スポーツのあなぐら

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【再掲】「ファン目線」のドラフトとは

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※2016年8月15日に
ニコニコのブロマガ(当該記事は削除)にあげた内容を若干加筆したもの。
もう2年も前の時事ネタになっているが、それを承知のうえで読んでほしい。

 
2016年に中日の谷繁監督が更迭された際、
この件に関して日刊スポーツで大きな特集記事が組まれていた。
なかなか反響が大きかったようだが、
この記事を読んでいて私が非常に気になったのが
「ファン目線」という言葉である。
これは球団社長が実際に使った言葉だが、
おそらく球団の言う「ファン目線」と日刊スポーツの言う「ファン目線」は
全く違うものであるはずだ。
当該記事ではドラフトへの批判もかなり行われていたので、
今回は日刊スポーツの言う「ファン目線」のドラフトはいったいどんなものか
考えてみたいと思う。

「ファン目線のドラフト」の例

「ファン目線のドラフト」とはどういうドラフトになるのか。
その回答を、かなり昔の話だが2000年を例として出してみよう。

順位 選手名 ポジション 所属 実順位 模擬順位
1位 藤田太陽 投手 川崎製鉄千葉 阪神逆指名 横浜1位
2位 根市寛貴 投手 光星学院 巨人4位 阪神1位
3位 玉山健太 投手 山梨学院大付属高 広島3位 広島2位
4位 伊達昌司 投手 プリンスホテル 阪神2位 阪神6位
5位 土谷鉄平 内野手 津久見 中日5位 オリックス2位競合
6位 狩野恵輔 捕手 前橋工業 阪神3位 横浜3位
7位 加藤隆行 投手 長崎工業高 阪神5位 ヤクルト7位
8位 梶原康司 内野手 九州東海大 阪神8位 ロッテ4位
9位 前嶋広和 投手 法政大 指名なし 指名なし
10位 沖原佳典 内野手 NTT東日本 阪神6位 ヤクルト9位

どこかで見たことのある指名で
知ってる人によっては「ふざけるな!」と激怒するかもしれないが、
皮肉でもなんでもなくファン目線とはこのような指名をさす。
これはネット上の一部で有名な「4位赤星、ハア?」の人物による 「私ならの指名」である。
2000年阪神の指名を暴言交じりで酷評しているがその結果が外れすぎ、
代わりに獲れと言う選手も外しすぎ、などなどで知られているものだ。

その結果を知っている現在の人からすれば
これのどこがファン目線なのかと思われるかもしれないが、
その理由の一つはリストの一番右にある。
ここに書いてあるのはドラフト会議倶楽部による模擬ドラフトでの指名順位
(2位でも競合してるのはルールが逆指名制度なしの
2位までが一斉入札、3位からウェーバー制だったため)。
当時は会議倶楽部による模擬ドラフトの影響力が今よりも非常に強く、
その模様がCS放送で中継されるほどだったのである。
もう一つ言うと、この年指名された高校生投手のうち
夏甲子園出場組は根市、玉山、坂元弥太郎の3人しかおらず、
甲子園出場組は当然知名度も実際に中継などで見ている可能性も高い。
今見るとこの評価はツッコミどころ満載になるのだが、
実際にはこうした評論家やマニアの影響を非常に強く受けたか、
ほぼ同じ評価をしていたごく一般的なファンによるもの
だったことがわかる。
暴言が一般的なのかとも言われそうだが、考えてみれば最近も
「とにかくチームに暴言や罵倒を繰り返すのが真のファン」という風潮があるので
一般とは案外こんなものかもしれない。

以上「『ファン目線』のドラフト」とはどういうものか推察してみた。
ドラフト候補はスカウトやマニアには有名でも
一般の野球ファンには知られていない場合も多く、
結局有名選手というのは
甲子園や雑誌で大々的に注目された選手ということになる。
となると「ファン目線」のドラフト指名とは
必然的に大抵のファンが知っている選手中心になっていくのだ。
次にその方針に基づいた中日の「やるべきだった」とされる指名を考察してみよう。

「ファン目線」の中日ドラフト例

ここではファン目線を3つの基準に定める。

  • 当日会場に集まったファンの歓声が高かった選手
  • 地元、準地元の選手
  • 会議倶楽部の模擬ドラフトで順位の高かった選手

前者はファン目線そのものといっていいだろう。
後2つはおまけのようなものだ。
特に2014年の中日は9人の選手を指名したが、
2位以下で歓声の大きな選手は8人も見当たらなかったので
このような基準を追加せざるを得なかった。

