スポーツのあなぐら

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西巻賢二の戦力外について考える

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一昨日、楽天を戦力外になった西巻賢二選手のロッテ入団が発表された。
西巻の場合は育成での再契約を拒否しての移籍で、
同様の例は亀澤恭平や白根尚貴、茶谷健太がある。
その一方で西巻放出の形になった楽天
特にGMは非常に大きい批判にさらされているようだ。
今回はこの一件について考察してみたいと思う。

楽天の事情を考える

まずは西巻のこの2年間の成績を見てみよう。

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出来すぎと言ってもいいぐらい良かった1年目に比べると
今年はかなり落ち込んでいる。
長打が全般的に減少し、にも関わらず三振が増えた。
四球も増えたのが唯一のプラス材料と言っていいぐらいで、
少なくともスタッツの上では
来年一軍で活躍しそうな要素を見ることができない。

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一軍の二遊間は打線の要になる浅村と茂木がいて、
控えにはベテランの2人と渡邊、村林がわきを固めている。
加えてドラフトではショートに小深田を獲得し、
今年の二軍成績が西巻より上の山崎剛も控える。
となると、西巻は来年の一軍昇格、
特に開幕一軍の可能性はかなり低いのだ。
であれば彼を一時的に育成枠にしておいて、
70人枠の余裕を作っておくのは チームとしてありえない選択肢ではない。

西巻の選択を考える

このチーム側の事情を、逆に西巻の側から考えてみよう。
育成枠から支配下に戻るのがそう先のことではないのは
容易に推察できる。
だが支配下に戻ったとしても、将来的に一軍出場枠があるだろうか。
厄介なのは西巻の起用が今年ショートからセカンド中心になったことだ。
現在の一軍レギュラー浅村は来年まだ30歳。
バッティングの非常にいい選手なだけに、
あと数年、少なくとも3~4年は
セカンドスタメンかつ打線の主軸として活躍する可能性大である。
そして二遊間は他にも人材が多く、
これから徐々に全盛期に近づいていく有望株が山ほどいる。
特に大学時代セカンドだった山崎剛と
ポジションが入れ替わってしまったのは痛い。
一軍でのユーティリティ的な起用の可能性でも
後塵を拝してしまったことになるからだ。
競争があまりにも激しすぎるため、
この中で有望株として生き残るのはかなりの難業になっていた。
チームは基本的に一軍の選手起用を実力で選ぶものであって、
20歳前後の高卒というだけの理由で一軍スタメン固定を押しつける
外部の若手至上主義のファンやドラフト評論家とは違うのだ。

ロッテの事情を考える

一方、ロッテの場合はチーム事情が少し変わってくる。

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二遊間の若い選手があまり多くなく、
中でもセカンド要員がほとんどいない。
中村以外にはセカンドでは厳しいとの評価も聞く香月ぐらいで、
ショートも伸び悩んでいる平沢をはじめ若手の不確定要素が非常に強い。
中村はチームに欠かせない選手だが
浅村に比べればさすがに絶対的とまではいかず、
彼が故障したときなどにも
セカンド守備経験を積んだ西巻が代わりに入りやすくなっている。
鈴木大地がFA宣言したため
なおさら二遊間の層を何としても厚くしたいロッテと、
今後数年間での一軍出場の可能性を高めたい西巻の思惑が一致するわけだ。

というように考えてみると、
西巻を来年開幕の時点では育成枠にしておきたかった楽天と、
チームに留まっても将来的な大成の可能性が下がっているため
あえて正式な戦力外として他球団への移籍を模索した西巻の事情を
理解することは可能だ。
むしろ西巻の流出が現実味を帯びていたからこそ、
小深田やセカンドの黒川、育成でも山崎真、沢野と
二遊間を乱獲したのではないかとすら思える状況である。
もしかしたら、よく言われているように
単なるFAでのプロテクト対策失敗の可能性もあるが、
これも地元選手放出自体は痛いものの
チームの将来性への保険はしっかりとかけてあることになる。

