スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

「実績が少ない」ドラフト候補について

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過去のドラフトを当時の視点で採点する難しさ

先月発売された
『別冊野球太郎<完全保存版>ドラフト答え合わせ1998-2020』*1
なかなか楽しく読ませてもらったが、
ツイートを見る限りでは
この企画に関してはかなりの苦労があったようだ。
これまで多くの評論家、ライターが関わってきた雑誌なので
雑誌やHP等に多数の採点が掲載されており、
形の上では全てが公式の採点になる。
そのうち誰の採点を「指名当時の採点」とするかなどは
非常に困難を極めたのではなかろうか。
たとえば
2000年の指名評価などは
現在アーカイブとして残っている
『野球小僧』HP掲載の指名評価とは明らかに異なるし、
そもそも
そのHP掲載の採点も
選手評価が安倍昌彦、
チーム採点が小関順二という
非常に癖の強い両氏が評価をしているので
この時点で既に点数がバラバラになっている。
権利問題などもあるだろうし。
また、もし当時を回想して
今改めて指名当時の採点を書いたとすれば、
おそらくは現在の結果を見た上でのバイアス、
当時と今との自らの採点基準が変化したことを忘れた点などが
多々あっても仕方ない部分と言えるだろう。

前置きが長くなった。
さてその中で
当時の『野球太郎(小僧)』としての選手評価を確実に伝えているのは
終盤に掲載された
「ドラフト指名選手リスト」だろう。
リストにも注釈されているように
指名された全選手が載っていない点も
その当時の評価を包み隠さず公開しており
好感が持てる部分だ。
上位指名選手でも
10人の選手が掲載されていない*2のだが、
このうち唯一ドラフト1位指名だったのが
2012年ヤクルト外れ1位の石山泰稚だ。
石山に対しては
2012年の振り返りページで
「実績が少なかった」と記載されている。
つまり知名度が低かったのも
「実績が少なかった」ゆえということなのだろう。
ん?
石山の実績が少ない?

 

「実績が少ない」エース

たしかにドラフトでは
素質充分でも
怪我やら完成度の低さなどで
ほとんど公式戦の出場がない選手が指名されることはある。
薮田和樹はリーグ戦でほぼ登板がないまま上位指名されたし、
怪我でその年1試合しか登板できなかった竹安大知が
3位指名されるといった例だ。

しかし石山はこれらのパターンに全く当てはまらない。
なにせこの年の石山は
チーム最多の69.1回を投げた
ヤマハのエースピッチャーだったからだ。
最高球速147kmとこの年の社会人候補ではやや低め、
三振率7.27もそこまで高い数字ではないが
四球が少なくK/BB3.50、K-BB14.1%、
防御率1.56を記録しており
スタッツでは充分ドラフト候補と言える内容。
社会人の場合は
強豪チーム相手に投げる主戦と
1ランク格落ちするチーム中心に投げる選手とを
分けて起用することもあるけども、
彼の場合は完全な主戦投手。
しかも都市対抗本戦でも先発登板*3したのだから
見ていない識者のほうが少ないはずなのである。

もっとも
こうえらそうに書いている私も
当時ブログをやっておらず
参加していた仮想ドラフトなどで指名したわけでもないので
当時評価していたという物証はない。
ただここに載せたスタッツは
翌年の『グランドスラム』によるものだが
石山に関しては
可能な限りの公式戦スタッツを集計済みだった*4ので、
ドラフト直前に石山上位候補の記事が挙がった際に
ニコ生仮想ドラフトのskypeチャットで
2008年摂津正のスタッツなども引き合いに出しながら
石山を候補に挙げたヤクルトを擁護した記憶がある。

 

「実績不足」の候補が指名される可能性

なぜこんな話をするのかというと、
今年は他の年よりも
石山のような「実績の少ない」ドラフト候補が
出てくる可能性が高いからだ。

ドラフト評論家やライターは
膨大な数の試合を見ているはずだが、
そのぶん見る選手の数も膨大になるので
全ての選手を注目するのは無理というもの。
ならどうやって注目する選手を取捨選択するか、
考えられる一番のポイントは
それまでの素質評価と知名度になる。
こう書くと「そんなことはしない」と怒られるかもしれないが、
それ以外の選手については
マネー・ボール』に描かれたMLBスカウトのごとく
他の人が見落とした何かないか球場全体に一度目をこらし、
何も感じなければ元々の注目選手に集中する。
そうでもしないと
人間として記憶が限界を超えてしまうのだろう。

そして今年は
ドラフト評論を取り巻く環境が
2012年に近い。
ちょうど10年前の今日起こった大震災で
社会人の試合は大半が中止になったため、
2012年に解禁される社会人選手は
前年に知名度を上げる場がほとんどなかったのだ。
加えて石山は
素質が高く10年後の現在も主力になっているフェリペ・ナテルや
甲子園で大活躍だった高卒4年目の戸狩聡希の知名度が高く、
チームの中でも
外部からの視線を向けられづらい環境にあった。

今年は中止が社会人と東北地域に限定されていた2011年と違い
昨年は大学も高校も試合開催が大幅に制限され、
無観客で行われることも非常に多かった。
選手の進路に関わる
プロや社会人・大学などのスカウトは
特別に観戦を許可されたと思われるが、
直接は関わらない他の人たちが
どの程度許可されたのか。
そのため
高評価されているかはともかく、
プロのスカウト間では知られた存在であっても
外部の知名度が非常に低く
目の前で良いパフォーマンスを見せているのに
ほとんど評価自体が下されない、
そんな選手が現われる可能性が
例年よりも高くなっているのだ。
ただ18歳になってからの成長を見たくなる高校生や
最近は3年から4年にかけて
急激に成長する選手も増えている大学生に対しては
改めて確認しようとする意識が強くなる。
そうなると
やはり可能性として「実績が少ない」候補が出やすいのは
高校・大学時代に素質の評価がほぼ確定し
「伸びしろ」が少ないと断定されやすい社会人*5だろう。

ただ
石山のような選手が出てきた影響なのかはわからないが、
現在は9年前と比べ
高いか低いかは別にして、
若い主戦選手に対して
評価そのものがされないということは減ったように見える。
ドラフト候補の映像が
ネット上で出回る機会も圧倒的に増えた。
なので
ドラフトに興味がある人が全く知らない
「実績が少ない」主戦選手は
今後出てこないこともありえる。
まずは現在行われている
東京スポニチ大会をはじめ
マチュア野球や独立リーグし、
そしてプロ野球の試合に注目し楽しんでいこう。

*1:竹書房、2021年

*2:MLBからの出戻りだった鈴木誠多田野数人などもいる

*3:5.1回7安打6三振2失点

*4:ドラフト後に開催される日本選手権にこの年のヤマハは出場していない

*5:独立リーグなども含む