スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

ヤクルト暗黒期前のドラフトを振り返る

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今回はヤクルト編。

さてスワローズの場合も、暗黒期はいつなのかよくわからない。
1978年に初優勝・日本一になったあと、
80年代は一度もAクラスになったことがなく
この間は暗黒期と言っていいと思う。
それが91年に久々にAクラスになると
92年から2001年まではなぜか1位と4位しかない。
日本一にも4回なったこの間は黄金期と言われることが多いだろうか。
一方で、90年代から今年までの間で
3年連続Bクラスも実は98年から2000年の3年間だけ。
ただしこのときは3年連続66勝69敗の4位どまり、
しかも前後に日本一を挟んでいるので暗黒期と言うには難しい。
それよりは、
3位が2回あるものの勝率5割未満が5年間続いた2005~09年、
あるいは3年に1度そこそこの勝率で2位以上になるが
あとの2年間は大崩れしてしまうここ10年のほうが、
まだ暗黒期には近い存在と言えそうだ。
特に2009年以降は得失点が毎年のようにマイナスになっていて、
昨年までの10年間ではAクラスは5回もあるのに
得点が失点を上回ったのが優勝した2015年しかない。

「だったらそんなよくわからん『暗黒期』じゃなく黄金期前をやれよ」と
特にヤクルトファンからは言われそうな気もするが、
ここでは1993~2004年と2005年以降のスワローズのドラフトについて
みていこうと思う。
ヤクルトのドラフトの変遷が見えてくるはずだ。

運の巡りに左右された1位指名

ヤクルトの上位指名については前にもどこかでやった気がするが、
おさらいしておこう。

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  高投 高野 大投 大野 社投 社野
1993         2  
1994         1 1
1995 1 1        
1996 1 1        
1997 2          
1998 2          
1999   1 1      
2000     2      
2001 1   1      
2002 1   1      
2003 1   1      
2004     1 1    
  9 3 7 1 3 1

1994年までは比較的大学生と社会人が多い。
それが95年からは4年連続で高校生の上位指名。
1位・2位とも高校生指名というのは
88年に川崎憲次郎(2球団競合)と岡幸俊(5球団競合)の
抽選を引き当てて以来のことだった。
資金不足で逆指名争奪戦に勝てなかったうえに
主力が円熟期に入っていて次世代の育成を狙う目的もあったのだろうが、
かなり極端な指名になった。
95年三木は福留7球団、澤井2球団を連続で外しての指名、
横浜の回でも書いたが97年の入札は横浜と全く同じ。
99年以降は逆指名・自由枠も獲得できるようになり、
両方高校生という事態にはなっていない。

続いて2005年以降。

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  高投 高野 大投 大野 社投 社野
2005 1     1    
2006 1   1      
2007 1   1      
2008 2          
2009         2  
2010   1     1  
2011   1 1      
2012     1   1  
2013     1 1    
2014     1   1  
2015   1 1      
2016 1   1      
2017   1     1  
2018     1 1    
05~07 3 0 2 1 0 0
08~18 3 4 7 2 6 0

88年を最後にくじ運があまり良くなかったヤクルトは、
2000年代に入って再びくじ運が良くなる。
が、その運も2007年まで。
2009年からは1位抽選9連敗中だ。
外れ以降で山田と村上を引き当てたと言っても、
トータル3勝11敗、勝率.214では話にならない。
「向かっていくから抽選に当たる」ことにされているパリーグには、
スワローズより低い勝率のチームはオリックス*1しかいないのである。

そして高校生の1位入札がやたらと多い。
2008年以降の11回中高校生8回入札は
ソフトバンク楽天と並ぶ全チームトップタイ。
これらを総合すると、ヤクルトの上位指名は
1位では競合のリスクを顧みず高校生を狙う。
しかし運が悪いためくじは外し、
外れ以降で何としても獲りたい選手が残っていない場合は
即戦力や弱点の補充に切り替える。
最近野手の上位指名が増えているのは、
野手陣全体の高齢化がかなり目立ってきたからだろう。

あまりにも極端な投手指名

まず1993~2004年の指名数を見ておこう。

  高投 高野 大投 大野 社投 社野  
1993 1 1   1 2 1 6
1994       1 1 2 4
1995 2 1   1     4
1996 2 1   2     5
1997 2 2       1 5
1998 4   1 1 1 1 8
1999   3 2   1   6
2000 2 1 2       5
2001   2 1 1 2 1 7
2002 3 2 2 1 1 1 10
2003 2   2 1     5
2004 1   1 2 1   5
  19 13 11 11 9 7 70

この中でやはり注目すべきは95~98年だろう。
高校生、それも投手がやたらと多い。
野手は意外と大学生・社会人も獲っているのだが、
投手は10:2と高校生一辺倒になっている。
一方で99~2004年はわりと落ち着いている。