許されざる者

さて、ここまでは少し考えれば容易に想像ができる話。
今回の西巻に関する一件で何が一番問題かというと、
この「少し考えれば容易に想像ができる話」が全く想像されず、
ただひたすら楽天フロントが批判されていることだろう。
「高卒2年目の選手に対して戦力外は無責任だ」という批判が多いが、
ちょっと待ってほしい。
ここで、佐藤世那の時のように
高卒3年以内に戦力外で退団した選手を見ておこう。
まずは高卒3年目。

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投手は27人で野手が17人。
最近は徐々に野手の比率が増加傾向にあるようだ。

次に高卒1年目を見てみよう。

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高卒選手が1年で戦力外になるケースはさすがに少ない。
自主退団などよほどの事情がある場合に限られるようだ。

そして最後に高卒2年目。

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この表をよく見てほしい。
最近のホークスは育成枠とはいえ、
ここ4年間で高卒2年目の選手を3人も戦力外*1にしている。
だが西巻に対する楽天と違って、
この早い戦力外にチームへ疑問を投げかけた人はごくわずかしかいなかった。
この差はいったい何が原因なんだろうか。

1つ目は佐藤世那と同じで、
3年の春夏連続で甲子園に出場した有名選手であること。
しかも西巻の場合は1年目が好調だったことに加えて、
茂木の離脱もあって一軍出場を果たした。
一軍ではさすがに復帰後の茂木の牙城を崩すほどではなかったが、
高卒1年目としては充分な結果だったと言える。
しかも最近は、
20歳前後の選手が一軍でHRを1本はおろかヒットを1本でも打てば、
いやそれどころかたとえ凡退したとしても
「内容がいい」と称して将来への太鼓判を押し、
一軍スタメン固定すら主張するファンが非常に増えている。
なのでおそらくそのあたりの人たちは、
西巻を来年の一軍開幕スタメンとすら考えているのではなかろうか。
そうなると藤岡や中村はとばっちりで過剰にバッシングされる可能性もあり、
ひどい場合には高校の先輩である平沢にすら被害が及ぶかもしれない。

そしてもう1つは、やはり佐藤の時のオリックスと同じ。
「育成上手」と見なされているかどうかである。
今回の場合はむしろ「育成上手ではない」というヘイトの問題か。
特に楽天の場合、
故・星野仙一氏が前面に出ていて
毎年高校生投手の1位抽選に当たっていた頃なら何も言われなかったろうが、
現在の石井GMは評判が急降下している。
こうした編成・育成担当などのフロントに対する
周囲の感情がそのまま反映されているにすぎないのだ。
それでもまだ楽天はましなほうかもしれない。
今年は投手でも高卒3年目の野元が戦力外になったが、
これについては長井や日本ハムの高山優希らと同様に
批判対象になっていないからだ。
佐藤世那や2014年に4人の投手が戦力外になった時の横浜とは
明らかに世間の反応が違う。
もっとも西巻の陰に隠れて忘れられてしまっただけかもしれんけども。
また野手のほうは、
今年の大河、岡崎大輔や網谷、穴田らと
多田、青木、茶谷とがまるで別物だった。
特に育成契約となった高山と岡崎に関しては
投手・野手以外の違いはないのに差がありすぎる。
また、つい先日阪神の牧丈一郎が契約更改の場で育成契約を打診されたが、
これも今年の高卒偏重ドラフトの後じゃなく
去年のような猛批判を浴びたドラフトの後だったら
どれだけバッシングされたことか。
指摘すれば「そんなことはない」と反論してくるだろうが怪しいものだ。
つまり結局のところ、どう見ても
「育成上手」のソフトバンクや広島、日本ハムなら許されるが、
「育成上手じゃない」他のチームなら許されないだけなのである。
許されるためには、その前に何らかの形で
野球ファンの支持を集めるようなことをしなければならないようだ。
支持率調査かこれは。


このように今回の件で問題点はたしかにあったが、
西巻本人や両チームには特に問題点はないように思う。
西巻が新しいチームでどのような成長をしていくか、
我々ができるのはそれを見守ることだけだ。

*1:表にあるように金子と松本はBCリーグで現役続行、森山は引退し球団職員となっているそうなので、選手のキャリアサポートをせずただ戦力外にしているわけではないことは記しておく