクルトと契約したアイランドリーグとでは
平均防御率が違いすぎ*1て比較できない。
ここでは今季田澤が対戦したBCリーグ東地区に在籍している
主な選手の成績と比べてみよう。

BCL東地区投手

リリーフなので防御率は参考にする意味があまりないが
ひっかかるのは三振率が高くないことだろう。
打高投低のBCリーグにあって
四球が少ないことは評価できる部分でもあり
円熟味を見せたと表現していいと思うけども、
それにしてもちょっと微妙なスタッツだ。
最高球速はある程度出したかもしれないが、
その最高球速をリーグでの登板に生かしきれたか
といえばそうとは言えないのが実態だ。
しかも今年のプロ志望届提出選手には
最高球速150km超が山のようにいるし、
BCリーグでも
石井以外の最高150km超選手が全て指名漏れ。
155km近い数字を出した高橋康二や前川哲らですら指名されなかった。
このぐらいの内容だと
若松や辻のNPB復帰のほうが先ではなかろうか。

 

年齢問題の現実

もう一つは年齢の問題だ。
ただし「田澤が34歳だから」というだけの意味じゃない
今年は大卒社会人が7年ぶりに1位入札され
今後社会人のレジェンドになると思っていた
阿部翔太指名などはあったが、
今年の社会人・独立リーグからの支配下投手指名はわずか9人で
13年ぶりの一桁*2を記録。
現在のプロ野球は高校生と大学生の指名に特化しており、
社会人と独立リーグ
中でも23・4歳以上の投手に対する門戸が大きく狭まっているのだ。
どのスタッツも田澤より良くない小沼が指名されたのも
先述の高橋や前川らが指名されなかったのも
年齢が大きな要因の一つと考えられる*3
今年支配下登録された渡邉雄大のような
26歳以上の指名もあるにはあるが、
特にここ2、3年は
独立リーグからの20歳前後の指名比率が増した。
あえてきつい言い方をするなら、
今のNPB
「20代中盤以降のドラフト候補全般に辛い」
だけなのだ。

だが現実はもっと残酷だ。
20代中盤以降の野球選手に対しては
ファンやライターを含む識者のほうがはるかに辛い。
選手が国内球団へFA移籍すれば
選手も獲得したチームも罪人扱い。
アメリカへ渡った後早い段階で戻ってくれば
選手には「覚悟が足りない」などと揶揄し、
古巣以外で獲得したチームには「金満」と罵る。
10代から20代前半の若手がスタメン固定されなければ
「聖域」「育成する気がない」。
そして今年も例年通り
田澤の指名漏れを批判したのと同じファン、媒体が
大卒・社会人中心の指名をしたチームをボロクソに叩き、
高卒偏重指名のチームを絶賛している。
客観的に見れば実に馬鹿げた状況だが
現実はこうなっている。

 

結局のところ、
今年の田澤に関しては
12年前の話だの「田澤ルール」だのが一切なかったとしても
ドラフト指名される確率はほとんどなかったと言える。
これでも指名されるとすれば、
選手としての活躍よりも
MLBで蓄積してきた技術や経験を他の選手たちに伝える
兼任コーチ的な役割のほうが重要になるだろう。
田澤の指名漏れに感情論や陰謀論で怒っている人たちはまず
「もしNPB経験者がこのぐらいの結果を出していたとして
各チームは獲得に乗り出すだろうか」と
考えてみるところから、
「今のNPBでは
何歳ぐらいからほとんどドラフト指名されなくなるのか」を
知るところから始めないといけない。

*1:BCリーグ4.58、アイランドリーグ2.52

*2:その前は1987年。また社会人・独立リーグからの支配下野手指名は10人を超えることのほうが珍しく、投手以上に高校生と大学生に集中している

*3:特に25歳の高橋はどのスタッツも田澤より上だった