実は、ヤクルトはしばしばこういう極端な投手指名をやる。
今回は93年から見ているのでわからないが、
1989~94年だと逆に高校:大社が3:11、
さらにその前84~88年には10:4。
両極端なのだ。
なんだか高校生偏重指名をしたら投手が足りなくなったので即戦力を獲り、
即戦力と戦力外でひとまず最低限の穴を埋めたから高校生、
そんな指名を繰り返したかのようにすら見える。

野手も結構奇妙な指名になっている。
主力の大半が30代だが25歳前後も何人かいた90年代中盤に
高校生と大卒・社会人両方というのはわかるのだが、
そこから世代交代できたのが岩村ぐらいだった2000年前後に
野手は高校生偏重指名になっているのだ。
世代交代を考えるには明らかに遅い。
早くに何人も出てくるはずというもくろみだったのか、
単にスカウト陣の好みだったのか、
即戦力投手が必要になったので野手に金をかけられなかったのか。

結果については、高校と大社で分けよう。
というかこうしないとわかりにくい選手がいる。

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まず高校生。
大きく成長した野手としては岩村、畠山、宮出、高井がいるが、
岩村以外の3人はそのうち2人が投手からコンバートだったこともあって
一軍定着が8~10年目以降のことだった。
ドラフト1位の三木や野口は守備要員の域を出ることができず。
投手はこれも以前説明したかもしれないが、
リリーフの大物が何人か出てきたものの
先発投手が1人もいない。
しかも先発登板の多い選手もいるから、
「安易にリリーフで使った」という批判は当てはまらない。
単に先発よりリリーフに適性があった、
先発でも使ったが結局伸びなかっただけのことだ。

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こちらは稲葉、青木の外野に宮本、田中の内野陣が目立っている。
外野2人と内野2人との落差が激しく、
その下はさらに差がついてしまっているのが難点か。
また投手は長く活躍する先発が何人かおり、
高卒の五十嵐・石井ほどではないがリリーフもそれなり。
ただ、12年間の指名の結果としても
黄金期から「再生工場」を駆使していたことを考えても、
この頭数ではかなりの人員不足に見える。
特にこの間の高校生投手と大社投手の指名数がほぼ同じなのだから、
投手陣のマイナス点は高校生の多さが原因の一つと考えていいだろう。

寿命が長く持たない投手陣

次は2005年以降だ。

  高投 高野 大投 大野 社投 社野   高投 高野 大投 大野 社投 社野  
2005 1 2 1 2 1   7             0
2006 2 1 1   1 1 6         1   1
2007 2   1   1 3 7           1 1
2008 3 1       1 5     1   1   2
2009 1     2 2   5   1   1     2
2010   3     2 1 6   1   1 1   3
2011   1 2   2 1 6     2       2
2012 1   1 1 3 1 7             0
2013 1   2 1 1 1 6             0
2014   1 1 1 4   7     1       1
2015 2 2 1 1     6             0
2016 2 1 2   1   6           1 1
2017 1 1 1 1 2 2 8             0
2018 2 1 2 1 1 1 8           2 2
05~07 5 3 3 2 3 4 20 0 0 0 0 1 1 2
08~18 13 11 12 8 18 8 70 0 2 4 2 2 3 13

2007年までの分離時代はバランス重視のドラフト。
投手は2008年に高校生偏重のドラフトをすると、
2009年以降はしばらく社会人が圧倒的に多くなる。
その後2015年からは高校生と大社合計がほぼ同じバランスになった。
野手は2007年の社会人3人、2010年の高校生3人が目立っているが、
全体的にはその時の状況に応じて
万遍なく獲っているようだ。
ただし巷の大御所評論家は
2012~14年のように野手が少なめだと怒るし、
野手指名が高校生偏重じゃないとやはり怒るうえに
他の11チームと違ってヤクルトにだけは1位入札が投手じゃないと怒る。
しかも大社投手入札でも怒り、高卒投手入札は指名の事実自体を無視。
何をさせたいのかはさっぱりわからん。

ちょっと話が脱線したが、結果のほうは2014年指名まで。
野手から見ていこう。

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以前に比べて投高打低の時期が長くあったのも一因なのだろうが、
それを考えても打撃の成長があまり良くないように思える。
別格の山田以外には川端と飯原が目立つ程度で、
長く活躍していてもスタメン定着まで伸びる選手が少ないのは
試合数と打席数を比べれば明らかである。
全野手中における高校生の指名比率自体は低くないのだから、
「高校生が少ないから」の妄想も通用しない。

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投手は短命選手が多すぎる悲惨な状況。
一応成功者数だと大社のほうが多いのだが、
成功率は高校生のほうが高い。
とはいってもそのうち1位指名4人、うち競合が2人なのだから、
むしろ伸びきらないまま早くに落ち込んでしまった印象の方が強い。
大卒・社会人のほうも即戦力として使える選手の目利きが良くなく、
育成もうまくいっていない様子がよくわかる。
かなり伸びた選手の質では大社が上回ってはいるのだが。

