スポーツのあなぐら

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【再掲】投手王国西武はどこへ消えた?

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※ニコニコのブロマガの内容を再構成した。

 

野手の上位指名が少なくなった西武

昨年は4年ぶりにCS進出を決めたが、最近の西武はBクラスが続いていた。
その理由としては投手力の低さ、守備力の低さ(エラーの多さ)がよくあげられるが、
一方で最近リーグ内でそれほど伸びなくなった得点力にも求める人も少なからずいる。
そしてその打線の低下を、上位指名野手の少なさが原因だとする人が
ドラフト評論では珍しくない。

たしかに2008年以降の西武は上位指名に野手が少ない。
10年間、計20人中でわずか4人しかおらず、
これは中日と並んで全チーム中最少タイである。
昨年の指名の結果、西武に次ぐ5人のチームはヤクルト、横浜、ソフトバンクになったが、
ソフトバンクに関しては評論家に都合の悪い部分は無視されるので、
野手の上位指名を要求する声は今後もおそらく変わらないだろう。
しかしその一方で、ここ10年の西武は3位に野手が多い(6人)。
特に上位2人が投手だった年は2015年以外全て野手を指名し、
しかも浅村栄斗、秋山翔吾、金子侑司、外崎修汰、源田壮亮と
そのほとんどが戦力になっている。

西武の場合、この傾向は93~04年の主な当たり野手ともあまり変わっていない。

上位 小関竜也高木大成大友進赤田将吾中村剛也片岡易之
3位以下 松井稼頭央高木浩之和田一浩中島裕之栗山巧佐藤隆彦など


12年間でこれだけ当たり野手が出てくるのがまずすごい話だが、
上位と3位以下の実績があまり遜色ないこともわかる。
とはいえ上位にこれだけいるのだからやはり野手を上位で、と思いたくもなるのだろうが、
西武はこの12年間の野手上位指名が非常に多く、ちょうど半分の12人を指名している。
これは全チーム中最多の数字で、
以前にあげた93~98年と以降の99~04年も同じ6人と時期に関係なく、
周囲の傾向*1にも合わせず野手を指名していた。
この時期の上位野手数は次が中日の10人、阪神・ロッテの9人と続くが、
コンバート組を加えると日本ハム・広島・ヤクルトも9人になる。

ちなみに最近の10年では、指名数は10年で73人入団、平均は99~04より少し多い程度。
そんな全体の傾向の中で、唯一5割となる10人が巨人、
次いで8人が日本ハム(大谷を入れると8.5人)、
7人が阪神(コンバート1人を入れると8人)、ロッテ、広島である。
ただ、93~04年にあげた各チームが広島以外5割弱の成功者を出しているのに対し、
まだまだこれからの選手が少なくないとはいえこの5チームの場合、
2013年以前の上位指名選手のうち既に成功と言える選手以外の成長が頭打ちで、
成功率が下がりそうな気配もある。
むしろ数少ない上位指名の森友哉山川穂高が軌道に乗り始め、
3位で好選手を大量に確保した西武のほうがうまい野手指名をしているようにすら見える。

エースがいても投手成績は上がらない

ではなぜ急に上位での野手指名が減った、つまり投手指名が増えたのだろうか。
考えられる最大の理由は、西武の投手状況が非常に悪かったからである。
前に出したリストを見てもわかるがこのチーム、
野手の成功者が異様に多い反面、これだけ当たり年があるわりに投手が足りない。
エースと呼ばれた選手は何人かいるが、それ以外の先発もリリーフも入れて
合計2人以上輩出した年が妙に少ないのだ。

西武は2004年に勝率2位ながらもプレーオフを制してパリーグ優勝、日本一になるが、
投手成績を見ると長らく1位が大半だった失点数がこの年からリーグ4位以下になり、
以降失点が3位に上がったのは2006年と13年の2回だけ。
あとは全て4位以下となっている。
これだけだと守備に理由を求める人も少なくないと思うが、
西武はFIPも悪くなかったのは2005年まで。
2006年以降はこちらも2013年を除いて全てリーグ4位以下で、
失点(2010年のみ)と違って約2年に1回のペースでリーグ最下位だった。
その内容も奪三振、被HR、四死球全てが悪いという年がほとんど。
つまり、投手陣にも純粋に難を抱えていた可能性が考えられる。
だがそれ以上に問題なのは、松坂大輔涌井秀章岸孝之菊池雄星
エースピッチャーが存在しているのにこのような状況が常に続いてきたことだ。

