スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

ドラフト会議のショーアップ

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ニコニコブロマガを再構成した。

 


今年もNPBのドラフト観覧者募集が行われたが、
NPBドラフトが行われるたびに毎年出てくる声の一つに
「人生を決める厳粛な会議でいちいち騒ぐな」「観客を呼ぶな」がある。
要は「エンターテイメント的な演出、ショーアップは不謹慎だ」ということのようだ。
一昨年にはこうした声がSNSやブログ等どころか、
サンスポに野球解説者が書いており、
この不謹慎という意識の根深さが見てとれた*1
ただサンスポの記事はどういうわけか
普段のこの解説者の言動と違ってMLBを見習えと主張しているのだが、
残念なことにMLBのドラフトに関する内容がほぼ嘘である。
今回は改めてアメリカのドラフトではどのような演出、ショーアップが行われているか、
どのようなコンテンツになっているのか見てみよう。

ドラフトが行われる理由

改めて説明するまでもないことだが、ドラフトというのは
主にアメリカのプロスポーツリーグで行われる戦力均衡策の一つである。
これはどのスポーツだから行われるというものではなく
リーグの形態によって変わるものだ。
アメリカ型のいわゆる「閉鎖型モデル」で行われているが、
逆にヨーロッパサッカー型の「開放型モデル」では行われない。
たとえば同じスポーツでもNBAと違い「開放型」リーグであるBリーグでは必要がないし、
サッカーでも「閉鎖型」を採用しているアメリカのMLSではドラフトが行われている。

そんなドラフトは、
たいていのリーグでは会場が超満員になるほどの観客が詰めかけ、
多数の候補選手が招待される*2一大集客イベントとなっている。
あまり観客を意識した演出が多くないのは
いわゆる北米四大スポーツの中ではむしろMLBだけだ。
この違いはドラフトの歴史もあるのだろうが、
指名数の違いが一番大きいかもしれない。
MLBは3日間で全チーム40巡まで、計1200人強が指名されるのに対し、
NFLとNHLは7巡、NBAにいたってはたった2巡で終了するからだ。
ファーム組織の階層が極端に発達しているMLBならではといったところだろうか。
そのためMLBの3日目(11~40巡)だけは中継も映像・解説なしの音声のみ、
指名も機械的といえば機械的になるが、
計900人をたった6時間強で指名するのだから当たり前といえば当たり前である。
もし2日目までの映像を1つでも見ていれば
MLBのドラフトを機械的だの厳粛だのと言うのは不可能だ。

ちなみにどのドラフトでも共通の点として、
指名漏れの選手は昔のNPBのようにドラフト外(FA)で獲得することができる。
過去にドラフト外指名の悪用が多数見られたNPBではこのシステムの復活は難しいか。

現在のMLBドラフトでは

MLBの場合は観客を入れての演出が少ない代わりに
MLB公式でのネット中継を主目的とした要素が目立つ。
初日の1巡は制限時間5分で2巡目以降と2日目(3~10巡)は制限時間1分とかなり短いが、
多数の解説者・識者による選手紹介(2日目は解説が3人だけ)や、
現地へ招待された選手、
自宅にカメラの入った選手へのインタビューなどが随時盛り込まれており、
指名選手の読み上げはそれらが一段落ついてから行われている。
2017年の参考映像

また改めて選手紹介映像を見ていて気づいたのが、
紹介映像に選手の特徴の全てが映っていることだ。
日本の中継だとごく一部のバッティング映像しかないが、
MLB解説用動画ではたとえ一塁手でも守備(ノック)の映像が流され、
HRの映像よりも長打で二塁まで走るシーンが多く出てくる
印象が強かった。
ノックなどはMLBが独自にトライアウトを行っている可能性もあるし、
一方の日本は試合中継でも走塁や試合前のノックはまともに映されないので、
単に映像が存在しないだけかもしれない。
ただ、こんなところからも
生中継を主軸に構成されているMLBドラフトの特徴
見えている、とも言えるだろうか。
MLB機械的に、厳かに行われるなどというのは大嘘*3である。

NFLドラフトの集客力と演出

それまでマディソン・スクエア・ガーデンなど
ニューヨークで行われていたNFLのドラフトは、
4年前からシカゴ、フィラデルフィアと続いて
今年はダラスで開催された。
観客動員は毎年20万人をはるかに上回っている。
1000人の招待客に毎年激怒しているNPBファンや江本氏などが見たら
卒倒して旅立ちそうな数字である。
初日は1巡のみで指名は全てコミッショナーが読み上げ、
2日目の2、3巡はOBが読み上げることが多いようだ。