考えられる投打の問題点

投手の問題点は一言で言いきってしまえば単純だ。
数も質も足りない
いやそんな抽象的なこと言われても訳わからんし、
それが改善できれば苦労しないと怒られそうだ。
まあ今回出したデータでは
この程度のことしか言えないのだが。
ただし全体的に見ると
育った場合は大卒・社会人の方が質で上回る傾向がある。
高校生は特に先発にするとなかなか育たないか、
一軍で使えるまで育っても短命に終わる。
育たないうちに抜擢された選手も何人かいたがやはり伸びなかった。
これははっきりとしていて、
そもそもヤクルトの高卒投手で先発としても5年以上活躍したのは
ドラフト制以降だと浅野啓司川崎憲次郎石井一久しかいない。
というかもっと単純に言ってしまえば、
長く活躍する投手のほとんどは高卒・大卒・社会人出身関係なく
入団後早い段階*2に出てくる「即戦力」なのだから、
結局は「即戦力を獲れ」。これに尽きるのだ。
ただこの手のチームによくあることだが、スワローズも
高校生だと素材は良さそうなので5年待てば楽しみかもしれない選手、
大学生・社会人もやはり完成度が低く5年は待ちたい選手か
アマレベルで失点だけは抑えるので即戦力のように見えるが
実際に上に進むには物足りなかったり既に劣化がかなり見えている選手、
これらをかき集めることが多い。
チームに多く必要なのは
1位指名だが知名度がなぜか低かった石山のような選手*3なのだが、
チームが獲りたがるのは竹下のような選手、
とたとえるとちょっとはわかりやすく…なるのかな。
また現有戦力も即戦力も数少ないから、
育成途中の投手を早々に使いすぎて潰してしまうことも多くなる。

一方野手のほうはというと、
過去のスタッツを見ていて気になったのが「脇役」の存在だ。
黄金期の監督だった野村克也氏に限ったことではないが、
特に野村監督は一部の主力と「脇役」の役割分担を重視する傾向が強いように思う。
まあこれは何となく同意してくれる人も多いかもしれない。
問題はこの「脇役」の中身だ。
今回出した選手たちを見ると、
主力はたしかに育っているのだがあまり数は多くなく、
そしてバッティングの伸び悩む選手がやけに多い。
この選手たちがいわゆる「脇役」扱いになるだろうか。
しかし90年代の全盛期を見てみると、
この「脇役」の打撃成績が大きく異なる。
レフトやライトで併用されていた荒井幸雄、秦真司*4橋上秀樹などが該当するが、
中でも典型と言えるのが土橋勝征
土橋は30歳から急速にバッティングが衰えていて、
その頃、特に2001年頃の「いぶし銀」のイメージが強い人も多いと思う。
しかし一軍に完全定着した24~29歳(92~97年)の間には、
OPSがリーグ平均を若干下回ったのが1996年しかない。
つまりチームバッティングや守備など以前に、よく打つ選手だった。
さっき挙げた他の外野手なども同様にそこそこ以上打つ選手ばかりだ。

スワローズの場合、投手は神宮の特性なども合わさって
どのみち数の不足を補うのが難しいのだから、
近年の西武のように打力で勝負する構成を目指す選択もありだと思う。
だが打撃が突き抜けているようでなかなか突き抜けきれず
投壊に追いつけない原因の一つが、
この「脇役」育成を過剰に重視することで
打力の伸びを止めてしまっているという可能性はないだろうか。
「脇役」育成とは内容が違うが、
完全にスタメン定着した最初の年は打撃成績が良かったのに
優勝した2015年から去年までバッティングが低迷し続けた
中村もこれに近いように見える。
少なくとも
「高校生じゃないから」「大卒・社会人だから」
といった程度の問題ではない。

ここ最近は村上や中山、濱田といった打撃特化の指名も増えているので、
もしかしたら実際に打力勝負のチームを目指しているのかもしれない。
ただ現状だと山田以外のセンターライン育成が全く追いついておらず、
これらのバッティングが打線の大穴になってしまう危険性もぬぐえない。
今後は最低でも飯田哲也、宮本ぐらい打てる
センター、ショートの育成または指名が求められるだろう。

*1:1勝7敗、.125。セリーグ最下位は2勝9敗の巨人で、ヤクルトはリーグで2番目に悪い。

*2:2・3年程度

*3:単にドラフト評論家やファン、マスメディアなどの眼が節穴だっただけで、各チームのスカウトはちゃんと高く評価していた可能性もあるが

*4:荒井や秦は80年代からレギュラーに定着していた選手ではあったが