2014年からいってみよう。

1位 山﨑康晃 投手 亜細亜 横浜外れ1位
2位 栗原陵矢 捕手 春江工業高 ソフトバンク2位
3位 香月一也 内野手 大阪桐蔭 ロッテ5位
4位 島袋洋奨 投手 中央大 ソフトバンク5位
5位 高濱祐仁 内野手 横浜高 日本ハム7位
6位 脇本直人 外野手 高崎健康福祉大学高崎 ロッテ7位
7位 幸山一大 外野手 富山第一 ソフトバンク育成
8位 鈴木優 投手 雪谷高 オリックス9位
9位 佐藤雄偉知 投手 東海大相模 中日育成(拒否)

1位は日刊に有原航平か山崎康晃と出ていたので
結果として競合のなかった山崎にしてみた。
準地元枠になり、なおかつ一番若いのは野村亮介(静岡出身、高卒3年目)だが。
2位以下だと準地元枠は模擬ドラフトでも評価の高かった栗原と幸山、
あとはすべて歓声の高さとウェーバー順を考慮しての順位付けとなっている。
投手と野手の比率は実際の中日と同じにしておいた。
島袋のところは1位候補とも言われていた高木伴(NTT東日本)が3位で
香月を4位でもよかったが、
左投手がいないのと歓声の有無でこういうことに。
また大学生では島袋以上に歓声の上がった田中英祐(京都大)は捕手を優先して外した。

続いて2015年。

1位 高橋純 投手 県岐阜商 ソフトバンク1位
外れ1位 小笠原慎之介 投手 東海大相模 中日1位
2位 成田翔 投手 秋田商 ロッテ3位
3位 茂木栄五郎 内野手 早稲田大学 楽天3位
4位 平沼翔太 内野手 敦賀気比 日本ハム4位
5位 佐藤世那 投手 仙台育英 オリックス6位
6位 谷田成吾 外野手 慶應義塾大学 指名なし

1位、外れ1位はこのままでいいだろう。
2~5位まではすべて歓声の大きさで選んである。
平沼はおそらく野手指名による驚きもあったと思われるため野手で。
5位佐藤世那はオリックス5位の吉田凌(東海大相模)との二択になる。
どちらを指名しても甲子園優勝投手2人か優勝・準優勝両獲りというだけで
大成功と見なされていたはず。
谷田は難しかったが指名すれば茂木と同じくらいの知名度はある選手なので
歓声は上がっただろう。
茂木もそうだがここはもっと上ではなくこの順位で獲ることの方が歓声面で重要だ。
歓声という面ではほかに横浜育成指名の山本武白志(九州国際大付)、
あるいは実際の指名ではあった捕手指名の選択肢もあった。

というわけで以上のようなシミュレーションになった。
これが歓声などで見た「ファン目線」である。
実際には途中で何らかの連鎖反応が起こり
他チームの指名がずれてきてこうはいかないだろうが、
そこは楽観思考でこのようにシミュレートしてみた。

ファンがドラフト指名に求める「夢」

全15人中社会人なし、高校生11人大学生4人という
かなりいびつな構成になった。
大学生は歓声が起こったのが田中、島袋と茂木以外に
熊原健人(仙台大学)と名前枠に近い本田圭佑東北学院大学)ぐらいしかなく、
社会人にいたっては外れ1位候補とも言われていた
高木や近藤大亮(パナソニック)、木下拓哉トヨタ自動車)にも
歓声はおろか拍手すらほとんどない有様なので高卒一辺倒になるのは仕方ない。
それどころか高校生であっても、U-18のメンバーだった
高橋樹也(花巻東)や堀内謙伍(静岡)らには歓声までは上がらず
(2015年で捕手を選択できなかった理由の一つ)、
選抜優勝投手と言っても平沼には歓声が上がるが
1年前の高橋奎二(龍谷大平安)に歓声が上がらない。
「ファン目線」にはこうした特性もある。

歓声には「知名度が高い」「もっと上で消えると思われていたが残っていた」
という側面もあるため一部の有名な大学生も入ってはくるが、
数としては高校生が圧倒的に多くなり、
なおかつ現実の順位はそれなりにばらけてくるためこういう指名になった。
山崎や茂木がいるので「やっぱりこっちのほうがいいじゃないか」
という人も多いかと思うが、
一方で2000年のような結末になる可能性も同様にある。
はっきり言ってしまうと、
一般のファンやスポーツ紙、評論家が求める「ファン目線のドラフト」というのは、
5年後10年後に起こる未来の現実を全く見ることなく、
目の前の有名な、評論家が高評価を与えた選手で夢を見て幸福感を得るもの
である。
その後の未来が実際にどうなったかは、人間は記憶から消し去ることができる。
この点をファンは理解しておく必要があろう。