そして3日目は、指名読み上げがダラスの現地だけではなく
各チームのホームタウンに設けられた会場や各地の名所などを使って行われ、
この様子は現地でも生中継される*4
今年の場合は、スターウォーズの登場キャラクター(49ers)や
オリンピック男子カーリング金メダルチーム(バイキングス)といった
人たちが指名選手の読み上げを行ったが、
もっと演出が派手だった昨年は
宇宙ステーション内の宇宙飛行士(テキサンズ)や
動物園のオランウータン「ロッキー」(コルツ)による指名発表*5もあった。

こうした観客や中継を見るファンを飽きさせない演出に関しては、
NFLが他のスポーツと比較しても群を抜いている。
最近は中継の主軸がESPNからNFL公式に移行しているのも大きいのだろう*6

NBAやNHLの場合

屋内競技でもあるNBAやNHLでは、
どこかのチームの本拠地で開催されることが多いようだ。
最近のNBAはブルックリン・ネッツの本拠地バークレイズ・センター、
今年のNHLはダラス・スターズの本拠地アメリカン・エアラインズ・センター*7
開催されている。
いずれも超満員に近い観客、
つまりそれぞれ2万人弱の観客が詰めかけたわけだ。
1000人に対してあれだけ叩かれる日本が悲しくなってくる。

ちなみにYoutubeでは、
NBANHLともに1巡指名ダイジェストを見ることができる。
もちろん上にあげたリンクは違法ではなく、
NBANBA公式チャンネル、
NHLは公式中継局の一つSPORTS NETの公式チャンネルである。
NFLMLBYoutubeの公式にダイジェストがあがっていたり、
それぞれの公式ページにNFLは全指名が、
MLBは100位前後までの個別の指名動画がある。
これまたありがたく、うらやましい限りだ。

NPBが参考にするとすれば

そもそも、NPBのドラフトはMLBではなくNFLを参考に、
西鉄の西亦次郎球団社長が1964年に提案したものである*8
ドラフト制度そのものはNPBで独自の変遷を遂げていったものの、
1980年代の上位指名TV中継などのエンターテイメントのコンテンツとしては
NFLに近い*9発展をしていった。
逆指名制度等もあってコンテンツ自体が一時期停滞したものの、
猿まねどころかむしろMLBよりも先行する形だったと言っていいだろう。
指名人数など、ドラフトやリーグそのものの形態も
NPBMLBよりNFLNBA等に近く、
これらを参考にしたいいとこどりも充分可能なように見える。
まだまだ地味なMLBにも抜かれた感があるのはここ数年の間ということになるが、
一方で9年も前になるNPB最後の発展形が
解説者やスポーツ紙からもいまだに非難されるのだから前途は多難だ。

たしかに日本はアメリカとは異なる道徳観やアマチュアリズム信仰、建前などがあり、
アメリカで行われているシステムをそのまま導入することはいろんな意味で難しい。
ショーアップ化を非難する人が多くいるのも仕方がない部分ではある。
なら「日本には日本独自の文化がある」とか
「俺はプロ野球が嫌いだ」とでも言えばまだ言い分に納得はできるのだが、
普段NPBに対して「MLBの猿まね」などと批判する人たちが
「偽のMLBの猿まね」をさせようとするのは論外だろう。
また現在のNPBドラフトの形態を批判する人たちは、
少なくともアメリカの各ドラフトがどのように行われているのか
全く知らない人がほとんどに見える*10
ドラフトや演出を批判するのは自由だが、
批判するにしてもこうした事実があること自体は知っておくべきだろう。

*1:先日は2016年のドラフトで観客がブーイングを発した問題が取り上げられていたが、
こちらは言いたいことは別な機会にもう一度説明する

*2:ときには招待されたが指名漏れとなる選手も出るようだ

*3:11巡以降ならまだしも10巡までではありえない。

*4:特に4巡目でこういう演出をするケースが多いようだ

*5:ただの動物園の人気者というわけではなく、
人間の言葉を覚えて文法的に正しく、人間と同じ方法で発音をしたという
人類進化の研究において画期的な実験結果を出したオランウータンなのだとか。
あとは昨年の開催地フィラデルフィアを舞台とした映画「ロッキー」とかけていたのかもしれない

*6:一方でNFLそのものへの批判がしづらくなっているという批判もあるようだが

*7:NBAダラス・マーベリックスのホームでもある

*8:開始がMLBと同じ1965年

*9:ESPNによるNFLドラフト中継は1980年開始

*10:だからああいう嘘記事にも簡単にひっかかる