スポーツのあなぐら

主に野球のデータ、ドラフトについて書いていくブログ。更新頻度は気まぐれ

日本球界は本当に「打高投低」か

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今年のプロ野球は、
シーズン開始当初から
「打高投低すぎる」「HRが出すぎて低レベルだ」
という声が多数聞かれている。
正直なところ、記事のタイトルを見るだけで
うんざりして読む気をなくすレベルで目にすると言っていい。

そんな中で今日Numberに掲載された氏原英明氏の記事は、
主張はともかくとしても、
別な意味で興味深い事柄を示唆してくれた。
氏によれば「アマチュア野球も常に打高投低だ」というのである。
ならば、実際のところはどうなのか見てみよう。

「打高投低」の定義とは

たいして打高投低ではないNPB

そもそも、今年はそんなに打高投低なのだろうか。
4/28時点でのNPBの平均得点を出してみた。

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60年代以前や2011、12年に比べれば高いが、
極端に高いとまでは言えない数字になっている。

今年の「打高投低」はHR数だけで語られているようにも見えるので、
1試合あたりのHR率も出してみる。

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平均得点に比べるとやや高めであるようだ。
今年は「打高投低」にしてはチーム打率がさほど高くない。
またチームごとの成績のムラもやや激しい。
リーグ、NPB全体を見ればそれほど打高投低ではないのは、
そうした点が主な理由と考えられる。

年によってばらける高校野球

氏原氏によれば、高校野球は打高投低の最たる例らしいのだが
果たして現実はどうなっているか。
過去5年間の数字を見てみよう。

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2017年以外は打高投低と言えるのだろうか。
特に、金属バットを使用しているわりには
HRの率があまりに低いようにも見える。

神宮改修の影響を受けた東京六大学と東都

マチュア野球でも、大学野球はどうだろう。
東京六大学と東都一部の数字はこうなっている。
データは2006年春から。

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2007年まではHRが多いシーズンもいくらかあったが、
2008年に神宮球場の改修工事でグラウンドが拡張されてからは
かなりの投高打低になった。
東京六大学はすぐにやや持ち直したが、
東都はかなり長いこと影響を受けている。
なお、東京大学戦を除いた数字は出していない。

結論

野球は常に「打高投低」?

NPB高校野球大学野球と見てきたが、
「打高投低」の基準がよくわからないことになっている。
平均得点が4点前後で推移することが多いNPBはおろか、
センバツでは3.5程度にとどまることもある高校野球
さらには2点台すら珍しくない大学野球
全て打高投低扱いとは。
今の日本野球が「打高投低」と言い切る人たちにとって、
「バランスのいい野球」とは
「常に1-0や2-1という試合になる」ことなのだろう。
「投高打低」という考え方すら存在していないのかもしれない。
強いて言えば、2014年に高校軟式野球決勝で
延長50回0-0という試合があったが、
あそこまでいけばさすがに「投高打低」になるだろうか。

「投高打低」は強打者を育てていない

こうした人たちがよく主張することの一つに、
「打高投低では野手が育たない」
「投高打低こそが強打者を育てる」というのがある。
本当にそうだろうか。
投高打低がしばらく続いた2008~14年の東都からの
ドラフト指名選手はこうなっている。

2008 大野奨太岩本貴裕、高島毅
2009 中田亮二、中原恵司、松井佑介(二部)
2010 小池翔大、林崎遼
2011 鈴木大地
2012 白崎浩之、高田知季、谷内亮太、緒方凌介
2013 吉田裕太(二部)、陽川尚将(二部)、嶺井博希、青山誠(育成)
2014 江越大賀、福田将儀、加藤匠馬、山下幸輝

育ったとは言い難い陣容と言わざるを得ない。
バッティングでもそこそこ活躍しているのが鈴木大地1人だ。
キャッチャーや怪我持ちでのプロ入りなどもあり、
プロでの活躍自体は様々な偶然の要素も考えないといけない*1のだが、
それにしても厳しい結果になってしまった。

2011、12年の第一期統一球に対してもそう言われているが、
極度の投高打低になったとき、
首脳陣は選手に長打を狙わせず、小技を多用する。
それは高校・大学から少年野球などでも同じことで、
やたらと長打を打たせず、
エースの投球と守備に頼ろうとする理由の一つ*2は、
投高打低だからではないだろうか。

こうした流れに対し「勝利至上主義」と批判するのはたやすい。
だが、選手や子供自身はどうなのだろう。
どうせ思いきり振りぬいたところでHRも長打も全然出ないのに、
わざわざHRを狙おうとするだろうか。
むしろ当てるバッティングでヒットを打つ、
そうして自分がヒットを打ったという結果が出るほうが、
三振と凡打を繰り返すよりも
野球を楽しく感じるのではないか?
あるいはプロの試合を観戦しに行って、
ごくまれにしか出ないHRを
偶然見られる子供がどの程度いるというのか?
「HRを打つのは楽しい」「HRを見るのは楽しい」のに、
そのHRを打つ、見る機会を
「野球を楽しませよう」と言う人たちが奪うのでは
笑い話にもならない。
それに、誰だって負けるよりは勝った方がより楽しいだろう。
だとすれば将来の強打者を育成するのに必要なのは、
長打を打とうとしても勝てない環境ではなく、
HRや長打を打って勝てる環境を作ることではないだろうか。
「勝利」と「楽しさ」は全く相反するものという認識と現状も、
かなり重大な問題だと思う。

*1:2015年にはこの年から二部に降格した吉田正尚がいる

*2:他にも1勝の重みが極端に重いシステムなども挙げられる