こうなった理由は実に単純である。
一部の投手の質は良くても、投手の数が足りなかったのだ。
しかもこうした予兆は、90年代後半から2000年代初期の、
投手王国、あるいは投高打低だった時代の西武にも見えていた。
先発は西口文也石井貴、のちにクローザーに回る豊田清
リリーフから回った潮崎哲也や松坂などを加えた、潮崎を除けば若さあふれる陣容だったが、
リリーフのほうは数年活躍した若い投手が森慎二土肥義弘ぐらいしかおらず、
あとは橋本武広デニーのベテランに竹下潤らが支える構成が続いていた。
その陣容にもコマ不足の陰がはっきり見えてきてからは、
三井浩二後藤光貴長田秀一郎などを1、2年目から便利屋的に使う起用も交えて
何とか失点を抑えるという状況になっていく*2
1位でエースが獲れても先発投手は陣容が揃わなくなってきたうえに
森、豊田がいなくなった後は慢性的なリリーフ難に陥る、
そんな2000年代中盤以降の西武を暗示していたかのようだ。

投手不足を少しでも解消したかったが

上位指名の投手率が圧倒的に増えたのは、
他のチームに比べて野手を上位で多く指名しており、
かつ投手が不足し続けた西武が、
3位以下、特に3位でも有望な野手がかなり残っていることに気づいた結果。
そう考えるとこの路線変更には戦略的な意味を見出すことができる。
ただでさえ野手の上位指名数が以前よりも減り、
投手が上位でさらに先取りされやすくなった反面、
野手は高評価でも指名が遅くなる。
浅村、秋山は典型的な例ともなっただろうし、
他チームなら柳田悠岐も3位指名が可能だった*3
野手発掘と育成に自信を持ち、投手難に悩む西武ならではの
チーム事情をしっかり見据えたものだったのだ。

しかし残念なことにこの路線変更、
前述のように野手のほうはなかなかの成果が見られているが、
投手のほうはいまいち結果を残せていない。
上位指名では野上亮磨、菊池、牧田和久十亀剣増田達至がおり、
なぜか最初大学時代のリリーフから先発で育成された大石達也の例もあるが、
計15人を指名しているわりには即戦力度も成長度もかなり不足している。
さらに、3位以下の投手はもっと悲惨な状況になっている。
こちらでの野手指名が以前より多くなった反動で分母が減ったのも大きいのだろうが、
今のところ投手であげられる名前は高橋朋己、岡本洋介、平井克典ぐらい。
豊田のように1年目の序盤に使いすぎたような選手もいるが、
投手の目利き、育成ともに結果を残せているとは到底言えない状況だ。
投手事情のほうはドラフトでの指名順位ではなく、
このあたりのチーム能力向上のほうが最優先という当たり前と言えば当たり前、
しかし野手を無理に繰り上げてでも上位で獲らせたい人にはわからないであろう、
そんな結論になりそうである。

西武ドラフトから見えてくるある「ドラフトの問題点」

最後にもう少し、ドラフトに関連して投手の「問題点」について触れる必要がある。
この文章を読んでいて何かおかしいと思う人も少なくなかったかもしれないが、
エースピッチャーと投手成績との関係についてだ。
いくらエースでも、現代のエースが投げる投球回は非常に多くても200回前後。
チームの総イニング数の15~16%であり、他の投手の存在が重要なのは間違いないのだ。
にも関わらず、なぜかドラフト評論の世界では
「エース(と抑え)がいれば投手は足りている。だから上位で野手」という風潮が強い。
西武の場合は野手の上位指名が少なく、
菊池や高橋光成、増田がいるだけでそう考えられるらしいのだが、
その指名をし続けて投手が慢性的に弱体化したのが西武というチームでもあり、
一方で現実のドラフト順位は絶対評価よりも相対評価の側面が強い。

だがそれ以上に重要なのは、以前書いたように、
昔に比べて必要な投手の絶対数が圧倒的に増えたことである。
昔のように先発投手は完投するかセットアップ・クローザーを兼任する、
専門のリリーフ投手は2~4イニング任されつつ4、50試合投げる。
そんな超人数人が何年も続けて活躍する時代というのはせいぜい、
工藤公康渡辺久信郭泰源らの先発に鹿取義隆、潮崎らが控えていた
90年代前半の西武までである。
そんな西武でも投手陣の運用は毎年何らかの苦戦を強いられ、
石井丈裕渡辺智男新谷博杉山賢人などが次々出てこなければ
94年までは持たなかった。
実のところ、全体の投手指名数や投手の上位指名数は、
投手起用の変化とリンクしている可能性がある。
こうした時代の変化や
試合数などの関係で投手が出てきやすい日本のアマ球界事情などを無視して
野手の上位指名をチームの評価基準にしようとするのは、
現在では見ることのできない
数十年前の野球をただ夢想しているだけの
時代遅れな主張と断定せざるを得ないのだ。

*1:前6年はNPB全体で52人、後6年は41人と上位の野手が平均1人弱減っている

*2:2014年の豊田拓矢や2016年のリリーフ陣多投も似た手法と言える。2014年は当時と監督も同じだ

*3:浅村と同じく2位・3位が連続だったため